死神は抜かりないですか?
今回妖怪ほとんど関係ないっす。
でも京都編になってからボコボコ出す予定。
「うわ、人が多い……」
十月間際のこの季節、修学旅行のために買い出しに出ているうちの高校の生徒もちらほらといるらしく、高田が色々と話していた。
今日は都心近くまで来ている。俺も高田もスーツケースやら旅行カバンは持ち合わせていない。
そりゃ一人で旅行することなんてなかったし。
というわけで今日は俺はお財布である。
今の季節から先の私服も、そこそこ数は揃えておいた方がいいだろう。
「高田、これはどうですか?」
「え!?いや、いいって……」
俺はぽいぽいと買い物かごに着回しを考えながら入れて行く。みるみるうちに高田の顔が青くなっていくが、必要な分だと断言できる程度だ、問題ない。
「のあー!?もう、めっちゃ高いじゃん!?」
「甘いですね。ここは量販店ですから安めですよ?それにセールの品をこちとら狙って来てます。ヒートクロスが今ならなんと三枚で千五百円なんです」
「なんだと!?」
そんな会話を幾度か繰り広げながら、スーツケースを購入して、今までの荷物を中に入れると、一息つく。
「ふう……どうです?」
「うぐぐ……俺の今までの生活が俺にダメ出しをして来る」
とても悔しそうな顔でそうつぶやくから、ことさらにニヤリとしてみせる。
「ついでにお昼も、外で食べて行っちゃいます?」
「え!?いいの!?」
ウキウキした表情の高田。やっぱり食欲が優先されるか。食べ物で釣れる奴が多いな、俺の近くにいる奴。
あと必要なものは。
「何かお菓子を買いに行きましょうか」
「お菓子?」
「何買うの」
「わーいお菓子お菓子」
見たことのあるちびっこ二人が、足元にまとわりついて来る。
この和服エプロンは間違いなく……ミズハとハニーだ。そしてこいつらがいるということは、だ。
「ちょ、待てって……何っ!?陰険鬼畜メガネ!?」
「メガネは抜いてもらえます?本体は今空の彼方に鎮座していますので」
「意味わかんねえよ。だいたい、なんでお前がこんなとこにいるんだよ」
俺は高田の手を取って、ニヤニヤと笑いを返す。
「デートですよ。見ればわかりますでしょう?子連れ狼」
「あ!?てめェ、さてはバカにしてやがんな?ナメてんじゃねえぞ」
「申し訳ありません、本気で相手する要素ってどこかにありましたっけ?」
「てめー……」
切れて殴りかかって来そうになるが、その両足にぺとっとひっつく二人組。
「ユウマ。喧嘩、めっ」
「危ないの、絶対めっ」
「うっ」
双子の死神に睨まれて、しおしおとその動きが止まる。俺の脳裏に一瞬、紳士という言葉が浮かんだが、気にしないでおく。
そう、こいつはただの子供好き。
ただの子供好き……。
「なあ仁義、こいつもしかしてロリコンか?」
「……ぐぁっ!?」
高田ぁああああ!?
とんだ場所に伏兵がいた。いやこれを言ったらおしまいかなとか思ってたから俺は言わなかったんだが、高田……。
言っちゃうのか。
まあ、それならそれで面白いかと乗っかってみる。
「え?あれ?……図星?」
「ちげぇよ!?」
「いや、多分ただの子供好きですから。幼女の範疇だけにとどまらないと思います」
「え?子供ならなんでもオッケーなの?」
「くぉらぁ!!そこの陰険鬼畜、わざわざ誤解を招く言い方するんじゃねえよ!!俺は、普通に子供と遊ぶのが好きなんだよ!!」
周囲の人から生温かい視線が降り注いで、ようやく何が起こったか把握し、その顔が真っ赤に染まっていく。
ヤンキーが子供好きか、と周囲の見方が『目を合わせてはいけない人』から『子供好きのはっちゃけた兄ちゃん』に変わっている。
諦めろ。
「もう……やだ」
「ははっ、じゃあすぐそこのストバでならいっぱいくらい奢りますよ?」
「俺の発言が明らかに聞かれてる範囲を選ぶんじゃねえよ!?」
こいつなかなかにいいツッコミをしてくれるので、ついついからかいすぎてしまうのはいけないな。
高田が悩んだ末にキャラメルラテを、俺は無糖のブラック、伊吹がココアを。ここで店員さんに伊吹が生ぬるい目で見られていたのは割愛しておこう。
席に座り、会話が弾む。
「にしても、そっちのねーちゃんが誰だかわかんなかったぜ。見違えたな」
「仁義の見立てに間違いはねーからな!」
「へえ、仲が良いんだな。あー、俺も彼女欲しい……」
「うちの妹を紹介しましょうか?あれでなかなかじゃじゃ馬ですし面白いですよ」
「やだよ、あのボンテージの子だろ。俺のあずあずの姿があれで砕け散ったんだよ……」
俺はふと何かが気になって、高田に聞く。
「……そういえばなんで名前で呼んでるんです?」
「ん?ヘッヘッヘ」
にへぇ、と緩んだ笑みのほっぺたをつまんで変顔をさせると、伊吹がゴフッと吹き出した。
「汚いですよ?」
「……いい度胸じゃねえか……」
「ほら、俺のお手拭きも貸してあげますから」
「サンキュ……ってお前が吹かせたんじゃねーか!」
いかん。遊びすぎは良くない。
「死神さんに聞いたんですが、どうもきな臭いですね」
「死神さん……ああ、あの捕まってたやつ?」
「はい。どうも神になることを迫られそうで……」
「あん?神?」
「はい。あの人結婚してたんですが、神への勧誘を受けたっぽいんですけど、断って奥さん失ったっぽいんですよ」
「はあ!?なんかえれー壮大な話だな」
おそらくは、人としての生に終止符を打たせるために。
「俺としては、まだまだ生を謳歌したいところですね」
「何それ、俺聞いてないんだけど」
高田がぎっとこちらを睨む。俺は頰をきまり悪げに少しだけ掻くと、黙っていたことへの謝罪をした。
「すいません。まだ自分の中でも消化しきれてなかったので……」
「ま、まあ、別にいいんだけど。夜行はどうしたいと思った?」
「……むろん、このままが一番いいとは思います。けれど、死神さんのように全てを失っても死神を続けたいというのはそれは違う気がする」
俺はきゅっと眉を寄せる。
「……一応、交渉をするとかは考えてはあるんですよ。けれど、相手が俺の話を聞いてくれない可能性が高い」
ざわつく店内と対照的にそのテーブルは冷え切った沈黙に包まれた。
「それでも、一縷の望みみたいなものですけど、死神さんに頼ることはできそうですから」
「……ああ、まあ、お前らにはハニーの恩もあるしな」
そりゃあそうだろうが……ハニーの。
ハニーの。
「……前から思ってたんですけど、そのハニーっていうのは誰が決めたんです?」
「わたし」
ちっこい方から二つ手が上がる。伊吹が若干ぶら下がり健康器にすら見えてくる。
「ハニーというのは、海外では恋人を意味することもあります。あまり連呼しない方がいいと思いますよ」
「……マジで!?」
「ええ」
「ちっ、バレたか。……ミズハ、どうしよう」
「ベターハーフとかいえば?」
ちびっこ二人は確信犯のようだ。
「じゃあ、そういうことですから」
「ああ。まあ、……なんかあったら呼べよ。伊吹の権力もどーんと使ってやる」
「それには不安しか感じませんが……」
連絡先を交換できたので、まあ良しとしよう。
買い物はまだ途中だ。
持ち運び可能なヘアアイロン。高田はかなり寝癖がひどい。
それから歯ブラシとか洗顔などのお泊まりセット。化粧水なんかも用意しておかなければならない。
「それと、下着も必要ですけど……どうしたんですか?」
「む、無理……あんなひらひらふわふわの空間に俺、入れない……」
そこだけピンク色の空気を放っているのは同意するが、前に母親と買い物に来たことがあるのでそう気後れはない。
変にそわそわしているからダメなのだ。
こういうのは堂々としていた方がいい。
「ほら、行きますよ」
「うぇえええ」
店員さんにおかしな目で見られながらも、俺たちがその空間の中に入る。
「すいません。サイズ測ってもらっていいですか?」
「え!?夜行これどういうこと!?ちょ、おーい!?」
店員さんにニコニコされてドナられた高田を見送って、もう一人の店員さんに「カップルですか?」と話しかけられる。
「……はい」
「そうですか。あちらの彼女さんでしたら、こちらなんてどうでしょう?」
「あー……あの、ノンワイヤーで、そういう感じのってありますか?結構長いことスポーツブラだったの……で……」
いや。
なんか急に気恥ずかしさが襲って来た。
顔に血液が集まるのがわかる。
「ええ、はい、ございますよ」
店員さんにめちゃくちゃ微笑ましいと言わんばかりの顔でおっとりと言われる。
高田が真っ赤な顔をしながら戻って来た。
「おう……あんな感じで測るのね……寄せて、あげられたけど贅肉はない……」
「いくつぐらいでした?」
「聞く!?それ聞く!?」
「まあ、察するにB70くらいでしょうね」
「っつお!?なんで知ってんの!?エスパーか!?さては貴様エスパーか!!」
あたりだったようで、ポコポコ叩かれた。
足りなかったタオルなども用意して、これで必要最低限のものはようやく整った。
「ああ、すいません。ついでに本屋と電気屋に寄って行ってもいいですか?」
「何買うの?」
「ちょっとした法律の本と録音機器ですね。シャクですが、あのくだんのクソジジイに嵌められると怖いですから」
「……闇が深いなー」
「高田はついでにトランプとかを雑貨屋で買って来てください。買うものはわかっていますし、俺の方もすぐですから。雑貨屋の外で待ってます」
「わかった!」
すぐさま電気屋の中に入り、ICレコーダーを購入すると、そのまま最上階の本屋まで階段を駆け上る。
そして、法律関係の書籍を購入して、十分後にはすでに雑貨屋の前へ。
「うわっ!?お待たせー……大丈夫か?」
「いや、荷物は高田に任せたので、待たせてはいけないと思ったんですが……」
「あのな、俺も非力ってわけじゃないからな。そろそろ帰ろうぜ。疲れただろ」
「……ええ」
帰る途中で、お菓子のことを思い出して二人でコンビニで買い漁った。
危なかった。
多分これで忘れ物はないはずだ。
翌朝、集合場所の校庭に到着すると、高田がこちらを見て青ざめた。
「仁義……しおり、忘れた……」
「事前にもう一部もらっておいたので、問題ないですよ」
「用意がいいってレベルじゃねーぞそれ」
ツッコミは総スルーさせてもらった。
修学旅行が始まります……。
ですが私修学旅行は海外組なのでした。
小学校の時は入院してて行ってないでーす。
これで京都を目的地にするなんてっ……無謀だなぁ……。