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死神は頭を抱えますか?

なんかpv増えてたんだけど今日月曜じゃね?

あれ?

「……こんなに理想の女性像が多様化しているなんて思わなかったわ」

狐は尻尾の先をいじりながら、ブツブツと文句を言っている。そりゃあどんな男も夢中になるわけだ、自分の理想の女が理想的にしなだれかかって来て我慢できるという方がおかしい。


「だったらどんな感じならいいのかしら。ちょっと教えて?」

妖艶に笑っているつもりなのだろうけど、失敗している。ギラギラ化粧のせいである。

あんなつけまつげしてまぶたは重くないのだろうか。


「……ええ、そうですね。教えてもいいですが、その代わり少し相談に乗っていただけます?」

「相談に?」

その目がキュッとすがめられる。狐らしく、にいっと笑った顔が実に企みを孕んだように見える。

「ええ。この京都は間も無く、妖が住めない土地になるでしょう。ともすれば、この日本全てが」


それに露骨に彼女は眉をひそめてみせる。

「あの真ん中にいるおぞましい気配のことよね。でも、あれは私を倒すには、まだ足りぬでしょう。違う?」

ハタハタと羽の扇を振ると、格好も相まって若干バブル感が出て来た。

どうしよう。

視界がシュールすぎてちょっと目のやり場に困ってしまう。


「そうですね。けれど、間も無く、彼は高天原を、この地へと引きずり下ろすことはできるようになる」

「……それは考えもしなかったわ。地上で神になるのだとばかり」

「まあ、詳しく存じないとは思います。今俺たちは、それを止めようとしているわけです。そこで、相談です」

「手伝えと?いやよ。消滅するなんてまっぴらごめん」

「いえ、違いますけど」


沈黙が流れた。

九尾は、せわしなく扇を開いたり閉じたりした後、ゆっくり尻尾で顔を覆った。

「……嘘。違うの?」

「人間を食べるとか陰陽師を殺すとかいったこちらの邪魔をする行為と、無駄に瘴気を撒き散らすのやめてくださいと言いたかったんですが」

「うぅううう……」


尻尾でぐるぐる巻きになっていく。

これはあれだ。アホの子で間違いない。


「わ、わかったわ。でも、それだけよ!それだけしかしないんだから!」

「それだけしてくれれば結構です。……それで、理想の女性像ですか」

「そうよ。どんなのがいい?」

「そうですねえ……世の中一般の意見でもいいでしょうか?俺個人の意見だと、少し歪むので」

「そっちを教えて欲しいのよ!」


玉藻前のように、和風美人でありながら蠱惑的なイメージを持たせ……などなどをイメージして伝えると、目の前に着物を着崩したその通りの女性が座っていた。

濡羽色の髪に、涼やかな目元。若干薄いが、紅が入って蠱惑的に見える口元。その隙間から真珠色の歯がちらりと見える。

髪の隙間から覗いた肌はとても白くキメが細やかで、覗く谷間が妙に肉感的に見える。


「これでいいのかしら?」

「仁義!?これっ、これは浮気に入るのか!?」

「入れるんですか」


高田がちょっとおかしくなっているが、思想の自由は日本国民には保障されているのだ。

浮気じゃない浮気じゃない。

俺は性格が第一だし。

……うんでもまあ、あの中身を知った、というかキャバ嬢姿を見た後で欲情できるかと聞かれて……無理かも。


「あとは、少し黙って微笑んだ方がいい時もあることを覚えておいてください」

「えっ、あ、はい」


家から出ると、俺はしゃがみこみながら頭を抱えた夜沙ちゃんと瑠璃ちゃんを抱え込んだ。


「大丈夫ですか?全員」

「俺と杏葉ちゃんは問題ない。瑠璃ちゃんと夜沙ちゃんは……?」

二人が一気に荒い呼吸を繰り返す。少し過呼吸になりそうだ。

「落ち着いてください。大丈夫です、すぐにこの場を離れましょう」


先ほどと比べて一気にその瘴気が抑えられたとはいえ、ひどく常人の身には耐え難いほどのものだろう。

二人がずっと黙っていたのは、そのためだ。

「……か、抱えていくなら、せめて杏葉さんがいいし」

「構わないですけど……なぜ?」

「呼吸をする……ときに、汗臭く、なさそう、いい匂いしそうだし?」

むせながら、そんな主張を始める。こいつなかなか余裕あんじゃねぇか?


「まあ、このぶんじゃ絶対寝込むし」


俺たちは二人を抱きかかえたまま、外周の方に出ていくと、そこに立っていた男が俺たちを視認して右手を掲げた。

「やあ」

「どうも。交渉可能でした」

「それは!そうか、僥倖だった………な……」


男が突如いいよどむ。カッと目を見開いて、それからはくはくと口を開けては閉じて、俺の後ろを恐々と指差して、腰をぬかしてへちゃりと座り込む。

「あ……?」

俺はバッと振り返り、それから自分の顔がひきつるのを感じた。


「高田。瑠璃さんをお願いします」

「え、あ、うん……」

「それから。伊吹たちにもう一度出てもらいましょう」

「うん……」


ぎり、と俺は奥歯を噛み締めて、それを睨みつける。

「来ちゃった♡」

「どういうつもりです」

「言うことは聞いてるでしょ?」

聞いてねぇ。全然聞いてねぇ。


「今ここに出て来てもらわれると結構困るんですけど」

「え?でも瘴気は最小限にしてあるし、それから人も食べてないでしょ。どこが迷惑になってるの?」

「あちこち出歩かないで欲しいんです。あなたが瘴気をあらかたは引っ込めたから、ようやくこの辺りの瘴気が薄まるはずだったのに、根源が出歩いてちゃどうしようもないでしょうが」

「えー?だってぇ、つまんないし」


じわっと腹が立ち始める。


「とにかく、出歩かれると困るんです」

「なんでよ。別に邪魔はしていないでしょう?」

「あなたが元から瘴気を放っているのが原因だから、そうそう出歩かないように言ってるんですよ。日本語わかります?中国語で言いましょうか?」

「だ、大丈夫よ!なんで!瘴気は抑えたのに、私は出かけるのもダメなの!?聞いてないわそんなの!!」


取引に頷いたのは、そっちじゃねぇか。


じわじわとオロチの神気が増えて来ている。まずい。時間がない。


「ねぇほんといい加減にしてくださいよ。条件飲んだんですよね。ならとっとと帰っておとなしく、」

「なんであんたに命令されなきゃいけないわけ?私は別にこれが迷惑になるとは思っていないわ。あなたの相談には乗ったけど、あれは対価あってのものでしょう?だいたい、気配からして私より弱いくせに、相談の内容の言うことを聞かせる強制力なんて、ないでしょう?」


ああそうかいそうだったよ。


妖ってのはこう言うやつらだった。

俺が日和過ぎてたんだ。

言うことを聞かねば、捻り潰すくらいのスタンスで行かないと、こっちがやられる。


「強制力ですか。……一つ、身のためになることをお教えしましょう。実力を判断する内容は、一つにとどめないほうがいいですよ」


ほんのわずかだけ緩めた縛の鎖の中から、神気がどろりと溢れ出した。狐の尻尾の毛がぶわっと膨れて、警戒もあらわな表情になる。


「な……なに」

「何とは失礼な」


その頭を鷲掴みにして、地面に叩きつける。

「ぁがぁっ……!」

そのまま、それを引き起こして耳元で囁く。

「いいか?二度は言わねぇ、とっととあのひなびた部屋に戻って大人しくしてろ。じゃねえとその皮剥いで襟巻きにするぞ?こっちにゃ心の余裕も時間もねぇんだよ。手間かけさせてんじゃねぇよこのアホ狐」

「ぃひぃ!?」


俺は冷え切った目つきで狐を睨む。

血がポタポタと流れ出し、顔が涙と血液でぐちゃぐちゃだ。


「喧嘩の相手くらい選ぼうな?次なんかやったら、その尻尾、もぐから」

「や、やりぃ、やりましぇん……」

半泣きの狐に顎をしゃくって、それから狐がまろびながら走り去ろうとするのを見届けて、ちょっとひきつっている死神さんをチラッと見た。

「……死神さん。あの、今のはですね」

「お前切れると怖い奴か」

「……えーと……キレると脅しに入るんです。種馬が原因でこうなりました」

「お前のほとんどの負の側面あのアホっぽい男が関係してんのな」


アホっぽいじゃない。真性のアホだ。


「……まあ、後で謝罪はしますけど、今はとりあえず急ぎましょう」

「あ、ああ」

……今怒らせねぇようにしよう、って呟いただろ。お兄さん怒らないから、ちょっと本当のこと言ってみ?





「仁義あのハニトラ狐は!」

「問題ないですよ。少しプッツンして脅しただけですから」

「そっか。それなら問題ねぇな」

どうしてお前まで目をそらすんだよ。


「仁義くん、僕もぐゅっ」

車の窓を開けて叫んだ陸塞は、引き摺り込まれていった。

さっき倒れたばっかだろうが。ほぼ万全に近い奴らこそ使うべきだろ。


「おい、鬼畜野郎。お前なんか前より強くなってねぇか!」

「おやいたんですか。伊吹くん」

「いるわ!!」

「色々ありましてね。伊吹は下がっていたほうがいいかもしれません。少しばかり、荒れる戦いになります」


その顔で、はは、と笑う。

「言えよ、俺たちは足手まといなんだろ?」

「……いや」

「言え」

本当に、こいつは人がなんとかオブラートに包もうとしてんのに。


「ええ邪魔です足手まといです、だから少し細工に協力してくれるだけでいいです」

「よしきた!言え」

「どんとこい」「任せて」

双子の声に、俺は力強く頷いた。

「指定する場所に、陰陽師がいるはずです。その人たちに、これを」


伊吹は不思議そうに首をかしげる。

「こっちが、この地図、ここの人。方角は向こうです。それから、こっちは、あっちの方の人に。間違えたら、そうですね……あなたの学校の人に『伊吹はロリコン』という噂を」

「間違えねぇからな!?ぜってぇ!!」

「大丈夫、伊吹。ろりこんでも問題ない」

「ちょっとハニー!?」


「それじゃ、俺たちは行きます!」

「ああ!」

健闘を祈るだとか、そういう言葉は一切言わずに彼は指定した方角にしっかり進んでいく。あの分だと安心していいだろう。


さて、俺たちの目にも、ようやく見えてきた。


神気の渦。

暴れるようなその奔流は、水というより、蛇のようにうねり、くねくねと身をよじりながら、全てを破壊する生き物のようにうごめいている。

「まあ、例の作戦と合わせて、三割くらいの勝率ですかね」

「……ま、いいんじゃね?今回は俺もいることだし」

「はいはい!俺も仁義にお祝いしてもらってない!」

「……ここで『俺、帰ったら彼女の誕生日のお祝いするんだ』って、すごく間尺に合わない死亡フラグですよね」


全く、締まらない三人組だ。


「る〜!!」

「えぶっ」

死神さんの顔に奇襲を仕掛けてきたどるるが、どやっと胸(?)を張る。置いていくな、そう言われてしまえば連れて行かざるを得ないな。

今日もかわいいなあどるるは。


「そうですね、これで七割になったかも」

そのふかふかの毛を撫でて、俺たちは顔を見合わせた。

三人ともが、その渦の中に突っ込んでいく。

狐→悪いこと?一応言われたことはしてねーし。だいたいお願いだから言うこと聞くギリなんてねーし。みたいなスタンス。

仁義がちょっとプッツンしたり。


なめたらあかんで(真顔)

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