ちなみに、ギルマスはキヨより四捨五入で三十歳下。
食事をしつつ、スレを建て他の者の意見を集め始める。
それなりに興味を引きそうなタイトルを幼馴染みの弟子に考えてもらった効果か、それとも最近、こういったトラブルが増えているからか、意外とすぐに反応があった。
と、すこし遅れてギルマスからも連絡があり、スレッドのことも包み隠す事なく報告すると、面白がっていた。
そしてーー。
『でも質が悪すぎるな、よし、見せしめにもなるからやっちまえ』
そんなゴーサインが出てしまうのに、さほど時間はかからなかった。
『口で言っても効かないなら、手を出すしかないだろ。俺たちはそいつらの親兄弟じゃねーしな。
証拠と関連書類用意しとくから、思いっきり指導してやれ』
というありがたい許可までおりた。
しかし、すこし引っ掛かったのでキヨは聞き返した。
「証拠はともかく関連書類ってなんのですか?」
『お前、そういうとこ天然だよな』
くつくつと笑いを抑えるように、ギルマスは言ってくる。
「?」
しかし、理解出来なくてキヨは疑問符を浮かべた。
そんなキヨへ、ギルマスは続けた。
『犯罪奴隷にするための手続きの書類だ。
今回のことは目に余るなんてものじゃない。
お前は刺されたり、首を切り落とされたわけじゃないが殺されかけた。
いわば殺人未遂だ。それもただ逃げ出したわけでもなく手荷物や食料と水まで持ってかれたんだろ?
計画性がある殺人未遂事件だ。お前だから死ななかったものの、砂漠でそれは質が悪すぎる。
明確な殺意は明らかで、こんな奴等が他の冒険者と組もうものなら信用ができない上、何が起こるかわかったものじゃない』
「たしかに」
『そうだ、お前トイレ行ったか?』
「これからですけど」
『んじゃ、これから検尿の容器送るから、それに尿とったら送り返してくれ』
「健康診断は、まだ先ですよ?」
『アホ。薬物検査だよ。状態異常魔法への耐性があるお前が眠らされたんだ。お前だって報告書に書いてただろ。魔法が考えられないなら、化学的に薬を盛られたことを実証するしかないだろ』
「あ、そっか。魔法だけじゃわからないですもんね」
ギルマスが言ったように、キヨには魔法による状態異常に対する耐性がある。
というか、ほぼ魔法では彼を状態異常に出来ないと言っていい。
例外は、彼よりも上の存在である魔女や上位存在による干渉くらいだろう。
精神感応や洗脳魔法もほぼ効果はない。
魔法で調べることができるのは、状態異常が起こっている場合、それが毒か麻痺か火傷か、という大雑把な状態だけだ。
毒の種類も、麻痺を起こしている原因も詳しくはわからない。
それを調べるには、昔ながらの科学的な方法に頼ることになるのだ。
『そういうことだ』
「わかりました」
『あ、あと教育的指導する場所は、ギルド所有の訓練場所使えよ』
「了解です」
あとは、キヨが勝手にやれと文字通り丸投げされてしまった。
と、そこで電話のギルマスの口調がガラリと変わる。
『この口調でやり取りしないとやっぱりダメですか?』
「当たり前だろ。お前の方が立場が上なんだから」
『うう、立場は上でも歳は下ですよ』
「情けない声出すなよ。お前のギルドだろ。
というか年上をアホ呼ばわりしといて今更だろ」
『俺は、貴方たちに憧れて入っただけだったのにどうしてこんなことに』
「諦めろ、これも運命だ」
『恨みますよ』
「恨め恨め」
最後は楽しそうに言って、キヨは言って通話を切った。
それから、建てた掲示板の確認作業に戻る。
すると、久しぶりに見る名前が視界に入った。
こんなふざけた名前を書き込む存在をキヨは二人しか知らない。
そのうちの一人は先程電話連絡をくれた幼馴染みの弟子ーーレイだ。
レイが書き込みを行う場合、ハンドルネームはやたら長い上くそふざけたものになるか、ハンドルネームのどこかに【大愚】と入れるので、今さっき書き込みを行った【ピンクゴリラ】なる人物はもう一人のバカなのだろうと思われる。
見聞を広めるためと、武者修行も兼ねて世界中を旅している。
ピンクゴリラーーエステルは、ハンドルネームにもある通り、桃色の髪をした美少女である。
中身はバカで、その力はゴリラだが、美少女である。
そのエステルの書き込みに、キヨは返信する。
どうやら彼女は、キヨの置かれている厄介ごとに首を突っ込みたいようだ。
上には上がいる。
新人達の心を折るには丁度良いのかもしれない。
そう考えて、掲示板ではなくメールでのやり取りに切り替えた。