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なにしろ財布も持ってかれたから、いや現金はあちこち分けてたから実質無事だけどさ。でも、慰謝料の回収って大事じゃん?

 その日、夢枕に亡くなった幼馴染みがたった。

 キヨも幼馴染みも、学生の時と変わらぬ姿である。

 幼馴染みはキヨに、苦笑しながら言った。


 ーーお前も相変わらず人が良いよなーー


 なんの事かわからずに聞き返そうとすると、その夢から覚めてしまった。

 特注の寝袋に包まれたまま、視界に入ったのはくすんでいるものの空だった。

 枕代わりにしていた鞄が消えており、驚いて飛び起きると自分と寝袋以外のいっさいがっさいが消えていた。

 そして、軽い頭痛。

 してやられた。

 

 「なにか盛られたか」


 おそらく、昨夜の夕食に睡眠薬を仕込まれていたのだろうと思う。

 しかし、そんなことはこの際どうでもいい。

 財布から荷物まで、寝袋以外すべての荷物が消えている。

 枕代わりにしていた鞄まで取られているのだから、よほどキヨの眠りが深かったのだろう。

 でなければ、気配で起きていた。


 「珍しく出てきたかと思えば、そういうことかよ」


 幼馴染みが夢に出てきた理由。

 それは、彼の形見である武器までもがあの新人達に持っていかれたからだろう。

 何よりも大事にしていたからこそ、寝るときは鞄に入れて身近に置いておいたというのに。

 迂闊だった。

 と、同時に幼馴染みの教え子ーー弟子ともいうーーから携帯端末に連絡が入った。

 ネットオークションについ先程、師匠が持っていた件の武器が出品された。

 これはいったいどういうことか、と確認の電話だった。

 もし金に困っているなら、そこそこ値の張る仕材を無償で提供するからそれを売って活動や生活資金に充ててくれという申し出でもあった。

 その報告にキヨの中で、堪忍袋の緒が千切れた。

 と言うか、堪忍袋自体がはち切れ、四散した。


 「いくらかかってもいい。それ落札しろ」


 事情説明は後でするから、と言うと幼馴染みの教え子は詳しく聞かずに了解してくれた。

 そして、指を空中に走らせる。

 すると世界地図が表示され、近辺の地図に切り替える。そして、クソガキ共の現在地が表示された。

 感情もなにも籠っていない、いわば冷たい目で彼らの現在地を確認すると寝袋を手早く片付け、走り出した。

 体と服の強化と速度を魔法であげて、人間ではけっして出せない速度で砂漠を走り抜けた。

 本来なら三時間かかる所を、青筋をたてながら秒でたどり着いた。

 しかし、こう言うとき感情任せに怒鳴りこんでも相手を喜ばせるだけである。

 時間にして数分だったが、さてどうやって接触しようかと考えている所に再び幼馴染みの弟子から連絡が入った。

 どうやら、無事落札できたようだ。

 落札に注ぎ込んだ金はあの新人達に入るのだろう。

 

 『それで、いったい何があったんです?』


 新人達に、この幼馴染みの弟子の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたい。

 この弟子は史上最強のバカだが、弁えている。

 キヨは、淡々と事情を説明しこれからギルマスにも相談するところだと言った。


 『うわぁ、ヤバイっすね』


 バカに自称天才達がヤバイと言われ、キヨは少しだけ毒気を抜かれた。


 『こう言うときこそ、掲示板で意見募集しましょうよ! 楽しいですよ!』


 弟子はかつてそこで相談して、命を救われたことがある。

 だからこその提案に、キヨも、


 「それも良いかもな」


 なんて答えた。

 とりあえずは、新人達に合流したあと反応を見てからだ。

 それから、相談内容を決め、ギルマスにも報告することに決める。

 今までの新人達の暴言の数々は記録してある。

 さらに言うなら、新人苛めが起こらないように講師役はギルドへ魔法で録画した動画データを提出する決まりがあるのだ。

 先日の股ドンに関しても音声付きでしっかり記録されている。


 『斬新なアイディアとか出てきますもん』


 とりあえず、落札した武器が届いたらキヨの元へ転送するよう頼んで通話を切った。

 長々と電話をするのも、多忙なギルマスに対して憚られたので報告書をメールで送った。

 そして、いつも以上にお気楽な笑顔を作ると、とある大衆食堂にて和気藹々と食事と談笑を楽しんでいた新人達の前にキヨは出ていったのだった。

 当然ながら、新人達の空気は最悪なものとなる。

 しかし、そんなことを気にせずに同じ卓に座り、軽食を注文する。

 ほとんど食べ終わる事もなく、拗ねたような表情でキヨ以外のパーティメンバーが席を立ち店を出ていった。

 さすがに自分達の注文した分の会計は済ませたようだ。


 それを楽しげに見送って、しかし、その全員の背中へ忠告だけしておく。


 「管理システムがあるから、お前らが迷子になっても簡単に見つけられるからな」


 すると、新人達のリーダーであるビルがこちらに歩み寄ってきて、叫んだ。


 「てめぇみたいな卑怯で弱い奴は、俺たちのパーティには必要ない!」


 しん、と食堂が静まりかえる。

 

 「卑怯ってのは、たとえば食事に薬を盛って動けなくしたあと他人の荷物をすべて持ち逃げする奴のことだと思うけどな」


 それから、ビルへの興味は無くしたとばかりに携帯端末を取り出すと、キヨは弄り始める。

 もうビル達へは目もくれていない。


 ビルが何かを言おうとしたとき、ガタイの良い店員がキヨの注文した食事を運んできてくれた。

 どうやら、喧嘩になるかもしれないのでその牽制のようだ。

 店員はキヨとビルをそれぞれ睨む。

 その時向けられたのは、殺気だった。

 たかだか店員の殺気にしかし、慣れていないビルは悪態をついて仲間たちと共に店を出ていってしまった。

 その後、人の悪い笑みを浮かべてキヨは、新人達と同じ人数分の財布を卓の下から取り出すと、その一つから紙幣を取り出して、店員へチップとして渡したのだった。

 もちろん、店への謝罪も忘れない。


 「他人の金で食べるのって、ほんと格別だな」


 他の客の好奇な視線すらも楽しみながら、彼は食事に手を付けたのだった。

 

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