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死神は笑いますか?

短いです。

ごめんなさい。

それに遅れてしまいました。

痛い。


身体中が神経になったように感じるほど、痛い。


ずっきんずっきんと痛む体を押して、視線を巡らせる。いつも通りの俺の部屋、俺のベッド。

右上にはいつも通りどるるがすぴょすぴょ寝息を立てているが、その体には不恰好な絆創膏が貼り付けられていた。


「そうか……」

うまくいってくれたのか。


俺たちが仮に飲み込まれた場合を想定するのは流石にやりすぎかとも思っていたが、案外考えてみるものらしい。


色々考えて、どるるにあらかじめ頼み込んであったのが功を奏したようだ。

「ありがとう、どるる」

「るぷゅー……」

なんかわけわからん声が出たぞ。


それにしても、寝るに寝れねぇ痛みだな。最近ちょっと痛みに慣れてきたし。

結論。ドMにはなれんわ。

痛くて気ィ失えたらどんなにいいか……。


「高田たちが気になりますけど、どうしたんでしょう。あぁ、動けないとこう面倒な……」

多分、作戦通りに行けば俺の体も傷を深くつけられたはず。治りは遅いだろう。

だとすれば、あと数日はベッドの住人か?

嫌だなあ……せっかくコトを一週間ほどで片せたってのに、ここでのんびり睡眠か。


あ、そういえば、伊藤先生にインフルエンザって連絡したけど、診断書どうしよ。

……偽の診断書か……うーん、でもそうしないと欠席扱いになるしな。


とりあえず、宗徳爺さんに頼んで、それからだな。

それに、高田たちや他の陰陽師たちの安否も気になる。全員無事なのかどうか。

そこは、今のこの体じゃどうしようもないか。


どるるが安心しきった顔で寝ているから、それなりに俺も安心できる。


窓の外はまだほんの少ししか明るくなく、夜明けに近いことしかわからない。俺に今できることは、独り言とただ考えることだけ。

「……大きな声も出せないみたいだし」

ボソボソと言いながら、俺ははぁっと息を深々と吐き出す。突如としてズキンと痛みが走って、目がくらむほどの吐き気と息苦しさに目尻から涙が溢れる。

「うぅ……」

息を小さく吸ったり吐いたりしかできなさそうだ。どうも、左の胸の傷はまだまだ治らないらしい。


若干辟易としながらも、ボロボロになっている体内の神脈の調整を始める。まずは、神気が流れすぎているところには周りへ神気を回して適度な量にし、流れていないところは経路をしっかりと回してみる。

それからじわじわと流れを形成していく。


痛みが徐々に和らぐのを感じながら、そういえば今、縛で縛っていないと思い出す。

治ってからでいいや。


そろそろ、いい感じに日が昇ってきている。


こんこん、と扉が突如として鳴った。どるるがビクッとして、左右をキョロキョロ見回す。

可愛すぎかよ。

ドアが控えめにかちゃりと開いて、そこにいる人物を見て、唇が笑みの形を作っていく。


「……仁義」

「おはようございます、紅」

「名前……」

「いや、ちょっと、流石に……あの、感極まって抱きつかないでくださいよ。今すっごくあちこち痛いですからね?」

呆然としたまま両手をそこそこ開いてよたよた歩いてくるので注意すると、ハッとしてからばつが悪そうに目をそらして、ヒューヒュー口笛を吹く。


「いや漫画じゃないんですからその誤魔化し方ってなしでしょう。そこは『い、いやいやいやいや別に!?そんなコト考えてねーし!』とか強く否定してですね」

「ってお前も大概じゃねーか!」

ツッコミからのノリを完璧にさばいてくれてありがとう。


「全員無事で?」

「ああ。軽いけがをしている奴はいるけど、あとは無事だぜ。結界も、協力があってようやく綺麗に張り直せた。九尾は中国に帰ってった」

邪魔ギツネか。よかった、生地に戻ったか。


「ああ、あの邪魔臭い……天狗たちはどうなりました?」

「『我らは鞍馬山の者』、そういって鞍馬山に戻ってった。もともと京都がおかしかったから、あの場所にいたみたい」

ストイックというか、なんというか。


「茨木童子は?」

「あの人はなんか、『てめぇら俺をさんざこき使いやがって覚えてろよ!!』って言いながら、『まあ傷に塗ればいいんじゃねーの』って軟膏薬くれた」

ツンデレか。


「杏葉は?」

「テレビの仕事があるって言って、急いで戻ってった。陸塞たちも、もう学校に復帰してるぞ」

そうか。そう傷も深くなかったようで、何よりだ。


「死神さんは?」

「あー……それはな。おーい、死神さん?」

恐る恐る、といった体で、扉から、左半分が真っ白になった顔が覗く。

「……っちーす。ウェーイ」

なんでそんなパリピのノリなんだよ。


「お前体大丈夫か?」

「ええ、まああと数日の安静ですけどね。それで、どうしてそんなところに隠れてるんです?」

「あ……あー……うん、あのな?ちょっと怒らずに聞いてくれる?」

「はい?事と次第によりますけど……」


すっとその左手が、物陰から出て来る。その上には、一匹の蛇がとぐろを巻いて乗っていた。

「……うちでは飼えませんよ」

「い、いやいや、拾ってきた子猫じゃねぇんだからそう邪険にすんなよ。朱雀院が社を建てる間だけでいいんだよ」

「……素盞嗚尊の心の臓ですか?」


しゃしゃあ、という返事が返ってきた。

「しょうがないですね。でも、居つくのはダメですからね?居着いたら縊り殺します」

「しゃっ!?」

これ以上神様に煩わされるのはごめんだ。


「よかったなー!あ、そういえばだけど、俺ちょっと色が減っちゃった」

その姿が左半分だけ色が抜けている。割合に無理をさせてしまったようだ。

「すいません、俺が無茶な作戦を立てたばかりに」

「ひ……」

ひ?


「仁義が謝った!?」

「人をなんだと思ってるんですか?」

「唯我独尊」

「動かないからだが恨めしいです」

罠にかけるのは好きだが、そうそう己の考え全てに自信を持っているわけでもなし。

自信がないからこそあらゆる事態を想定するだけで。

それにそこまでワンマンじゃない。


「仁義、体の方は平気か?あのな、俺たちじゃご飯とか作れなくって、何か食べたいものはあるか?」

「そうですね、なんでもいいですよ。コンビニで適当に見繕ってきてもらえれば」

「なに!?じゃあ俺のこの空腹はどうなるんだよ!?」

死神さんは腹がへらねぇだろ。それ気のせいだから。


俺の体が動くわけじゃなし、もう少し我慢してほしいと思う。


「まあ、いいけどよー。起きたら唐揚げとスペアリブとか、あー、あとカニクリームコロッケとか食べたいよなあ。グラタンも」

「……子供の味覚ですねー」

「お前の飯はうまいからな!」


まあ、これで大団円とはいかないだろうけど、俺はきっとこの先、こんな風にわちゃわちゃした中で騒がしく過ごすんだろう。

きっとそれを、人は幸せと呼ぶ。


俺が一人で勝手に幸せに浸っていると、死神さんが手を打って俺に話しかけてきた。

「そういや、旅行パンフ見たんだけどさ。俺ちょっとカッパドキアとか行ってみたいんだよ!なあちょっと今度みんなで行かね?」

脱力感が、体を襲う。眉間は今は動けなくて揉めない。


……冗談じゃねぇよ、死神さん。

これにて、本編は終了。


ここから前後篇はあれど、短編形式にした未来のお話を綴っていく予定です。

長らくおつきあいありがとうございます、そしてまだまだ続きますので、よろしくお願いします。

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