表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨の国  作者: KYOS
1/1

みおくり

雨粒が石畳を軽やかに叩く音で目が覚めた。

雨の音は生まれたときからほぼ毎日聴いているが、今日の雨音はいつもより心地よく聴こえる。

このままこの音を子守歌代わりにもう一度夢の世界へと戻ろうとしたが、幸か不幸か目覚まし時計のベルが鳴り響く。起きる時間だ。


朝食を済ませ、掃き掃除をする為に店の前に出ると、

近所に住んでいる顔なじみのおばさんが日課であるウォーキングをしていた。


「あら、パラップさんおはよう」

「おはようございます、ジュピアさん」

「そうそう、この間は修理ありがとね」


そういいながら店の軒先に入ってくる。


「いえ、とても丁寧に扱われてるので傷んでいるところほとんどありませんでした」

「そう?それはよかったわ」


そう言ってふっと笑う。


「あっ、そうだ。今度私の親戚の子が小学校に入学するんだけど、いい傘ないかしら?」

「入学用でしたら、こちらの傘がお勧めですよ。少し大きめですが、卒業するころにはぴったりの大きさになるでしょう」


この国ではほぼ毎日のように雨が降る。

古代から雨をしのぐ傘が儀式などでよく用いられていた。

その傘を作る傘師と呼ばれる人々も昔はたくさんいたが、現在ではめっきり少なくなってしまった。


「そうね、今時めずらしい傘師さんのお勧めなんだし、そう伝えておくわ。それじゃあね」

「はい、今日もよい一日を」


そう言って、ウォーキングに戻るおばさんの背中を見送る。


「今日もいい雨の日だ」




午後、修理依頼に出されていた傘の修理が一段落付いて、お茶を飲みながら一息ついていた。

外では午前よりも少し強くなったが相変わらず小気味いい音を立てて雨が降っている。

目を閉じてみるとなんだか子守歌みたいに心地よく、眠くなってくる。


……チリンチリン


うとうとしていると唐突に雨音とは違う音が耳に入ってきて我に返る。

店の入口のかねの音だ。


「いらっしゃい」


慌てて椅子から立ち上がり、手に持っていたティーカップを作業台に置く。

入り口には小さな女の子が今にも泣きだしそうな顔で立っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ