0. 滅びの皇国
芸術の都と称されたイルテリア皇国。
その豊かな国では、時節問わずして花が咲き乱れ、街の至る所からは楽器の音や歌が響き渡る。また、その象徴たる美しい白の宮殿においては、国独自の技法が用いられ、極めて先進的であり、それは美の先駆けとでも呼ぶべき物であった。
この国で生まれた物は、絵や彫刻、楽器や建築に至るまで実に様々であった。時代に比して革新的とさえ呼べるそれらは、大陸へと広まって行くと、やがて評価され始める。
それらを生み出した人々の精神は“自由”であり、だからこそそれらは生まれた。そしてそこから人々は知り得た、人間として生まれた事に感謝し、その生を謳歌する術を。
そんな矢先の事であった。
空は2色に別れ、白と黒が混じり合う。一際大きな光から放たれた巨大な槍が、宮殿に堕ちると、建物の影からは炎が上がった。逃げ惑う人々の元に、雨のように降り注ぐ火の粉や、至る所から響く悪魔の笑い声が届く頃、地面は大きく揺れ、巨人が破壊を伴い駆け抜けて行く……
栄華を誇ったイルテリアは、この日のうちに焼け野原となった。遺されたのは、光の粒子となりゆく天使や、地面に溶けるように崩壊する悪魔の屍ばかり……
国の生き残りも絶望的な中、被害は一国に留まらず、更に広域にも及んだという。
それは後に【聖魔大戦】と呼ばれる、天使と悪魔の戦争であった。
歴史あるイルテリア皇国がその主戦場となり滅んだと云う報は、瞬く間に大陸全土へと届けられ、各地に混乱を齎した。
そして世は混迷の時代へと進み始める……