死神は決意しますか?
新しい死神や!
話の進みが遅くなるので、もう少し投稿速度上げてみようかなと思います。
ストックあると執筆の方がダレる子ですみません……。
街には風が吹いている。
「ああ……寂しい……誰か……誰かいないか……?」
傷だらけの、半死半生の死神が一人、この街を訪れていた。
強さはあった。死神の中でも、かなり高天原の近くにいたと自負できるほどには、彼は強かったはずだった。
しかし、互いに不可侵という協定を結んで、時には共闘して百年は経った戦友ともいうべき相手に裏切られた。それ自体はよくあることでさほどショックも受けなかったのだが、神気を巡らせてもそうそう治らないほどに痛めつけられ、なんとか逃げおおせたのだ。
そして、怪我とともに気力も弱くなる。仲間を失ったことが、とても心に痛い。
彼は、のろのろとあたりを見回した。
黒い牧師服に、腰まである白のところどころ混ざった髪。漆黒の瞳が血濡れた目蓋に彩られている。
「……人、か?誰か…誰か我をーー」
ふと通りがかったヒトと、目が合ったような気がした。
一人の少女に、なんの力も持たない筈だった少女に、彼は手を伸ばして気づかぬままに己が力を注ぎ込む。
少女がふと気がつけば、手には大剣、そして顔の横の毛束が腰付近まで伸びていて、その身には白いワンピースをまとっていた。
彼は意識を失いそうになり、慌てて地面へと手をつくが、あたりの様子が把握できずに困惑する。
目の前に、何かがある。神気の様子が把握はできるが、それが自分と全く同じ神気をしている。存在をはっきり感じられるような神気は感じ取れても、木石に含まれる微妙なものは全くわからない。いつも感覚で感じていたもののみが感じ取れるだけで、視界は消失している。
一体、何が起きたのか。
「あれ……え、人?」
目の前にいる地面に手をついた大きな体躯の真っ白な牧師に、彼女はそっと手を伸ばす。
「大丈夫?どうしたの?」
「我は……目、目が視えぬ……」
坂町みずなは気の強そうな顔立ちをゆがめてくしゃりと笑み、そしてその手を取った。
「大丈夫よ。なんとかしてあげる、私ができることなら」
「すまない……我は……我の名は……ヤツカという」
「そう、ヤツカね。私は坂町みずな。双子の妹はなずなっていうの。よろしくね!ところでさっきから聞きたかったんだけど……これって何なのかしら」
ーー1人の少女がまた深淵を覗いた。
「どるる?どうしたんです?」
「る。るーる、るるー」
「え、なんですって……?本当ですか?」
「るる、る!」
俺が愕然としていると、死神さんがそれを耳にしたらしく近寄ってくる。なんだか釈然としないといった表情だ。
「お前らその会話シリアス感薄れるからやめろよ。だいたい、どるるチャンが何言ってるかマジでわかってるのかよ」
「る!るー……る!」
「んあ?」
首を傾げられたので、俺が通訳を買って出る。
「どるるチャンとか言わないでください。この……変態!だそうです」
「待ってどるるチャンも仁義と同じ感じの子だったの!?」
「同じ感じの?……どるるはナチュラル毒舌で俺は外装毒舌ですよ?タイプが違います」
「そういう意味じゃねえ!?」
ひとしきりからかって、どるるの発言内容を伝える。
「西の方で、白い死神を目撃したそうです」
「……マジで?」
「る!」
これでいて、どるるは結構情報通なのだ。別に俺が行動を矯正したことはないのだが、勝手に調べては情報をくれる。本人曰く、「人の秘密は蜜の味」だそうだ。さっきにしても、可愛い見た目でえげつないことだ。
「それにしても、白……ねぇ?」
なんだか奥歯に物が挟まったような言い方だな。
「……何かあるんですか?」
やけに苦い表情が目について、俺がそのつぶやきに聞き返すと、説明が始まった。
「肉体を持たねえ死神が神気を失いすぎると、その体の色までが抜けるんだよ。そうすると、基本機能にまで支障が出る。喋れなくなるとか、すごく疲れるとか、目が見えなくなるとかな。お前は肉体があるからそんなことはねーけど、神気をそこまで失うほど殺りあうことはそうそうねーはずだ」
そこで一旦話を切り、焼きたてのふかふかなクリームチーズマフィンをもぐもぐと食べると、話は再度始まった。
「それでな、普段戦うとき、またはシンイを使ったとしても、そこまで神気を使い果たすことはない。神として残存していた伝承が消滅を防ぐからだ。要するに、セーフティが働くんだよ」
「ストップ。シンイ……ってなんです?」
俺が止めて質問すると、明らかに面倒そうな顔で後にしろと頬杖をついた。空中で。
それ意味あるのかよ。
「んあ?あー、お前がもうちょいマシに神気を操れるようになったら教えてやるから待ってろ」
「わかりました。死神の自己消滅を防ぐことで、安易に死なせないという罰の可能性も否めないですがね。それで?」
「問題は、もう一つの神気の消費の仕方。つまり、全く神気を持っていない人間を御使にする場合だ」
俺は凍りついて、動けなくなる。
「……神気を、持っていない」
「そうだ。前も言ったと思うが、神気を持たない人間を御使にするのは、その魂を歪める行為だ。ほのかに別の存在を感じているならともかく、そんなことを今まで全く思ったこともない者をこちら側に引きずり込んだってことになるんだよ」
今まで全く知らなかったことを、知る。それはなんとおぞましいことだろうか?
俺は子供の時から付き合い方を模索し、考え続けて来た。ずっと見えていたからだ。
しかし、それがある日突然見えるようになったとしたら。
「そんな、恐ろしいこと……」
「そうなれば、確実に死神の方は処分だ」
「え?」
処分?
「そうだ。死神とつながりを持っていれば、その魂の歪みは進行し続けるが、死神を殺せば、半年か一年も経てば能力はなくなる。だから殺さなきゃいけないんだよ。そしてその役は、お前がやるんだ、仁義」
「俺が……」
「そうだ。お前がやれ」
その言葉に愕然として、顔を弾かれたように上げる。ふざけてなんていない真顔で、一瞬「嘘だよ」なんて言うことを期待しかけた俺を打ちのめす。
「っ、なんでっ、」
「なんで……か。お前はその歪みを与えたやつを許せるのか?お前自身がその恐怖を最もわかるはずだ。違うか?」
言い返すことができない。ひりつくような喉の痛み。開いて閉じてを繰り返す拳。
確かに俺は、それを許せないと思っている。
けれど、逆側からも力がかかって、心が決まらない。
何かの存在を消す。
それはとても恐ろしくて、俺には重すぎる。
「殺す……って、こと、ですよね」
「そうだ。できないなら、俺がやる」
「……少しだけ。少し……考えさせてください」
怯えに、常識が通用しない恐ろしさに、腰が引けて声が震える。それがわかったからか、死神さんは頷いた。
「わかった、一日やる。ただしこれだけは覚えておけよ、仁義。お前が例え躊躇したとしても、その間を馬鹿正直に待ってくれるやつなんざいねえことを」
「はい、わかってます。大丈夫、です」
殺す。その言葉の重みをわかっているから、余計に俺はためらってしまうのだとそう思う。
人一人には、誰かの「死」は、あまりにも重く、のしかかってくる。
いくら惨めでも、あがいても、みっともなくても、生きていたらあんたは私の誇りだ。
そう言って、頰を撫でて闇に引きずり込まれた母の顔は、今でもたまに夢に出てくる。
これは母に誇れることなんだろうか。
正義とはなんだ?
価値基準を世間一般から無理やり引き剥がして考えて考えて、一晩中頭を悩ませた挙句、朝になっているのに気づく。疲れているけれど、やけに澄み切った頭で、ようやく俺としての答えを出した。
「一般的な答えはないけれど、俺の結論は出ましたね」
理想と現実が乖離しているなんて、よくあることだから。
俺は、白い死神を、斬る。
「……覚悟、決めたか?」
「覚悟なんてはっきりしたものではないですけどね。直前で日和るかもしれないので、その時はよろしくお願いします」
「ああわかってるよ。てめーはなんだかんだ言って、甘いし優しいからな」
よくわかっていらっしゃる。
「それじゃあ、行きましょうか。場所はどこです?」
「あー……それなんだけどさ。俺ってわりかし探査とか苦手でさー……」
「え?」
まさかとは思うが。
「……えーとね。なんか、どるるチャンの案内で行ってみたけど、行ってー、帰ってーのそのわずかな間に移動してたっぽいんだよねー」
「それで……もしかして」
「うん。見失っちゃったっぽいわー」
「……そ、そうですか……」
俺はがっくりうなだれる。
まあいいんだけど、いいんだけど。
釈然としない。
一日待ってやるとかカッコよく言われたから、結論を徹夜で考えたのに。
「お前が遠足行って帰ってくるまでにはなんとか……したい!」
「つまり、希望的観測だと思っておけと。そういうことですか?」
「そうだな。俺探査とか超☆絶苦手だしぃ?」
ドヤ顔で頷いてんじゃねーよ。あといい加減そのそこはかとなくムカつく言い方やめろ。
「あー……まあそういうことです。なので、しばらく無理かな」
「わかりました」
俺は頷いて、明日に迫った遠足の準備をする。
遠足だから、炊き込みご飯を用意して、メニューは何がいいだろうか。
厚揚げと蕪の煮物、それに唐揚げ……はやめよう。ミートソース作って、前に買ってあったラザニアと使ってアルミカップに詰めて焼いたのにして、それから小松菜をくるみと味噌とみりんを合わせたタレを絡めて……。
つらつらと考えていたら、お腹がすいてきた。とりあえず、飯にしようと俺は立ち上がった。
日本神話って結構面白いんだぜ……。
みんな北欧神話とかギリシャ神話だけじゃなくて……日本神話題材にしようぜ……七つの大罪とかお腹いっぱいなんだぜ……。
もっと ふえろ 日本神話題材作品。