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死神はいたずらされますか?

こっからは是非オールスターレベルにして登場人物フル活用したい。

「持ち込みOKなとこですから、かぼちゃプリンを焼いていきましょうか」

「そんなハイカラなもん作れるのか!?」

いちいち死神さんの言葉のチョイスがおかしい。

「比率はしっかり考えますけど、ちゃんとできますよ?まあ、素人のやることですから店には及ばないかもしれないですけど」


かぼちゃをレンチンして裏ごしし、レンチンしている間に作っておいたプリン液と丁寧に混ぜる。カラメルが容器に入っているが、カラメルは固めくらいがちょうどいい。

泡立てるというよりは、そっと丁寧に混ぜるという方が正しい。泡立てすぎるとプリンの内部に気泡が入って口当たりが悪くなる。


「なので、丁寧にやることが重要です。……死神さん?」

なんだかぼんやりしていたので、手を突っ込んでみる。

「ぐわぁ!?なんかこうゾワァッてすっからやめろよな!!」

「あの、死神ぶんもしっかり用意しますし、その辺は心配しなくてもいいですよ」


多分気にかかっていただろうことを言ってみると、死神さんが口を尖らせて言った。

「えー俺も仮装したいー」

「心配するのそっちですか」

この人やっぱり期待を裏切らないというか、なんというか。

「いつも仮装している感じなんですから、いいじゃないですかどうでも」

「えー!?だってこの衣装よくわかんねーけどずーっとこのままなんだぞ!?」

「……時代を先取りしすぎてません?」


もしや生まれた直後からこの格好だったのかよこの人。

「いや、自分で好き勝手に変えられないだけで、時代の変遷とともに自動的に衣装が変わるんだよな……誰が決めてんだこれ?」

「ああ、そういう方向性ですか」

心当たりがないでもない。


あとは唐揚げとか、一日前のクッキーにチョコをかけたのだとか、小さくつまめるものを適当に詰めると、重箱の中へイン。

かぼちゃプリンはもちろん入るような容器に入れてある。

風呂敷でくくると、あとは喉を痛めないように柚茶に蜂蜜を少し足したものを用意する。


「仁義、そろそろ着替えないと時間なくなるぞ?」

「そうですね。……本当にこれ着るんですか」

「俺はほら!狼だから」

がおう、と言いながら、もふもふの手袋をつけた両手を挙げ、尻尾をゆらゆらさせている。

耳はカチューシャでつけたらしい。


「仁義はだって、スーツにマント着るだけだろ?」

「宗徳さんからもらった仕事着がこんなことにいの一番に使われるなんて思ってないでしょうけどね……って、死神さんつまみ食いダメって言ってますよね!?」

「ははっ、わりーわりー。つい美味そうだから」


夕飯用にいくらか残しておいたそれはあっけなく消えていた。

「まあ、今日の夕飯ぶんでしたから構いませんけど。じゃ、俺もさっさと着替えて向かいます」


俺たちが電車に乗っていると、おんなじような格好をしている人が目につくと同時に、やたらあちこちから妖の気配がする。自分たちの祭りのようなものだから、きっと浮かれているのだろうが、今日みたいな日は現世と隠り世の境目が曖昧になる。

あまりにはっちゃけるようなら、少し出ないといけないかもしれない。


「お待たせー!あらやだかわいい……」

「あはは、みずなも似合ってるよ?魔女っ子」

とんがり帽子をかぶって、可愛らしいステッキを持っている。

「陸塞は……それは正装でしょう?仮装というか」

白装束をバッチリ着て、一人だけ悪目立ちしている気がする。

「ミイラがいいって言ったのだけどね、実際に包帯を巻いたら動けなくなっちゃって……」

言っちゃいけないかもしれないがそれはみずなの巻き方が悪かったんじゃないだろうか。


「ハァッ……ハァッ……お、遅れたな」

「いぶk」

血まみれの男がそこに立っていた。いや伊吹だ。間違いなく。

白いシャツが赤く染まりかけている。確かに仮装っちゃ仮装と言えそうだが、これは法的にギリギリアウトだろうな。

「…………本物の血の匂いがしますけど」

「ああ?ああ、これな、近くでちょっと通り魔的なのに絡まれてな?で、身辺警護がやったのの返り血が飛んじまって……」


いやさすがいいとこのおぼっちゃまだけあるわ。身辺警護とかどこの何様だ。三割くらいは自分の手によるものだと信じてたんだが。

しかしその身辺警護が血が出るほどにやったって、過剰防衛に当たらないのか?

「あとは、杏葉だけね」

「み、皆さん、お待たせしました……」

ツインテールのゴスロリ吸血鬼が、顔を晒して笑っていた。


「杏葉、おまっ……」

「あずあず写真撮らせて!」

「ごめんなさい、今からお友達と遊びに行くんです。えへへ」

すごい猫を被っている。こいつ二重人格といっても過言じゃないレベルで。


「なんで変装的な……」

「だってお兄様が仮装するんですよ?耳目が集まるに決まってます。なので、もういっそ諦めてしまえと思いまして」

「どいつもこいつも人を誘蛾灯のように……」

「まあその前にお兄様の棘にすごすごと去って行くでしょうし」

「人のことを薊のように言わないでください」


すると、最後の一人がやって来た。全員死神連れなのを考慮してはいたが、やっぱりすごい人数だよこれは。

「よう、また厄介ナことになったみてェだナ」

「遅れてしまったようで申し訳ありません」

園原さんとルタが、立っている。

園原さんは、かぼちゃのハリボテをかぶっていた。やはりこの人ぶっ込みぐせあるな。


「久しぶり」

「甘い匂いする」

「ハニーさんとミズハさんですか。お二人もたべれるように作ってきたので、問題ないですよ、多分」

「本当!」

「お菓子!お菓子!」

「おらお前ら、あんまり浮かれると迷子になるぞ」


そんなこんなで、ようやくカラオケの会場にたどり着くと、部屋に入った途端死神全員が風呂敷の中身をねだって来た。

「お菓子……」

「腹は減らねェけど、こういうのって食えねェんダよなァ」

「唐揚げうめーぞ、仁義も食え!」

「一曲目何にする?」

「あ、あれにしようよ、最近AKなんとかが歌ってる新曲」

「途中わかんなくっても知らないわよ?」

「高田、いっきまーす!」


場の空気に圧倒されたまま、ナチュラルハイなこの人たちは止まらない。

「では、僭越ながら連続21曲目を」

「イエーイ!!」

園原さんはもうすでにかぼちゃをうっちゃって、マイクを握りしめている。陸塞は隅っこで諦めたような表情で、マイクを持っているみずなに抱きしめられている。


「夜行もなんか歌おうぜ!」

「俺的には最近のアニソンとかオススメなんだけど」

「死神さん結構最近のアニメ系統詳しいですけど、どこでそんな知識を」

「こまけぇこたぁいいんだよ。ほれ、行くぞ!」


残り何分と電話がかかって来たのを潮時に、みんなで片付けにかかる。

「……うぅ、声が」

カッスカスの声で、高田がヘロヘロになっている。

みんなもぐったりしていて、俺も若干疲労が来ている気がする。


死神たちはすごく元気だ。

「うまかったゼー……」

「本当に……嬉しい……ものをたべれるなんて思ってなかった」

「しかも甘味……」

「仁義、なんか他の国のもっと美味しいものとか作ってくれねーかな?ほら、ザルツブルガーノッケルンとか」

こいつらな。


家に帰ると、高田がソファーにぼむ、と飛び込んだ。

「おぉおうう……ぶへぇ」

「またなんて声上げてるんですか。明日、何が食べたいですか?夕飯」

「え?あ、そうだったな。今までは食いもんもらって終わりだったから、ついついうっかり」


彼女はそう言って、顔に若干笑みを浮かべて腕を組み、美味しいパスタがいいと要望を出して来た。

「マカロニ的なのがいいですか?」

「それがいい!」

「あと他に食べたいものは?」

「あの、油揚げに納豆入れて焼いたやつ」

「ああ……あとは普通にサラダでもつけましょうか。最後はケーキ作りますし」

「わーい!」


三人で掃除を終えて夕飯を食べて、お風呂に入ると、もう十二時近くになっている。

俺はカバンを取り出して、それからリビングでゴロゴロしていた高田に近づく。

「もういい番組やってねーなあ、明日晴れるのかな」

「明日晴れますよ?」

片手に小さい箱を握りしめたまま、俺はその横に腰かけた。死神さんが空気を読んだか、そそくさと退場していく。どるるは規則正しい方なので、俺の部屋ですでに寝ていた。


「……あ、もう十二時か。そろそろ寝ないと——」

その手をぱし、と掴む。


「あ、あの……」

高田が腰をそのままもう一度下ろした。

「どうかしたか?」

「えっとですね。えー……お誕生日、おめでとうございます」

十二時ぴったりに言うと、その手に箱を押し付けた。


「え!?ナニコレ!?ゆ、指輪の箱!?」

「いや!?違います、違くないけど!!」

「落ち着け仁義!?呼吸はヒッヒッフーだぞ!」

それはラマーズ法である。


「……ピンキーリングです」

「そっか……ダイヤモンドはお預けか」

「なんでそうなるんですか。しかるべき時が来たら渡しますから待っててください」

「え、あ、はい」

真顔になったが、今何かおかしい事でも言ったか?


「じゃあ、つけてくれ。せっかくだし」

俺はそれを取り出してはめる。青い石は、誕生石のトパーズ。誠実さや、チャンスをもたらすと言われる。仕事向きのパワーストーンらしい。

「わぁ、可愛い……」

ニヤニヤしている顔に突っ込むべきかを迷うが、満足げに今はニヤニヤしているので放っておくか。


ふと、背中に寒気を感じて、俺は振り向く。いやあこの神気、じわっと見覚えあるんだよなあ……。

頭の後ろに張り付いているそいつをベリッと引き剥がす。

「きぃ」

震々(ぶるぶる)がこんなところまで付いて来ていた。なんでこいつがここにいるんだ?」

「きぃ?」

「何夜行それ……あ、清水寺でお前に付いていた小妖怪?なんでこんなとこに」

「きー……きゅいきぃ」


灰色の足を高く上げて頭をカシカシと掻いたあとは、そのまま俺の手の上で丸く寝こけ始めた。

「え、いや、なんですこいつ……」

「夜行……飼っちゃダメ?めっちゃ可愛いんだけど……」

「遊びに来るのを構うのはいいですけど、それ以外は受け付けません。他の妖に付け込まれかねないですし」


そう言うと納得して、俺たちはそれを放置して、それぞれの部屋で眠りについた。

やっぱり不穏。

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