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死神と修学旅行ですか?③

二日目。

「今日はお寺巡りですね……目が潰れないように気をつけましょう」

「そうだな!」

「気持ちは分からないでもないけどやめてくれる?そういうテンションの下がること言うのは……」

みずながはあ、と溜息をついた。

「特にそこの根暗!聞いてんの?」

「聞いてますよ、理解するかどうかはさておいてね」

「チッ」


そうやってさんざ俺を罵るが、本当に傷つけるようなことは言わない。死ぬほど嫌いな俺にも、あいつなりに譲歩をしているんだろう。

「夜行……あの、みずなちゃんから預かった札が、……溶けた」

「よしあいつシメましょうそうしましょう」

溶解した札は、陸塞に訊ねたところ破邪の札だったようだが、一文字間違えていたらしい。


「どるる……あなただけが頼りです……」

「る!……るー、る!」

お寺以外のとこなら任せとけか。心強いことだ。


最初の目的地は、慈照寺、すなわち銀閣。

「あのちょっとぼろっちいとこ?」

「そうですね、銀閣というから銀張りだと思ったという人も数多くいます。下が居住空間、上の階が仏堂という造りになっているんですよ。銀閣には諸説ありまして、銀箔を貼ろうとしたら財政難だった、あるいは貼る前に義政が亡くなってしまった。そして、それ以外にも日の光が漆を塗った部分に当たり、銀色に見えたからという説もあります」

「元々銀箔を貼ってた、とかは?」

「それはないそうですよ。何処かの誰かが調査をして、貼られていなかったということを調べた気がしますけど」

「なんか難しいな」


そろそろキャパオーバーのようだ。


池に綺麗に映り込んだその姿は日光の反射で夢のようにたゆたっている。

金閣寺は、それそのものが『極楽浄土』を意味するように造られたものだ。

銀閣は、それと対極に人のはかない姿を模したものかもしれないな、とそう感じた。


ガイドの人たちに案内されながら、あちらこちらと見ていく。少し忙しないのは、この後に金閣寺(鹿苑寺)、清水寺、龍安寺に行くためだろう。

静寂を味わう間もないままバスに乗り込むと次の目的地へ追いやられるように向かう。


金閣寺は、すごかった。


何がすごいかと言えば、その場所がすでに輝いているのはわかる。わかるのだが、あちこちからキラキラとした気配が漂ってきて、視界がとんでもなくうるさいのだ。


「や、やばいわよこれ……銀閣寺の方が何倍もいいわ……」

「目がっ、目がァーッ!!」

普通の景色にも慣れつつあった俺をしてかなりの殺傷能力のある視界。

しばらく、目が太陽をまともに見たときのようにチカチカしたままだった。


龍安寺に到着すると、座禅と警策地獄が待っていた。高田が肩を何度かべっちべちと叩かれていた。

「うううう……ジンジンする」

「ほら、あれが龍安寺の石庭ですよ」


15個ある石の一つが必ず見えないようになっている有名な石庭だ。別名虎の子渡しの庭とも言う。中国の故事にまつわる呼び名だ。

作者は不明だが、石庭の裏にはなにがしかの文字が刻まれており、作者ではないかと推定されているが、確定ではない。

また、片方だけが傾斜して水はけを良くしているということ、それから遠近法で奥行きを出していたという高度性。


現代よりも、よほど面倒な計算を繰り返したことだろう。


「夜行くん、そろそろ移動しよう。もう集合場所にみんなが行ってるよ」

「ああ、はい。わかりま——」

ドンッ、と衝撃が走る。

何が起きたか一瞬わからずに呆けた。いや、脳が理解を拒否した。


「……死神さんと、素盞嗚尊?」

「今の神気が、君が言ってたスサノオかい?」

「ええ。に、しても。派手過ぎませんか?やり口が」

昨日ここに移動してきたことを知っていたから、素盞嗚尊は動き出した。

「面倒な……」

「明日は、祖父に会いに行くんだろう。大怪我をするようなことは死神さんに任せておいた方がいいんじゃないか?」

俺はそっと目を閉じて感覚を探る。


「……死神さんの方が、断然優勢ですね」

「そうか。もしそれが崩れたら紙兵で誤魔化せるからね。少し血をもらっていいかな」

俺はためらいなく片手を差し出す。その指先に針が刺さり、ぷくりと赤い球が膨らんだ。

「これで君の情報はよし。これを使えば3時間は誤魔化せる、危なくなったらいつでも行くといいよ」

「ありがとうございます、陸塞」

俺が笑ってみせると、彼はわずかに寂しそうな顔をした。


「君さ。いつまでそう他人行儀な喋り方をしてるんだい?」

「……え、」

「母親がいた頃は、どういう風に話をしてた?」


……あの嵐の夜。

断られたあの日。

その時からだ。


「……そうですね……でも、多分これはこのまま、一生治らないんじゃないでしょうか」

「キレた時とかは、がっつり出てるじゃないか」

「まあ、癖みたいなものですよ。気にしないでください」

「はあ……まあ、そうだね。僕のこの口調も芝居がかってて気持ち悪いって……言われたしね……」

「誰に?」

「妹」


そう言えばいたなと思いつつも俺は萎れた陸塞を伴って、みんなの元へと戻っていった。


最後は、清水寺。

「全員油断しないようにしてくださいね」

「え?今から行くのって、お寺だろ?」

「ええ。ですが、結構曰くある土地なんですよ」


その昔、平安ごろは風葬、鳥葬とも言うが、貴族以外の人間が死ぬと決まった場所にそのまま放置されたそうだ。死体の山がゴロゴロ転がっているようなイメージだ。

それが、鳥辺野。清水寺のごく近くだ。


「文丸もそうですが、死体が多く捨てられていた場所の神は狂いやすいみたいですよ」

「それだけなら寺の中では安全なんじゃないか?」

「いえ、その寺の中にも呪い、まじないが集まる場所があります。そこに関しては、幾らかほころびもあるでしょうし」

「そうだね……用心に越したことはないかな」

そう言って、清水の舞台へと向かう。


背後から、ただただ息を耳にかけてくるような気持ち悪い奴がいる。

神気を感じるので、間違いなく妖。

……なんだが、これがなんなのか全く特定できないでいる。


「う、気持ち悪い鳥がいる」

イツマデ、イツマデと鳴いている人面鳥が、周囲をぐるぐると回りながら飛んでいる。

供養されていない死体だからだろうか?

以津真天(いつまで)と言い、あの鳥は死体を供養しないとか、葬らないとかいうところに出てきて、死体の供養を急かすのだ。

いつまで死体を置いているんだ、というところだろう。


そんなこんなで、背中に貼り付いているこの奴の名前が知りたいんだが。


妙に寒気がして鳥肌が立つ。両腕をこすっているうちに、高田が俺のことを見て、それからそっと目をそらした。

見捨てられた気分でいると、なんだかさらにぞわぞわしている。


もしや、震々(ぶるぶる)か?

「……はあ、対策法も思いつかないですしね……脅すか」

右手にこっそり神気を纏わせてから、それを襟元からひっぺがす。その灰色の艶やかな毛並みが綺麗な、小動物のような外見である。


「きぃい、きぃ」

「……あんまりおちょくってると、毛皮にしますよ?」

「きいいいい!?」


さかさかと小さな手足を動かして俺から逃げようとするが、その首根っこを俺が抑えているためその動きは意味がない。

「ま、悪ふざけはしすぎないことですね」

ぱっと手を離すと、そのまま清水の舞台からひゅーん……と落下して、舞台をすり抜けていった。


全く、妙なことをする。


いちいちああいう手合いにも意味を考えてしまう。そのせいで、迂闊に動くことすら難しくなって行く。


「クソが……」

そう悪態を吐いた直後、ふと声が聞こえてきた。

「うっそ、マジ本物かいな!?」

「あずあず写真撮ってええ?」


杏葉と、坂町、それから高田と陸塞が囲まれている。四人もいるのに囲まれてんなよ。つか陸塞お前男だろうが。

「なあ、そないな棒切れほかして、俺たちと遊ぼうや?ええやろ、な!」

「何するのよ。どいてちょうだい」

坂町の絶対零度の声が、その男たちを容赦なく襲うが、それで怯みはしない。

「ええやんええやん。な?」


俺はその一人の肩に手をかける。

「申し訳ありません。うちの生徒が、何かご迷惑をおかけしたでしょうか?」

ニッコリと、爽やかに笑ってみせると、その男たちの顔が引きつった。


「い、いや」

「そうですか。ああ、申し遅れました。私はこの方の警護を勤めさせていただいているものですが、交替がずれてしまったようで」

「……あ、ありがとうございます、夜行さん」

空気は読めるようになったか。俺を名前で呼ばなくて正解だ。


「夜行!?」

全員がその場から3歩ほど引いた。

「……どうかいたしましたか?顔色がよろしくないようですが……」

「い、いや、なんもっ!!」


その場からまろび出るようにして、男たちが去って行く。この周辺、あるいは同時期の修学旅行生なんだろう。

そして、夜行と言う名のこの辺りでの通りを実感した。


「……お兄様。頭がキレますわね」

「杏葉こそ、よくあの場でお兄様なんて言わなかったですね」

「褒めても五十万くらいしか出ませんよ」

「出すんですか五十万」

そんなアホな会話が終わり、その夕暮れを見守って、再び宿へと戻れば、その部屋にはちょこんと昨晩の座敷わらしの人形が座っていた。


これは今夜も遊べと言うお達しなのか?

まあ、それはそれで気が紛れそうでいいか。


「何だ?この人形」

「床の間に飾っとけよ。壊したらコトだぞ」

「へーい、了解」


人形は丁寧に床の間にある棚の上に置かれると、若干表情が緩んでいるように見えた。

多分、寂しかったんだろう。


そんな勝手な想像をしながら、一連の流れをこなすと座敷わらしからお呼びがかかった。

『お兄ちゃん……あーそーぼっ』

「仕方がないですね。今日は何をしますか」

『なにかおもしろいお話して……』


面白い話……。


俺は冷や汗をかきながら、口から出まかせのお姫様を鬼から救うお話をして、何とか喜んでもらえた。

『おもしろかった』

「そうですか。よかったです」

『お兄ちゃん……明日、なにか大変なんでしょ……知ってるよ……ちょっとだけど、手助けしてあげる……』


くすくす、とその笑いが残り香のようなエコーとなって消えると、俺は昨日のおかしなお座敷からタコ部屋の布団の上に転がされていた。


「な……」


何なんだよ、一体。

次回、夜行家へGO!

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