死神は恐れますか?
八十五話目。
ブクマが増えて総計50ptもついたよ!
……夢じゃないよね?
「死神……さん……」
頭がうまく働かない。
どうやっていきをしてたっけ。
ああ。
嘘だろ。
呆然とした気持ちの中に、じわじわと怒りがこみ上げてくる。
身勝手な怒りだ。
俺がハッキリしないから、死神さんが飛び込んでいった。
それでも、何かに当たらざるを得なかった。
カッコつけるって、死んでちゃ何もならねぇだろ。
ふざけてんじゃねぇ。
「ふ……ふざっけんじゃねーぞこのアホ死神!!出てこい、いつもいつも変なことばっかり言いやがって、今回ばかりは許さねぇぞ、勝手なことばかり言って……っざけんな、カッコつけ星人!!」
「お前こそ人がいない間に勝手なことばっかり言ってんじゃねーし」
「…………え?」
後ろに。
「……幽霊?」
「いやちげーから。お前って根本的に俺をなんだと思ってるわけ」
「死神」
「そうだけど!!ってそういうことじゃねぇ!!」
ああ良かった。生きてる。
いや死んでたけど。
死神さんは、まだここにいる。
小脇に抱えられたその人が、身じろぎをして俺を見上げた。
「ぁ……あ?ど、うなって……」
「おう、ようやくお目覚めかよ。寝てっと落とすぞ」
ぷらぷらと振りながら、本気っぽく言ってみせる。
「それはちょっと痛いからやめろ」
オロチはそう言って、その腕から逃れると手足をちょっと動かして、じっと手のひらを見つめる。
「色、消えちまったな」
「ああ。まあ、問題ねぇさ」
「いや問題は大アリでしょう。あの下のやつ、一時的に崩れただけでまた回復して来てますからね?」
「あ、ほんとだ」
未だ土埃の立ったままのあの場所からは、肉会がぶよぶよと膨らんで来てはみ出し始める。
「……俺の心臓にいつの間に」
「隙なんて、いくらでもあるでしょう。埋めこむことが目的じゃなくても、何かに混ぜるとか、肌から侵入できるように調整するとか」
「でも、体内の神気の流れには全く違和感を感じなかった」
俺は肩をすくめる。
「おそらく、俺か死神さんかあたりが傷を負わせた場合、急成長するようになってたんでしょうね。それより、あれは斬ってどうにかなるものなんです?」
「知らんわそんなん」
「さっきのあれは斬った風圧で吹き飛ばしたって感じだったからなー。あ、再現は無理だし風圧だから一時的なもんだぞ?」
うーん……。
「にっぎいいいいい!!」
上から落ちて来た高田を避ける。
「どうも」
「伊吹たち呼んできた!」
「そうですか。じゃあ、ミズハさんとハニーさん、ちょっと」
「ってお前なんで俺まで呼んでんだよ!?」
「杏葉ちゃんは?」
死神さんの最もな問いに、高田はあっさり答える。
「瘴気で倒れた瑠璃ちゃんたちの介抱に回っているって言ってたし、邪魔はできないかなって……」
「俺たちはいいのかよ!!」
茨木童子が喚く。高田が暇そうにしてたし、とモニョモニョ言っている。
暇そうってお前な。
「お前割とざっぱだな」
「いえ、人手が増えるぶんには。食われないだけの実力があるみたいですしね、一人を除けば」
「一人……」
全員が一瞬だけ、伊吹を見た。
「って自覚済みだよ!!で、俺はなんかやることあんの」
「ないですね」
「ないのかよ」
殴って殺すというのは、案外大変なのだ。
某漫画ではワンパンで始末しているが、ああいう風に体に風穴を開けるパンチを繰り出せる人なんて、ほとんど皆無じゃないか?
パンチというのは、刃物と違って表面積が大きく、力が分散される。
殴られたからと言って、そうそう風穴はあきやしない。
「ああ、でもそうですね……」
核を破壊するとなれば、一つだけ試しておきたい。
「伊吹くんは、広範囲に一度に打撃をすることは出来ますか?」
「あ?ああ、ちょっとタメはいるけどな。なんでだ?」
俺は肉塊がじわじわと回復をしていくのを見ながら、ニコッと笑う。
「いえ。少し、思いつきですけどね」
俺は、右目に神気を注ぎ込んで、神脈をギリギリまで強化する。
「目標とするのは、あのあたりを全てです」
体の中心部分に、その核が鎮座している。安心して眠っていられると思ったら、大間違いだ。
「まずは、前方少し下から、伊吹が全力で叩き込んでください」
「了解」
そのまま伊吹と高田が突っ込んでいく。高田は結界を張り、溜めが終わるのを待つ。
伊吹の右拳が光をじわじわと帯び始める。
「ひゃああくれつけええええんっ!!」
いや百裂拳ってネーミングセンスダサいだろ。
しかしその光は、その体に拳が食い込むと同時に分裂してその体を打ち付ける。眼に映る核が、その方向を逃れて後部の上方へと移動した。
「ミズハさん、よろしく」
「任せて」
その鎌はありえないほどに巨大化し、そして、その巨体を前方と後方に切り分けた。
「ハニーさん!!」
「らじゃー」
その戻ろうとした隙間を全て土で覆い固めて、それをさらに高田が結界で覆う。
前よりも断然、長時間もつはずだ。
さて、ここからは三分の一のそれに核が入っているが、じゃあどうやって殺すかという算段なんだが。
「茨木童子!」
「さんをつけろよさんを!?」
「今までこだわらなかったくせに」
右目が弾けた。すぐに再構築されていく。
見逃すわけがない。
じっと視線を注ぎながら、俺は方向を指示する。
「そのまま縦に真ん中から!!」
「指図すんなよ!!」
その言っていることとは裏腹に、その手には大きな鋏が握られている。
「『大断』!!!」
ざくん、とその肉が切り裂かれ、そしてそのまま右半分をさらにハニーが覆っていく。
「オロチ……!!」
「荒ぶる八衢の大蛇」
「怨みはあれど其の身体は我が肉なり」
「穿つ大牙は毒を孕み」
「やがて肉は腐りゆく」
「我が諱をもって命ずる——喰らい尽くせぇえええっ!!」
その身体は何もかもが真っ白に変じているが、それは死神の冷酷さを孕んだ白ではない。暖かさをもった、優しい白。
その袖からは大蛇が何匹も這い出ていき、その肉塊を食らう。
あっという間にその肉塊は食いちぎられていき、徐々にその動きは無くなっていく。
「ハァッ……ハァッ……くっそ、もう無理だ!!」
蛇が、雲散霧消していく。残っているのは、わずかな肉片のみ。
そこめがけて、死神さんが大鎌を振るう。それを察して、その肉塊から、一つの光が飛び出していく。
肉塊が生まれる気配はない。
「こんにちは」
その体の前に飛び出て、俺はそれを手から突き出した刃によって、砕き去った。
「終わった……」
その瞬間だった。
その場所から、ジリジリと侵食が始まっていく。天に向けて一条の光が立ち上り、その場に幾らかの地面を飲み込みながら、俺は逃げる間も無く飲まれる。
視界の端に、高田が「ニギ!!」と叫んで飛び出てきたのが見えたが、俺の手は届くことなく光の壁に閉ざされた。
ふと見ると、そこには死神さんが立っていた。
「死神さん……」
「仁義……」
あの瞬間、あれは反応をして、消えてしまった。
おそらくは、門をつなぐ先を指定するマーカーの役割だったんだろう。
「すっかりやられましたね」
「ああ。けど、このままだと俺ら帰れねぇな」
「それは……いただけませんね」
そうだ。
それだけは、絶対に嫌だ。
『……哀れな子』
「誰だ!?」
死神さんの怒鳴り声に、ただ虚ろな笑い声だけが響いてくる。
「笑ってても相手には細かい意図は伝わりません。ご用件とお名前をどうぞ」
『これは失礼。先日は兄が、大変失礼いたしました』
「……あの無理くりな連行をしようとしたやつでしょうか?」
『ええ。まあ、それはさておき……ここはすでに高天原ですから、あなたは神になれますよね』
その女性は、光の中からするりと躍り出た。
イザナミ様に似ている。
黒髪でありながら、純粋無垢な表情に見えるその顔。
一切目は、笑っていない。
「それは、断ったはずです」
『今ここであなたの命を断てば、問題ありません』
俺は死神さんの手を突く。そして、手でいくつかサインを飛ばす。
「……お前、」
「たとえ動けなくなろうと、無条件にあなたの要求は、飲めませんね」
俺は鎌を取り出すと、悠然と構えた。
抑えているが、その神気は俺よりもはるかにひどく、そして肌に痛い。
「あなたとの、一対一を、所望します」
死神さんが、俺の後ろへと下がっていった。
一対一では明らかにかなわない相手に戦いを挑んだ真意とは……?
うーん、法事とかあるので色々遅れるかもです。
もし明日無理なら載せません。