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奇術師は自由に  作者: 突貫
第3章 帝国闘争編
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48. 乗せられる者共

後々微修正が入るとは思いますが、一先ずと言ったところ。


よろしくおねがいします。





 帝国への道行き、傍らに沢を望む穏やかな森部の街道。粉々に小山を築くのは彫刻家カーマインの作品『水浴びをする乙女達』。


 それを対岸に望み、ジェズレという男は堂々と勇者を名乗る。


「勇者……」


 ヴィランが呟く。


「私はその一通りを把握している筈だが、お前の様な者は知らないな。近隣諸国で新たに認められた者。……という事か?」


 男を観察し、その様に問い掛けてみる。だがヴィランから見たこのジェズレという男、とても勇者たる力量を有している様には見えない……

 見た目で決めつけるのは良く無い事ではあるが、小柄であり筋肉量も人並み、強者が持つ圧力の様な物は当然感じられない。


 だが勇者ジェズレは、周囲の視線を集める中、ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべた。



「……その予定だ」



 ジェズレと名乗った小柄な男は、現状勇者では無く、また今後その様に至る保障もないという事実を晒した。

 つまりは自称勇者である。


「済まないな、我々は先を急がねばならない。なれると良いな」


 クラークがその肩に手をやり、優しく微笑んで別れを告げる。


 だがそれを止めたのは、マガツであった。


「くく、自らの意志でそれを目指す。その時点でジェズレとやら、お前は既に勇者なのかも知れない」


「おお! 本当か! そう思うか!」


 マガツの意味ありげな言葉に、ジェズレはニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「うむ。……所で、あの場にあった像を破壊した者を知らないか?」


 ジェズレは機嫌も良さそうに、マガツの言葉に耳を貸した。そして腕を組み顎を摩ると、少し悩んだ末に応える。


「それは知らないが……だがもしかしたら、『鉄鬼兵団』かも知れないな」


「鉄鬼兵団? 聞いた事の無い名だ」


 ヴィランですら初めて聞く名前。その名称から察するに、武力を有する集団であるとは考えられるが……


「大陸会議で連合軍が組織されると決まっただろ? それを受けて各地の無法者や力自慢が集まって出来たんだ。大半はサザンシールの悪魔討伐に加勢して武勲をあげる事が目的だな。そうすればどっかの国で正式に召し抱えて貰えるかも知れないだろ?」


 ヴァモヴァモが僅かに目を光らせる。恐らくは好む所の話なのだろう。


「その者達が彫刻を?」


「さぁどうかな? ただ無法者も一杯いるって噂だからな、道すがら目に付いて壊されたんじゃないか?」


 それを眺めていたベヘルドが、製作者である彫刻家を窺う。


「マガツ……怒ってるのか?」


「何を言っている、全く怒りなど無い。……だが俺の作品の何が気に食わなかったのか、そこは聞かねばならないだろう?」


 マガツはベヘルドへと振り返り、誤解が無いよう説明をする。するとその言葉にジェズレが驚き、慌てて注意をする。


「やめとけって、ただじゃ済まないぞ? 幹部連中は偉く気まぐれで、恐ろしく強いらしいからな、此処からも早く立ち去った方が良い」


「そう言えばお前はここで何をしていたのだ? お前こそ立ち去らないのか?」


「俺の目的がそれだからだよ。兵団に加わる為にそれを探してる。言っただろ? 勇者になる予定だって。……武勲をあげたい、そう言う事だ」


 そのジェズレの含んだ笑みに、マガツは不意に同様の笑みで返す。


「予定ならば此方にもあると言って置こうか、サイラスこそ……」



「だあぁあ!!」



 マガツの言葉を打ち消したのは、馬車の中から顔を出したサイラスであった。


「早く行こうぜ! ……余計な事を言い出す前に」


「あのー、姫様が何かあったのかと……」


 サイラスが慌てた様子で促していると、後続の馬車からはニーナさえも出て来てしまっていた。


「マガツ殿、そろそろ……」


 クラークの言葉に、マガツはビガロを見やる。その首がコクリと頷く。


「うむ、仕方ない。ジェズレ、またいずれな」


「お、おう、いずれな」


 再び帝国へと進み出す一団を、ジェズレは何となしに見送ったのだった。


「マガツ……変な名前だな」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 森の中に音楽が響き渡る。


 それは美しい弦楽器の音。さえずっていた鳥達はいつしかそれを辞め、奏でられる心地良い音色の元へと足を運ぶ。


 男は4本の弦を指で誘い、そこに白い線を走らせる。線を引くのは獣の毛で作られた弓。それは流れる様なうごきで以って、幻想を紡いでゆく……


 いつしか引き寄せられた動物達がその場に集うと、さながら森の演奏会といった様となる。

 驚くべき事に、その場には魔獣の姿さえ見て取れた。決して他を寄せ付けない荒ぶる魔獣を以ってしても、この場においては静かに見守るのであった。


 とても信じられない光景を生み出したその素晴らしい音楽家は、美しい仕草や端正な顔立ちからは想像も出来ない程に……



 ……だらしない恍惚とした表情を浮かべていた。ややあって肩には涎が落ちる。



「す、素晴らしい。これだ……これだから辞められないのだ」


 男は自らが即興で紡いだ演奏に、完全なる陶酔を果たす。


「分かっている、分かっているのだが、辞められない。であればもう開き直る他無いのだ……」


 遠目から見れば美しい光景であるが、実際はそうでも無い。それは世に溢れる様々な事柄における、一つの真実でもある。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 皇国イルテリアとフリーデン帝国。その両国は共に長い歴史を有するというだけでは無く、その中において互いに欠かせない相手でもあった。


 凡そ400年前、大陸がまだホムンド王の物であった時代。イルテリアは自由な精神を謳い、フリーデンは気高き精神を謳った。絶対君主であった王国からの解放を適える為、両国は共に手を取り、そこから協力関係は始まったのである。

 長い歴史を経て尚続く両国の関係は、その中における長い年月の中で、互いに欠かせないものとなっていった。近年においては、武人王との睨み合いや小競り合いを経て、それはより強固な同盟関係を築く迄に至っていた。


 故に国民はそれを理解し共に歩んで来た歴史と言う事実を信頼する。それは聖魔大戦を経た現在でも変わらない……



「父さん、乗せてくれるってさ」


 少年は父親と合流するなり、嬉しそうに報告をした。その父親はと言うと、些か罰が悪そうに笑顔で頭を掻く。


「いや、良かった。……今後交渉事はお前に任せるよ」


「え、うん良いけど」


 息子を半日近く待機させたまま、父親は帝国へと向かう馬車と見るや直接交渉を行って来た。しかしそれは全く成果を得られずに、仕方なくまだ少年である息子の手を借りた。つい今しがたの事である。そして現在、息子は直ぐに吉報を持って帰った。


「……それで、乗せてくれるのは?」


「へへ、あれだよ」


 息子が指を指すのは、何やら一際規模の大きな商団。大きな荷馬車を五台と幌馬車が二台……父親の判断では、先ずこの手のものには交渉しない。断られるのが目に見えているし、こういったものほど金にうるさい……はずであるのだが……


「なるほど、決め付けで好機を逃す所だった訳か。ルカでかしたぞ」


 父親は息子の頭を撫でると、大商団の元へと連れ立って向かう。そこでは実に多くの荷が取り纏められ、街の商会の人間達が積み込みを行なっている。


「どうも、トレノと言う者ですが、息子から帝国行きに同行させて頂けると伺ったのですが」


 手の空いてる男を見つけ、父親は話し掛けた。男はひょろりと背が高く、その頭には羽根飾りの付いた帽子、背には楽器を背負っている。極近場で一団を見守る様子から、その仲間であると思われるが……


「へぇ、では僕と一緒だね」


 どうやらトレノ親子と同じで、帝国行きに便乗する者のようであった。


「ほら、あれが商団の団長だよ」


 男が指を指すのは、積み込みの指揮を執る若者。周囲に比べて随分と若い、ルカと対して変わらないのでは……

 その様にして見ていると、団長である若者が仲間に紙束を手渡した。次いでこちらに気付いた様子で、その足でこちらへと向かって来る。


「この商団はタブレルから来ていてね、大陸を旅して回るんだ。僕は以前から時折同行させて貰っているんだよ」


 男の背負う弦楽器は、少し前の時代の物の様に思える。


(リュートか、懐かしいな。イルテリアでは様々な楽器が見受けられた物だったが……旅の空で歌を奏でる吟遊詩人か)


 トレノが僅かに望郷の念を抱いていると、若者がその輪へと加わって来た。


「どうも、商団『明星』で団長をしていますハンザです。ルカから聞きました、帝国へ行くのなら構いませんよ、常に余白はありますから……」


 そう言ってハンザは背の高い男を見上げる。


「ね? ラキさん?」


「はは、ハンザも言うようになったね」


 中々に長い付き合いの様である。


 積み込みを終えると、街の人間達は大手を振って引き上げて行く。程なくして『明星』の人員が顔を揃え、積載についての情報を共有する。


「木箱や樽には食糧品や特産、それに酒、小瓶の中には調味料や香料や顔料。動物の毛束や毛皮は乾いた藁と……」


「ハンザは凄いなぁ」


 様子を眺めていた同年代のルカが、その様に漏らすと、ラキと呼ばれた吟遊詩人はルカへと笑顔を向ける。


「彼の人生はいつだって選択の連続さ。そして彼は選択して来た。その結果、自らで漕ぎ出した今がある……でもそれは未だ途上。これからも彼は自分で選んで行くだろうね」


 トレノ親子はなんとなしに頷く他なかった。


「はは、済まないね。詩人たる僕としては何でも大袈裟に運命と絡めてしまうんだよ」


 ラキは頰を掻き、俄かにおどけてみせた。それに対してトレノは、一瞬強い意思を瞳に宿す。


「……運命ですか、私にとっては余り信じたい言葉では無いですが、この出逢いもその上で起こった物と考えるなら、それは未だ我々を見捨てた訳では無いのかも知れません」


 トレノの言葉に、ルカは強く頷き、ラキは複雑な笑みを浮かべた……


 商団明星は亡国の親子と吟遊詩人を乗せ、帝国へと馬車を進め始めた。

 







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