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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界のキミを守るのは現実のボク

突然思いついて、書き出したものなので各所粗いです。

たぶん続かない


twitterに吐き散らかした設定を元に書きました。

https://twitter.com/i/moments/1057644969727381504

新聞係というものを知っているだろうか。

我が三成中学に蔓延る悪習、クラスの誰もが避けて通る新聞係。

内容的にはパッとしない、月に一度クラスメイトに関する新聞を作成し掲示板に張り出すだけの簡単なお仕事である。

ではなぜ皆に嫌われているかというと、それは新聞係からの情け容赦のない取材活動のせいだ。


考えて見ても欲しい、誰が好き好んで自分のことを新聞に書かれて晒されるのを喜ぶだろうか。

いや、もしかしたらそういうのが嬉しい人種もいるかもしれない、俺はもちろん嫌だ。


しかし新聞係という哀れな役職は毎月やってくる締め切りに怯えながら、記事にできそうなネタがないかクラスメイトたちに根掘り葉掘り聞き出さなければならない。


前述したとおり、自分のことを晒されて喜ぶへんた……人種はとても稀である。

係り決めの日に休んでしまったら勝手に押し付けられていた係ナンバー1の新聞係はまともに取材しても誰も相手にしてもらえないのである。


ではどうネタを集めるのか、パパラッチである。

パパラッチ、語源は古いイタリア映画のキャラクターのあだ名からとられたらしいが今は関係ないので割愛、セレブリアンな俳優たちに四六時中張り付き、スクープがあれば派手にカメラのフラッシュを焚き、新聞や雑誌にあることないこと好き勝手書き散らかすみんなの嫌われ者だ。

新聞係にぴったりである。



そう、この俺、新聞係である佐藤祐一にはぴったりである。



そうして俺は誰もまともに読まないであろう新聞のためにクラスメイトたちをカメラ片手に追い回し始めたのであった。



三日後職員室に呼び出された。



パパラッチはテストの採点片手に担任教師から禁止されいよいよ記事が書けないと焦り始めた時


「吉田さんが子猫を拾ったんだって」


もう一人の新聞係である彼女、田所千鶴さんが子猫の写真が写ったスマートフォンを俺に突きつけてそう言った。

画面には仲睦まじい三匹の子猫が絡み合いじゃれ合い思わず頬が緩む光景が写し出されている。


「今月はこれでいけるね」


田所さんが可愛らしくて笑ってそう言った。

正直見惚れた、なんだこのかわいい生物。


それから田所さんは子猫の写真をプリントアウトし、吉田さんから子猫を拾った状況から家族の説得、ミルクをあげた話や自身にじゃれつく子猫の可愛らしさを楽しげに聞き出し、俺がパパラッチ活動を行なっていた三分の一の時間で新聞を完成させた。

俺?俺は新聞用の紙を用意したり、色ペンを用意したり、完成した新聞を張り出したりしてたよ。


田所さん作の新聞は大好評だった。

クラスのみんなが子猫の愛らしさの虜になり、普段あまり目立っていない吉田さんは子猫の話でみんなに引っ張りだこになり、子猫にあげてと猫用のおやつを持参するものまで現れた。


こんなの俺の知ってる新聞係の仕事じゃない。

新聞係ってのはもっと陰湿で面倒で誰からも嫌われて……こんな暖かくて優しいものじゃなかったはずだ。

この暖かさと優しさは彼女がもたらしたものだ。

俺の中の固定概念は見事に打ち砕かれ、それを行なった田所さんは俺の中で特別な存在になった。


それから俺は新聞係の仕事が待ち遠しくなった。

俺の女神である田所さんと話すことができるからだ。

来月はどうしようか〜っと楽しそうに俺に語りかける彼女に思わず破顔しそうになる。

来月はきっと宮前が子犬を拾ってくれるからそれを記事にしよう


「いや、拾わねーし。うちペット禁止だし」


宮前のチャラ男がイチゴ牛乳片手にダメ出ししてくる、俺と田所さんのために子犬を拾うくらいしてみせろヤリチンめ。


「俺は彼女一筋だっつーの!次ヤリチンなんていったら潰すぞ」


イチゴ牛乳のパックを握りつぶし睨まれた。

こいつにこの話題はNGだったか、クワバラクワバラ……。


翌月の放課後、夕日が差し込む教室で俺と田所さんは新聞を作っていた。

今月はクラスのオタクと呼ばれるグループが話題にしていたボードゲームについて記事にした。

オタクグループが休み時間にやっていたのを見て面白そうだと混ぜてもらったらめちゃくちゃ面白かった。

サイコロを振って、出た目の素材カードがもらえ、素材を使って陣地を作っていく簡単なゲームだったが意外と奥が深く夢中になってしまった。

俺はなぜか羊ばかりが増えていった、木をくれ。


そのことを田所さんになんとなく話して見たら食いついてくれて、オタクグループと一緒に遊んで見たら記事にしてみんなに教えてあげようということになった。

ありがとうオタクグループ、お前たちのおかげで俺は田所さんと遊ぶことができた、今度チョコパイを奢ってやろう。


黙々と俺たちのゲームプレイログを新聞に書き込む田所さんをじっと眺める。

左右に分けて束ねた綺麗な黒髪が字を書くたびに微かに揺れて、揺れた髪が夕日に照らされ幻想的な美しさを醸し出している。

黒い瞳は新聞に集中しているため忙しなくキョロキョロと動いている。

小さな唇はキュッと引き結ばれ、彼女が真剣に新聞に取り組んでいることを表していた。


この光景を写真に収めたい、ずっと見ていたい。

頭の奥が熱っぽくボーっとしてきた、胸の高鳴りはさっきから耳の奥でドクンドクンと喧しく鳴り響く。

緊張から呼吸も浅くなってきた、緊張?なにに???


「佐藤くんどうしたの?」


顔を上げた田所さんがボーっとしてる俺に対して問いかける。

あぁ……なんでもないんだ、ただ………


「俺、田所さんのことすっげー好きなんだなって思ってただけ……」








「え?」


目をまん丸に見開き俺を見つめる田所さん、あぁ〜めっちゃかわいい……。

見開いた目が徐々に元に戻っていく、っと同時に田所さんの顔がどんどん赤く染まる。

どうしたんだろう、熱でもあるんだろうか。


「さ、さ、佐藤くゥんッ!?い、今なんて……」


田所さんが上ずった声で聞き返してくる。

今なんて……?えっと確か俺田所さんのことが…………………は?


急速に身体中の熱が抜けていく、俺今なんて言った?好きって言ったのか?は?告白?こんなところでこんなシチュエーションで!?

ありえねぇ!!!


口が滑ったことを実感したら、下がった体温が急上昇してきた、温暖差で体が壊れるんじゃないかってくらい顔が熱くなってきた。


しばらく俺も田所さんも無言で黙り込む。

グラウンドからは部活が終わった野球部が片付けをする声が聞こえてくる。


「「オツカレッシダァー!!」」


元気に喧しく挨拶する野球部たちの声が俺に突き刺さる。

終わった……俺の中学生活終わった……。

オツカレッシタァー……。


「私も……」


短い人生を回帰しているとポツリと田所さんが呟いた。



「私も……佐藤くんのこと……好き……です。」


真っ赤な顔で目の端に涙をためた田所さんが俺をまっすぐ見つめてそう言った。

その瞬間俺の頭の中でビックバンが起こった。

全ての思考が漂白され、直前に回帰していた今までの人生も一瞬で蒸発した。

もちろん比喩表現であるがそれぐらいの衝撃が俺を襲った。

なにも考えられなくなり、ただただ目の前の田所さんが愛おしいと思うことしかできなくなった。

俯いて震えている田所さんになんと声をかければいいかわからなくなり、とりあえず行動で示してみることにした。

俺は右手を差し出し


「こ、こりぇかりゃ!!よ、よろしくお願いしますん!!」


盛大に噛みながら握手を求めた。

顔を上げた田所さんは差し出し震えている俺の手を見てふわっと笑い


「こちらこそ……よろしくお願いします。」


キュッと手を握り返してくれた。




その後の記憶は朧げだ。

多分作りかけの新聞を片付け、一緒に下校したと思う。

お互い無言で並んで歩いていただけだけど、間違いなく人生最良の時間だったと断言できる。

家に帰ったらあとも放心し続ける俺を見た家族は病気じゃないかと熱を計り、平熱よりだいぶ高い体温だと知れば慌てて布団の中に寝かされた。

電気の消えた真っ暗な部屋の中、布団に包まれていると今日のことは実は夢なんじゃないかと怖くなった。

恐怖を晴らすため目を硬く瞑り、布団の中に潜り込む。

願わくば、今日のことは現実でありますように……そう祈りながら眠りについた。










「お願い!!助けて!!」

この世で誰よりも愛おしい彼女の、助けを求める声が聞こえた。

ハッと目を覚ますとそこは見慣れた自分の部屋ではなく、薄暗い見慣れない部屋だった。

天井には人間と見間違うほど精巧に作られた人形が無数に吊り下げられ、壁沿いに並べて置かれている樽からは、無数の人形の手足が乱雑に詰め込まれていた。

人形工房、見た瞬間この異様な空間は人形を作り出す工房なのだと理解した。


「ね、ねぇ……ねぇってば!!」


置かれた状況についていけず呆然としていると腹のあたりを誰かに叩かれた。

視線を下げるとフードで顔を隠した小柄な少女が俺の腹を叩いていた。


「動いてる!本当に動いてる!今までなにやっても動かなかったのに!!」


少女はピョンピョン跳ねながら俺に抱きついてくる。

でも俺はそれどころではなかった、なぜならその少女の声はとても聞き慣れた田所さんのものだったからだ。


「」


田所さん!?っと呼びかけようとしたが口が開かず声が出せなかった。

強烈な違和感に思わず口に手を伸ばすが、口があるはずの場所に口がなかった。

縫い付けられたとかそういうことではなく、口自体がない。

悲鳴をあげたいほど驚いたが、口がないため悲鳴すらあげられない。

混乱する中、口元に伸ばした手を見てまた悲鳴をあげたくなった。

視界に入った俺の手は人間のそれとは違い、木でできていた。

無骨で大きな手は目の前の少女を握り潰せるほど大きかった。

慌てて全身を見渡す。


2メートルほどの巨体は全身が木でできていた、胸元には木製の体を守るように鉄板が貼り付けてある。

巨体に合わせた手足の指先は鉄でできていた。

張り詰めた太ももは目の前の少女の胴体よりも太い

顔を触ってみるが目も鼻も口もなく、ツルッとした顔を一周するようにガラスのようなものがはめ込まれている。

そのガラスが目の役割をしているようで、前面のガラスの前に手を持っていくと視界が塞がった。


どういうことか、俺は人形になってしまっていた。


混乱する俺を尻目に目の前の少女は俺の周りをピョンピョン飛び跳ねながら全身を使って喜んでいる。


「やったー!!やった!やった!やったー!!!これで私も隠者(エレミータ)だ!!やったー!!」


一頻り飛び跳ね回ると、俺の目の前で立ち止まりフードをとった。

サラリと溢れた長い髪は綺麗な金色、クリッとした瞳は森林を想起させる濃い緑色。

年齢は13・14歳ほどに見える、可愛らしい顔立ちは見たものを温かい気持ちにさせる不思議な魅力がある。

その顔は俺が世界で一番愛している女性とそっくりだ。

少女は色素以外、田所さんと瓜二つだった。


「私の名前はフィーリア、あなたのマスターよ。これからよろしくね。」


細く小さな右腕を差し出しニッコリと笑った、笑うとますます田所さんにそっくりだった。

うっかり握りつぶさないよう慎重にフィーリアの腕を握り返す。

握手が嬉しかったのか、フィーリアは握った手をブンブンと振りニコニコと笑う。

やはり田所さんによく似ている、めっちゃかわいい……


そこでハッと気づいた、これは夢なんだと。

田所さんと付き合うことになって浮かれに浮かれた自分が見ている甘い夢なんだと。

告白の当日に田所さんの夢を見るなんてなんとも欲望に忠実だ。

これは夢なんだと気付いたら急に気持ちが楽になった。

どうせ夢なんだと現実ではできないことをやってみようと思い、田所さんそっくりのフィーリアの頭を優しく撫でた。


「ひゃっ!?」


突然撫でられたフィーリアはビクリと肩を震わせたあと、されるがままに頭をグリングリンと撫でくりまわされている。

男が女に対してしたらキモい行動である頭なでなでなど夢の中でしかできない、現実の田所さんにして嫌われたくはないのだ。

心ゆくまでフィーリアの頭を撫で続ける、心なしかフィーリアは目を細めて気持ちよさそうにしている。

うむ、かわいいずっとこの夢を見続けたい。


ドンッ!!ドンッ!!


しばらくフィーリアとの触れ合いを楽しんでいると、突然部屋の扉から激しい打撃音が鳴り響いた。

思わずフィーリアを自分の背後に隠す。

しばらく続いた打撃音が急に止み、再び部屋が静寂に包まれる。


「……まずい。」


フィーリアがポソリと呟いた瞬間


バキッ!バキッ!!バキッ!バキッ!!


扉の四隅に鋭い槍のようなものが突き刺さり部屋の中まで貫通してきた。

槍が突き刺さった扉がそのまま部屋の外へと引っ張られ、木材がへし折れる音と共に扉が引き剥がされた。


扉がなくなり風通しのよくなった部屋に一人の女が入ってきた。

フィーリアより頭一つ分くらい身長の高い大人の女だ。

全身をぴっちりと覆うラバースーツを着込み、サングラスをかけている。

よく見ると女の腰から4本の鞭のようなものが生えている、鞭の先端は鋭い槍になっている。

手で操っているわけでもないのに、鞭は緩やかに揺れ動いている。


突然の闖入者に警戒を露わにしフィーリアを庇うように構える。

女はこちらから5メートルほど離れた位置で立ち止まり、腕を組んでこちらを睥睨している。

しばらく睨み合っていると、女が北方向からゲホゲホと咽せたような音がした。


「クイーン、おまえちょっとやりすぎだ……」


女の後方から黒いフードを被った男が文句を言いながら歩いてきた。

男はこちらを見ると大仰に頭を振り額に手を当てる。


「おいおいおいおい、マジかよ。

なんでその戦闘人形(バトル・ドール)動いちゃってるわけ、お嬢さん動かしちゃったの?マジかー。」


男は頭を抱えたままその場にうずくまり、うーとかあーとか唸っている。

フィーリアを横目に見て見ると警戒した表情で男のことを睨みつけている。


「そういうこと、ホワイト・レヴィの存続は決定ってこと。わかったらさっさと帰れ!!」


んべーっとフィーリアが舌を出す。

それを聞いた男は唸り声を止めゆっくりと立ち上がった。


「しゃーねぇ、殺すか」


そういうと男の右手が赤く光り、女に向けて腕を突き出した。

男から出た赤い光が女の鞭に伸び、鞭全体が赤く光りだす。

先程までゆっくりと揺らいでいた鞭は突然目にも留まらぬ速さでこちらに突き進んでくる。

その鞭は真っ直ぐフィーリアの頭に向かっている、咄嗟に腕を突き出しフィーリアを庇う。

バキッと木材が割れる音と共に左手の平に焼け付くような痛みが走る。

人形のくせに痛覚あるのかよ……

あれ?痛い…?これって夢のはずじゃ……。

痛みに疑問を抱いていると手の平を貫通した鞭が更に勢いを増してフィーリアに突き進もうとする。

これ以上行かせてたまるかと、鞭をそのまま握り締め動きを止める。

しかし止められたのは4本のうちの1本だけ、残り3本の鞭がフィーリアに襲いかかる。

フィーリアは咄嗟に伏せたようで胸を狙っていた2本の鞭を回避することができた、が残り1本がフィーリアの腕を切りつけた。


「痛っ!!」


腕をザックリと斬られたフィーリアは苦痛に顔を歪ませる。

傷口を押さえたままその場に倒れこんでしまう。

俺が掴んでいる鞭以外が女の方へと戻っていく、よく見ると鞭を覆っていた赤い光は消え、赤く光る前と同じくらいのスピードで動いている。

どうやらあの鞭は男の赤い光がないとまともに動けないようだ。


苦痛に呻くフィーリアを助け起こしたいが、今この鞭を離して奴らに背を向けるのは自殺行為だと思いグッと堪える。

男の右手が再度赤く光る。

また鞭の攻撃が来るのかと身構えるが、男はハァと深くため息をつきこちらを見遣る。


「お嬢さんもう諦めてくれないか。

君みたいな女の子を痛めつけるのは趣味じゃないんだ。

大人しくしててくれれば痛くないように殺してあげるから。」


心底面倒臭そうに男がフィーリアに対して死ねと言った。

その態度に胸の奥底から怒りがわいてくる。

テメエ田所さんに死ねって言ってさらにその態度はなんなんだよ、殺すぞゴラァ!!

今ほど口がないのが悔しいことはない、口があれば奴に有りっ丈の呪詛を吐き散らかしてやるのに。

俺が怒りに震えていると、背後でフィーリアが立ち上がる気配がする。


「お断りします。安らかな死よりも、苦難の未来を私は選んだ。こんなところで諦めるつもりはありません。」


後ろを振り向くと、腕から血を流し苦痛に顔を歪ませつつも、力強い目で男を睨みつけているフィーリアがいた。

儚くも弱々しい彼女の姿に思わず見惚れた。

やはり彼女は田所さんなんだと思わず笑みがこぼれる。


「へぇ……そうかい……。」


声のトーンを落とした男がフードの下からこちらを睨みつける。

先程までの気だるげな雰囲気が一変し、鋭い殺気が放たれる。


「じゃあ苦痛に溺れて死ねよクソガキぃぃぃぃ!!!」


男が手を振り赤い光が女の鞭に移る。

光を受け取った女は3本の鞭を操りながらこちらに突っ込んでくる。


「ネフィリム!迎撃して!!」


フィーリアが無事な方の手に白い光を纏わせ俺の背中に手を触れる。

その瞬間、体の中をふんわりと温かい風が吹き抜けた。


頭の中に身体の動かし方が瞬時に閃いた。

頭の中に浮かんだ動きのイメージに沿うように身体を動かす。

足を肩幅まで開き、腰を落とし右腕を後ろに引き力を込める。

さっきまで目にも留まらぬ速さで動いていた女が、今はスローモーションのようにゆっくりとした動きに見える。


女が俺の間合いに入った瞬間、右半身を捻るように前に突き出し、渾身を込めた右拳を女の身体に叩き込んだ。

拳は女の腹に直撃し、右腕に木材の割れる感触と硬い金属のようなものがへし折れる感触を感じた。


拳が直撃した瞬間、スローモーションのようにゆっくり見えていた光景が晴れ、一瞬で女が黒いフードの男めがけて吹き飛んでいった。

女に巻き込まれた男はそのままの勢いで部屋の外へと吹き飛んでいく

しばらくすると激しい破砕音が部屋の外から鳴り響いた。


拳を突き出したままの体勢で今起こったことに呆然とする。

なんだいまの、まるで俺の感覚だけが加速したような違和感……いや、爽快感といったほうがいいかもしれない。

催眠術だとか超スピードなんてチャチなもんじゃねぇ。

もっと恐ろしい何かの片鱗を感じたぜ。

っと頭の中でおちゃらけて冷静を取り戻す。

さっきのはフィーリアが触れた瞬間に起こったことだ、きっとフィーリアが何かしてくれたんだと後ろを振り向くと、フィーリアは腰を抜かしてその場にへたり込んでいた。


「な、なに?いまの………速すぎて何も見えなかった……。」


えぇぇ……フィーリアがなんかしたんじゃないの?

俺もよくわからないと首をかしげると、フィーリアもわからないと首をかしげ返してきた。

うん、かわいい。


吹き飛ばされた男と女を確認するために部屋の外に出る、部屋の外は薄暗い真っ直ぐな廊下だった。

足元を照らすように等間隔にライトが点灯していなければ歩くのも困難な廊下だ。

窓がひとつもないのでもしかしたら地下なのかもしれない。

慎重に廊下を進み突き当たりまで進むと、そこに男と女が倒れていた。


殴った時の感触からなんとなくわかっていたが、女は俺と同じ人形だった。

俺が殴ったところからポッキリ身体が折れ、上半身と下半身が完全に分断されていた。

それに巻き込まれた男の方も重傷だった。

突き当たりの壁に崩れ落ちるように倒れた男は、全身の骨が折れているようだ。

頭からは激しい出血、折れた骨が肺に刺さってるのかヒューヒューと空気が漏れるような、苦しげに弱々しく呼吸を行なっている。

辛うじて生きている様子の男に近づく。


「な、だよそれ………反則………だろが」


フードの下から弱々しくも恨みがましい声が漏れる。

その様子から男がもう助からないことを察する。

………殺すつもりはなかった、いや殺す殺さないなんて全く考えてなかった。

とにかく必死で、自分とフィーリアが助かることだけを考えていた。

その結果この男が死ぬことになったことに深い罪悪感を感じる。

きっと生身だったならばこの場で吐き戻してしまっていたかもしれない。

遣る瀬無い気持ちで男を見下ろしていると、フィーリアが男の前に立った。


「最後に……何か言い残すことはありますか。」


フィーリアは男の前にしゃがみこみ、優しい手つきでそのフードに手をかけ外した。


は?


男の素顔を見て俺の全身から血の気が抜ける。

フードを外した男の顔は……クラスメイトの宮前そっくりだった。

なんで?宮前、なんでお前なんだよ……

あまりのショックに思わず一歩後ろに下がってしまう。

激しく動揺している俺に気づくことなくフィーリアと宮前そっくりの男は話し続ける。


「お嬢さん、わかってんのか?あんたが隠者(エレミータ)になるって意味が」


「はい、わかってます。」


「わかってねぇ!!全然わかってねぇぞクソガキが!!!」


死に体で突然怒鳴り声をあげた男は激しくむせ返り、血に染まった目でフィーリアを睨みつける。


「戦争だ!!三大クランによる戦争が始まるんだよ!!おまえのせいで!!!」


「わかっています、承知の上で私はホワイト・レヴィを復興します。」


「ふざけんな!!クソガキ一人のわがままで大陸一つを戦火に晒すつもりなのかよ!!」


「そうです。レッド・べヘモスにもグリーン・ジゼにも譲るつもりはありません。」


「………狂ってる、おいあんた、気づいてないと思うから言ってやるぜ。

あんたどうしようもなく狂ってやがる。」


「……。」


男からの罵倒に反論することなく、眉根を寄せ口元を引き結び必死に泣くのを堪えているようなフィーリアがとても痛々しかった。


「………すまねぇ親父、俺じゃ止められなかった。

クイーン、お前にもすまなかった。俺の未熟のせいでこんな……。」


男の手が微かに赤く光り、クイーンと呼ばれた女人形の頭を撫でる。

赤い光を受け取ったクイーンは動かない身体を必死に動かし男へと縋り付く。

頭を何度も横に振り、服をギュッと握っている。

まるで男の死を嘆いているようだった。


「ったく………く…やし…………。」


男は最後にそう呟くとそのまま事切れた。

クイーンもまるで糸が切れたかのように崩れ落ち、残ったのは男の死体とバラバラの人形だけだった。


死んだ……目の前で人間が………宮前が死んだ。

頭がクラクラする、気持ち悪い、血溜まりの中に倒れる宮前が瞼の裏に焼け付いて離れない。

吐きたい、泣きわめきたい、しかしこの人形の身体はそんなことすら許してはくれない。

思わずその場に膝をついてしまう、頭の中がぐちゃぐちゃで立っていることすらできなかった。


「ネフィリム?」


突然膝をついた俺にフィーリアが心配そうに顔を覗き込む。


「ごめんね、ネフィリム。初起動からいきなりの戦闘とマスターの殺害までさせてしまって…。

今は混乱していると思うから一度休んで、起きたらちゃんと全部説明するから………ごめんね。」


フィーリアは優しく俺の胸の鉄板を撫で、その手に白い光を纏わせた。

光を受け取った俺は段々と意識が遠のいていく、助かる、今は何も考えたくなかった。

このまま眠ってしまいたかった。


フィーリアの顔を見つめながら、薄れゆく意識の中で微かにありがとうと言われた気がした。










「宮前ぇぇぇぇえええ!!!」


勢いよく布団から飛び起き、有らん限りの力で絶叫する。

はぁはぁと乱れた息を整えながら周りを見渡す。

そこは見慣れた自分の部屋だった。

自分の両手を確認するも、木製ではなくちゃんとした人間の手だった。


「ゆ、夢……?」


はぁーっと深くため息をつく、よかった夢でよかった……。

全身から一気に脱力し、再び布団に倒れこむ。

寝汗で濡れた服が背中に張り付いて非常に不快だが、今はそれよりもあれが夢だったことに安堵した。

いくら夢の中であったとしても、友達を殺す夢を見るなんて最悪の気分だ。


部屋の外からドタバタと誰かが走ってくる音がした。


「にいちゃんどうした!なんだ!?泥棒か!?」


俺の叫び声を聞きつけて弟の祐二が部屋に飛び込んでくる。


「あぁ〜悪い、ただ夢見が悪かっただけだ。」


「なんだよそれ、すごい悲鳴だったから何かあったのかと思った。」


ぷりぷりと怒りながら弟が部屋から出て行く。

思わず苦笑しながら、学校へ行く準備を始めた。


夢の中であっても殺してしまった罪悪感から、宮前の好物であるイチゴ牛乳を買ってから登校した。

教室に入ると宮前の席はまだ空席だった。

見た目はチャラいが、根は真面目なあいつにしては珍しく遅刻かなと首を傾げた。


「お、おはよう!佐藤くん!」


後ろから少し緊張したような挨拶がきこえてきた。

バッと後ろを振り向くと、少し頬を染めた田所さんが立っていた。


「お、おはよう田所さん」


俺も赤面しつつ挨拶を返した。

しばらくお互い赤面しながら笑い続けていると、教室中の視線が集まる気配がした。


「さ、佐藤……まさかお前」

「う、嘘だぁー!!俺の千鶴たんがぁー!!」

「2-E鉄の掟を忘れたか佐藤!!」

「佐藤死すべし、慈悲はない」


嫉妬と羨望の視線が俺に集まる。


「ちょっと!千鶴いつのまに!?」

「チヅチヅ〜ちょ〜っとお話し聞かせてもらえないかしら?」

「え?え?佐藤くんと田所さんって……ひゃー!!」

「これはビッグニュース、2-E波乱の時代が始まるな」


好奇心と祝福の視線が田所さんに集まる。


俺と田所さんはクラス全員から質問責めにあったが、田所さんとのことならいくらでも話せそうな俺は終始顔が緩みっぱなしだった。


俺たちへの尋問は朝のチャイムで一旦解散となった。

いつもチャイムとともに教室に入ってくる担任がなぜか今日は遅れていた。

何かあったのかと周りの奴らと話しいていると、少し顔が青ざめた担任教師が教室に入ってきた。

日直が号令をかけ挨拶が終わると、担任が重い口を開いた。


「皆さんに残念なお知らせがあります。今朝宮前くんが亡くなりました。近々告別式があると思いますので、それぞれ親御さんへの連絡をお願いします。」


教室中が静まり返る。

昨日まで一緒にいたクラスメイトとの突然の別れに全員どう反応すればいいのかわからないようだった。

そんな中俺だけは別の意味で呆然としてしまう。


死んだ?宮前が……?だってあれは夢で……


「し、死因はなんですか?」


思わず口から疑問が漏れ出た。


「わかりません、先生も今朝ご両親から一報をいただいただけでまだ状況がよくわかってません。

なので一限目は自習になります、みんな問題集の52ページから56ページまでやっておいてください。」


そう言い残すと担任教師は足早に教室から出て行った。

担任教師が出て行くと教室中がざわついた。

中には泣き出すものもおり、クラスメイトたちは軽いパニックにに陥っている。

そんなクラス中の喧騒は俺の耳には入らなかった。

ただただ今朝見た夢が脳内でフラッシュバックを繰り返していた。


その日担任教師は教室に戻ってこなかった。

学年主任の先生が代わりに授業を行い、あっという間に放課後になった。

俺は手早く帰る準備を行い教室から駆け出した。

信じない、自分の目で見るまで宮前が死んだなんて信じられない!!

息が切れるのもかまわず一目散に宮前の家に向かって駆け出す。

校門に差し掛かったところで、他校の制服を着た女子生徒が下校する生徒たちに声をかけているのを見つけた。


「ね、ねぇ。シュウくん知らない?ねぇ」


通りがかる生徒全員に縋り付くように尋ね回っている。

少し気になった俺は校門で一度立ち止まり女子生徒を見つめた。

俺の視線に気づいた女子生徒が俺の方に近づいてくる。


「ねぇあなた、シュウくん……宮前修知らない?」


「し、知ってる……友達だ。」


「よかった!やっと見つけた!ねぇシュウくん今日学校に来てる?LINEも電話も反応なくて……ねぇシュウくんは?まだいる?」


ホッと安心したように笑顔になり、俺の服を掴み前後に激しく揺らされた。


「ちょ……ちょちょっと落ち着いて!!」


「あ、ごめん。」


パッと手を離し俺を解放してくれた。

乱れた服装を直しながら俺は彼女と目を合わす。


「落ち着いて聞いてほしい……………宮前は今朝亡くなった。」


「…………………………ぇ」


強気に釣り上がっている瞳から急速に光が失われていった。


「うそ…………ねぇ?冗談よね?」


「今朝担任からそう聞いた。俺も信じられなくて今から宮前の家に行くところだ。」


女子生徒はわなわなと口を震わせ、釣り上がった瞳から大粒の涙をボロボロと零し泣き始めた。


「嘘……シュウくん…………私が……ヒック……私が守れなかったから……」


服が汚れるのも構わずその場にへたり込みワンワンと泣き始めてしまった。

突然泣き出した女子生徒にオロオロとしていると、好奇の視線が集まって来た。

早く宮前の家に行きたいのに面倒なことになったと内心舌打ちをしていると


「佐藤くん、その子どうしたの?」


カバンを持って帰るところだった田所さんが声をかけて来てくれた。


「宮前の知り合いみたいなんだ…」


そう言うと全てを察した田所さんは泣いている女子生徒に駆け寄り肩を抱き寄せる。


「大丈夫、いっぱい泣きなさい。落ち着くまでずっと側にいるから……」


田所さんは女子生徒の肩を撫でながら優しく声をかけ続け宥め始めた。

俯いて泣き続けた女子生徒はしばらくすると落ち着いたのか泣き止んだ。


「ご、ごめんなさい……私……わたしっ!!??」


涙を拭いながら顔を上げた女子生徒が、田所さんの顔を見た瞬間、息を詰まらせ大きく目を見開いた。


「お、おまえ………お前えええええ!!!」


女子生徒は怒りの形相で田所さんに掴みかかり、首を絞め始めた。


「かっ……!な、に、を……」


「お前が!!お前がシュウくんを!!殺してやる!!殺してやる!!!!」


口の端から泡を吹き出し、鬼の形相で田所さんにの首を絞める女子生徒はもはや正気を失っていた。

苦しそうに呻く田所さんを見て俺の中の何かがプツンと音を立てて切れた。

サッカーボールを蹴るように女子生徒の横腹を力の限り蹴り飛ばした。

ぎゃあ!と悲鳴をあげながら女子生徒が田所さんから引き剥がされ横に転がる。


「テメェ……田所さんに何すんだ」


横腹を抑えながら蹲る女子生徒の腹を更に蹴り上げる。


「田所さんに何してんだって聞いてんだよ!!!」


さらにもう一回女子生徒の腹を蹴り上げると口から吐瀉物が飛び出た。

それでも怒りが収まらず、更に追撃をかけようとした時


「お、おい!佐藤なにやってんだ!!」


慌てたように駆け寄って来たクラスメイト達に後ろから羽交い締めにされ止められた。


「邪魔すんな!!この女田所さんを殺そうとしたんだ!!許さねぇ!!」


「いやいやいや、お前がその子を殺しそうな勢いだぞ!!」


拘束を振りほどこうとするが、複数人に抑えられ振りほどくことができない。

ゲホゲホと咽せた女子生徒はそれでも田所さんに怒りの視線を向ける。


「お前が……私とシュウくんにあのデカブツをけしかけて………シュウくんを殺したんだッ!!」


「な、なんのこと……?」


田所さんは絞められた首をさすりながら訳がわからないと目を瞬かせる。

しかしそれを聞いた俺は一瞬で頭が冷えた。


「殺してやる!!あんたも!!あのデカブツ人形も絶対に殺してやる!!!」


デカブツ人形……?

それってまさか……夢の中の俺のことか…?

いやありえない、だってあれは夢なんじゃ…………本当に夢だったのか?まさか…。


「おまえら!!そこで何やってんだ!!」


怒鳴り声と共に校舎から数名の教師が駆けつけて来た。

泣きわめき殺してやると騒ぐ女子生徒を先生達がどこかへ連れて行き、首を絞められた田所さんは保健室へと連れていかれた。

俺は田所さんを助けようとしたとしてもやりすぎだと、生徒指導室へと連れていかれた。

生徒指導室で担任から懇々ことお説教をいただいている間、俺は別のことを考えるのに夢中だった。



宮前が死んだのは……夢の中で俺が殺したから?

俺が宮前を殺した?俺が宮前を??

だってあれは夢………夢じゃない?

あの女子生徒もあの夢の世界にいた?

でもあの時あっちの宮前が死んだ時あの場にいたものは限られている。

俺、フィーリア、宮前のそっくりさん、クイーン…………まさかクイーンがあの女子生徒だったのか?

まさかありえない………いや、俺自身も人形になってたんだ、同じ境遇の人間がいてもおかしくない。

ってことはあの夢の世界は現実で、あの世界で誰か死ぬとこっちの世界の人間も死ぬ……?

そんなまさか漫画みたいなこと……でもそうとしか考えられない……。

じゃあフィーリア………田所さんそっくりの彼女が死んだら?




田所さんも死ぬ…?





全身から冷や汗が溢れ出す。

昨日、宮前のそっくりさんはフィーリアのせいで戦争が始まると言っていた。

たくさんの人が戦火に見舞われるとも言っていた。

話の流れから、フィーリアはこれから始まる戦争の中心人物となるのだろう。

っとなると命の危険が大きくなる、もし万が一彼女が死ねば………。





守らなければ


田所さんのためにもフィーリアをなんとしてでも守らなければ。

異世界の田所さん(フィーリア)を現実の俺が守らなければ





俺の果てしない戦いが始まった。



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