1-1 男は異世界に転移したことに気づかない
「よし、次!早く飛べ!」
糞親父地上から大きな声で僕に命令する。
ここは、8階建ての廃ビルの5階だ。
もちろん考えもなく飛び降りるだけではただでは済まないから、ビルの排水管や下層の窓の取ってなどを使い落下の勢いを殺しつつ地上まで降りる。
それでも成功率は高くない。
ボロボロの廃管は飛びついた瞬間外れて落下したこともあったし、下の階の窓淵に手をかけようとして滑り落ちてしまうこともあった。
5階から眺める地上も怖いけど、親父のほうが怖い。やるしかない。
僕は窓の淵から一歩を踏み出し地上めがけて落下した。
数秒とも数舜とも感じられる時間の後、伸ばした足先が地面に触れると同時に屈伸の要領で体を屈め地面を2回転ほど転がって停まった。
もう骨折するようなドジを踏んだりしなくなった。
「よし、次!飛べ!」
親父は問題なく課題をクリアした僕を一瞥し、次の兄弟へと指示を出す。
僕は来月から飛び降りることになるだろう6階の窓淵を眺めながら、高いなぁと思った。
始めた頃に感じていた恐怖はもはや感じなくなっていた・・・。
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~~~ SIDE 雅人 ~~~
俺はうるさい波音とびしょびしょになった服の不快感で目を覚ました。
「どこだここは?」
俺の名前は「西条雅人」。
歳は確か18は超えていたはず。
職業がなぜか思い出せないがそもそも働いた事なんてあったか?
さすがに18過ぎて働いた経験が無いなんてことはないだろう。
忘れているだけなはず。
チキンレースをにしていたことは覚えている。
まず、ここはどこだ?
前には見たこともないエメラルドグリーンに透き通った大海原、後ろには10メートル先が見えないほど生い茂っている大森林。
森と海の間には果てしなく砂浜が続いていた。
人工的な建物が見あたらない以上、無人島の可能性もある。
とにかく水と食料の調達できるか確認しよう。
手持ちは財布と護身用に持っていたサバイバル用のコンバットナイフのみ。
携帯は波に運ばれる最中にでも落としたのだろうか、靴も片方脱げていた。
俺は濡れたジャケットと靴下、片方だけの靴を脱ぎ棄て、Tシャツとジーパン、それとコンバットナイフを装備品として真っ昼間なのに真っ暗な森へと足を進めた。