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相方!?

また今回妖関係なし。

ほとんどノリで書きました。下ネタちょいあり。

「僕と組んでください!」


あらぬ方向に視線を飛ばしながら、伊吹 優馬は現実逃避を始めた。


そもそもの事の起こりは、数日前。

この線の細い弱っちそうな少年が、優馬の屋敷に迷い込んで来たのがきっかけだった。






「はあ!?婚約だあ!?」

「正確には見合いだが、まあそうだ。いくら三男とはいえ、お前もそろそろ家のことについてはっきり自覚を持つべきだ。違うか?」

「好きでこんな家生まれて来た訳じゃ、」


「ああそうだ、俺たちも好きでこんな家を継いだわけではない。だが、世の中には、持てるものの義務がある。金を持つものは惜しみなく与える事で下を潤し、権勢を持つものはそれを振るって民を守るのが勤めだ。いいものを食い、いいものを着るなら、それ相応の態度というものがあろう。違うか?」


正論だ。

実に正論。

それ故に、優馬は言い返せなかったが、心のうちにやりきれないくすぶりを抱いていた。


きっとそれは誰しも思春期に持つような家庭環境への不服。

家の外ではこうなのに、どうしてうちでは……そういう不満が、理性の邪魔をする。


「くそッ!!あのクソジジイ勝手に決めやがって!!見合いだと!?冗談じゃねぇ、結婚なんて!!」

石ころをガッと蹴っ飛ばす。そしてそれは綺麗な曲線を描き、草むらの中に吸い込まれていった。


「ぎゃっ」

「ぁえっ」

伊吹も変な声を出してしまった。


「な、何かいたのか……?」

草むらをかき分けると、そこには一人の少年が倒れていた。いいところの御坊ちゃまという風体だが、その頭にはたんこぶができて目を回している。


「あーあ、()っちゃった」

「ユーマ、アホの子、でも安心して。壁の中でも結婚式は挙げられる」

姿を消していた双子が無表情で騒いでいるのをギロリと睨み付けると、二人はピタッと口を閉じた。

「……どうしようこれ」


「とりあえず、キスして起こそう」

「だからそりゃどこ情報で仕入れんだよこのアホども」

「大丈夫。ミズハも私も側室はオッケーなパターン。男でも女でも大丈夫」

「俺が!大丈夫じゃねえんだよ!!」


はあはあと肩で息をしていると、その少年がしぱしぱと目を動かして、それから優馬とばっちり目があった。


「うぁあっひょああああ!?」

「ぅおあぇえ!?」

奇声を上げたのち、互いに離れて距離を取り、それからしばし睨み合う。


「…………やりますね、なかなか」

「って何がだよ!?」

「僕の中での奇声ランキング五位には入りますよ今の声は!!」

「そんなランキングつけてんのかよ!?」

「いえ、口から出まかせですよ!」

「自信満々に出まかせ言ってんじゃねーよ!!」


なんでこうツッコミばっかりさせるんだこいつらと思いながらも、優馬はその頭に触れる。

「お前、怪我ねぇか?」

「そういえば……ここはどこで僕はサツキと申します」

「ここはどこって言った後は普通私は誰とかだろ!?なんでさらっと自己紹介までしやがったお前!?……まあいいや、俺は優馬。この家の三男坊で、婚約を押し付けられそうになってるとこだ」

「ほうほう。僕もなんか婚約をー、って言われて逃げ出してここに迷い込んだ次第であります。ところでユウマさん、お菓子ありません?」

「厚かましいなお前」

「ははっ、面の皮の厚さだけは自信ありますよ!あとお昼ご飯とタクシー代もください」

「逆にすげぇな!?」


二人はそうして出会いを果たした。


「それにしても、お前どっから入って来たんだ?」

「ああ、こっちですよ。ほらここ、子供一人なら通り抜けられそうでしょう?この無駄な肉のない美しい体ならくぐり抜けられるんですよ!」

草むらの陰にある柵が、少しだけ錆びて崩れている。


「お前のはただのチビって言うんだよ。何美しく言おうとしてんだよ」

「ああ!?チビって言いましたね!?僕気にしてるんですよ、1μmくらいは」

「あんまり気にしてなくねぇか……?」

「まあ、そう言うわけです。僕の見合い相手はどんな人なんでしょうね?まあその場で調印式というか婚約式を済ませるみたいですけど」

「うわ……ほんとお互い苦労すんなぁ。なんかうまいこと逃げる方法って……あるわけねぇよな」


二人で遠い目をしながら、まだ青い空を見上げて同時にため息を吐く。

「僕、夢があったんですけどね」

「夢?」

「ええ。漫才師になるという夢です」

「漫才……ああうん否定しねぇけど相方はどうすんだよ」

「それもそうですけどね。父は、僕には家庭に入って、旦那を支えるように言って聞かないんです。僕だって、僕だって……夢は叶えたいのに……」


膝を抱えて座り込んだサツキの頭を、優馬はグリグリと押し付けるように撫でる。

「やめてください。ナデポ狙いですか」

「なんで励ますとかそういう思考回路になんねぇんだよお前らは!?」

「お前ら?」

「あ、や、なんでもねぇ。それよか、身長が縮む方を心配したらどうなんだよ」

「それほど気にしてないんで。それともあれですか?チビを気にしている方に性格をシフトチェンジしたほうがいいですか?」

「性格はシフトチェンジするもんじゃねぇからな!?」


その目つきが剣呑になる。

「僕の身長を縮めるなら、あなたの一部分が縮む呪いをかけます……ふふ」

「ぶっ飛び方があっぶねぇな!!しかもどこをだよ!?」

「そりゃあ……足の小指の爪とか」

「ただの深爪じゃねーか!!」


互いに肩で息をしながら睨み合う。

「はぁ、はぁ……素晴らしいです!僕の理想のツッコミ理想の鋭さ!返しも機転も完璧です。しかもまたちょっと目つきが悪いのもGOODですね!」

「やかましいわ!人のコンプレックスグリグリと遠慮なしにえぐりやがって!」

「……うん。そうです。だから、少しだけ……少し、抗ってみましょう!」

「はあ?」


くるりと振り返って、サツキはきしし、と笑ってみせる。

「僕たちの存在価値が、婚姻だけじゃないってことを証明するために!」






そして、話は現在に戻る。


「……で。その結論が、今年のお笑い杯優勝ってか?」

「ザッツライト!エクセレントですよユウマさん。さすがこの一年に一人の天才と謳われる僕の相方内定だけあります!」

「結構多くねぇか?それに相方って……俺の方も説明をするのか?わざわざ」

「なんだったら絶縁して、どっかの事務所に売り込みに行きますか?いえ、行きましょう!」

「まあ待て待て待て。……世界はそんな甘くねぇぞ?だいたい、俺がなんかやってもだな、カネとコネでって噂が……」

「面白ければ!!」


満面の笑みで、優馬の目がくらむ。


「面白ければ、観客は笑います。機会があるだけじゃ売れない、才能があるからこそ彼らは笑うんです。機会なんか金でもコネでも買えますが、才能は、買えないんですよユウマさん!!」

「才能は……買えない」

「だから、僕と一緒にお笑いやりましょう!!」


お笑いなんて。

そう笑い飛ばせることができなかった。


『あいつ、バイオリンコンクールで一位だったのかよ。どうせ伊吹のコネだろ』

『全国模試で一位取った?あそこって経営に伊吹が携わってなかったか?』

『ありゃ八百長だろ。テニス全国五位なんて、ありえねぇって』


何をやっても、どんな実績を残しても、自分の背後には常に『伊吹の家』がいる。


伊吹家がその順位を操作していることを常に疑われ、疲れ切って、彼は不良という実力だけの道に憧れた。

けれど、それもまた父親に警護を増やされて、それからがんじがらめに家に縛られていく。


そんな優馬にとって、それは本当に『実力』の世界。

「……面白けりゃ、笑ってもらえるか。そりゃあいいな」

「でしょう!」

大学生の今、本当に道を外れることは許されなくなった。けれど、十九の今、最後のあがき。


「はは……そうだなぁ……よっしゃ、いっちょやるか!!」

「ええその意気で、えいえいおー!」


なんとか親父に頭を下げて、相手のご令嬢には待ってもらう。

一年。


一年で手を引くこと。売れても、売れなくても。


それでいい。


それで、俺たちの価値が証明できるなら、親父を説き伏せることだってきっとできる。


優馬はハイタッチをサツキとし合うと、笑みをかわしあった。


「よぅし!そんじゃあ、いっちょ気合い入れてやるか!」

「えいえいおー!あ、そういえばですけど」

「なんだ?」

「なんかユウマさんって僕の扱い雑じゃないですかね」

「あいにく男のクソガキに優しくする趣味はねぇんだが?」

「は?」


完全に予想外という顔をされて、逆に優馬はたじろぐ。

「…………あー、まあそうですね」

ぽりぽりと頰を掻きながら、ちょっと目を伏せてサツキは口を尖らせる。

「言わせてもらうとですね。僕はもうすでに19歳で、それと性別は……女です」

「な……」

口をぽかんと開けて、間抜けな顔で優馬が驚く。

明らかに少年のような格好なのに。


「いや……いやいやいやいや……マジで?」

「なーんだったらおっぱい触ってみます」

「触らねぇよ!!」

「っちぇ、つまらん人ですね。まあ、一年こっきりのお付き合いです。よろしく相棒!男だけに相棒!」

「相方って言えコラどつくぞチビ!」

「ふふーん、さすが相棒!」

「だからやめろ!!」


そうして、半年後に開催されたお笑い杯で、彼らは二位という結果に終わった。


二人とも二十歳を迎えたので飲みに行こうという話になり、彼らは一つの居酒屋に入って飲み始めた。

「や、惜しかったですねえ。でも、優勝したとこはすごい面白かったです」

「あいつらなあ。知り合いだったぞ」

「え!?本当ですか!」

「まあ友達の友達だ。竹下と山田っつってな、幼なじみで息までぴったしだ。まあ、半年でよくやった方じゃねぇか?」

「そうですね。……あー、終わりかあ……エンタメの神様出たのは、楽しかったですね」

「ああ」


しばらく沈黙がその場を支配する。


「……いけませんいけません。飲みましょ!明日の昼はお見合いですしね!」

一升瓶を抱えて、サツキはニヤニヤしながらそれを優馬の口へイン。

「ちょっ、がぼがぼがぼ!?」

「あははははははは!」

「ってめぇふざけんじゃ……あ、あれ、めまいて、あぁ、れぇえ?」

ばたん、と倒れたその顔の両脇に、白くて小さい手が差し込まれる。


目を閉じたその額に、そっとサツキはキスをした。


「おやすみ、ユウマさん。一年すごく楽しかったです。……大好きですよ」






「……ちっくしょう……頭いてー……」

「シャキッとせんか!だいたいこちらの都合で一年も待たせておいて、相手の方がどう思っているか……聞いているのか優馬!」

「あーはいはいわかったよ。敬語で喋りゃいいんだろ敬語で」

「だから普段からその態度を直せと……もう良い。うまくやれるよう努力しろ」


舌打ちをしたのに父親が目を逸らしたのを見て、ますます心の中が荒れていく。


——相手がサツキならよかったのに。


心の中でひとりごちて、それから彼は障子がスルスル開いていく先を見つめて、そして——思わず一歩後ずさった。

「う……う、嘘だろ!?」

「あれ?え?あ……あれぇ?」


目を白黒させながら、二人で無作法に指差しあって、互いに叫ぶ。

「どうしてサツキがここに!?」

「どうしてユウマさんがここに!?」


「……だから、釣書を読めと言ったのに」

「読んでいなかったのか!?答えろ優馬!?」


二人の父親が、がっくりしていた。


「最初から二人とは結婚してもらう予定だったのだが」

サツキの父親に言われて、彼女は目を白黒させる。

「え?え?」

「テレビでやっていた夫婦漫才で、びびったぞ。何せ、娘が必死に頼みこんできて漫才を始め、それがまだ顔合わせも済ませていない相手側であればな」

「……漫才などくだらないことをやっていると思ったらお前ェ……」

「おや?お笑い杯などとても秀逸なネタであったぞ?伊吹さん今度DVDを貸そう」


優馬がサツキに歩み寄り、こっそりと囁く。


「……これネタにできるよな」

「出来ますねえ」

「ってか、お前の親父マジでお笑い見んのか?」

「見ますよ。見るから僕がこんな風に育ったんじゃないですか」

「マジか…………。それで、その……結婚の話の方は、どうするんだ?」

「や、もうしちゃいましょ?」

「ああ……ってはい!?」


その素っ頓狂な声にサツキは指をもぞもぞさせて、それから紅の乗せられた唇を尖らせた。

「だって僕一年一緒に過ごして、ユウマさん結構好きですしおすし」

「おすし言うな。なんでネットの定番ネタまで網羅しなきゃいけねぇんだよ」

「ハッハー、ユウマさんは僕と結婚したくないです?」

「い、いや……名前も顔もしらねぇ奴よりはずっといいが」

「じゃ婚約だけしちゃいましょ。周りの声もうるさいですし、虫除けです虫除け。ヘッ」

「逐一なんか根性が透けて見えてるぞお前」

「おや僕の清らかな心根が?」

「お前のそういうとこほんと好きだよ全く……とにかく、じゃあ、そういうことで!」

「そういうことって」


ガッチリと袖を掴まれる。


「どういうことです」


「うっ……だ、だから……その、お前となら、ぃっしょぅ……一緒にいてもいいかなって思ってんだよ!」

「ハーイマイファーザー。言質はゲッチュしました」

「ってお前な!?」

「おぉ、やったか。なら、早速話をまとめよう、伊吹」

「いや……あれで……いいのか?」

「構わんもっとやれ」


きしし、とサツキは笑みをにじませる。

「これからも、よろしくお願いします。伊吹さん」

「しょうがねぇな」

ニカッと笑うとその手を取った。

「ええ、行きますよ我が相棒!男だけに相棒!」

「だからそれはやめろっつってんだろうがァ!!」






「ユウマ私たちのことどう説明するんだろ?」

「知らない。でも、あの奥さんなら楽しくやれそう」

「神気もあるし」

「御使にしちゃおっか」

ちょっと浮かれていたこの時のユウマにはまだ、裏で進められた双子の計画を知る由もなかった。

優馬のロリコン疑惑が確信に変わってしまった瞬間である……。


次の話は明日投稿できると思います。

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