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奇術師は自由に  作者: 突貫
第1章 リベルタス騒乱編
2/77

01. 彫刻家カーマイン ※

構想を文章にするって凄く難しい。

誤字脱字もそうだし、切り方と繋げ方。

初投稿作品なので、雑にならない様に気を付けます。


 人々が避けて通る深い森の中、僅かに覗く陽の光が照らし出すのは白磁の彫刻。そこでは、危険地帯には似つかわしく無い、幻想的な空間が形成されていた。


「うむ悪く無い、なかなかの出来だ……ん? 馬鹿を言うな、表現とは自由だ……人の目に触れなかろうが関係無い。俺が何処に居ようと如何に月日が流れようと、この作品は此処に確かにあり続けるんだ。そしてその事をふと思い出した時、僅かな幸福感を得るのだ」


 まるで他の人間と会話をしている様な話し振りであるが、男は一人だった。


 男の前には植物を模した紋様が施された黒曜の柩。それは同じく紋様をあしらわれた白磁の台座に半ばまで埋め込まれており、一段高い台座には魔獣の首を手にした逞しい男性像が形成されている。

 男性は魔獣の首を誇らしく掲げるでもなく歩みを止めるでも無い、まるで羅刹の様なその様は「孤独な勝者、名もなき英雄」とでも言ったところ……


「だが、胸の七つの傷……どうにも此処だけは既視感を覚える。恐らくは魂に刻まれた前世の記憶とやらか……よろしく無いな。出所のわからない既視感は他者の物である可能性がある。自ら生み出さなければ、己の成長は図れない」


 男が尚も不自然な独り言を繰り返していると、視界の隅で草木が揺れた。男はそれに気づき、恐らくは魔獣か何かであろうと注視する。

 草木を掻き分ける擦過音は、こちらへ近付くにつれ次第に荒い呼吸音まで立て始めると、遂には森の闇から飛び出した。


「はぁはぁはぁ……」


 静謐せいひつな森の訪問者は人であり、また女であった。


 女は息も絶え絶えといった様子で男の横まで辿り着くと、膝に手を当て息を整える。しかし此処までの道程が余程こたえたのだろう、そのまま仰向けに倒れ込むと、胸を大きく上下させ始めた。


「……知る訳がない」


「はぁはぁはぁ……?」


 男は意味不明な独り言を発すると、女には目もくれずに再び彫刻へと向き合う。


 しばらくの間、森の空間に女の呼吸音だけが響くと、やがて落ち着いたのか、女はようやくその口を開いた。


「……素晴らしい彫刻ですね」


 女は立ち上がるなり、彫像を観察し始める。


「なんと言うか、これまでの世で知られる名作の数々は、主に『大戦』以前の“清く美しい清廉な物”か、または以降における“暗く悲観的な物”の二つでした」


「ふむ」


「でも“僻地の彫刻家”の作品はそれだけじゃなくて、この作品には残酷さや哀愁といった物は感じられますが、同時に力強さも感じます。多分この男性像は“無慈悲な世界を生きる覚悟”の様なものを表現しているんじゃないでしょうか」


「まぁ墓なのだがな」


「この独創的な作品は“神出鬼没”で知られる“僻地の彫刻家”の作品。つまりは貴方の作品なのですよね?」


「なぜ、そう思う?」


「貴方の作品と思しき物を辿って来たからです。あちこちにある作者不明の彫刻は、ある日突然に現れる。その多くは人里離れた場所であり、崖の上や湖のほとり、洞窟の奥や深い谷の底、他には辺境の村といったものもありました」


「それで?」


「はい。それらに共通するのが、最寄りでの目撃情報です。白髪であり、赤の外套を纏った貴族衣の男」


 女は告げた特徴に合致する男へと笑顔を向けた。


「成る程な。……しかし中々に危険な場所も多かったはずだが?」


「私、やたらと運が良いんです。こうしてここでも貴方に会えましたし」


「ふむ……そうか」


「はい! それで……改めてですけど、こんな場所で彫像の前に立つ貴方は、やはり作者なのですよね?」


「如何にも、俺が作者だ」


「おお! お名前を伺っても?」


「我が名は彫刻家カーマイン! またの名を狂気の暇人、奇術師マガツ!」


「暇人? 奇術師? マガツ?」


「うむ、カーマインは彫刻家としての俺の名であり、奇術師としてはマガツを名乗っている。狂気の暇人に関しては……まぁ気安い悪魔が勝手に付けた物だ」


 男は大仰な名乗りの後に、その全てを改めて説明した。


「だがお前は彫刻家としての俺を追って来たのだろう? では俺の事はカーマインと呼ぶといい」


「はぁ……えと、分かりました。カーマイン!」


「うむ」


「わ、私を弟子にして下さい」


「うむ」


「え、えと……や、やったぁ!」


「……別に構わないだろ、俺は暇人らしいからな」


 男は一人呟くと、次いで付いてくる様に言い背を向けて歩き出した。方や念願叶ったとでも言った様子の女は、上機嫌にその後に続く。

 だがその意識は直ぐ様視界に入って来た物に対する疑問へと変わった。


「牢屋……でしょうか?」


 先程と隣り合う別の開けた空間。そこには誰もが“牢屋”と口にするであろう大きな金属の四角があった。ただ規模としては随分と大きく、それは最早建造物と言える佇まい。

 そんな巨大な魔獣でも放り込めそうな森の中の檻は、その内側に脚の長い卓や椅子を備えているのが伺える。


「危険地帯ではあるからな。死角が無く且つ堅牢な物をと思っていたらこうなった。光も入るし、変な先入観が無ければ悪くは無い」


 マガツの説明に「なるほど」と唸りつつ招き入れられたそれは、その外観と違わずやはり牢屋であった。

 だが一方で白で統一された家具などは、素人目にも品質が良く、その調度品に至るまでかなりの価値を思わせる意匠凝らされた物ばかり……


「カーマイン、これらはその……どうやって?」


 女は当然の疑問を口にした。こんな人里離れた深い森の奥。魔獣まで現れる危険地帯でこれ程の物をどの様にして成し得たのか? 困難と言うよりは最早不可能と言える。

 無理やりにでも方策を練るならば、資材運搬の為の大輸送団が必要であり、魔獣を退ける軍が必要であり、優れた職人が多数と、つまりは伝手と莫大な金銭が必要である。


「この場で資材を見出し作ったのだ」


「えと……鉄もですか?」


「全部だ。先程の彫像や柩と同様に」


「はぁ。……凄いですね」


 女は環境資源、精製、加工などに関しては無知と言えた。故に詳細は放棄し、その場は納得する事を選ぶ。


 男は女に席を勧めると、その手に湯気の立つカップを運んで来た。受け皿には角砂糖が添えられ、漂う香りからは紅茶である事を窺わせる。


(あれ? 今どこから持ってきたんだろう)


 そのような疑問は浮かんだが、それは一瞬であった。今は何よりも喉が渇いている。此処までの道程を考えれば当然と言えた。

 女はカップを受け取るなり直ぐ様口を付け、喉の渇きを潤してゆく。それから角砂糖を直接口に含み、質の良い甘さに人心地つく。


(何処か高貴な血筋の人かな……)


「あの、さっきの彫像……誰のお墓なんですか?」


「白骨化した哀れな行き倒れだ」


「え、知り合いじゃないんですか?」


「知らん、偶然通りかかっただけだ」


(なんて優しい人なんだろう……あれ? そうなると……)


「えと、じゃああの彫像は誰ですか?」


「誰? あれは白骨と俺の融合が生んだ者であり、誰という事では無い。だが強いて言えば俺の白骨に対する理想像ではあるか……行き倒れ朽ちた無名の白骨は、その実歴史の中に埋もれた孤高なる者であったと」


「おお、それは遠回しに供養的な……」


「つまりは、恐らく白骨自身この様な場所に果てれば未来永劫孤独に屍を晒し続けると嘆いた筈であり、実際そういった運命にあったのだろう。だがそう思い通りにはさせない……この世において当たり前な事など無いのだから! 故に俺はその運命と諦念を叩き潰してやった!」


「おおぉぉ……」


 正直どこに対してムキになっているのかと言った疑問はあったが、その気迫を前に何故か納得をさせられてしまう。


 女は、取り敢えず悪魔が名付けたと言う“狂気の暇人”と言う通り名が、ただの悪口では無いという事と、男が中々にややこしい人物であるという事を何となく理解した。




挿絵(By みてみん)

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