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死神は交渉に赴きますか?

懐かしき名前。


仰ぐじゃなく扇ぐでした。

すいませんでした。

『もしこれでダメなら、首から上をやりましょうか』

『つくづくお前ってえげつねぇな。でもまともに行きゃ無理だろ?』

『ええ。相手もそれはわかっているので、きっと守りは固くなるでしょうが……ここは高田に任せます。高田が結界を張って、首から上を覆ってください。結界の条件は……』


まさか、防御じゃなくて首から上そのものが凶器になるとは思わなかったが、まあ予想と同じ対処法で問題なさそうだ。先ほどの動きで、脚は機動力を失った。残るは、腕。

「杏葉、肩を折るか、外してください」

「肩を?」

「斧の逆側の方に神気を込めながら、力一杯関節部分に叩き込んでください」

「わかりましたけど……そんなのでよろしいんですね」


高田が結界を張るために必要な少しの時間。硬直時間が欲しい。

四本の腕が邪魔なら、元になっている肩を潰せば問題ない。


今、死神さんが剣を振り回す手の親指を斬り落とした。

剣がドンッ……と言いながら、二つ転がり落ちる。親指は剣を握る上での把持力の要だ。これでもう剣は使えない。

死神さんはそのままその体に斬りかかる。注意を引きつけ、そして幾度か顔を狙うそぶりを見せると、その口が大きく開き、空気が吸われた。


俺は地面を力強く蹴り、体に堅をかけると、そのまま隠を張り巡らせたまま縛で首を絞め上げる。

『ゔぉあああああ——くひっ』

堅が弾けたが、声のあらかたは無効化できた。縛がきりきりと巻きつき、その吠える声は途中で消える。


俺を殺そうと腕が上がろうとしたが、その瞬間上空から錐揉みをしながら杏葉が落ちて来て、けたたましい音を立てて骨がめしゃっと潰れる音がした。

『く、ぎぃいい……ぁ』

その目が、両面宿儺に触れて隠が解けかけた俺をじいっと見た。


『ぁ、あ、……』

もう片方の腕が上がって来そうになったのを斬りはらい、杏葉が石突きでその肩をゴスッと突いた。

「夜行引き倒せ!」

俺は首に巻きついた鎖を、思い切り引き始める。さっきと違うのは、声を出せないほど喉が締め上げられていること。


うめき声がこだまする中、俺はその体が土埃をあげながら倒れこむのを見届け、その場を去った。

高田が結界を張った翡翠色の光が漏れると、俺の縛が崩れたのがわかった。


結界の中の条件は、真空。


音も届かず、人なら十秒あたりで気を失うその空間。

果たして、上体だけがもがくように動いていたその体は、幾ばくもなく動きを止めた。


「死神さん、とどめお願いします。俺がやると、縛の調整が面倒なので」

「OK。卑怯っつか、本当にえげつねぇっつか」

「ニギー!」

高田が手を振っている頭の部分に俺がふわりと舞い降りると同時に、その異様な巨体が光を放ちながら消えていく。


「やったな!」

「そうですね」


さて、残るは北側の鞍馬の大天狗か。

「……茨木童子、少しいいですか?」

「俺を便利道具のように呼び出しやがって。両面宿儺相手にこんだけの時間で済んだのはすげぇけど、どうして俺を参戦させなかった?」

「あれ以上増えると、実際動く範囲が面倒だったんですよ」


例えば、俺の間合いは鎖鎌だからかなり遠くなるが、離れるほどにその力は弱くなる。だいたい五メートルが俺の有効範囲だと思われる。弱くていいなら十メートルは見積れる。

で、死神さんは三メートルがせいぜい。その代わり攻撃力が凄まじい。空中の移動もできるから、

杏葉が動けば、三、四メートルか。

高田はレンジが十数メートル以上と広いから、かなり問題はない。


「元々そう移動しまくるわけもないですし、予想していた範囲はおよそ十数メートル。で、相手の足を封じられたので、そこから動けずにいる相手に十ちょい……そう思うと一気に強大な力を制圧しようと余計に手を借りるより、部分的な破壊を繰り返して弱らせる方向性で行った方が消耗が少ないと思いまして。それに、そうしたほうが俺たちの誰かがやられた際、あなたが代打を務められますし」

「もういいわかったわかったお前って変だわ。間違いなく」


変……。


「き、気にするなよ。俺だって変だし!」

「高田ちゃんそれ慰めになってねぇよ?」

「いや、……大丈夫です。それより、次に向かう前に、少し話し合いをしておきましょう」

「話し合いぃ?」

茨木童子は顔を癒そうに歪めた。


「仮にだぞ?あの老害どものとこに行ったとしても、お前らと一体何を話すってんだよ……ありゃマジで堅物どころの話じゃねぇ」

「そうですか?それならそれなりに話しようはありますね」

「はい!?お前っ、俺の話っ、聞いてたか!?」

「聞いてますよ。頭が堅いなら、かち割ればいいでしょう。容赦のない現実を浴びせかければ、なんとかしようと動かざるを得ない。——あなたのように」


その言葉に、茨木童子はおし黙る。

「ただ、あちらの味方をした場合は、戦いになることを念頭に置いて、それからですね」

「最初っから戦うってのはなしか?」

茨木童子が死神さんと視線をチラッと合わせて俺に聞くが、戦わずして勝つ方がお互いにとっても身のためだと思う。

もし味方でないと言われたら、協力をうまく取り付けるか邪魔をしないだけでもいい。


「あんまり変なことばかり言ってると引きちぎりますよ?」

「お前も男だろ!?どうしてそんなことが言えるんだ!」

「え、個人的には耳とかのつもりだったんですけど……」

「何をちぎるかちゃんと言えよ!?紛らわしいなあもう!」

高田がちょっと赤くなって目をそらしていたので、見て見ぬ振りをした。





北側、鞍馬寺の方角。

カラスが黒く山のようになっているその場所に、一人の天狗が木の上に立っていた。

「……ッ、止まれ!」

その顔色は、どす黒く染まって誰かを睨みつけている。俺と高田がそうっとどくと、茨木童子も空気を読んでどく。

睨まれているのは死神さんだ。


「え?何?何これ」

「其の方、何をしに此処へ来た!?一族郎党滅ぼされようと、貴様には我ら一族の誇りは破れぬぞ!!」

何したんですか死神さん。


「え、あのー、えーと」

「問答無用!!」

「えー……」

耳ほじりながら相手するのだけはやめて差し上げて。本当に俺がやられたら心底傷つくと思うから。


薙刀をブンブンと振り回しながら、景気良く戦っているが……これは俺たち中に入っていいのか?

「オラ行くぞ」

「いいんですか?」

「何言ってんだよ。門番いねぇし今がチャンスだろ」

「……まあ、らちがあきそうにないですしね。行きましょうか」


俺たちがカラスの群れの中に突っ込んで行くと、その暗い通り道の中にいくつもの天狗の面が見える。

その中の一つに、俺の心臓がドクンと跳ねた。


近くでまじまじとそれを見る。他のとは違うし、何より俺がかつて感じたことのある神気が、そこから感じられる。

——アオギリ。


「その面の主にいかな用かな、お客人」

穏やかで静謐だが、頑なな声が聞こえて来て俺は振り返る。

一本歯の高下駄に、錫杖を持って、真っ白な髪がはらりと天狗の面の上に垂れる。

その姿は三メートルはあろうかという威容だが、年をとったゆえの脆さが同居している。

ふと気づけば、茨木童子も高田もいない。神気ははっきり感じるから、誘導されて分けられたか。


「その子に会いに来た死神……ほう、お客人がもしや、ニギという死神かな?」

「……ええ。はい、そうです」

「そうか……」

面をつけているがゆえに、全くその表情は窺い知れず、黙りこくったがゆえに何一つわからない。


「天狗という伝説は、日の本の各地にあろう?けれど、あれは全て我々の一族。我らの中には、まれに鞍馬の狭い世界では我慢できずに飛び出して行くものが生まれて、そして伝承の薄さゆえに人を喰う。ようやっとそうして伝承を増やして、生きながらえることができるのだよ」

「……それで」

「アオギリは、特に色々と思うところがあったようでね、外に強くなりに行くと言い残して、出奔した」


アオギリの飄々とした顔からはとても窺い知れなかったが、そうだったのか。

「我らのうちに止めるものもなかった。そして、あなたの話をごく最近聞いたのだよ……お客人」

「初っ端は本当に殺しにきてましたけどね」

「そう、アオギリはお客人を殺しに来た。しかし、それをうまくアレコレとかわされたと悔しがっていたのだよ」


まあ、幾度か襲われた後には、俺も登下校で注意しまくっていたから。


「そして、あなたがあの『黒の死神』と同じように、人の身で、死神となった。我々としては、アオギリの無事を願ったが……それは不可能だったようだね」

ぞわりと背筋に悪寒が走り、俺の脳内の危険信号が音を発する。思わず出し掛けた手の中の神気を押さえ込んで、無理やり言葉を絞り出す。


「俺がやったわけではないと、」

「知っている。けれど、我々は、アオギリを殺した陰陽師と親しい君が、許せない」

「……誰だって同族が一番でしょう」

「あなたは、どっちつかずでフラフラしている。妖を大切にするのか、それとも人を妖から守るのか」


無理に唇を吊り上げて、嗤う。

「見過ごせないことの何が悪いんです?」

「その場しのぎで何かをしたところで、何もかもから守ることはできまい。いっとき飢えた獣に餌をやり、飼えぬからと言ってそれを斬り殺すのと何が違う?」

「……あなた方はそれを目の敵にしているように言うけれど、あなた方は人の伝承から生まれた存在で、人の影を背負った表裏一体のものでしょう。どちらかを取るだけなんて、おかしいと言えませんか?」

面の奥の気配が、少しだけ話を聞く態勢に入った。

畳み掛けるならば、今。


「この世から妖が消えるかもしれない瀬戸際です。あなた方と無用な問答を繰り広げる時間はないのです。我々が望むことは、洛中の一切の妖が俺たちの邪魔をしないこと。無理なら最低限手出しだけはしないこと。あなた方の誰もかれもがいなくなる、そんな時に元凶を止められる俺たちの邪魔をするんですか?」

淡々と言うと、その面が少し俯いて、それから俺をじっと見た。


「……よろしい。我々は、ただ洛中に未だ潜む妖を止めておけば良いのだね」

「ええ。それで構いません」

「ならば、協力しよう。——そう言えば、外の黒の死神は、あれは……」

言い淀んだ顔に、俺は密かに妖と何があったのか聞こうと決心した。


あれでなかなか、人間の()がいなくなることを憂いているみたいだしな。


「死神さん、話つきましたよ!」

「えー!?もうかよ」

だから耳をほじりながら相手してやるなよ。いつも俺にああだこうだ言うが、お前の方が鬼畜だぞ。


「ぶはっ!!ゲホゲホッ……あ?お前!なんで俺たちを置いて先に行ってたんだよ!」

「はあ?」

口の中に入ったカラスの羽を出しているのか、しきりにペッペッと唾を吐く。

「汚いですよ」

「お前なあ!?」


高田もしばらくしてペッと黒い集団の中から吐き出される。こっちは人混みならぬカラス混みに目を回していたので、ちょっと扇いであげる。

「それじゃ、俺たちはそろそろ西と南の様子を見に行って来ます」

「そうか。それでは、私も洛中の騒ぎを沈めるとしようかね」


こうして、北の騒動は俺が多少殺気を受けたことはあったものの穏便のうちに終了した。

……穏便だよな?

問い

頭いいキャラなのにどうして作戦がお粗末なのか。

答え

小説の中に作者以上に賢いキャラはいない。


ずさんかつ下手でごめんなさい。


アオギリは、陸塞初出時にボコられた人です。

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