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死神は鎌倉に向かいますか?

宗徳さんたち。


「だぁあああらっしゃああ!!」

「最低です。死神さんと一緒に居られると思ったのに……」

巨大な斧を振りかざして、襲いかかってくる妖を両断する杏葉。


その横では、ちびっこ二人と赤い髪を逆立てた少年が、白黒の新撰組のような格好で特攻している。

「こらそこ!!むやみやたらと突っ込まないでください!」

「んだようるせぇな。じゃあどうするんだよ、ああ!?」

吠えるように叫んだ伊吹に、杏葉が大斧を振って斬り飛ばした後に答える。


「まず、役割を決めましょう。私とミズハさんが大方を薙ぎ払って、それから漏れた敵をハニーさんが足止め、ユウマさんがとどめをやって下さい」

「入れ食いだね」

「だねっ」

双子がそれぞれでばちんとウインクを決めると、その瞬間ミズハと杏葉の姿がぶれるようにして動いた。


ぶお、という風を切る音が響くと、次々血しぶきが舞い散る。水が広がってその妖の喉を切り裂いていく。

そこへミズハが鎌を地面に振り下ろすと、土がボコボコと蠢きながら残った妖の足元にまとわりつき、動きを封じる。


「オラァアア!!」

そこへすかさず拳を叩き込む伊吹。周囲の妖は、あらかたカタがついたようで、杏葉は斧を背中へと戻した。

「……お兄様に連絡を取って、ここからどう行動するか聞きましょうか」

「お前の兄貴って、すごくね?そんだけの人間の行動把握してよく動かせるよな」


杏葉は少し困ったような表情をして、転身を解く。

「……お兄様は、あれでいて結構アホなこと、最近になって私はようやく知ったんです」

「アホ?」

「ええ。なんといいますか、その……他人の手を煩わせることはありますが、その他人に生命の危機が及んだ場合、十中八九自分の身を挺するほど、おかしいのです」


夜行 仁義の性質は、いびつでありながら、それでいて純粋無垢で、どこまでも正しい。

ゆえに誰もかれもがその正しさを否定できず、その正しさにかれが自分の身を晒すことを止められずにいる。


「けれど、お兄様は運命的にあの高田さんと出会って、変わりはしないけれど、強烈なブレーキがかかるようになりました。……人になったのですよ」

「……人に」

「あの方がいなければ、おそらく兄はすでに神になって、この世から消えていたでしょうね」


タイミングよく、杏葉のスマホからマヨネーズで有名な人形のテーマソングが流れる。

「なんでたらこじゃねぇんだよ」

「三分クッキングだっていいでしょう」


杏葉が出ると、電話の奥から声が流れ出す。

『もしもし、仁義の妹さんやんなぁ?』

「はい、そうです。どうしたんですか?」

『ちいと東の方がマズっとってなぁ、一週間くらいかかりそうやってん、自分の兄さんに言っとってくらはる?』

「ええ、わかりました。そちらは今確か鎌倉にいらっしゃったんですよね」

『せやけど』

「でしたら、兄に人数の調整を頼んで、加勢できるか訊いてみます。もし可能でしたら、兄の方から連絡を入れてもらいますので」

『おおきになぁ』


電話を切ると、杏葉はそのままスマホを持って、仁義へと通話を始めた。

「もしもしお兄様ですか?そちらの塩梅はいかがです?……実は少々厄介なことになっているみたいで……」


一方その頃、鎌倉まで出ていた夜行家は、窮地に陥っていた。


「お義父様。そろそろあきまへん……!」

「松は休んどき。わしがそこも受け持つさかい」

「はい。……よろしゅう頼んます」

その場から松乃が退くと、バタっという音が響く。


「えらい奴がおんねやったら、今のうちに寝とき!こっからが長丁場になるんや」

お師匠さん(おっしょはん)が休まな他も休まれまへん。食事だけでも取らはってください」

「せやかてなぁ……」

お弟子さん(おでっさん)の言う通りです。大旦那さまも少しは休んでください、上の方が休まねば末端も休めないのです」

ぴしゃりとそう言って、狐の面の奥の瞳がきらめく。夜行 瑠璃(るり)という可愛い孫には、宗徳もそうそう言い返すことができない。


「わかったわかった。(あこう)

その場に一匹の式が出現し、妖がわらわらと蠢く結界の礎に手を置いた。

「ほなら、ちいと連絡取ろか」


古都鎌倉では、あちこちに鬼の大群が出現していた。京都では一角を占めるくらいではあった鬼の一人、茨木童子がその場に来たがゆえに、今までそう強い妖がいなかった鎌倉に来て、一強へと成り上がった。

それゆえ、鎌倉には鬼が増えて、急速に勢力を拡大していた。


茨木童子は、渡辺綱に殺されたかの有名な酒呑童子の一番の部下であり、一条戻橋で渡辺綱と戦った際に失った腕を渡辺綱の叔母に化けることで情に訴え屋敷に侵入し、それを取り戻したほどの策謀家でもある。

決して一筋縄ではいかないだろう。


何人か犠牲者も出ており、野犬か、という記事も地元では出ているが、間違いなくそのせいだろう、と全員の間で結論が出ている。

いずれにせよ、少しどころではなく時間がかかることは間違いない。


宗徳は、今さっきかけた電話を見て、一つだけため息を吐いた。

トゥルルルル、とその手の中のスマートフォンが震える。

「もしもし?わしや」

『もしもし。今、そちらに向かいますので、あと少し待っててください』

「東京は?朱雀院はどないしとるん?」

びっくりして訊ねると、『予想外にあっけなくすみましたので』とあっけからんと返されて、宗徳は絶句した。


「……来るて簡単には言うけどな……」

一般人の孫が来て、どうこうできる問題なのか?それに、仁義は神気がない。

朱雀院の者しか見えない妖が見えるわけがない。妖の騒ぎをどうこうと言っていたのは朱雀院のはず。

なぜ仁義から連絡が入る?


「……どういうことや。どうなっとる……!」

瑠璃から宗徳が訊いた話では、彼は自分の体をどうこうできるという話だったが、それでもこの鬼の大群と相対してどうなるわけもない。

「あのヘラヘラボンヤリした朱雀院の当主は、やっぱり見かけ通りか……」

「大旦那様!鎌倉の、端の方の勢力が急に弱く……」

「なんやと!?何があった!?」

「わかりませ……」

「ええい邪魔臭い。どいとれ!!」

榕のところに戻り、結界の礎に手をひたりと付ける。確かにその部分の鬼の数が、減っている。


「何がおるんや」

「反応はないです。何が何やら、さっぱりで……」

「新しい敵さんが来はった考えなあかん」

「そちらに何人か差し向けますか?」

そうたずねた部下に、宗徳は首を左右に振った。

「いや、ええ。ここで迎え撃つ」

その言葉に、声が届いた周辺はざわつく。


「移動するにしろ、犠牲は避けられんわ。ほんなら、ここで迎え撃つ方がよっぽど休めるしな」

「大旦那様……その、鬼の軍勢を食い破るようにして、外から入って来ます」

「あの大群をか!?朱雀院の坊主がおるんか」

「いいえ、……何も、何もおりません……」


『眼』を上空にはなっていた少女が一人、目を閉じたまま紡いだ言葉に、全員が正体不明の敵へ怖気を覚える。

「……どないするんや」

「死んでまうんか」

「終わりや……終わりや……」

「うろたえるなぁッ!!」


その一喝で、全員のさざめきがピタリと止まる。


「わしらが何のためにあないなえげつない修行したと思とるんや。ここでぴいぴい泣いてる暇がようあったら、呪符の一つや二つ仕掛けや、弱虫(あかんたれ)どもが!!」

「はい!」

全員がキビキビと動き始める。


「……狭霧(さぎり)

『いかがなされたか、主人どの』

「外の鬼の軍勢を割っとるんは、何や?」

『……死神です』

「死神ぃ?」

『肉体を失った魂をあるべきところへ還し、妖の間引きをする者——堕した神』

「よう知らんけど……わしらの味方と違うんか?」

『……明言はしかねますが、敵対する方が強いかと』

「なんでや?」

『また高天原に戻るためには、神気——主人殿の持つ力を奪います。それゆえ、良い狩場とみなして鬼を斬り、我々のところに向かっていると考えられます』


宗徳は、その言葉に目を見開いた。


『あなた方に見えない妖が暴れている』

朱雀院の言葉がありありと蘇り、体がぶるっと震えた。

朱雀院の言葉と今の言葉を併せて考えるなら、京で出たのもおそらくは、それ。


「なんちゅうこっちゃ……」

『出ますか』

「ああ。足止めにもならんかもしれん、わしも追ってすぐ向かう」


狭霧の姿がかき消えて、結界の間際に到着すると、その入り口の手前の鬼が全て吹き飛んだ。狭霧は一歩結界の中から踏み出し、そして動けなくなった。

『な……』


結界の中にいたからこそ、目の前の重圧がわからなかったのだ。

見ただけで死を予感してしまうような、強大な存在。

狭霧は、仮の体とはいえ己の身が竦み、冷や汗がジワリと滲むのを感じながら、押しつぶされて膝を屈しそうになるのをこらえていた。


「……ねえ死神さんなんか俺たち歓迎されてない雰囲気じゃないですか?」

「お前の神気がデケェせいだろうが!」

「いや死神さん、俺は今、縛で縛ってありますからね?怯えるとしたら死神さんにでしょう」

『しっ……死神』

ようやく狭霧が絞り出した声に、鎖鎌を持っていた方がもう一人をにらんだ。


「ほらやっぱり死神さんのせいですよこれは」

「いやお前も死神だろ!?つかなんでひたすら俺のせいにすんだよ。お前——」

鬼が好機と見たか、襲いかかってくるのを鎧袖一触、その漆黒の鎌が斬り伏せた。


「——俺のこと嫌いなわけ?」

「被害妄想じゃないですか?自意識過剰すぎますよ?やっぱり精神科紹介しましょうか?」

「お前まだ初回登場時のネタ引きずってんじゃねーよ!もう、とりあえず中に入らしてもらおうぜ」


『な、中には入れぬ……!』

両手を広げた狭霧を見て、鎖鎌がじゃらりと鳴った。

「だ、そうです。じゃ、俺は元に戻って中に入るので、死神さんは外で鬼と血の饗宴開いてもてなされてくださいね」

「俺をこき使う気満々じゃねーか!?」


その神気が薄れ、そして元に戻ると、狭霧の背後にいた陰陽師たちがどよめいた。

「何もないところから現れよった……」

「何やあれ……?」

「あれ」

夜行 仁義は首を傾げた。


「聞いてませんでしたか?俺が来るってこと……」

『な、な、な……何者だ!?お前、』

「ひ、仁義!?ほんまに来よったんか!?」

宗徳が知っている人間だと認識した瞬間、狭霧は警戒しつつもその場を通す。


「あれ?言いましたよね。こっち片付いたので、行きますって」

「言っとったんは聞いた。せやけどほんまに来はると思う訳ないやろ……」

「まあ、とりあえず中に入れてください。そこのお祭り状態のアホも」

「誰がお祭りだよ!?頭の中身か!?」

「振ったらいい音しそうですよね」

「俺の脳みそが豆粒みたいとか言うな!!」


狭霧はぽかんと口を開けていたが、宗徳の肩を叩く。

「主人殿、この者らが先ほど鬼を切り進んで来たもののようです」

「者ら?ここには仁義しか……待て。死神か!」


ハッとした表情の宗徳に、狭霧が頷いた。

「あの、そろそろ中に入りましょうよ。外は危ないですよ?」

「せ、せやな。二人とも、入り」


死神さんと夜行 仁義は、こうして鎌倉にいる者たちと合流した。

宗徳さん→死神のこと完璧存在すら知らない。見えない聞こえない触れない。

狭霧→使役されている妖の類なので、死神は見える。その存在も知っている。

仁義→陸塞が話したと思っている。


以上ここまでの騒ぎになった要因でした。

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