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死神は迂闊でしたか?

うっかりさん。

線路を辿って飛び、鎌倉に到着するやいなや、俺と死神さんはすぐにその場で鬼の大群と切り結び始める。

地面を歩いている敵なのだから空を飛べばいいのだが、これだけ大量発生しているとなると、これだけの数が短期間で生まれた計算になる。

どれだけの時間で相手の手勢が回復するかを計った方がいいと考えてのことだったのだが、結構面倒だった。


「一匹一匹は雑魚ですが、面倒ですね、これはっ!!」

ほぼ飛ぶスピードのままに斬り裂いていく。

「とりあえず、あの真ん中に行って、様子見すっか!」

「そうです、ねっ!ああもうほんときりがない」

夜行の結界の近くは鬼がいるものの、そこだけ掃除すれば大丈夫そうだ。


「神気の限界量は減らせねぇから、迂闊に神威も使えねぇ。くっそ、面倒な……」

背後から来た鬼は、無数に生えでた背中の刃で腹を突き破る。

「うわ、まともに血ィかぶっちゃいました……」

「何がアレってお前その鎌が生えるやつ見ててドキドキするんだけど。刺さってるようにしか見えないし」

「死神さんもやってみます?新規のコントロール完璧なら案外いけますよこれは」

「ちょっとこのお酒飲んでみます?的なノリで言わないでくれる!?お前ほんとちゃんと教わりゃなんでもこなすな!」


俺の目は今側から見たらキランと光ったように見えただろう。

「今暗に自分がちゃんと教えられなかったって認めましたよね?」

「いや?そんなことはないだろ。あれはお前の理解力が悪いんじゃね?」


キョトンとした顔でそうあっさり言われる。俺は眉根を寄せたのをぐにぐにと揉み解しながら、はあ……と力の限りため息を吐いた。

「そこまで断言されるとは思いませんでした。酔っ払いが酔っていないというように、自覚のない悪癖とはこれほどまでにひどいんですね……」

「んだとコラァ!?」


逆ギレをされたので、そそくさと鬼を潰す作業に戻る。

突っ切りながら、通り道の先を掃除し終えると、門の前に一人、いや、一匹の妖が立っていた。


鈍色の髪に、浅縹の瞳。その顔は整っているが、その体には鱗が所々生えている。

ただ……陸に上がった魚のようにプルプル、いやピチピチ震えている。

『なっ……』

他の人たちは俺がいるのに気づかずに、バタバタと「急に鬼が消えたぞ!」「どうなっているんだ!?」と慌てふためいている。

ただ、その妖からはあの爺さんの神気の気配がする。爺さんの使役している妖と見て間違いないだろう。

……ただ一つ、彼が抜刀して俺たちをにらんでいることが気になるんだが。


「……ねえ死神さんなんか俺たち歓迎されてない雰囲気じゃないですか?」

「お前の神気がデケェせいだろうが!」

「いや死神さん、俺は今、縛で縛ってありますからね?怯えるとしたら死神さんにでしょう」

『しっ……死神』

その言葉に、俺はジロリと死神さんをにらんだ。鬼の首を取ったように言い募る。


「ほらやっぱり死神さんのせいですよこれは」

90%くらいは。

「いやお前も死神だろ!?つかなんでひたすら俺のせいにすんだよ。お前——」

隙だらけに見える死神さんを殺そうとした鬼が襲いかかってくるが、どうして飛べないのに空中に跳び上がってから襲いかかるんだ。

アホか。

無論、一瞬で始末される。


「——俺のこと嫌いなわけ?」

「被害妄想じゃないですか?自意識過剰すぎますよ?やっぱり精神科紹介しましょうか?」

「お前まだ初回登場時のネタ引きずってんじゃねーよ!もう、とりあえず中に入らしてもらおうぜ」


『な、中には入れぬ……!』

両手を広げた妖の『中に入れない対象』に俺も入っている気がするが、あえてここは無視していこう。

認めん。

拒否られていることなど認めんぞ。

「だ、そうです。じゃ、俺は元に戻って中に入るので、死神さんは外で鬼と血の饗宴開いてもてなされてくださいね」

「俺をこき使う気満々じゃねーか!?」

そう言って、転身を解く。その瞬間、目に見えて妖はギョッとした。


「何もないところから現れよった……」

「何やあれ……?」

背後の人々がなぜか俺の出現に動揺しまくっている気もする。何かおかしい。

陸塞に言うなとは言ったが、夜行の内通者はすでに始末したと聞いたよ、と陸塞から連絡があったから、その時に混乱を避けるために話すように言ったつもりだったんだが。

あれ。

もしかして、勘違い……?


「あれ。聞いてませんでしたか?俺が来るってこと……」

『な、な、な……何者だ!?お前、』

「ひ、仁義!?ほんまに来よったんか!?」

爺さんが俺を見て、目を皿のように丸くすると、妖はギョッとして俺と爺さんを交互に見て、それから刀を下ろしてから一歩下がった。


「あれ?言いましたよね。こっち片付いたので、行きますって」

「言っとったんは聞いた。せやけどほんまに来はると思う訳ないやろ……」

「まあ、とりあえず中に入れてください。そこのお祭り状態のアホも」

死神さんを親指でクイっと示すと、キョトンとした顔をされた。

……これはもうもしかしなくとも俺のせいか。

頼んだつもりで実は忘れてたとかアホかよ。


「誰がお祭りだよ!?頭の中身か!?」

「振ったらいい音しそうですよね」

さらりとディスるのはお約束のようなものだが、今はちょっと自分の迂闊さにがっくり来ている。

「誰が脳みそ豆粒大だよ!!」


『主人殿、この者らが先ほど鬼を切り進んで来たもののようです』

「者ら?ここには仁義しか……待て。死神か!」

爺さんがそう得心がいったように手を叩いて、妖が頷いたのを聞いていると、じゃあどうして死神のことで驚いたんだ?と疑問が湧いてくる。

末端まで情報が行き届いてなかっただけか?

「あの、そろそろ中に入りましょうよ。外は危ないですよ?」

「せ、せやな。二人とも、入り」

そう促して、俺たちはようやく結界の内側に入ることができた。


「……というわけなのですけど」

「あかん……頭がついてかれへん。人が、死神になれるもんなんか……?」

「ついてけねーのは頭じゃなくて生え際なんじゃないか?」

「死神さんは余計なこと言わないでくださいよ。ほら、狭霧さんに睨まれてるじゃないですか。死神さんのせいですよ、やめてください」

「ふふん。だが断る」


死神のことに関しては、狭霧というこの魚っぽい妖から聞いたらしい。

陸塞はそこのところの細かい説明はうっちゃって、『強い妖』とだけ言っていたようだ。

そこまでは俺が伝えておいた通りだったんだが、俺の伝え忘れで混乱が起きたらしい。

「俺のせいで、混乱を招いてしまって」

「いや、わしらの方でもきっちり聞かずに来たんや。きつきつ言うこともせえへんよ」


鷹揚に手を振って、俺をすまなそうに見ると、話は続いた。


「鎌倉におんのは、茨木童子や」

「茨木童子……酒呑童子の部下でしたよね」

伝承の一つでは、捨て子だった茨木童子を床屋が広い、髪の整え方を教えたが、ある日客の顔がカミソリで傷つき、その血を舐めたところ病みつきで、やめられない止まらない状態に。

客の頭をわざと傷つけるようになったため、床屋が叱責して家から逃げ出した茨木童子が川に映った己の姿を見ると、鬼の姿をしていた。

こうして、茨木童子は人の元を去った後に酒呑童子の部下として付き従っていたが、渡辺綱という武将によって酒呑童子が退治されるのを見て、退いたらしい。

一条戻橋で美女に化けると渡辺綱を陥れようとして、あえなく失敗、腕を失ってしまう。

最後には渡辺綱の叔母に化けて腕を取り返すと言う筋書きで、他にもいくつかのパターンはあるものの、実際この鬼が退治されたという話だけはない。


「だから、鬼ばかりがあちこちで増えていたんですね」

「そう、そうなんや。ただ、化けるのも上手い、そこそこの力もあるとなると、どれが本物やらさっぱりや」


木の葉を隠すなら森の中に、という有名な言葉を実践しているようだ。

八岐大蛇(ヤマタノオロチ)みたいに酒で酔わせるのもうまくはいかなさそうですね。酒は酒呑童子の滅亡の原因ですし」

「じゃ、一匹ずつ始末するのか?」


その提案に、俺は首を横に振る。

「いえ、それだとほとんど生み出すスピードとこっちが同じになってしまいますよ。現に外の鬼は、もう新しく生まれているはずです」

俺の斬った鬼の数は、86匹。死神さんもおおよそ同数と考えれば、一分に5匹程度生まれている計算になる。

ただ生物の成長曲線のS字カーブから考えれば上げ止まりになりそうだから、これ以上に数が増えるのは心配しなくてもいいだろう。

リソースもそう多いわけじゃないだろうし。


「あ、ほんとだ。じゃあ、おびき出すのか?」

「それが一番効率的ですね。おびき出す材料って何かありますか?」


爺さんの方を振り返ってみれば、若干変な顔ながらも、一本の刀をおもむろに桐の箱から出して、見せてくれた。

「髭切や」

「え……?なんでこれこんなとこにあるんですか!?国宝ですよね!?北野天満宮に収めてあるはずの!!」

「ああ、それはなぁ……」


もともと、北野天満宮に収めてある方ではなく、こちらの方が鬼を斬った『ホンモノ』らしい。

「だって、鬼の血ィ吸った霊刀なんぞ、素人の手に渡したらあかんやないの」

「……なんという歴史の真実……」

「あ、言うても来歴はあっちの方が正しいで?天満宮にあるんは、源氏の宝、国宝や。なぁも問題はあらへんよ」

さっぱりと言い切られて、俺はどっしりと背中に何かがのしかかったような気分になる。

そんな機密は聞きたくなかった。


「これで、餌の方は都合ついたな。じゃ、どうする?」

「神気あるんですから、刀持って空飛べばいいじゃないですか。鬼は空飛べませんし」

「お前ってなかなか考えることがえぐいっつーか、なんつーか……」

「もうめんどくさいんですよ、あんないっぱいの大群を相手取るのは。あの何時ぞやの虫の始末を思い出して、げんなりします」

顔をしかめて言えば、死神さんも渋い顔をしていた。


「これは、結界から持ち出せば相手が反応するんですよね」

「そうや」

「そうですか……」

俺は死神さんの方を向いて、一つ質問をする。


「相手は化けます。ここで合言葉くらい決めておいた方がいいでしょう」

「あ?そうだな。山、川みてーな?」

「いえ、俺が『このロリコンどもめが』と言ったら『我々の業界ではご褒美です』と」

「言えるかぁああ!!なげーし言葉のチョイスがおかしいだろ!?俺が変態みたいじゃねーか!!」

「違うんですか?」

「ちげーよ!!」

壮絶な拒否が入ったので、俺は代案を出す。


「じゃ、死神さんの本名と、俺が最初に勧めた精神科の名前で」

「そんな細かいこと覚えてねぇよ!?」

「まさかすでに偽物……?」

「フザケンナ。神気だけで問題ねーだろ」

「じゃあ、どるるの卵焼きの好みでいきましょう」

「異議なし」


どるるはちなみに高田と一緒に東京で残りの騒ぎの鎮圧に行っているから、これが解決したらみんなで滋賀に行くことになる。

「……じゃあ、髭切、お借りします」

場が一斉にどよめいた。俺が転身と同時に消えたのが、よほど不思議だったようだ。

装身具や服がいつも消えるのと同様に、髭切も消えたようだ。


だが、死神となった俺の手には握られている。


「今日は、鎌が使えないと思った方がいいですよねこれ」

「ああ、でもお前体から生やせるしいいんじゃね?」

「また適当な……」

「じゃ、行くか」

死神さんは、ニヒッと笑みを浮かべてふわっと浮かび、そのまま上昇して行く。

俺たちは、そのまま天井を抜けて、上空へと飛び出した。


「茨木童子は来ますかね」

「飛べるかどうかが問題だが……避けろ仁義!」

「わかってます!」


俺たちのいた場所を、引き裂くように剣尖が伸びてくる。

「さすがに神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)は持ってねぇよな。今回の陰陽師はよぉ……」

ぬらりとその刀が、濡れたような輝きを見せる。

「兄貴を殺したその刀……今回こそは壊させてもらうぜ?」

男とも女ともつかぬ美貌の鬼が、真っ赤な角を額から二本生やして宙に浮いていた。

補足 : 神便鬼毒酒とは、鬼から飛ぶ力を奪い、人が飲むと元気百倍になるお酒のこと。

酒呑童子はこれを飲んだために弱体化して退治されました。


戦闘終わったら、内通者のことを話させるようにしたんですが、色々と前後してますね。

構成下手くそですいません。

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