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死神の武器ですか?

すごいね……三万文字が五話で突破しそうだったよ。してないけど。


一人も読んでなかったら心折られてるところだよ。

「それで、武器を出すにはどうしたらいいんですか」

「こう、ぐっとやってさらにぐぐぐっと……」

要するに濃縮すればするほど出やすいと。

このお粗末すぎる思考がだんだん読めるようになってきたことがかなり泣きたくなる。侘しい。


「あ、どんな武器がいいかも考えながらやれよ。じゃねーと変なの出てくるから」

変なのって、そりゃあ確かに自分の妄想だし恥ずかしくなること請け合いだろうに。


まずは、どんな武器がいいか考えなくてはいけないのか。……うわぁ正気に戻るんじゃねぇ俺。

恥ずかしくて死ねる。


ぶっちゃけて言うなら大鎌は使いづらい。斬ることにも殴ることにもそう向いてはいないからだ。そして、その点有利になるのは、薙鎌。棒に対して直角に刃を取り付けた、薙刀のことだ。

敵と至近距離で打ち合うことが必要だから、搦め手になると鎖鎌なども面白いかもしれない。


……楽しいが、我に帰ると非常に恥ずかしさが押し寄せてくるな。いや、第一あんな格好して戦闘することを余儀なくされているんだからその時点で既に恥ずかしいか。


このひねた根性の俺の発露が、(ぶき)なのだろう。


俺は圧縮を始める。最初に比べればずっと早く圧縮できるようになった。だが、まだだ。

もっと縮め、押し込め、質量を持つまでにして。


痛みが走る。構うものか。

体が裂けそうに痛み、脂汗が滲み出てくる。その横で、死神さんの眉が跳ね上がった。


俺はギシギシと痛む体を、気力を振り絞り——そして、死神さんに肩を叩かれて霧散した。無理やり神気の流れを止められて、俺は一瞬呆ける。


「……え、」

「ダメだ。お前はこのままだと、ダメだ」

「なに、がですか?」

あと少し。あと少しだったのに。どうして邪魔をしたんだろうか?

悲しさと怒りがごちゃ混ぜになって、体が震える。


理由なくそういうことはしない。そう分かっているから、当たるに当たれず俺は口をつぐむ。死神さんは、あーとかうーとか言いながら言葉を探すようにしばらくさ迷わせていたが、ようやく思いついたように喋り始める。


「……仁義。お前さ、なんで自分の力を押さえつけてんだ?」

「はい?」

神気(それ)はお前自身の力だ。お前は押さえつけてたけどな、そんなことをする必要なんてねーぞ?」

「……いや、でも。そうしないと、圧縮はうまくいかなくって」

「んー、難しいんだよなあお前の考えてること。考えすぎだろ。だいたい、俺の姿を認識できてる時点で目には神気が行ってるだろ?無意識なんだよ、そういうのは」


確かにそうだ。けれど、無意識のうちに圧縮しろだなんて、無茶を言う。

無意識下の圧縮制御なんて、ほとんど反射に近しい行為で、そのためには今よりも神気の制御を完璧にしなければ——。

「また難しいこと考えてやがるな?」

「ぐぁうっ!?」

目の前に火花が散ったように錯覚した。デコピンだ。

しかし凶悪すぎる。

二本の指で放たれたとは到底思えないそんな衝撃に、俺は地面に転がされ、遅れてやってきた痛みにうめく。

「くぅうううっ……」

「あ、ごめ……ちょっとやりすぎた」

「うぅううう(略)」


俺の痛みがなんとかジンジンするくらいになると、死神さんは話を再開する。

「仁義、お前自分が手を前に出す時には手を動かすことしか考えてねーだろ。それと同じだよ。お前はただ圧縮することだけ考えてみればいい。そんでもって、後のことは意識するな」


思いの外まともなアドバイスが飛んできて、面食らう。そして、その面食らった事実にげんなりとする。

これじゃあ死神さんが無能丸出しみたいじゃないか。天才だぞ。一応。

いつもまともなアドバイスが出ないだけで無能ではない。

……言語的には無才だ。


「じゃあ、やってみます」

「おう。気楽にいけよ」

再度、今度は流れに少し手を加えることを考えて、動かす。全てをコントロールするのではなく、要所要所で手を加えるだけ。大規模な改変は抑えておく。

制御というよりは、手入れというのに近い。整えて、流れが悪い場所を意識して、流すだけ。


なるほど、確かに「適当」だ。

俺はただ圧縮することだけを考える。痛みは少ない。ただ、流れを意識して、そこに俺の意思を垂らすだけ。

煮詰まるように、どろっとしていく。


一回目、武器のイメージに集中しすぎて、流れの方をおろそかにして失敗。

二回目、流れが全くまとまらずに失敗。

三回目、集中が途切れて来て、神気の動きが重くなり、失敗。

一度ここで休憩を入れて、再度チャレンジする。


四、五回目は、武器のイメージが曖昧になって、神気が雲散霧消した。

六回目。わけのわからない塊が出現しそうになった。恐ろしくて、具現化は未遂で止める。

……はっきりイメージをするとそういうことが起きやすいらしく、鎌に対して要求したいことを考えるだけの方が良いと言われた。

一度、頭の中でしっかりと要望を思い浮かべて、しっかりと休憩をする。


そしてチャレンジを始めてから六時間、すでに時刻は夜十一時半。

七回目にしてようやく流れがスムーズになり、そしてそれにようやく乗ることができた。意思をわずかに加えて行くと、あるところで流れが渦を巻いて、だんだんと圧縮し始める。

そして、神気が煮詰まったようにどろっとしたが、その速度は変えない。

このコツをつかむのに、六回も要したのだ。今回こそ、成功させてみせる。


そして、武器の情報を、その重みを、はっきり意識しながら、俺は。


ふと、手の中に残る感触に、俺は現実へと呼び戻される。


白と黒の一メートル半くらいの鎌が、両手に握られていた。そして、その間をつなぐのは、長い鈍色の鎖。

手元には何かがくっついていて、いじると刃の部分にある歯車様のギミックが動き、刃の角度が柄に対して直角から百八十度まで変わった。


「うわ……痛々しい」

思わず呟いた。

俺の思考全部トレースした武器じゃねーか。

恥ずかしい。


しかも、なんかギミックが付いているところがさらに恥ずかしさを煽る。イメージ的にはかなりざっくりと鎖があるとか、柄に垂直な刃がいいだとか要点だけをはっきり意識するようにしていたので、まさかこんなギミックが付いてくるとは思わなかった。


「うわー、また変則的な武器出したなお前。普通は決めかねてやっぱ大鎌ってのが普通だぞ?」

「……ええそうですね。使いこなすには時間がかかりそうです」

「まあ、俺レベルになれば?大鎌は数日で師匠から及第もらってるし?使い方も教えてやれるぜ?」

師匠と呼べ!と言わんばかりの視線が飛んでくるが、ここがスルーを決め込み放置する。


しばらく落ち込んでいたが、俺があれこれと試しているのを見て、復活して話しかけてくる。


「あ、それ鎖、多分神気流せば操れるから」

「……そんなことできるんですか?」

「神気の流れはそこに繋がってるからな。身体から離し過ぎりゃ鎌も消える。けど、今より格段に細かいコントロールしなきゃいけないからほぼ無理じゃね?」

それは、まあ、そうだと思ってたよ。


試しに鎖を形成している鉄の環の一つに神気を流し込んでみると、一つが浮いた。鎖の音はほとんど聞こえない。

元々の重さもそうあるわけではないが、うまく使えば面白そうだ。

他の鎖は引っ張られて、持ち上がる。


……もしかしてこれ、いくつかを操れば鎖をうまく動かせるんじゃないか?

それに、こうやって動かせるということは、今は飛べていない体もこうやって浮かせばいいのか、と感心する。


死神さんはこれを狙ってやったわけじゃないはずなのに、妙にこううまくいってしまうところは釈然としない。

なんにせよ、飛び方までマスターできそうだ。


「それにしてもお前の武器いやらしいな。本人の性格出てるぜ」

「それくらいは自覚済みです」

「自覚してんなら直せよ」

「死ねと?」

「そうそうこの性格は死ななきゃ治んねえ……ってお前の自虐ネタはシャレにならない気がするからやめろよ!」

真顔だから余計に真剣に見えるのが原因だとさらに怒られた。

意識してこうなのだが。


戦闘しながらじゃなくても、一個か二個が限度だ。しかし、それを自在に操ることさえできればかなり自由度は高い武器になる。例えば、相手の足に引っ掛けたり、相手が倒したと思って去ったときに背を向けた相手に奇襲をかけるなりなんなり。


「ちなみに、神気込めすぎるとすげえ重くなっから気をつけろよ?持てるくらいにしておけ」

「自分で持てないほど込める人がいるってことですか?」

「ああ。俺に襲いかかって来た死神の何人かが技にスピードと重さつけようとして、勢い余ってそれやってたから」

「……バカを襲うもまたバカか」

「さらっと俺のことディスるのやめろよな。地味に心が痛いんだけど」

「いやですねぇ、コレは俺なりの親愛の表現ですよ」

「イヤな笑い方しながら言うなっ!!信憑性が音速で砕け散ってるから!」


複雑な武器は、習得に時間がいる。

死神さんがいるからこそ、できる試みではある。普通は自分の身を守るために、簡単な仕組みの鎌だけを出して早めに扱えるようにして、庇護もなしに頑張らなくてはならないからだ。


ただし、俺は未だ浮けるようになってもいない。他の死神は元々浮く生活だったと言っていたから、俺と彼らには大きなアドバンテージの隔たりがある。そこを埋めるためには、ひたすら戦う技術を身につけること。

土日は、ある程度学校の授業の復習をしたら、死神さんと戦わせてもらおう。


土曜日。

死神さんの一撃で満身創痍になっている俺がいた。


なんなんだよあれ。

なんなんだよあれ。

大事なことなので二回言った。


全てを圧倒的な威力で飲み込んでいく、自然災害のレベルで放たれた一撃。そして、避けるべきだと頭は理解していても、動けなかった。

認識はできても、反応ができなかった。


一歩も、一ミリでさえ、指も動かせずに俺は吹っ飛ばされた。もちろん峰打ち(?)だったが、その威力たるやダンプカーで轢かれたかと思った。

本人曰く手加減済みだったらしい。

嘘だろ。


幸いにして、一日ゆっくりしてさえいれば俺の体は治ったが、日曜日は死神さんがばつの悪そうな顔でちょっと手加減の練習してくると言って、そそくさと消えてしまったため、俺は一日暇になってしまった。


ふと、アラビアータが食べたくなって、トマトピューレを買いに行こうと思ったが、どうせなら奮発して塊のパルメザンチーズを削ってかけようと思い、それも買いに行くことに。ついでに生活用品もいくつか買い足さなければならない。キッチンペーパーとアルミホイルが切れそうだ。あとは、洗面所の電球も。

ならば、近くのスーパーではなく、もう少し大きいところに買いに行こう。


仕方ない。行くか、ショッピングモール。


どるるを撫でながら服を着替えて、カバンを持って行く。あそこの食料品店のレジ袋は有料だし、エコバッグも持って行かなければ。


あとは、服を買わなくてはダメだろう。昨日死神さんに斬られてベッドに横になるときに着ていた古いパジャマは、捨てなきゃダメだろう。……血まみれだから。

コレは半透明ゴミ袋に入れるには勇気がいる代物だ。血がついた部分を水である程度流しておいて、それから捨てよう。


それに、去年たしか虫除けスプレーは切らしたはずだ。アスレチックに行くなら、あったほうが絶対にいいはずだ。


このとき俺は、色々と失念していたんだと思う。

駅前集合した奴らが買い物する場所はどこかなんて、ほとんど決まり切ったことじゃねーか、と。


一時間後には、その決断をしたことを後悔していた。

お読みいただき、ありがとうございました。

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