死神と修学旅行ですか? ②
たまに気が狂ったようにpv伸びることあるけどあれって何故なんだろうか。
「はい、じゃあ、とっとと風呂に入ってこいよー」
夕飯を食べ終わると、先生がパンパンと手を叩いた。食後のゆったりとした雰囲気が、ぱっと途切れてそれから生徒たちが動き出す。
「夜行、ちょっといい?」
「どうしたんです?」
「あのさ……なんかわかんねーけど、この旅館、変な気配がするんだよな。あ、悪意はなさそうだぞ。でも、なんか……」
「ふむ?死神さんなら何かわかりますかね?」
「ハーイよ・ん・だ?」
グラビアアイドルのような扇情的(?)なポーズを取っている死神さんに、呼んでねぇと思わず言いたくなるが、それをこらえて俺が事情を告げる。
「変な神気?俺の探知にはかかんねーな。相当弱いのか?」
「そこらの神気とおんなじ感じはするけど、少し違うっていうか……」
「はぁ?うーん、わかんねーな。そういえばさっきかけてもらった術が切れかけて弱く感じてるんじゃ……ね……?」
死神さんが自分の発言にびっくりしたように目を丸くする。
「それですね。原因を探るより、今は部屋に戻った方がいいでしょうか?」
「いや、悪い感じじゃない。少なくとも危害を加えることはないと思うぞ?」
高田が言うならまあ、問題はないか。
「では、どるるだけそちらにつけておきます。何かあったら、どるるに頼ってください」
「わかった。じゃ、風呂に入ってくる」
俺たちの風呂の時間がまだあるので、俺は一旦部屋に戻ることにした。
「あら、遅かったのね」
「……何でここにいるんですか?」
嫌そうな顔で返事をすると、みずながくいっと俺を指でこっちに招いた。
「なんでどるるちゃん付けたのよ」
「あんたの腕を信用しての結論ですよ。高田が巻き込まれたら即刻シメてやろうとか考えてませんよ」
「過保護か!……まあそれはいいわ。聞いたんでしょうね?」
「ええ。多分術の影響で感じ方がおかしくなってるんだと思います。失念していました。あっちこっちからいろんな気配がして、気持ち悪いくらいです」
「陰陽師でよかったわよほんとに……感知は紙兵に任せられるもの。真面目な話はこれで終わりよ。あとは陸塞に会いに来たのよ」
彼女が腕を組んで、それから俺を睨むように下から上まで見てから、フンッ、と鼻で笑った。
「陸塞の方がいいわね」
何こいつ。
それを言いたいがために一連のちょっと無駄な動作したのかよ。アホかこいつ。
「あれ?みずなじゃないか。ここにいたのか?みんな探してたよ?」
「今行くわ」
陸塞が声をかけると、今までの渋面が嘘のようにふわりと微笑んだ。その顔にドギマギしたように照れ笑う陸塞。
砂糖吐きそう。
俺たちが風呂に入る頃には、すっかり女子のローテが遅れて、俺の出た時間と高田の出た時間が重なっていた。
「あれ、仁義」
「……髪の毛はしっかり拭いてくださいよ」
いつも言ってるでしょうという言葉を飲み込んで、タオルでわっしゃわっしゃと拭いていく。
「ぬおおおお揺れる揺れる揺れる」
「あれからどうなんですか」
「んー、なかなか戻ってきた。あっち側に一匹、もう一匹はこっち側。そんで、屋根裏あたりとかをうろちょろしてるのが一匹。最後のだけが危害は加えないので、他は入ってくる気配もなし」
「そうですか。ありがとうございました」
すっかり乾きかけくらいになった髪を持っていた櫛で綺麗にしてやる。
「夜行の誕生日って、いつ?」
「六月一日ですね」
「俺は十一月一日。そっか、もうすぎちゃったんだな」
「高田は今から祝えますね。その日は食べたいものフルコースにしてやりますけど、何がいいですか?」
「ん?……そーだな、ちょっと考えさして」
「はいはい」
俺は早々に部屋に戻ると、俺たちの班はまだ誰も帰ってきておらず、違う班の男子だけがいた。
「あ、どーも」
「調理班の…………」
「長い沈黙だなあ。益岡 夕陽だよ、よろしく」
おっとりと笑うその顔だが、調理の時は凄みを帯びていたのを俺は見ていたぞ。あれは怖かった。
般若かと思った。
「あー、えっと……」
沈黙がその場を支配する。
「なあなあその人って、お前んとこのイケメンくんだろ?見ててスッゲーと思ったんだよー!」
「ああ、このテンションが高いのは柳 京一。アホの子だよ」
益岡がサラッと毒を吐くと、おかしー!と叫びながら、柳がゲラゲラと転げ回った。
「柳は俺と腐れ縁でね……何が楽しいか知らないけどこうやって僕の友達やってるんだ」
「そうですか」
自虐ネタも混ぜてきたよこの人。
「ああそうそう、それでさ。前から気になってたんだけど……高田さんとはどうやって付き合ったの?」
どうやって、か。
「うーん…………殴り合いました」
「やだなあそんな血なまぐさい話期待してなかったよー」
ずっぱりと言い切られる。
「それで?キスはもうした?」
「しましたね。勢いつけすぎて口の中切れましたけど」
「……わぁ、さすがリア充だね。まあいいか。そういえばさ、坂町のお姉さんとあの朱雀院くん……だっけ?付き合ってるの?」
「え!?付き合ってるの!?俺あの子狙いだったんだけど……!?」
「柳ちょっと黙ってて、今いいとこだから。じゃないとその口縫い付けるよ」
ヘラヘラと笑いながらひどいもんである。
俺は正直に答えようと口を開きかけた。しかし、それは背後から来た陸塞に、おしとどめられた。
「やあ夜行くん君一体何しようとしてるのかな!?」
「いやあ陸塞のヘタレっぷりを包み隠すことなく一から百まで開示しようと思っております」
「やめてくれるかな!?」
そのあと山田と竹下が戻ってくると、部屋が騒がしさを増して行く。
俺は飛んでくる枕を全て避けきりながら、夜に出ることを考えていた。
十二時を少し回ったあたりで、俺は高田の部屋の窓を覗いた。はしゃいでいる友人がいたが、トイレと言って抜け出して来たらしい。
「あとカモフラージュは坂町さんに任せて来たし!」
「そうですか。じゃ、少しいきましょうか」
夜になり、さらに派手さを撒き散らすかのごとくその場にきらめく光。俺たちは旅館を真上から見下ろして、それからこちらへ向かってくる何かを見つける。
死神だ。それも、色のある。
ルタとイザナミ様からわかっていたが、その衣には緑色が付いている。
『素盞嗚尊』だ。
みずらの髪型、首には勾玉をかけている。
「……ああ?んだよ、死神かよ。そっちのねーちゃんは……胸はねーし背はでけーし」
ジロジロと舐めるような目で高田を見て、それから一言唾を吐いて、にいっと笑った。
「論外」
「それは幸せですね」
俺の軽口にも相手はその笑いを崩さない。
「そうだろ?で、お前らさあ、こんくらいの身長で、真っ黒いの見なかった?」
俺はふっと笑った。
「さあ?」
「なーんだ、知らねぇの?じゃいいや、死ねよ」
その手にあった鎌が無造作に振り下ろされた瞬間、俺の目の前には翡翠色の結界が構築される。
ぐうっと壁がしなり、飛んで来た斬撃があらぬ方向へと飛んだ。
「何それ!?チョー面白いんですけど。あー、まあ、それに免じてその死神見かけたらさ、またそうやって出て来てよ。あんたなかなか面白いから」
……今のは高田がやったんだが。
「それに、お前あれだろ?マガヨを喰っちまったやつだろ?」
「……そうですね」
「なら完璧だ。あんたは面白いよ。クックック、ま、何かこの街に起こりそうな気配もするから今はそっちの方にかかりきるけどな」
ゲラゲラと笑いながら、彼は立ち去っていった。
「邪魔が入りましたけど、気を取り直して。変な気配について調べてみましょうか」
「おう」
俺たちはもう一度その気配の方へと向かっていくと、その場所に降り立った。
「気配としては、薄くて追いにくい、そして素早いですね。近づけばわかりますが」
立派な襖をすり抜けて間も無く、周囲からは子供の幼い笑い声が周囲から反響するように聞こえて来た。途端、足元を取られてどんっ、と転がる。
いや、今のはおかしい。
足元を取られて転がったら、絶対床下に落ちていたはずだ。
「夜行、これ……」
「ああ。空間に閉じ込められたな」
「危害を加えるつもりはなさそうだと思ってたんだけど……」
申し訳なさそうに言う高田。
「いや、これは『危害を加える気の無い』相手がこういった手段を用いると予想できなかった俺にも責任がありますし、あまり申し訳なく思わなくてもいいですよ」
それよりも今は、周りの状況。
「たぶん、やるのは『かくれんぼ』でしょうね」
大きく息を吸うと、「もういいかい!」と叫んだ。
「まぁーだだよー……くすくすくす……」
幾度かそのやり取りを繰り返すと、「もういいよぉー」という声がした。
俺は高田と顔を見合わせて、襖を開けた。その中では、子供のおもちゃが足の踏み場もないくらいに散乱していた。積まれた木箱や段ボールが、さらにおもちゃ箱をひっくり返したような様相を見せている。
「……なんですこれ」
「わからない……けど、感じ的にはあっち側にいる気がする!」
「面倒な」
俺は舌打ちをしつつも、丁寧に探していく。
箱の中までしっかり確認して。
「……うー……見当たらない……」
高田が珍しく弱音を吐く。
くすくすくす、という笑い声が聞こえた。どうも相手は本気で楽しんでいるようだ。
子供。子供、か。
「……まてよ」
ふと思い出したことがあった。
人形を重点的に手に取り、その神気の流れを片眼でじっと見る。
「違う。これも……これもだ」
「夜行?何かわかったのか?」
「多分相手は座敷童だ。いたずら好きだが基本的には害がない……そして、伝承によっては人形などの……あった!」
俺は一つの赤い着物の尼削ぎの髪をした人形を取り上げた。
「……本体を持っている」
「それじゃ、これで……」
二人で声を揃えて叫ぶ。
「みーつけた!!」
周囲の笑い声が、くすくすくす……と遠ざかっていく。
「楽しかったよ……ばいばい」
そう言って、彼か彼女かわからないが、その声とともに空間が切り替わった。
「今度からこういうのも対策しないとダメですね……」
二人で顔を見合わせて、気が抜けたように笑った。
サブタイに番号を振ったこと、今更ながらちょっと後悔している。




