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1-5 俺は青に甘ーい飴を与えた

鳴かぬなら・鳴くまで殴るぞ・ホトトギス。


 嬉しさのあまりつい俳句なぞ嗜んでしまった。


 っと、そんなことをしている場合ではない。

 俺はあらかじめ用意しておいた釜戸もどきの一番下に敷き詰めた枯れ葉に、急いで火を移す。

 枯れ葉に移った小さな火は、小枝、普通の枝、太い枝と順調に燃え移り10分ほどで安定した火になった。

 何時間経ったのかわからないが、辺りはうっすらと明るくなり始めてきた。

 青は起きる気配がない。



 火ができたら食材の準備に取り掛かる。

 旭日の明るさを頼りに15㎝ほどの2匹捕まえる。

 魚が取れたらナイフで内臓を取り除き、骨の間に詰まった血を指でこすって川に洗い流す。

 これをやるのとやらないとでは出来上がりに大きな差が生まれるのだ。

 今までは面倒だから内臓をとるだけで身と骨を一緒くたにボリボリ食べていたが、火を手に入れるまでの苦労に比べたら屁でもない。


 下処理が済んだ二匹の魚を片手に森に入って丁度良い細くて長いまっすぐな枝を4本探す。

 枝の先端をナイフで尖らせて魚のしっぽから頭にかけて縫うように差し込む。

 持ち手の長い方を火の近くの地面に差し込んで魚を焼きはじめる。

 次に保存食として持っていたウサギの両足の肉に、残った二本の枝を指して同じように焼いていく。

 後は焼き上がりを待つだけだ。



 徐々に焦げ目がつき、いい匂いが鼻孔をくすぐりだす。

 すぐにかぶりつきたくなる衝動に駆られるが、最高の状態になるまで我慢する。

 我慢は体に良くないからと自分に言い訳をかます悪魔の囁きに、火は手に入ったんだからいつでも食べられるよと天使が追い打ちをかける。


 が、我慢する。

 アメは甘いほうが良い。



「よし!完璧な焼き上がりだ。」


 魚の皮はいい感じに焦げ目がつき、はがれた皮の隙間から見える油が浮き出てふっくらとした身が食欲を引きずり出す。

 2本とも火元から外してそのうちの1本を顔の前まで持ってくる。

 ジュウジュウと音を立てている皮の隙間から油がとめどなく滴り落ちる。

 いざ、と覚悟を決めて魚の背肉にかぶりつく。



「うんま!」


 パリッと歯ごたえのある香ばしい皮と、ホクホクアツアツジューシーな身がなんとも言えないうまさを演出している。

 流れ着いてからまともなものを食っていなかったせいもあるだろうが、はっきり言って極上の一品だった。



 苦労して手に入れた焼き魚の一口に舌鼓を打っていると倒れていた青がピクッと動いた。

 どうやら気が付いたようだ。

 一旦ウサギ肉がまだ焼けてないことを確認し、青のものへと足を運ぶ。


 青はゆっくりとした動きで上半身のみ起き上がり、軽く首を回すと俺の視線と重なった。

 なんつー顔をしているのか、地獄の閻魔でもみるかのように恐怖と驚きがごちゃ混ぜになったような表情でフリーズしている。

 なんか不快なものを感じたが、とりあえず首根っこを捕まえて釜戸近くまで引きずった。

 青は抵抗しなかった。

 したら殴るけど。


 釜戸近くまで来ると青を離して2本の焼き魚を手にする。

 音はしなくなってしまったがまだうっすらと煙が立っているので冷めてはいないようだ。

 俺は背肉が無くなった一本を青に渡した。

 そして綺麗な背肉にもう一度かぶりついた。


 青は俺が食べ終わるまで手に持った焼き魚と俺とを交互に見ていた。

 食べ方がわからないというよりは、食べてよいのか不安に感じているようだ。

 骨に引っ掛かった身まで綺麗にしゃぶった後、今度は頭にくしを指してもう一度焼く。

 昔は魚煎餅と呼んで、こうやって食べ終わった骨と頭をパリパリになるまで焼いて全て食べていた。


 骨のセットが終わった後、青を見ると魚がなくなって魚に刺さっていた枝だけを持っていた。

 どうやら少し目を離した一瞬で食べたようだ。

 食べたことを見とがめられて殴られたくなかったのか、それとも食事中を見られることが恥ずかしいのか。

 とにかく口が現在進行形でモゴモゴ動いているためちゃんと食べてはくれているようだ。


 俺は苦笑しながらいい具合に焼きあがったウサギ肉の一本を青に渡す。

 青は食べて良いと理解したようで、渡された瞬間もも肉にかぶりついた。

 意識を取り戻した時の表情が嘘だったかのように、実に満足そうな顔をしていた。

 その様子に安心しながら、俺は青に向かって理解できないだろう一言告げた。




「食ったな?」


 こいつにはこれから火付け番として活躍してもらわないとな。

仕事の都合上明日の投稿はおそらく24時を超えると思われます。

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