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死神と東京ですか?

うわぁ!

ブクマが増えてる!?

ポイントも入ってる!?

何が起きたんだ……?

ありがとうございます!

「ああ、どるるお帰りなさい」

「る〜」

なんだか疲れきっているのは、気のせいではないだろう。丁寧にその体を撫でてやると、周辺地区の報告が始まった。


まず、一番近くの裏歌舞伎町。ここが若干どころではなく、かなり流入が激しいようで、あちこちで騒ぎが起こっているらしい。

それから、俺たちの学校近くの旧校舎にも数十匹レベルで侵入しているらしい。これで、一気に魔境レベルに警戒度が増えたわけだ笑えねぇ。


そして、数十匹の妖がうっかり寺社仏閣の結界に突っ込んで、自滅したようだ。

闇もじわりとその力を増しているようで、裏歌舞伎町を本来治めている妖が総出で潰して回っているようで、裏歌舞伎町が若干のお留守らしい。


「る〜……」

やってられるかとどるるが溜息を吐いた。

「そうですね、まず裏歌舞伎町の諍いの鎮圧……そこから、街内部のいろいろを収めて行くのがいいですね。人が多いから妖が集まりやすいのであって、東京をなんとかすれば、あとはほとんど古都や伝承の多い場所を抑えるだけで済むでしょう」

「本当にそれでいいのか?」


死神さんの質問には肩をすくめてみせる。

「今最も危険なのは京都です。素盞嗚尊がいると言っても、実際あの場所には伝承があり、古い建造物が残され、ある種異質な空間となっているんです。細かくケアしようと思っても、こちらには手が何本もあるわけでもなく、人もそう多くない。ある程度のことをしたあとはほとんどをその場所の人に任せるべきでしょう」

「まあ、そうなんだけどさ。さすがにここ抑えるって……難しくねぇか?」

「ええ……」


百鬼夜行@窓の外。


「……あの数を抑えるって、軽く倒れられる自信あるわ」

「奇遇ですね。俺も本当に嫌になりそうです」

それに、俺の方は縛で縛り上げているものだから、全力も出し切れないときている。神威も使うことができない。これがかなり影響が出そうだ。


とりあえず、裏歌舞伎町のところに行ってみるか。


「あ、夜行ヘルプ!!」

「あれま……死神様じゃ」

「死神様じゃ……恐ろしや」

「恐れられてますねえ死神さんも」

「いやお前も死神だろ。目ぇ背けてんじゃねーぞこのスカポンタン」

俺はニッコリ笑って、小妖怪の前に跪く。


「こんにちは」

「こんにちは?」

「今の状況を知りたいんだけど、何か知らないかな?」

「ん、京都の妖が、いっぱいいる。騒ぎあちこち」

「そうですか。ありがとう」

ニコニコしながら頭を撫でると、その単眼が三日月型に緩んだあと、頭を抑えてぴょこぴょこ飛び跳ねて行った。


「……さてと。今は夜行が街の方で騒ぎの鎮圧に走っているはずですが……来ましたね」

背後に、おかゆを作ってもらった気配がする。俺が振り向くと、その気配は俺の背後に回り込んだ。


「……このまま話を始めましょう。話は聞いていると思いますが、少々京都で厄介な事態になっているようです」

『知ってるよー(゜∀゜)b』

紙が手の中にパラリと落ちてくる。会話方法はこれなのかよ。しかも筆で顔文字まで書いてあるし。


「それで、しばらくしたら俺たちがこの街を一旦動きます。その間に場が荒れないように、抑えに回ってもらいたい」

『メリットは?』

「前払いで、一つ」

結晶を一つ投げると、紙が降って来た。

『うわぁあああ∩( ^ω^ )∩』

『大歓喜!!』


「しっかりやってくれたら、もう一つやることも考慮します。出来次第ですがね?」

「ちょっ、ニギてめぇ、ここでも同じことを引き起こす気か!?」

慌て気味の死神さんをぐっと引き寄せる。

「……今は、ここで争うよりマシでしょう」

「そ、そりゃあそうだけど……そう安売りして良いもんじゃねーんだぞ?」


今は、安売りしてでも余裕と時間が欲しいくらいだ。それで安泰になるなら、むしろ安いもんである。

「それにあれ、前に溜まってたどうでも良い時の結晶です。さすがにこの体になってからのは渡しませんよ」

「そ、それならいい……のか?」

「じゃ、サクサク行きましょうか。多分そろそろ陸塞から連絡があるはずなんですが……」


タイミングよく鳴ったスマホを手に取り、喋り始める。

「もしもし、陸塞ですか?」

『もしもし?あの、京都は、妹が行ってくれることになったんだ。すごい渋られたけどね』

「そうですか……本当に申し訳ないです」

『夜行のこと知ってて、血液のサンプルと髪のサンプルで手を打ってもらったよ』

俺の手が勝手に通話終了をタップ。


「ニギ?」

「ああ、いえ……なんだか非常に不穏というか、信じがたい話が聞こえて来ただけなので気にしなくてもいいですからね」

ニッコリと笑って言えば、死神さんは変な顔をしたものの、それ以上そこに触れることはなかった。


********


「うぅ、胃が痛むよ」

鳩尾をさすりながら、朱雀院 陸塞は自宅の門扉の前に立っていた。

和風の豪邸とも言うべきその門は、今は固く閉ざされたままだ。

「……なっさけないわねえ」


坂町 みずなのその言葉に、陸塞がガクッとうなだれる。

「だって、この体たらくの上に、西側と協力しろって命じるんだよ?部下からの反発は必至だよね」

「まあ一度任を放り出したんだし、これ以上下がっても変わらないわよ」

「辛辣だねえ」

「安心しなさい。私だけは味方だし、もし追放されたらうちに婿に来るといいわ」


その言葉に、一気に真っ赤になる陸塞を無視して、呼び鈴を坂町が鳴らす。

「どうぞ中へ」

門がひとりでに開いて行き、二人が入ると同時に門が閉まる。

「……みなさま、大広間にてお待ちです」

「そうか。ありがとう」

「御婚約者様は、こちらにてお待ちくださいませ」


着物の女性が頭を下げながら、手で一つの部屋を示す。みずなはそのままその部屋に入り、不安げな眼差しを少しだけ陸塞に向けて、閉まる障子を見ていた。


「……皆、揃っているね。それでは始めよう、この騒動の始末をつけるために」

一番上座に座った彼は、そう言い切った。


「……始末も何も、この状況は喜ぶべきこと。京の地ではあれど、中つ国に来た神が、高天原へと向かわれるのだ」

何が悪いことがあろうか、としなびた老人が語気も荒く言い募る。

「それによって、多くの命が消える可能性だってあるはずです。わきまえなさい、痴れ者どもが」

そうぴしゃりと言い切ったのは、陸塞の叔母の紅羽(くれは)だ。


「フンッ、逃げ腰の当主など要らぬわ。夜沙(やさ)様に跡を継いでもらうべきだったのだ……!」

「今はそれを論ずる場合ではないだろう」

諌めたのは、紅羽の夫である章鬼(しょうき)で、彼は穏やかな表情のまま、ゆっくりと陸塞を仰ぎ見る。

「お話を続けて下さい」


「そうか。では、まずは順番に整理して行こうかな。はじめに、京都でこの前主だった寺社仏閣の結界が、壊された。これは、神の指示によりそれを行なった死神がいたようだね。そしてそれは、人の身ながら神に至りかけていた我が友人を神にしようとの動きだった」


「バカな、夜行は神を知らぬだと!?」

腰を浮かせたしなびた老人や、それ以外にも反応があるものがいたが、陸塞はそれを無視して話し続ける。

「話を続けるよ。彼はなんとか神と取引をして、人の一生を終えられるようにしたのちに神になると宣言していたのは、彼が京都から去った後」


そこで陸塞は、湯呑みに口をつけて、息をふっと吐く。

「そこで彼は夜行に接触しましたがあくまで彼が手を貸せるのは、表の仕事である警護のみ。あとは関知しないと言い切った。ここで、事態を夜行単独で解決しようとしたが、そこに別の死神が京都がめちゃくちゃであるのに付け入り——という次第だ。。ここまではいいかな?」

全員が下を向いて沈黙する。


「そこで、死神である僕の友人から、違和感を尋ねられたんだ。『死神は張り直されていた寺社仏閣の結界を通り抜けられる。壊し方など知らなくてもいいはず』とね」

「……何が言いたいのです」

下座の方に座っている人々の顔色が悪い。

「そこで夜行が関わっているのは、容易に君たちにも想像できるよね?」


「今回のことはわれわれには関わりのないことです、夜行に責を負わせれば良い」

「そうですな」

さざめいたその場にパシッという乾いた音が響いた。陸塞の太ももに、彼の扇子が叩きつけられたのだ。

「話はこれだけじゃないってわかるかな?」


全員が沈黙をすると、陸塞はニッコリと笑う。

「夜行は、神気、つまり妖と同じ力をもってそれに対抗している。彼らには妖は見えても、死神は見えないそうだよ。僕たちが神を認識できるのは、この世界から位相がずれているからだ」

「当主様。それは本当のことでございますか?」

紅羽の言に、陸塞はうっすらと微笑んだ。


「そうだよ。ただの神気を持つだけの人間には、それは見えない。一定以上の量を持つ人間は、非常に限られてもいるそうだから、こんな同じ時代じゃそうそう見つかるとは思えない」

前回は侮られた。己が責を果たさない阿呆だと思われたから、彼の叱責は全くと言っていいほど功を奏さず、また誰もが無視した。

これがこの結果だ。

今回は、もう逃してはやらない。

「……そうですか。なれば、この場にいる者に詮議が必要になりそうですね」


紅羽は人形(ひとがた)を取り出した。何事かを唱えると、その場所に小さな子供が出現した。

(さとり)、今から嘘をついている人間を調べる。力を貸しなさい」

こくりとその頭が上下した。


一人ずつ、「夜行の手引きした者やその情報を知っているか?」と尋ねると、紅羽の膝に乗った子供が全てを話し始める。

しなびた老人の前に来た時に、子供がこう喋り始める。

「どうして、計画は完璧だったはず、それなのにどうしてあのボンクラにそんな友人がいる?おかしいではないか。これでは話が違うぞ、龍造(たつぞう)——!!」

紅羽の顔が、ぐりんと逆側を向いた。

「ひっ!!」


その場から立ち去ろうとしたその手を、陸塞が掴んでいる。いや、正確に言えば、陸塞がそのまま、式を放ったのだ。

ギリギリと締め付けるようにして、そのまま人にあらざる膂力で、龍造を締め上げにかかる。

比良(ひら)、もういいよ。捕縛だけしておきなさい」


そのままニコニコしながら、一切表情を崩さない男に、その場にいた全員がこの男が誰なのかと不思議に思うほど、普段の優柔不断さは消えていた。

実際はほとんど仁義の入れ知恵のようなものだとはいえ、彼自身に聞かせるような何かがなければ、再度無視されただろう。

そのために、紅羽には事情を話して、一月に一度しか使えない覚を出してもらうように、交渉したのだ。


夜沙(やさ)、お前は京都に向かいなさい。状況の報告が聞きたい」

「えー?でも兄上、私学校あるし」

「僕の死神でもある友人の血液に興味はないかな?サンプルくらいの量だけど」

「……にぃ〜……髪も。だめぇ?」

甘えるような声に苦笑いを返して、陸塞はうっすらと目をすがめる。

(このくらいなら、夜行くんには許してもらえるだろうか)

戦々恐々としている内心は、周囲の者には全く伝わらなかった。


「渡りをつけておくね。では、準備をして即刻むかうこと」

「はーい!」


テンポのいい返事に、陸塞はニッコリと笑みを返した。

「それでは、その者らの処分は置いておいて、夜行 宗徳との協力をしようか」

「なんですと!?分かっておられるのか!?当主様」

「ええ、それはさすがに……」

「何も共同戦線を張ろうと言っているわけではないよ。お互いがお互いの邪魔をしないために、どこからどこまでをこちらの領域かさだめようと言っているんだよ。今はそれでなくとも喫緊の事態だ、いがみ合っても解決しない。そして、もう一つ——朱雀院は、神よりも、人側に立つべきだ」


全員が、息を呑む。

「それは……なりませんよ」

紅羽の言葉が場に響く。

「人側に立つべきだというのは、人の味方をしている死神を支援することだ。ただいたずらに中つ国を混乱させるような、神に戻ることを目的とする死神ではなく、人のために妖を調整するような死神の、だ」

場がしいんと水を打ったように静まり返る中、滔々と語る陸塞の声だけが響く。


「……再度間違えてはならないんだよ」

前に友が死にかけたこと。

人を何とも思わぬものが引き起こした、京都の厄災のようなあの光景を。


「今一度聞こう。くだらぬ伝統というしがらみは置き捨て、何が我々の、未来のために最善なのかを考えろ」

答えは、既にでているようなものだった。

実は当主でした。

しかし、おうちのあれこれをポイした結界の件で、信用ガタ落ち。

前回は根回しもなしに罰しようとした挙句侮られて失敗。

今回は学習した陸塞でした。

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