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死神と同類ですか?

最近のアニメ楽しすぎる。

「あれ?夜行くん?」


背後からそんな声が聞こえて、思わずドキッとして振り返る。

そこには、前に話しかけて来た気がする女と、少年が数人立っていた。

……女子はわかるが、そのほかは何だ?


「夜行くんだ。わぁ、来てくれたんだね!」

「どちら様ですか?すみませんが買い物がありますので」

知らないふりをして、俺はそのまま立ち去ろうとして、右腕を掴まれた。

「ひどい!知らないふりをするなんて!」

「知らない人のことを知らないというのは当然のことじゃないですか」

「クラスメイトだよ!?なんでそういうこと言うの……?」


泣きそうになったそこへ、見ていた同じ班と思しき人が間に入ってくる。

「ま、まあまあ。お互い落ち着けって。な?」

「夜行も一応クラスメイトなんだからさ。話しかけるくらいは許容してやってくれよ」


だから話しかけられないようにひどい態度とってるんだってば。

俺は少しずれた伊達メガネをずり上げる。

「申し訳ありませんが、名前も知らないのでクラスメイトと断言するのはどうかと」

「えっ!?それマジかよ!?」

「嘘だよね!?わ、私の名前は?」

「申し訳ありませんが覚える容量ももったいないので」

「ええ!?」


俺が立ち去ろうとすると、パシッと腕を掴まれる。力が強い。さっきとは別の意味で、ギクリとした。

振り返ってみれば、先ほどまではいなかった少年、高田 紅が立っていた。どうやら騒ぎを聞いて、ここに集まったらしい。


「おい、夜行。幾ら何でもふざけすぎだぞ。ほんとは知ってるのに知らねーフリしてんだろ?」

高田が俺の腕を掴み、可愛らしい顔立ちを顰めて睨んでくる。男に可愛らしいなどと言ったら怒らせそうだが、今日も相変わらず制服だ。私服はどうした。


「本当に知りませんよ」

「ふーん……マジか?」

じいっと見つめて来たあと、その瞳の剣呑さがフッと緩んだ。


「……まじか……そっか。ごめんな、ヘンに疑った。俺も坂町さんも割と有名だから、さ。悪いな」

「いえ」

そういえばそうだが、関わりたくないのに覚える努力はしないし高田の噂は例の双子とは違い、全く知らなかった。

だってそんな話する相手いなかったし。


「ところで夜行はこれから買い物なのか?」

「あなた方とは関係のないことですので」

「……そうだな。そいじゃ、みんな行こうぜ!」

「ええ!?夜行くんも一緒に来るんじゃないのー!?夜行くーん!?」


若干やばげな匂いがして来た気がするが、高田が全員連れて行ってくれて助かった。どうも人の気持ちを察するのが得意なようだ。

クリームチーズも買って行こう。クリームチーズマフィン食べたい。


そういえば、死神さんにスイーツ作ったことはなかったな。今日帰ってくるかはわからないから、一日二日は大丈夫で、お手軽にできるシフォンケーキとかになりそうだが。


と、思ったら。

「……高田、どうして駄菓子屋にいるんですか?」

「げほっ!?や、や、や、」

「夜行ですが」


行きつけの駄菓子屋に、高田がいて驚いた。

しかもかなり真剣ににらめっこしている。眉毛の間にしわを刻みながら、10円ガムと20円の占いチョコの間で視線をさ迷わせていた。

今は挙動不審の不審者に成り果てているが、かろうじて制服がそれを防いでくれている。


「何してるんです?」

「あ、あー……いやあ、その。ほら、ああいうとこのお菓子って高いから、節約……みたいな?」

そりゃあ単価も安いからな。


「夜行はどうしてここに?」

事実的には、ここの近くに神社があるので、休むためにそこで食べるアイスやらを買っているだけだ。

ちなみにどるるはこういう所のお菓子を好まない。合成着色料の味がすると文句を言うのだ。


「よく来るよ、常連さんだよ」

「そうなんだ?」

「まあ、……そうですね」

おばあさんがレジ以外で喋ったところを初めて見た。俺は眼鏡をずり上げて、そっぽを向く。


「いつものかい?」

「はい。あ、それからこっちのもう一個ください」

「はいよ。二百十六円ね」

「え、ちょ、やぎょ、」


おばあさんは終始笑顔のままであった。

——というか俺顔まで覚えられてんのか。


俺は買ったアイスの一つを手渡すと、高田がギョッとして色々とわめいた。俺は知らぬふりを通して、神社の敷地へと入り込む。

「おい夜行聞いてるのか!?奢ってもらったって嬉しくないぞ」

「食べたら帰ってください。俺はあなたが嫌いです心底」


ため息をつきながら言えば、高田が突っ込んで来た。

「脈絡が仕事してねえ!?どうしたらそうなる!」

いいツッコミだ。漫才師になれるぞ。

「今日は助かりました。それだけです」

「……あ、そういうこと」


今日絡まれたのを、引き剥がしてくれたのはとてもありがたかった。その礼といって押し付けると、素直に納得してくれた。

貸し借りは作らない方がいい。とは言っても、今回のを貸しだと考えているのは俺だけかもしれないが。


「お前さ。なんであんな冷たい態度とるわけ?坂町さんお前になんかした?」

「……その坂町さんは、あのしつこい人という認識でいいんですよね?」

「まあ、そうだけどしつこいって」


「俺はどうでもいいことを覚えるのが好きではないので、クラスメイトの名前なんて面倒なので覚えませんが?」

実際には、先生からの頼まれ物をされないために。

誰だかわからないと言えば、別の生徒に依頼をしてくれることも多い。


「……つくづくヘンな奴。俺は特に大事じゃなくても覚えるぞ。つかお前の自己紹介は凄すぎたし。『夜行仁義です』ひとことで終わりだったじゃん?先生も困惑してたぞ」

「そうですか」


アイスのソーダ味って、どう再現したらいいんだろう。さすがにシャーベットとかアイスクリームならできるが、これの再現はさすがに無理がある。

「なんかさ。坂町さんって、やけにお前のことを気にしてるっぽいんだけどさ。心当たりとか、ないわけ?」

「ありませんね」

顔を偶然見られたなんてこともなさそうだ。唯一ありうる水泳の授業は、この学校には無い。

「……そうか」

高田はうーん、とか唸って、ハッと気づいた顔をする。


「いつもちやほやされてるから、塩対応新鮮でキュンとしたとか!」

「さすがにそれは少女漫画の読みすぎじゃないでしょうか?ただのマゾですよ、それ。ちょっとおかしい人ですから」

「そうだよ。きっとそうに違いないっ!」

「せめて本人に確認とってから断言してくださいよ」

「じゃあ、お前は坂町さんのことどう思ってるわけ」


俺は首をひねる。

「……人間ですね」

「種族聞いてねえよ」

「日本国民ですね」

「カテゴリが狭くなったけどまだ遠いから!わずかにかすってさえいない!」

「それ以上は思いつきませんね」

「そこで打ち止め!?」


神社の中であるため、ひとしきり高田で遊んだあと、俺はもう一度逆側に首をひねった。

「俺は特に彼女に対して思うところはないですね。うざいとかしつこいとか以外は」

「感想が辛辣でしかも思うところあるじゃん!?」

「だってしつこいじゃないですか」

「……確かにまあ、恋する乙女ってわけわかんねえ生き物だもんな。俺のねーちゃんも、もう結婚してっけど大変だったし。まあ、うちも貧乏だからとっとと誰かとくっつけってうるさいんだよな。もらってもらえとかさ」


昨日も一昨日も、とぼやく高田。

「俺的には坂町さん応援してあげたいとか思ってたけどさ。夜行が興味ねーのはわかったし、これから先知り合うつもりもなさそうだってのもわかったよ。律儀で結構いい奴だけど、お前は近寄らせる気がないんだろ?」

——心を読まれた気がした。


「……人間が、嫌いですので」

「ん、わかったよ。そいじゃ、俺そろそ……あっ」


なんだ?


神社の入り口近くに、妖が居座っている。膝を抱えて、そして何かをぶつぶつ呟いている。行逢神(いきあいがみ)、会うと頭痛やだるさ、吐き気が発生するという。その正体は山の神だという説もあるが、はっきりしたことはわからない。その場所を避けるのも、大切なことだ。


「……こっちはダメだな。向こうから行かなきゃ」

「高田?」

「あ、い、嫌なんでもない。なんとなく、イヤな気配がして……うん、それだけ」

「イヤな……?」

「と、とにかく!あっちはダメだ!」

頑なに俺をも止める高田に、ふと、俺は思ったことを口に出す。


「高田、もしかして……もしかしてなんですが」

ゴクリと唾を飲み込んで、俺はこみ上げてくる訳のわからない感情に手を震わせ、じっと高田を見つめる。

高田は俺を止めるべく掴みかかったポーズで停止した。

視えてる(・・・・)んですか?」


途端、ばつの悪そうな顔になって、それから赤面する。あうあうと変な言い訳めいたことを口走りながら、俺に掴みかかっていた手がゆっくり離れて、一歩ずつ後ずさる。

そこで動きが完全に停止した。


俺が目の前でゆっくり手を振ると、はっとした表情で首を左右にプルプルと振り、そして即座に踵を返す。

「あ、あの、俺は、別にその……そ、それじゃあ、行くからっ!」

「え、ちょっ……」


話が終わる前に、高田は走り去っていった。逃げ足が速い。


しかし、高田に神気があるとなると、話は別だ。

死神に一生を歪められるかもしれない。

高田の意思関係なしに、使われて、魂ごと食らわれたり、戦いの中で死んでしまうかも。


見透かしたような、あの言葉。今思えば、あれは共感に近かった。

棘のある言葉を気安く受け流され、そして気軽にやり取りをしていた。

楽しかった。

視えているもの同士だから、わかってしまった(・・・・・・・・)んだ。


あいつはあんなにいい奴じゃないか。

あいつみたいな奴が不利益を被ることなんてあってはいけないことだ。

俺みたいなやつになるべきではないんだ。幸せに、せめて、平穏を。


友達だっている。あいつが平穏を失うのだけは、絶対にダメだ。

かけがえのない日常を、無二の友人を、失わせたく無い。


俺とは違う道を歩んでいる、そうはわかっていても、あいつを救えばちょっとは過去の俺のことも助けられる気がしてならない。

自己満足でしかない、過去の自分への償い。


けれど、俺が高田を御使にするのは、できない。というか、俺自身が許せない。そうすることで、歪められることがあるだろう。視えなかったものが視えたりして、神の世界に踏み入れかけることがあったとしたら。


仮に気づかれて、戦う力が欲しいと言われても、高田にはせめて、戦いも何もない安寧をあげたい。

見えても、気にしなくていい状態にしてやりたい。

ずっと過去の自分が渇望してきたそれを、与えてやりたい。


手が震えたのは、同類がいた『歓喜』と、同類に対してなんとかしてやりたい『同情』、そして、過去の自分に償いをしたいという『欲望』。


すっかり溶けたアイスクリームを飲み干して、ゴミ箱に突っ込んだ。

強くなる理由が、強くなりたい理由が、一つできた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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