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死神と合流しますか?

妖怪なのか神様なのか……ギリギリ本作では妖怪としております。

フィクションなので。

********

俺たちがあくびを噛み殺していると、陸塞たちの乗ったバスが県境を通り過ぎた。そのバスの中に入ると、朱雀院側の人たちだろうか、彼らが「おぉ」と声を上げた。


「陸塞は寝てるんですか」

「ええ。昨日寝たはずなのに……全く、寝過ぎも良くないのだけど」

「寝たはず?」

「ああ、一緒に寝たもの」


高田が眉間をつっと抑えてはー……と溜息を吐いた。

「……いやダメでしょそれは」

俺も眉間に寄ったシワをもみほぐすと、陸塞に哀れげな視線を向ける。

「寝かせて上げてください。この様子じゃ据え膳の箸すら持てなかったみたいですしね……」


ちょっとゴネたが、みずなは渋々引いてくれた。

もしかしなくとも寝不足だし、京都の中心に近くなるまでたっぷり時間はあるから、寝かせてあげるのが吉だろう。


「お兄様」

「杏葉、それに伊吹……無事でしたか?」

「ええ、雑魚が多かったので。そちらは?」

「こちらも全員無事です。そう強い者もいなかったので」

みずなが陸塞のスマホが震えていたのを見て、手に取って話し始める。

「ええ、こちらは全員来てます。ええ、ええ……中心近くまで、あと数十分ですか?わかりました」


それを陸塞のポケットに戻すと、俺たちを見て「数十分ですって」と言った。


数十分。

それすら今は、飛び越えてねじ伏せたい距離だ。


それでは勝率は低いとわかっている。

車で数十分離れたところでもわかる、死神さんのような凄まじい神気。

そして、それがじわじわと近づくほどにきつくなっていく。


「……今から気を張ってっと、もたねぇぞ」

「ええ。でも、ちょっと緊張してしまって」

「ガラでもねぇな」

死神さんの言葉に、両手が震える。

「わからないんです。……素盞嗚尊……オロチが何を考えて、何を知って、態度を急変させたのか」

「——ニギ」


死神さんの光のない目が俺を射抜いた。

「お前は一切、向こうとのしがらみはないだろ」

「ええ」

「なんもかんも背負い込むのは、やめとけ。そのうちしっぺ返し食うぞ」

「……ええ」

そんなことまで気にしていては、いけない。そう思っても、何かがあると思えてしまったその瞬間から、俺は見なかったふりをすることができなくなっていく。


「……はー……だいたいな、お前の考えてどうにかなる問題なら、俺は話してるっつの」

「は?死神さんなんでか知ってるんですか?」

きまりが悪そうにその頭をぽりぽりとかいてから、俺を横目でちろりと見た。

「……お前らが京都のお掃除したことあったろ?そん時、ヨリに閉じ込められてオロチと戦ってたんだよ。その時に聞いた」


「……俺の悩みを返せ」

コートの立てた襟を鷲掴みにすると、半分叫ぶように言葉が帰ってくる。

「だって!お前が聞いてもどうにもならんし、聞いたら絶対気に病むじゃーん!」

相変わらず痛いところを突くよなこいつは。


「まあ、そうですけど……やっぱり、どうしてそうなったかは、知っておきたくて」

「話してもいいとは思うがな」


そうしぶりながらも、一応話をしてくれた。


「オロチの娘に須勢理毘売(スセリビメ)っているんだけどさ。それがどうも、神堕ちして中つ国に落とされるって知らされたらしいんだよ。そいで、須勢理毘売、セリちゃんの罪を帳消しにする代わりにヨリのお手伝い、それから神に戻ってしっかり働くこと。ただし、そのために自力でなんとか戻って来いってね。期限は一月後まで、それ以上になったらセリちゃん堕とすって言われたようで」


俺は若干おかしいと感じる。

「スセリビメは何を?」

「他の神への嫌がらせ。嫉妬に狂って側室を追い出し側室の子を殺そうとしたらしい」

俺は眉を寄せて、それから押し黙った。


追い出したとはいえ、それは八上比売(ヤガミヒメ)の時もしていることで、非常に悋気のある神だ。もとより罪になるようなものじゃない。

子供は未遂だ。日本の法律上許されないが、死んでいないのでギリギリセーフとは言えるだろう。

スセリビメのことにかこつけて、何を目論んでいるのか。


「……死神さん。神に戻る死神は、どうやって……」

「基本的に、高天原と死神との意思が一致していることで帰れる。つまり、『帰って来て』という意思と『戻りたい』という意思。今、多分あいつは、高天原側から拒絶されている」

「……ねぇそれっておかしくない?なんでじゃあそんな条件つけたのよ」


最もな質問を、みずながぶつける。

「……それは、多分……俺たちが狙いだ」

全員が重苦しい雰囲気に包まれる。

「だから、言ったんだよ。聞いてもどうにもならねぇし、多分あいつが高天原に帰るのも不可能だ。残り期日はあと十日、こないだのカミサマのような神気の量に達するには三分の一ほど足りねぇ」

妖も、いなくなる。


「でも、高天原を引きずり堕とすには、そう遠くない」

「……けどな」

「死神さん、神ってどうして俺たちを引き入れようとするんです?」

「それはな……わからん!」

自信満々に言いきる。なぜそんなに自信満々に言い切れる。


「さっきの三分の一って、俺と、高田と、死神さんの誰かを斬れば、事足りますよね」

「あん?ああそうだけど?だから、迂闊に斬られねぇようにするしかねぇだろ?」

「いえ、そうではなくて。死神さんの神気って、中心がわかりませんよね?」

「ん?あ、ああ。そうだけど」

「そうですか……」


俺がニヤリと笑うと、死神さんの肩がビクッとした。

「な、なに、何企んでんの!?」

「いやいや、少々策を練っているだけですよ」

「明らかに悪巧み系の笑顔じゃねえか今の?」

「失礼な。知は力なり、ですよ。結局勝負なんて、いかに相手に嫌がらせをし尽くして勝利をもぎ取るかが問題じゃないですか」

「お前試合に勝って勝負に負けるって言葉知ってるか?」

「ああよく言いますよね。でも勝ちは勝ちです」


だめだこいつと言いつつ死神さんは頭を抱えた。

「ニギよう、俺お前のこと心配になって来たよ……」

「死神さんに心配されるなんて俺も焼きが回りましたね」

「さらっと喧嘩売るのやめような弟子一号?」

「邪推ですよ。俺が心から死神さんを尊敬しているかもしれないという予想を知らないんですか?」

「間に色々挟まってじわっと本音が透けて見えるんだけど!?」


互いに若干エンジンがかかった状態になったようだ。息をふう、と吐くと、死神さんがニヤッと笑った。

「毎度毎度、ほんとよく軽口がペラペラ出てくるもんだな」

「一日のうち数時間はそれを考えることに費やしてますから」

「実はお前アホだろ」

「死神さんだけには言われたくないですね」


死神さんのぎゅっと握り締められた片手が、半開きになった。俺も、さっきまで持っていた色々なモヤモヤが吹き飛んで、今は戦いに集中できる。


「見えて来たぜ、京都」

「あ!?ちょっと高田ちゃん寝てるじゃないの!陸塞、もう着くわよ!」

本当に緊張感がないというか、図太い二人組である。


「それじゃ、行きましょう高田」

「おう。みんなも気をつけろよー!」

「四匹とも倒せたら、頂法寺で会いましょう」

「戦線離脱は連絡するよ。無事を祈ってるよ」


俺たちと杏葉は共に東へと向かった。四神で言うと青龍の方向。いるのは、両面宿儺(リョウメンスクナ)

ちなみに伊吹達は、朱雀院達の保険と、ミズハの力をもってするべきことがあるのでそちらに行ってもらっている。

カラスが俺たちの横をかすめるように飛び去って、北側の黒い集団の中へと突っ込んで行く。

「東と北が、俺たちの担当ですね」

「まあ、順当じゃねぇの?実際九尾は日本にいたし、陰陽師も狐系統の怪異には割合に強いからな」


鞍馬天狗は、信仰の対象にもなるほどの大妖怪。そして義経に戦い方を教えた張本人……そうだとするならば、話し合いが通じる相手だと思った方がいい。強い弱いは別にしても、話し合いができそうな相手ではある。

両面宿儺は日本書紀に記述のあった元々は異民族だと思われるものが、最近オカルト系の掲示板に書き込まれたことが話題になって、変質したのかもしれない。


禍をもたらす異形のミイラとして。


「……瘴気がすごいですね……本当に、私たちでも支援できますか?」

「ええ、やりようによっては」


ニ階建ての家屋の奥の方から、ゆらりと何かが立ち上がった。剣を地面に日本の腕で叩きつけると、杖のようにして体を起こす。

『ぁあああああああああ……』

深く息を吐き出しながら、うめき声が漏れる。俺たちはそっと隠れ、その姿を確認する。


サイズはかなり大きい。四回建物くらいは余裕でありそうだ。

だとするなら、脚の方は杏葉達に任せるか。


「杏葉。脚の部分、アキレス腱と、できれば膝の裏。それから足の裏を深めに切ってください」

「それは……?」

「足の裏はここから出た後一番に首に鎖を引っ掛けて引きずり倒します。その時に腱を切ってもらえると、踏ん張りがきかなくなるので」

人体の構造と同じなら、足の指につながる腱を斬れば、踏ん張りがきかなくなる。

アキレス腱ももちろんのこと。

膝の裏は、保険なのでできなくてもいいと伝えておくと、指で示しながら再確認する。


「覚えました。問題ないですよ」

「そうですか?では、俺がまず最初に飛び出して、あとは手筈通りに」

俺はその場から飛び出すと、両面宿儺の首に鎖を巻きつけ、勢いよくすこしだけ飛んだ後は、その両端の鎌を街路に叩きつけて、ピンと鎖を張る。

『ゔぉあ……?ぁ、あわおっ』

力一杯斜め下に引いた後、一気にその体がかしいだ。


『あっ、ああっ……』

杏葉がその場を動くと、足の裏を杏葉の姿がかすめていく。

すかさず、俺は立ち上がろうとした手のヒラを切りつける。


とにかく、今は立てないように。

そのあぎとが、ガバリと開かれる。


『ゔ……ゔうう……っ、ゔぁあああああああ!!』

ハウリングしたような叫び声に、俺と杏葉はもろにそれを浴びて、うずくまる。

視界が若干ぐらつくほどに凄まじい。


ふと何かを感じて杏葉を引っ掴んでその場を飛ぶと、今までいた場所に一本の剣が振り下ろされていた。杏葉のいた場所には、しっかりと死神さんが飛んで行って対処をしてあった。

わざわざ抱えて飛ぶまでもなかったか。


「ぞっとしない……」

「まずいでしょう?早く対処しなくては……」

死神さんの方を見上げると、一度落ち着きを取り戻すために息をゆっくりとする。


「……フゥ……よし。作戦は別のものに変更しましょう」

俺は死神さんに、一つの手旗信号を出す。


『予備の作戦へ』


それくらいは、常識であろう。

まあ、策を用意してないわけがない。

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