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死神は目論見ますか?

今回吹っ切れて妖関係なし。

高田の誕生日が、迫っている。


あれから眠っている間に切れることがあったものの、数日で慣れて普通に日常を送れるようになり、カレンダーをふと見て気づいた。

高田の誕生日が、間近に迫っている。

食べたいものフルコースとは言ったが、プレゼントも別口で用意しておいたほうがいいと思う。


「高田の欲しいもの……」

俺が頭を悩ませていると、背後からドンッと背中を叩かれる。

「っはよぉ、元気か?」

「おはよう夜行。今日も相変わらずムカつくほどイケメンだな」

「おはようございます」

竹下と山田が、ニッコリ笑う。


「なんか先生が探してたぞ?」

「本当ですか?あ、二人に相談したいことがありまして……」

「何?」

「誕生日プレゼントって、何欲しがると思います?高田」

二人が顔を見合わせる。

「……今までは食い物分けてやってたからな……」

「そうそう。お肉のブロックとかすごい喜んでたよ」

「参考になります?それ」

「今はちげーだろうけど、それでも食い意地は張ってるからなあ……」


うーん、と悩む二人に一礼して、その場から立ち去った。伊藤先生のところに行くと、だらしなく緩みきった顔で、封筒を手渡された。

「スピーチ、ヨロ!」

「伊藤先生。顔に締まりがなくなって、公に見せられないほど緩んでますよ?」

「何!?」

ペチペチと自分の顔を叩く伊藤先生を放置して、中を覗き込む。ピンク色の花がたくさん描かれた紙が見えて、俺の視線が生ぬるいものを見る目に変わる。


「……いや、送るのは流石に職権濫用かと思って」

「そうですね。良識があって、俺も一安心ですよ」

左手に封筒を持ち直すと、その顔つきがいつになく真剣になる。

「他に何か?」

「スピーチは、十分くらいで、よろしく」

「用事は済んだようなので失礼します」

「おいっ!?待て、素数を数えて落ち着くんだ!」

「俺はいたって冷静ですけど」

「……うんまあ、お前にしか頼めないんだよ。高校時代も大学も、ちょっとハッチャケ過ぎてたから……」


友達と呼べる人がいないと言うことか。……ん?でも一人もいないってことはあるか?

母さんだって、年賀状は数年の間は何枚か届いてたようだし、全く交流がないなんてことは……。


まさか、厨二病だったのか!?

黒歴史時代の友人はそりゃいないと言うか呼べないだろう。だったら納得がいく。


「……わかりました。できるだけ協力させていただきます」

「ん?なんかすごい勘違いされてるような気がするんだが……まあいいか。よろしく!」

俺は小さくうなずいて、それから職員室の扉に向かって歩き出そうとして、もう一つのことを思い出す。


「先生、あの、高田が誕生日なんですが、何をあげたら喜ぶと思います?」

「あん?お前ら付き合ってたっけ。んー、私は、アレだな。ヌンチャクが欲しいな」

だめだこいつ参考にならない。


「失礼しました……」

若干落胆しながら封筒を抱えて教室に戻ると、高田が俺の席に座ったみずなと杏葉で盛り上がっていた。

「珍しい顔ぶれですね?」

「あ、仁義ちょうどいいとこにきた」

「なんです」

「ハロウィンあるだろ?そんときにいつものメンツでもなんかやろうってことになってさ。そいで、その日になんかカラオケのとこで仮装割引してるんだって!」

「へえ」


三人でキャイキャイ言いながら、あれがいいとかこれがいいとか言っているが、どうもその手元の紙には男物の衣装があるように見えるんだが。

「って言うわけで、夜行はヴァンパイアで決まりだな」

「意義なしです」

「陸塞はミイラでいいかしら……」


俺は瞬間的に伊吹の電話番号を押していた。

「もしもし、三十一日って空いてますか?」

『あ?なんだよ。空いてるが?』

「……カラオケ行きません?」

『どこの?』

店の名前を言うと、馴染みある場所だったらしい。

『時間決まったら電話しろ』


俺はブツッと切れたスマホから手を離して、それから伊吹の合流するという話をして、ヴァンパイアの衣装をそいつに着せようと画策したのだが、無駄に終わったようだ。


「お兄様、一緒に吸血鬼の格好しましょうね!……そんなにむくれなくてもいいじゃないですか、いつもあれで飛んでるんですから」

こっそり囁いたその後半に、こちらもヒソヒソと言い返す。

「あれは見えてないから別物でしょう?……ああ、本当ノリ良すぎですよ……そうだ、誕生日プレゼントって、何をもらったら嬉しいですか?」


その首が傾げられて、ポニーテールがゆらりと揺れる。

「プレゼント?高田さんのですか?」

「……ええ」

「そうですね……別荘とか?」

スケールが違った。


「あとはそうですね、指輪とかいいんじゃないですか?よろしければ、今度撮影で使っていた高校生向けの宝飾品売り場なんて、いいと思いますけど?」

「それを最初に言ってくださいよ」

俺がガクッとしていると、杏葉がにいっと笑った。

「もうダイヤ付きでもいいのじゃありません?」

肘鉄を食らわせると、それをひらりと避けて、三人のところへ戻っていった。


仮に指輪を買うとしたら、ピンキーリングとかになるだろう。十一月の誕生石をつけて、多分気にするだろうから価格帯も控えめにしないといけない。指の太さはどのくらいか?

ありとあらゆる可能性を考えるとなると、ネックレスくらいの方が、気に病まなくて済む。


「よし」

決めれば、あとは買うだけだ。

「じゃ、みんなで土曜日は集合して、買い物に行くか!」

「賛成!」


そんなこんなで、土曜日を迎える。

高田は一人でワクワクしながら服を選んでいたが、上下柄物という悪趣味な選択をしていた。

「……うーん、ファッションって難しいな」

「高田の頭の中を理解する方が難しそうですよ」

「む!俺はお前の考えてることわかるぞ。『こいつ何言ってんだ』だろ」

「大正解ですけど」

「そろそろいちゃつくのやめて、時計見ろよ」


死神さんのツッコミにハッとして、俺たちが急いで向かうと、そこには陸塞だけが立っていた。

「やあ、夜行くん、高田さん、死神さん」

「他のメンツは?」

「みんなで揃って迷子中だって。難しかったみたいだよ、新宿は」

「俺も多分夜行に手を握ってもらわなかったら、迷子だったな!」

「あれ?二人とも手を繋いできたの?」

見たかったなー、とかこっちをチラチラ見ている奴がいるのに手は繋ぎたくない。


すると、背後にすっと杏葉の気配を感じて振り返る。

メガネにベレー帽をかぶり、髪を下ろした格好で、普通に溶け込んでいる。

「お兄様、今到着しました。他のお三方は……まだいらっしゃらないみたいですね」

三分ほど経つと、ようやくぜえ、はあといつもの声が聞こえてきた。


「お、お待たせ……」


「はぁ、はぁ……全く、あんたのせいよ?」

「申し訳ありません。道を尋ねた輩があれほどまでにしつこいとは……」

「あれ、あなたも一緒だったんですか?園原さん」

「いえ、ソノちゃんとお呼びください」

「……ソノちゃんさん。伊吹は今日は来ないようなので、行きましょうか」


杏葉が浮かれて、ニコニコしながら歩いている。普段はこういう風に自由に歩くことすら難しいのだろう。

「大丈夫なんですか?出歩いて」

「ええ、問題ないですよ。だってプライベートに喋りかけてきても、お兄様がいらっしゃいますし?」

「……週刊誌で報道でもされたらどうするんです」

「血縁の兄ですよ、あの人たちもそこまでバカじゃありませんよ」


陸塞も、疲れた顔さえしてなきゃなかなかいい線いくと思うんだが、あの髪型はなんかこだわりがあるのか?

「陸塞は、手繋がないんですか?」

「うわっ!?びっくりするじゃないか……いや、だってその……」

「あら、手を繋ぎたいの?」

あばばばばといった感じで慌てる陸塞の手を、みずながぎゅっと掴む。


「あれあのまま放置していいのか?」

「いいと思いますよ、そんな人たちいっぱいいますし」

買い物に行く途中で声をかければ大丈夫か。


「そうそう、お兄様。少し買いたいものがあるのですけど……」

「金は出しませんよ?」

「カードで払うので大丈夫です。こっちの方です、高田さんも一緒に」


高田が店の前で、後ずさった。

「……なんかもう心臓に悪い……」

「ここです。十代に人気のお店、『bashful 』です。ロケで使わせていただいたんですよ〜」

そう言いながら、俺たち二人の手を取って、中にずんずんと入っていく。


「あれ?今日って撮影でしたか?」

「いいえ、プライベートです」

ニコッと笑って、そのメガネを外す。

「まあ、お気に召していただけたんですか?それは良かったです」

俺たちごと案内をしながら、あれはこれはと紹介をしていく。俺たちは完璧におつれさま対応をされているので、高田が目を留めたデザインを見て、色々とチェックをして行く。

「よろしければ、そちらもサイズ測って見ますか?」

「え?あ、あの、俺は……」

「まあ、測ってみましょうよ!高田さんすごく指が綺麗ですもの」

「えー……」

あれよあれよという間に指のサイズが判明したので、そっとポケットの中のメモに書き足していく。

お店の人が俺を見てニヤリとしたのがわかったが、ここはあえてスルー一択だ。


「では、これとこれを。お支払いはこれで」

ニコニコしながらカードを差し出す杏葉。俺たちはちょっとげっそりしながら店を出ることになった。

「それにしても、よくお客さんいなかったですね、運が良かったです」

「高校生に買えるとはいえ、少し高い値段ですから。まあ、杏葉に限っちゃそれはないでしょうけど……」


すると、高田の携帯が鳴った。

「はいもしもし〜……ああ、はい。うんわかったー」

高田がくるっとこっちを向いた。

「あいつら今の今まで俺たちがいないことに気づかなかったらしいぞ」

それはそれですごい話だと思う。


合流すると、荷物持ちに陸塞が待たされていたので、トイレという名目でモールの中のさっきの店に入ると、店員さんがニヤニヤしながらオススメの二つを差し出してきた。

「トパーズのあたりをじっくりみていらっしゃったので」

「そ、そうですか……」

「普段はこんなことしませんけれど、あまりにも初々しかったので」


ありがたくそれを購入して、俺はみんなのところへと戻って行った。

「遅いぞ!トイレ混んでた?」

「ええ、少し」

俺が薄く笑うと、高田が輝くような笑みを返してきた。

ハロウィン。

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