死神は諦めが悪いですか?
またブクマが増えている!?
……あれおかしい、夢がまだ続いているようだ。
少し短め。ちょいグロ。
『一対一?この私と、あなたが?ははっ……随分とまあ、笑わせてくれますね』
俺はニッコリと微笑んで、「もちろんこの邪魔な枷は解きます」と言うと、バカにしてるのかそれともバカなのかという視線を向けられる。
ああうんとりあえずバカだけは違うからその視線はやめよっか。
「……それから、神威を使います。あなた側からの譲歩は?」
『何を言ってるの。交渉に乗ってあげる、それが一番の譲歩でしょう?』
俺はそりゃそうだ、と肩をちょっとすくめて笑う。
「戦いは、一対一で行うこと。あとの条件は、俺が勝てば見逃してもらえる。あんたが勝てば、俺はおとなしく神になります。勝負が終わるまで、この場所には他の神は入ることはできない。そして……仮に引き分けだった場合は、逃げ切れれば追わない、なんてどうです?」
『そうね。それくらいなら、まあいいわ?どうせ逃げきれるわけないだろうし』
よかった。
呑んでもらえた。
「死神さん。あとは、よろしくお願いします」
「ニギ……」
不安とやるせなさにその目が揺れ動いた気がした。
俺は正面を見据えて、力強く笑った。
体を戒めていた鎖は、今はない。
「其は我が敵なり」
「排すべし、排すべし」
「遊びのうちに苦しみを得よ」
「そして我が庭にて永久の友となれ」
「我が諱をもって命ずる——共に遊べ」
はは、まさかこんな賭けみたいな行動に俺が出るなんて、思いもよらなかった。
けど、相手はそれだけ俺よりも強い。
もう月とスッポンくらいはありそうで。
これで、俺が泥仕合の引き分けに持ち込めれば問題はない。
……んだが、今から正気を失っちゃうんだよなあ。
もとより条件を飲んでもらうことさえできれば、俺はなんとか生き延びられる。
戦いは一対一、要するに引き分ければ、死神さんに俺を任せて逃げ切る。
逃げ切る、要するにこの空間をぶち破り、逃げれば勝てる。
あとはよろしく、とはそういうこと。
俺を抱えて逃げきれるかどうかはちょっと不明だが、実際理破りがあれば、あの場を元に戻すことはできそうだと判断したから。
そうそう死神さんのアレを無駄撃ちするわけにはいかない。
それに、もうひとつ。
あと一つの仕込みがうまくいけば、なんとかなる。
こんな奴のために、俺の命を使ってたまるか。
絶対に、それだけは断固拒否する。
「……お兄さん」
俺が、俺を覗き込んでいる。
「勝ちたい」
そのつぶやきに、少年の眉毛が困ったように下げられる。
「うーん、びみょう」
「じゃあ、引き分けに」
「……お友だちもふえたし、いいよ。頑張ってあげる」
俺は、その手をぎゅっと握った。
「君は、寂しくない?」
「うん。今はね、お兄さんのもいるし、それからもう一人、お友だちがいるもん。……でも、ぼく今すっごく寂しい」
もう一人。
おそらくは、マガヨ。
「そうですか……」
その頭を少し撫でると、俺の意識が遠のいていく。
「おやすみなさい」
頭を撫でていた手が地面に落ちていき、少しバウンドしてからそのまま動かなくなった。
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『ここは……異なる空間ね。……あら?私の神気が、少しずつだけど減っている……?』
「こーんにっちはっ」
その目の前に、紅の水干を着ている少年がふわりと現れる。
『それに飛べない。あなた一体私たちに何を……』
「なにをしたのって、なにが?」
全くもって知らないという風に首を傾げた少年の襟をがっしり掴むと、彼女は怒りに顔を歪めた。
『だから、どうして飛べないの!!』
「だって、お姉さんは大人で、ぼくは子どもでしょ?」
『大人!?何を——』
「だから、ぼくがもらっちゃうの」
ずるりとその体から、神気が本人の意に反して流れ出していく。
『な、やめて!!ここから今すぐに出して!!』
「ん、じゃあ、さいしょすごろくかなー」
大きな抱えるほどのサイコロが、その場にドン、と落ちた。
「これころがったら、出た目のかずだけすすむよ。マスのいうとおりにしないと、こわいんだよー!」
自然とサイコロがころ、と転がった。
「ぼくは二マスだね!」
指示は、《黄色の食べ物を十秒以内に三つ答えよ》。
「バナナと、レモンと、うーん……あっ、チーズ!」
ピンポンピンポンピンポン、と正解のコールが鳴る。
「やったー!」
サイコロがころころと動き始め、六の目が出る。
『《一発芸をする。できなければ振り出しへ》……?はっ、誰が従いますか!』
一歩、別のマスに踏み出そうとしたその足先に、シャッと何かが落下してくる。
『えっ……』
銀色の、綺麗な刃。それが、足を踏み出した1ミリほど先に存在している。
一歩踏み出せば、確実にそのまま爪先が削られていただろうと、彼女は舌打ちする。
これ以上の神気の無駄遣いは、避けたい。
「ダメだって。ほらほら一発芸!」
『……始めのマスに戻ればいいのでしょう』
子ども特有のふっくりした頰に、えくぼができる。
「そんなんじゃ、上がれないかもよ」
呟いた言葉は、彼女の耳には届かなかった。
「……いち、にい、さん!」
『ど、どうなっているのよ!!』
かなりの距離から叫んだ女の声が、かすかに耳に届く。少年は、あと少しでゴールだ。
「どうなってるって、だから言ったじゃん。はずかしがって、言ったとおりにしないから、はじめのマスのままだよ?」
少年は、叫ぶ声を無視して、それからだサイコロの指示通りに足を進める。
「……やった!ゴール!!」
遠くで、嘘でしょうという声が聞こえる。その場一帯のすごろくは突如として姿を消し、少年と女性の距離は一気に詰まる。
女性は、体を中空からのヒモに吊り下げられていた。
『お、おろして!』
「ダメダメ。負けたんだから、ばつゲームでしょ?』
その紅葉のような手が、すっと掲げられる。そして、それがピストルの形にされる。その瞬間、右腕にシュルシュルと黒いロープが巻きついてた。
無邪気に笑った少年は「ドーン」と言いながら、打つふりをした。
『あああああああああっ!!!』
右腕はブツブツと筋繊維を引きちぎり、ゴキュッと骨を外しながら、体からちぎられた。
ぼとぼと、と血液がこぼれ落ちて、拍動と同時にその場所からぴゅっ、ぴゅっと血液が噴水のように溢れていく。
「……すごいすごい、花火みたい!どうなってるのそれ?」
手を伸ばしてその傷口に触れようとした少年を見て、彼女はギョッとして目を大きく見開く。
『や、やめて……!!』
その体から、大きく逃れようとして左手でロープ全てをちぎり、それから腕を抑える。その瞬間、その場所が光り輝いて、光で構成されたような腕が傷口から出来上がっていく。
『天照大神よ?腕の一本くらい、簡単なこと』
痛みを感じたのは、生まれて初めてのことだった。
ここは、この繭の中だけは、神すらも例外である場所なのだ。
そう思うと、ますますその力が欲しくなる。
「そっか、ざんねん。じゃあ、次の遊びに行こう?まだまだいっぱい時間はあるから!」
「……え……」
その瞬間、その場所に少し大きめのジェンガが現れる。
「これで遊ぼ!」
その瞬間、天照の顔は盛大に引きつっていた。
しばらく遊び続けているうちに、空間に多少の歪みができてくる。空間自体が、膨大に詰め込まれた神気に耐えかねている。
その空間の中では、また帰りたいとダダをこね始めた少年が、そこにいた。
しかし、天照はそこでニヤリと笑みを浮かべた。
『攻撃は、多分できるわね』
少々痛い思いはしたけれど、これで、この悪夢のような空間から出られる。
脇腹も小さな龍に食い破られた。
それから左の耳も。
ついでに殺してしまえば。
彼女は袖の中に光の手を突っ込み、そしてゆっくりと引き出す。
草薙剣。
ヤマタノオロチの尾から出てきた剣、それをずるりと引き出して、少年に向けて走り出す。
「……なに?」
「諦めて、私のものに——!!」
その瞬間そこから少年が搔き消えて、そしてその繭の揺らぎに、剣が突き立った。
空間に、ぴしりとヒビが入る。
「あ……」
崩れ落ちていく空間の中から、少年はじわじわとその姿を変じていく。
その体が大きくなって、そしてその体は下へと落ちていく。
気を失ったまま。
『……か、った!!私が、この私が勝ったわ!!』
そして、彼女はそのまま剣を振ろうとした瞬間、手が雲散霧消していくことに気がついた。
そこからとめどなく血液が溢れ出していく。
脇腹からも、顔の横からも。
だが、すでに彼女は痛みを感じていない。
流れる血液を鬱陶しそうにするだけだ。
『元には戻らない?……いいわ、この子さえ手に入るなら』
地面に落ちた少年は、すでに死神ですらない。
苦しげな顔で仰向けに、ただ寝転がっているだけ。
あとは、殺して神格化させて仕舞えばいい。それで、信仰は取り戻すことができるだろう。
『これで……時代が来る。また、神話が世界を支配する時代が……!!』
その左の胸に、彼女は悠然とした笑みを浮かべて、それから剣を左手で掲げて、振り下ろした。




