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第15話 一学期の終業式

 終業式。

 今日で一学期が終わり、明日から夏休みにとなる。


 全校生徒、体育館に集められていた。

 左右にバスケットゴールが並び、床には各種球技のラインテープがごっちゃにひかれている。

 夏休みという長期休暇は始まるためか、誰もの表情がやわらかく感じるのは気のせいではないだろう。

 蝉のせわしい鳴き声さえも許せる気分になる。


 終業式は、夏休みの注意事項、訓練学生たちの挨拶、校長先生のお話の三点で締めくくられた。

 ―――――訓練学生。

 優秀な学生は二年時から、この日高町の向こう側、つまり、日高連峰の向こう側の世界に行く機会が与えられる。

 そして、彼もしくは彼女たちは、社会に貢献できる人間としての実践や勉強を積んでくるのだ。

 兵士としての。人を殺すための。


 俺はまだ、向こう側の世界を知らない。

 いや、知らないのではない、見たことすらないのだ。

 10人の訓練学生は舞台上で整列し、演台にて、会長でもある二年生、1st―Ex―成乙女が訓練学生代表として挨拶をする。


「このたび、訓練学生と選ばれ、誠に光栄に思っております。学校の代表として訓練学生として学びにいくにあたって、この命を捧げてでも、この世界に貢献したいと思っております」


 サイドテールをした成乙女は丁寧にお辞儀をした。

 訓練学生に選ばれた生徒を見ると、俺が優秀ではないためか、誰もが優秀に見えてしまう。

 その中に、常に学年トップの成績を収めてきた支配のぞみの姿はない。

 選考漏れしたのだ。


「やっぱり駄目でした。でもいいです。来年だってありますし……」支配の声には心なし力がなかった。「やっぱり、私が特殊な環境で生活しているのがいけないのですかね。そのせいで、選考から漏れてしまったのではないかと……不完全な人間は悲しいです。でも、その理屈なら、成乙女ちゃんも―――けれど、しかし、やっぱり、成乙女ちゃんは私よりも優秀です。私とは全然違います」と選考漏れを知ったその日に嘆いていた。


 選考基準は単純な学力だけでなかったのだろう。

 訓練学生の挨拶が終わった後、校長の儀礼的な話が10分ほど続き、終業式は終わる。


 教室に戻ると、担任の眼鏡先生の話が始まった。

 俺は頬杖を突き、窓から外の景色を眺めていた。

 いつもと変わらぬ風景。風はない。何もしなくてもじんわりと汗をかいてしまうほど暑い。


 訓練学生となった生徒は、いったい何人、夏を乗り越えて戻ってくるのだろうか?

 訓練学生に選ばれた生徒の誰もが自信に満ちた表情をし、誇らしげに立っていた。

 そんなに誇るべきことなのだろうか?


 俺はクラスに目を移すと、まだ眼鏡先生の話は続いていた。

 相変わらず、黒縁眼鏡のレンズは分厚く、着ている服装にも隙が無い。右脇には、今必要かよと思えるノートをはさんでいた。

 眼鏡先生の背後―――黒板はわずかばかり白んでいた。粉受けにはチョークの粉も溜まっている。この分だとクリーナー内部も掃除はされていないだろう。それらの掃除を終えた時が、俺の一学期の終業だなと思った。


「おい、アマド、何をボーとしているんだ?」


 眼鏡先生が俺に注意をする。


「いや、別に……」


 眼鏡先生はため息をつくが、優しげな目をして話に戻る。

 今日はやけに優しかった。


 クラスを見渡すと、虫食い状に空席がある。眼鏡先生はその空席に何か意味を求めるように目を走らせていた。

 新学期満席だったクラスに空席が空いているのは、どこか責任を感じてしまうものなのだろう。

 意味もないことなのに。


 クラスには5つの空席があった。

 病気で死んだクラスメイト、事故で死んだクラスメイト、事件に巻き込まれ死んだクラスメイト、自殺したクラスメイト、銃で撃たれて死んだクラスメイト。

 そう言えば、俺の隣にアリスが座る前も誰かがすわっていたような……えっと、あの子の名前は確か――――。


 俺は過去を思い出そうとした。

 だが、その過去の映像は、一瞬浮かび上がっても、次の瞬間には泡のように消えてゆく。

 俺はそれを特段不思議に思わない。


 どうでもいいことだ。

 誰かがいなくなるのは当然のことだ。

 死はそばに寄り添っている。それが当然なのだ。

 これまでもそうだったし、これからも、ずっと――――。


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