表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇術師は自由に  作者: 突貫
第3章 帝国闘争編
59/77

55. 猛き笑う戦場の王

短いですが、よろしくお願いします。




 中庭から渡り廊下を潜ると、無人の扉は開け放たれており、それは慌ただしい城内へと続いて行く。駆け付けるべく先行する兵士達の足音を追えば、そこは帝城正面から続く広い通路であった。


「「……ふむ」」


 思わずマガツとリンキンスが重奏する目の前の光景……それは、極めて分かり易い暴力の後であった。まるで通行の邪魔とでもいったように壁際に連なり重なるのは、兵士や騎士達。壁面に見られる亀裂や窪みを見れば、およその察しはついた。


「ふむ、人外の怪力でもおるのかの?」


 マガツ達が足早に先を急ぐと、通路に面した部屋の扉が壊されていた。恐らくは扉をぶち破って吹き飛ばされた者が居たのだろう。中の様子が窺える……


「くそ、あのデカブツ!」


 ……サイラスであった。


 その声に部屋に踏み入ってみると、絨毯の上には砕け散った光る破片が無数に見受けられ、中心ではランツとシロンが天井を見上げていた。

 当のサイラスは二人の視線の先、天井にぶら下がったままシャンデリアの一部と化している……なるほど。


「マ、マガツ!? ……ニ、ニヤニヤ見てんじゃねぇよ!」


「……大した怪我は無さそうだな」


 マガツは割合元気そうなサイラスを確認し、ふとウルガスとリンキンスを振り返る。


「彼等が鍛えて欲しい者達です」


「……ふん、弱そうだ」


「随分飛んだ様じゃが、見た目に比べて軽いのかの?」


 率直に述べる二人の老人に、サイラスは俄かに血管を浮かび上がらせた。しかし返す言葉は出て来ないと言った様子。


「はぁはぁ、カ、カーマイン……」


「……うむ、そうだな」


 追い縋って来たビガロが息も絶え絶えに呼び掛けると、マガツは頷く。ビガロの言わんとした事は定かではないが、何かが攻めて来た、そしてそれは暴力を撒き散らしながら進み、恐らくは……


「……陛下だな」


「うむ、皇帝の間じゃろ」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『鉄鬼兵団』を名乗り進み出た女は、対峙する騎士達を一瞥すると、次いで皇帝の間を見回した。

 やや褐色を帯びた肌に珍しい紫の髪色、身に付けた軽鎧も大陸の物とは少し雰囲気が異なる……


「外縁国の者……と言うよりは、ヴィラン」


「はい。恐らくは……」


「恐らく?」


 皇帝の問いに対し断言が出来ないヴィラン。それは真なる姿を見極める者の言葉としては、何とも釈然としない。


 残る片方の扉を、至極普通に開けて入ってくるのは、眼帯の男と背が高く大きな目をギョロつかせる男……


「あれらはいずれも悪魔です。しかし先頭の女は判りません」


「ええい、どういう事だ!」


 どっちつかずの要領を得ないヴィランの言葉に、ドールマンが吠える。


「私も初めての感覚なのだ。見た目こそ変わらぬものの何処か違和感がある。それも極些細な物であり、この状況下で漸く感じる程度の物。故にこれをどう判断すべきか……」


「…………」


 そんな帝国側の様子などお構い無しに、女は壁際へと歩み寄った。そしてそこから見渡す眺望を前に不敵な笑みを浮かべ告げる。


「この城はでかいだけじゃなく、丘の上と言うのも良い。ここならば拠点としてだけでは無く、我の城としても相応しいかも知れん」


 その言葉に怒りも露わに、騎士達が一層剣呑さを増してゆく……


「黙って城を空け渡すか、我の下に着く……」


 言い終わるのを待たずに、数人の騎士達が駆け出した。それは怒りに駆られた反射的な速攻であり、鋭い剣線は的確に女を狙う……


「ひひ、危ない危ない」


 緊張感の無い声の元、それらは全て直前で止まった。見ればいつの間にか騎士達の間に立ったギョロ目の男が、その長い腕を以ってそれらの動きを絡め取っている。


「こいつ、急に——」


 騎士が漏らすのも束の間、ギョロ目はそれらを一括りに遠心力で以って振り回すと、壁へと叩きつけた。


「ひひ、とっとと終わらせましょうか?」


「お前今……我より強いと思われたんじゃないか?」


「そそ、そんな事は無いです」


「……そうか、なら良いが」


「くも〜呼ぶ〜?」


「呼ばん!」


 余裕の窺える悪魔達は、確かに人間離れした能力と技を有している。眼帯の男と部屋に入って来ない男——大きさ故だろうか? それに姿は見えないが、少女の様な声ともやり取りをしている。つまりはもう一人……


(なるほど、僅か五人に此処まで……いや)


「ヴィラン、南の軍勢については?」


「はい、『鉄鬼兵団』であると」


(では軍勢は陽動であり、たった五人が本命であると?)


「……おい、侵入者の女よ。貴様は何者なのだ?」


 ヴェルフリードは女へと問い掛けた。一傭兵団がこれ程の数を擁し、尚且つ此処まで至る。確かにそれは『戦場の王』と呼べるかも知れないが……


 すると紫髪の女は不敵な笑みを浮かべ、予想を超える回答で以って返した……




「我は鉄鬼兵団団長にして【嫉妬】の魔王、ニヘロブリュタス!」




 ……大罪を冠する魔王。


 それは普く悪魔の頂点。それを名乗る悪魔を前に、場はこれ以上無い程に更なる緊張感と警戒感を増して行く……




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 マガツは杖に乗り低空を駆けると、一足先に単身皇帝の間へと向かった。同中転がる兵士や騎士、相変わらず乱暴にひしゃげた扉。尽く破壊される扉を横目に、何か恨みでもあるのだろうかと思いつつ、漸く目的の入り口へと辿り着いた。


「……なるほど」


 マガツは目の前の大男に、扉が破壊される理由を知った。規格外とは正にこの事、扉を壊して尚通れない程の大きさ。皇帝の間においては扉周りを破壊すれば入れるのだろうが、何故かそうはせずに大人しく中を窺っている……


「む!?」


「なに〜」


 マガツが眺める大男の全体像、特注品と思しきゴシック調の鎧。その背面には椅子が付いており、そこには人形の様な少女——幾分目元にはくまが見受けられるが……いや、現状そんな事はどうでも良かった。それよりもマガツが引っかかった物、それはその少女の向こう側に背負われている物……


「ゴスロリ少女よ」


「メレエ〜」


「……メレエよ、それはどうした?」


 メレエと名乗る少女がそちらを振り返る。そして向き直るなり口にした。


「拾ったって〜」


「……なるほど。まさかあの様な所から持ち出す物がいようとは、……そうか拾ったか」


 これはどう捉えれば良いものか、作品を評価された訳ではあるが、あの場にあって然るべき物。上部だけである事から、“行き倒れ”はあの場で眠っていると思われる。勝手に作った物ではあるし、名前を刻んでいる訳でも無い。そもそも所有権は何処にある?


 メレエの視線も意に介さず、その向こうの物の現状にマガツは唸った。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ