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うちのお父さんは。

仁義の子供の話です。

そういうのが苦手な人は読まなくても問題ないです。

すれ違い描写あり。

「お帰りなさい、お父さん」

「ただいま帰りました。紅、春香(はるか)六夏(りっか)

「た、ただいま」


色素の薄いふわふわの髪をした、父親にそっくりな春香はそう言って母親の右腕を掴む。

「お帰りなさい」

そう言って、もう一人の母親に似た鋭い相貌の少年が、キュッと唇を噛む。


今までの表現からして、この双子と父親である仁義との溝は深い。


何があったか。

まず、双子は間違いなく二人の血を継いでいた。それ故に、その目はやはり、普通のものではなかった。

妖を見る彼らを育てたのは、紅だった。産休の時の後半は仁義が行ったため、一歳になるかならないかまで、ずっと育てていたのだ。そして、紅は専業になろうと決めた。


そこから仁義は会社に戻ったのだが、そこで面倒な案件に巻き込まれてしまい、しばらくゴタゴタすることになる。

そんなことが続き、そして双子が妖が見えることで不安になると、彼らに応対していたのは紅だけだった。


実際はお守りを作ったのは仁義だったりするのだが、何も言わない彼のそんなことを子供がそれを承知しているわけもない。

仁義としては溺愛しているつもりなのだが、本人たちの気づかないところでやっても意味がない。無意味極まりないのである。


ようやく繁忙さから解放された仁義を見て、子供達が戸惑うことも無理からぬことであるといえよう。


「今日は久々に俺が食事を作りましょうか?」

「え!本当か?やった、二人とも今日は父さんがご飯作ってくれるぞ?」

「お父さんが?」

「お父さんが……?」

実際は二人の弁当を作ったり、おかずを作ったりしているのだがそんなことを知らない二人はちょっと眉をひそめて、互いに視線を交わし合う。


「あるのはこれと……ああ、それじゃああれでいいですね。紅、あの白いお皿ってどこにありましたっけ」

「そっちの引き出しのとこ」

「ありがとうございます」

お皿を取り出して、ジャガイモを千切りにする。ベーコンを切るとカリカリになるまで焼き、そこに千切りしたジャガイモを投入する。それから塩胡椒をして、別の作業に取り掛かる。


煮物は、きんぴらごぼうで火が通りやすいように細切りにした人参とごぼうを使った。こんにゃくもいつもは入れるのだが、あいにく今日はこんにゃくが切れていた。


それから汁物とメインの白身魚のムニエルを作って、彼はそれを丁寧に盛り付けていく。サラダは適当にレタスをちぎって、きゅうりとトマトを足しておしまいだ。


「出来ました……って、何をそんなに見てるんですか?」

「手際がいい」

「……いつも作ってないのにね」

「子供じゃ無いんですから、料理の一つや二つ出来て当然でしょう」


いただきます、と言って、全員で食べ始める。

「……美味しい」

味付けも、薄くも濃くもなくちょうどいい。とても馴染んだ味で、二人はちょっと困った表情になる。

「んふふー、仁義のあったかいご飯……んぅ〜最高だぜ!」

「今度からは定時で帰宅させてもらいますから、ご飯は俺が作りましょう」

そう言って仲の良さげな夫婦を見て、双子は顔を見合わせて混乱する。


自分たちの好きな母親が、得体の知れない父親にとられてしまう。

そう思ったのだろう、二人はそのあと一切口をきかなかった。


「あの……紅、俺は嫌われているのでしょうか?」

「いや、それはないと思うんだけど……?だって今日の食事だって美味しいとか言ってたし、ちょっとおどおどしているのは変かもだけど、うーん……っていうかさ。なんでお前俺のことを膝の上に乗せるの?図体的に横にいるのが適当だろ」

「よくわかりませんけど、全然重くはないですし」

「100kgベンチプレスできるお前に言われてまともに喜べねぇことだけは確かだ」


「あとは、この体勢なら気兼ねなく匂いかげますし」

「かぐな!!あ、そうそう。お前今週の授業参観行ってきてくれねぇか?なんか俺の担当の女の人がさ、襲撃されかけたらしくって」

「ふむふむ……むふむふ」

「絶妙に匂い嗅ぐのやめてくれる!?」

「まあそれはさておき。……それが本当なら、仕方がないですね。俺が授業参観に行きましょう」

「そっか、良かった」


双子は、困惑していた。


自分たちがよく知らない相手が、自分たちの授業参観に来る。

「どうしよう六夏……」

「家出すればいいんだよ」

「家出?」

「そしたら、お母さんだって仕事途中で来てくれるし、授業参観だって……」

「でも、お仕事の邪魔したら、めって」

「じゃあ春香は、あの人が授業参観来てもいいの?」

「よくないけど……」

「じゃ、決まり。家出しよう」


そうして双子は、当日家をでるふりをして——町の中へと歩いて行った。





「二人の教室はここですか」

爽やかかつ色気があふれ出るような仁義は、教室の中をちらりと覗く。するとその席のところには、誰もいなかった。仁義は、慌てて凍りつく。


ふと電話を確認すると、紅から一件不在着信が来ていた。サイレントモードにしていたのだ。

「もしもし紅?」

『あ、ようやく繋がった!!なんか、お昼の後からいないけどどうしたのかって連絡あって……ど、どうしよう仁義!!』

「追えないことはないでしょうが、通学路の範囲外に出たりしていれば……とにかく探して見ます」

『そ、そっか。俺は今行けないけど、仁義……頼む!』

「任せてください。これでも感知は得意になったんですから」


仁義の姿はその瞬間角を曲がったとともにかき消える。転身して窓をすり抜け、空中で完治を始める。


「まだそう遠くはないようですね」

自分があの愚物のような間違いをおかすわけにはいかないのだ、そう言い聞かせて仁義は飛んで行った。


一方その頃双子は、二人で公園の近くまで来ていた。

「ねえ、春香。あれってなに?」

「ほんとだ。あそこだけぼやんってしてる……」

双子は甘い香りにクラクラしながら、誘われるようにその中へと入っていく。そしてその瞬間、二人は目を見開いた。


一人の小袖を着た少女が、あどけなく座っている。


「あれ、迷っちゃったの?」

クスクス、と笑いながら彼女は二人の手を取る。

「あの、ここは一体……」

景色は全て塗りつぶされたかのように真っ白で、何もない。

「どこかは、すぐにわかるよ」

思い浮かべてみて、すっごく楽しいところを。


その言葉に、二人の心のうちに情景が現れる。


「わ、私たちのおうち」

「……どうして」

「ここは、世界で一番優しくて、そして思い通りになるの。思い通りになる箱庭」

「思い通りに……」

「春香、六夏」

「「お母さん!?」」


二人ともが目を見開いて、それから母親に少しずつ近づいていく。それから、きゅっとその服の裾を握る。

「お母さん、今日参観日だったの」

「でも、僕たち……」

「まったく、しょうがないなあ」

ぎゅっと抱きしめられると、二人は相好を崩した。本当の母親は悪いことをすればこっぴどく叱り、こんなことをしない……そんなことをわかっていても、腕の中の温もりは居心地がいい。


「そう、どんどん飲まれて……幻の中に……」

その少女の口元は、隠しきれない愉悦に歪む。そして、幻の紅は、その姿をただの硬質な鏡に変えていっていた。

「おか……ぁ、さ?」

「ひっ……う、腕が呑まれて……」

「春香!?ぅぐっ……」


二人は慌てて身をよじるが、一切動くことはない。


「ヤダッ……おか……さ、」

その瞬間だった。

その世界がみしりと揺れた。幻覚などではなく、文字通り揺れた。少女がハッとしてそちらに目を向けると、その場所に鎌の刃が覗いていた。そしてその隙間に指が差し込まれる。


「…………みーつけた」

「ひぃ!?」

ホラーゲームもかくやという笑い顔で、仁義がミシミシとその空間をこじ開ける。良い子も悪い子も普通は真似できないはずなのだが、神にほど近い仁義からすれば、半端な異空間などちょっと丈夫なだけに過ぎない。


「く、くるな!!」

いくつも剣が浮き上がって、中に入ってきた仁義の肩に、腹に、太腿に突き刺さる。それをあっさりと手で抜いて、指で砕く。

「ひぃい!?し、死神……」

「やれやれそんなに怯えないでくださいよ。これでもキレてるんですから、もうちょっと反抗的な態度でないと、折った時の爽快感がないでしょう?」


絶対安全だと思っていたはずの自分の領域内に侵入され、攻撃をなかったことのようにされて怯えないでいられるなどと奇跡なのだが、仁義はあまりの怒りにプッツンしていた。


「……ぁ、動ける……」

「い、今のうちに、逃げる?」

「でも、逃げるならあの穴からだし。それにお父さん……怪我、」


双子が囁きあっているのを見て、着物の少女は笑う。

「動くな!!」

双子が瞬間的に拘束され、そして仁義はピタリと動きを止めた。

「動いたらこの子供らは殺す。武器を捨てろ」

仁義の手から、武器が滑り落ちた。少女はニヤリとして、それから手をすっと掲げて、振り下ろした。地面から生えた鏡の尖ったカケラの束が、仁義の体をごっそりと貫いた。


「ひっ!?」

「二人とも、目を、つぶっていなさい。耳も塞いで欲しいが、それは叶いませんね」

仁義の穏やかな表情が、獰猛に変じていく。

「あなたここでの新参でしょう?俺のことを知らないなどとかわいそうに……異空間ならちょっとやそっと放っても問題ないでしょう。……どれ」

その体から、おぞましいほどの神気が漏れ出していく。かつて九尾をわななかせたほどの神気を目の前で喰らえば、鏡のそう強くもない妖など、単純に力負けをする。


空間がひび割れて、そして少女にもヒビが走っていく。

「ぁがっ!!」

「いや残念です。俺は動いた覚えはありませんし指示通りにはしていたでしょう?」

双子は、目の前の光景を信じられないでいた。


こんな恐ろしい人が自分たちの父親なのか、と。


「はる、か」

「六夏……」

ヒビのはいりきった鏡の妖の首根っこを捕まえたまま、彼は二人に目を向ける。

「二人とも、今日は参観日だったはずでしょう?なぜ、こんな場所にいるのですか」

「え、あの、あの……」

「挙句このような妖怪に捕まって……雑魚だからよかったものの他の見境のない奴らだったらどうするんです?」

「あの、あの……ご、ごめんなさい。お守りがあるから大丈夫だと思って、」

「お守りがあるから大丈夫?」


仁義は深々とため息を吐いた。

「あのですね。これは一度弾いた後は、効力が薄くなると言われませんでしたか?」

「あ」

双子は顔を見合わせる。

どうしてそんなことを知っているのか。

「まあ、俺が作ったので効力は弱まってもお墨付きはあるとは思いますけど」

父親が作っただって?

二人は目の前の男に何やら不思議な感情を持ち始める。


この人は自分たちを見ていたのだろうか。

そして、自分たちはこの人を見ていたのだろうか、と。

料理だって、そうだった。味付けが慣れたように感じたのは、きっと偶然じゃなかったんだと察して、春香は胸を押さえた。

六夏もそれに気づいていたのか、唇を噛みしめる。


「大方学校で弾かれたのをそのままにしたんでしょうが……仕方がないですね、まあそれはひとまず置いておいて、ここから脱出しましょう」

「え、あ、はい」

ぽいぽいっと外に出されて、双子は目をパチクリとする。時間は一分すら過ぎていない。

「ええ……」

「異空間とはそんなものです」


姿形が元のスーツ姿である父親が這い出してくる。心なしか先ほどより色気があるように見えた。実際は歳を重ねただけなのだが、非常に若く見える。

「早く学校に戻らないといけませんね。どるる、お願いしてもいいですか?」

「る!」

「毛玉!?」

それが見る間に巨大化すると、二人の襟首をぱくっと加えて蹄で空を蹴る。


「みゃああああ!?」

「ひゃああああ!!」

二人の目には、死神である今は仁義は映らない。けれど、仁義がそばにいると二人はわかっていた。


「ねえ、今日の参観日の作文どうしよう」

家族のことについて話す予定だった。母親のことしか書いていないけれど、どうしようと。

『到着した』

その毛玉が元の姿に戻ると、ちょうどチャイムが鳴りそうだ。

教室に駆け込みながら、他の子供の話の合間に書き足した。


『うちのお父さんは、とても強くて、そして厳しく、とても料理が上手で、感情を表に出すのが苦手な人です』

「あと、年取らない」

「言えてる」


双子は顔を見合わせてちょっと笑うと、揃って手を挙げた。

「では、次の人、……夜行 春香さん!」

「はい!」

ブクマありがとうございます!


っていうか仁義がさりげに紅ちゃんにセクハラ敢行してるんだけども……?

この後二人は仁義のわかりにくいデレに翻弄されつつ大人になります。

多分後二人は子供増えると思います。

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