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奇術師は自由に  作者: 突貫
第1章 リベルタス騒乱編
17/77

16. ヴェルフリードの逆襲

大陸会議2話目です。

こちらも短めです。


 大広間では微かにどよめきが起こった。


 悪魔を利用すると言い放ったハモンド。それは皆の忌避感ひきかんに触れる。根本にある抵抗感。人として、それを実行してしまって良いのだろうか? 人としての矜持きょうじや自尊心といった部分であった。


 しかしそれも、巨大な力を有する天魔の前に、殊更の無力感を味合わせる事で、受け入れ易い空気を作った。


 各国は困惑を浮かべつつも、その行為に踏み切った際の可能性に揺れ始める。だがヴェルフリードは違った。


(不味いな……不安を煽って自らで悪魔の存在に寄せていくとは、これでは……)


「どう思うかね? オリビア嬢」


 各国の面々よりは、抵抗感の薄いと思われるオリビアへと矛先が向けられた。


「それは、我々魔導国の様に、悪魔がもたらしたといわれる魔術を利用するという意味合いでは無いのですよね?」


「魔術は利用するが、この場合は悪魔そのものであるな」


「そうですね……それを対抗しうる為の手段と決断したとして、相手は悪魔。利用するつもりが利用されていたなんて事に成りかねないかと……」


「その問題が解決されれば、問題無いと?」


「……まぁ、そうなりますかね」


「なるほど、ではそれを防ぐ為には何が必要だと思う」


「必要……対等な力と利害関係でしょうか?」


「そうだ、更にはそれらを兼ね備えた強き者……悪魔を利用し天魔に対抗するだけの何にも負けない強さを持つ者、率いる者」


(最早、悪魔の存在を糾弾すれば、それはこの男の言う強さの証明となってしまいかねんな……だが)


「……しかし、本当に直接的に悪魔を利用するなど、可能なのでしょうか……」


 オリビアは訝しがり、周囲も不安や焦燥を滲ませる。それらを一望し、ハモンドは力強く答えた。


「可能だ」


 そこで、唐突にヴェルフリードが手を挙げた。敢えて話の腰を折るべくして、瞬間を見計らい、視線を集める。


「よろしいですかな、ハモンド王」


 ヴェルフリードの反撃を予想していたハモンドであったが、その瞬間であった事に、一瞬眉根が動く。


「……どうしたヴェルフリード殿」


「実は昨晩。私の従者が城中において道に迷ってしまいしてね」


「ほぅ……昨晩といえば、夜鼠が大量におった晩であったが……」


 ハモンドがそう言いながら各国へと視線を向けると、若干名、硬さを感じる者が見受けられた。間者を放ったのは何も帝国に限った事ではない。行く末を左右する会議において、事前に情報を得ようとするのは当然の事ではある。

 だが、その尽くは帰ってこなかった。


「して、その鼠……いや、従者が如何した?」


「はい、何やら敷地内の一画にて、王の配下を名乗る悪魔に会ったとか」


 その言葉で周囲が大きく騒めく。フィオーネ等は椅子から飛び上がらんばかりに反応を示した。驚きの表情のまま、ロインズ王子が呟いた。


「なんと、既に配下になさっていたとは……流石ハモンド王……」


「ならば、ヴェルフリード殿は我が配下となった悪魔を既に御存知であったか」


 ハモンド王が、騒めく周囲に手を掲げ、静寂を促す。


「はい、ですが1つ問題が」


 僅かに、ハモンド王の目線が鋭くなる。


「その悪魔、どうやら我々を襲撃した犯人であった様なのです」


 ヴェルフリードが口にした『襲撃』という言葉に、シリウスが顔を顰めた。そして、皆の代弁をする様に、ヴェルフリードに尋ねる。

 

「襲撃……何ですかなそれは? 我等の知らぬところで何やら随分と物騒な話しだ」


「この度の会議に出向き、リベルタス領の平原街道を進んでいた矢先、獣の悪魔による襲撃を受けたのです。ですが、他の方々は何事も無かった様で幸いでした」


「なんと!」


「獣の悪魔……」


「して、それが何故我が配下の仕業だと?」



「はい、その獣の悪魔、私のとある『友人』が見事『調教』致しまして……」



 ヴェルフリードがそう告げた途端、ハモンド王の表情が抜け落ちた。そこには何も感じられず、深淵の様な虚無と空恐ろしさを漂わせる。



「その友人も『昨晩』此方に、用があるとかで城中を訪れたらしいのですが、帝国側と『友人』しか知らぬ筈の『獣の悪魔』を、どうやらハモンド王の配下の『占星術師』たる『甲冑の悪魔』は知っていた様子で……」



 ヴェルフリードは如何にも重要そうな語句を殊更に強調して周囲に印象付ける。そしてハモンドの反応を窺いながら、つらつらと続けた。



「知っていたら犯人であると? 同じ悪魔なのだ、知っていても不思議ではあるまい」



「それがですね……その『獣の悪魔』、人語を解するのです。」



 僅かに大広間の時が止まった。


 勿論ヴェルフリードの話は、至る所に虚実が盛り込まれている。それでハモンドを追い込める確証など無い。だが大事なのは、犯人を立証させる事ではなく、周囲にハモンドに対する『疑惑』を持たせる事が狙いであった。

 如何に真実を知っているかを装い、ハモンドの反応を引き出し、周囲に見せ付けるか。それが、起死回生の賭けであった。



「その獣の悪魔が人語を解したとて、何なのだ? 我が配下にそそのかされたとでも言ったのか?」



「はい、我が『友人』によるとその様です」



「ふむ、くだらんな。その友人とやらも本当に存在するかも怪しいぞ、ヴェルフリード殿」



「ハモンド王もよく御存知のはず、白髪に赤のコートを纏った身なりの男。『奇術師』ですよ」



「あー!!」



 そこまで言うと、突如オリビアが立ち上がるなり叫んだ。周囲の視線を浴び、咳払いを一つ。そして、直ぐに落ち着き払い、席に座りなおす。



「私、昨晩会いました、その男に。確かに獣の悪魔を連れていましたし、去り際には何やら話しかけてもいました」



「おぉ、ではヴェルフリード殿が仰る事は事実なのでしょうか……」


「その男の存在が証明されたとて、襲撃の件の証拠にはなるまい。いい加減、その様な言い掛かりは辞めて頂こう、ヴェルフリード殿」


「そうですね、こればかりは当の彼等を連れて来る他、証明しようがありませんな」


 オリビアからの思わぬ目撃証言により、周囲に対する信憑性を更に得たであろうヴェルフリードは、賭けに成功したのだと内心安堵を覚えた。

 


 一方のハモンドは内心にかつてない怒りの炎を燃やしていた。ヴェルフリードに対しては勿論であったが、何よりも奇術師に対してのものであった。

 あの実態の掴めない何を考えているか分からない男、不思議な異能は何を何処まで可能にするのか。それ故に、ヴェルフリードの嘘に対しても、内心判断をつけられなかった。今回のハモンドにとっては、勝負処で突如現れた、まさかの不確定要素に他ならない。

 そしてそれが、ハモンドの計画を後退させた……


(実に忌々しい男だ、これ程に怒りを覚えた事はない)




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 大陸会議はその後、各国にとって上々となる結果をもって終了した。帝国側が危惧した、ハモンド王による即開戦や、支配構造を避ける事に成功し、ある程度の横並びでの運びとなる。


 差し当たっては、各国から人員を募り、連合軍を組織。その最初の任務として、サザンシールに棲む悪魔『海獣フォルネウス』の討伐と相成ったのである。


 連合軍を指揮するのは、今回の場合において、サザンシールのシリウス王であり、その正規軍も共に討伐にあたる事となった。


 ハモンド王においても、連合軍に人員を出す以上は、そうそう不用意な行動に移れないだろうと帝国側は判断した。

 しかしそれは、油断をするという事ではない。水面下では今後も、いつ寝首を掻かれるか分からない腹の探り合いが行われる事になる。



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