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死神と告白ラッシュですか? 後編

粗が目立ってしまってすいません。

メイン話は細かく作り込めるんだけどなあ……。

悪意が膨れ上がっている。

「場所は!?」

『東側の、掃除用具置き場だ』

「このすぐ近くじゃないですか!?」


俺は保健室から出ていくと、すぐに掃除用具置き場の扉に耳を当てた。

男の声が聞こえる。俺は心臓をドキドキさせながら、じっとしていると、声がピタリと止んで、それから一人の男が喋り出した。

『ここは誰も来ない。安心して、あの憎っくきモテ男夜行 仁義について語り合おうじゃないか……』

オウ!という野太い声が中から響いてくる。

俺が文丸をジロリと睨んだ。

文丸は口笛を吹きながら視線をそらす。

俺の悪口大会かよ。そりゃあ捗るわ。


「……なんか言いたい放題言われてるな。顔面詐欺とか罵詈雑言男とか」

「こっちも言いたくて言ってませんよ失礼な……」

死神さんの逐一の報告に俺のメンタルが音を立てて削れている。

ただしベクトルが怒りでなく悲しい方向性にだけどね。ハハッ、嫌われ者街道まっしぐらだぜ。


「っていうかここに誰も来ないのって、陸塞の人払い結界のせいじゃないですか」

「余波レベルではあるな」

「……もう中に入って彼女はいるって言ったほうがいいんでしょうか?」

「好きにすればいいんじゃね?」

諦めたように死神さんが空中に寝転ぶようなポーズになる。

よしきた。


俺が扉をそっと押し開ける。

「こんにちは」

俺の顔を目視した人間が、一斉にがちんと口を閉じた。

「…………あ、いや、その」

「別に言われても構いませんけど。それに俺は、もう彼女いるんで」

え、という男たちの心なき声が聞こえたような気がした。


「誰!?どこの誰なんだ!?」

「坂町さんか!?それとも園原さんか!?」

「頼む!!教えてくれ!!」

俺は眉間をもみほぐすようにしながら、一歩後ずさる。

「…………高田」

背後から、幽鬼のように歩いてきた男がぽん、と肩を叩いた。

足音殺してきても気配は殺せない。殺気を飛ばしているならなおさらわかる。

山田一総、やっぱりこいつか。


「高田のことだよね?」

「や、山田……」

「そうなのか!?」


全員が安心したような声を漏らした。山田は俺を睨んだまま、肩を掴んで離さない。

「みんなわかってないよなあ。あんなに良い子なんだけど」

「え、ああ、はい……」

「まあ、いいけどさ。……ったく、幼馴染ほど辛い立場はねえっての」


ここは収めておくから、お前は出てけと言われて外に出される。

「……えっと……もしかしてかなりどうでも良い悪意にまで文丸は反応するんですか?」

『……ぐぬぅ……そうだ。でも、お前も早合点してついてきたではないか』

「まあお互い様ですね。そうすると問題になるのは、生徒会メンバー本人たちですか」


俺は立ち上がると、生徒会室に向かった。

「あら……?君は確か、」

「はい。この間は、色々と」

「ああそれは、うちの方もかなり助かったことだから良いのよ。それより、腕、大丈夫?」

「骨は折れましたが、神経などに異常はないそうです」

「そう?それは不幸中の幸いね。今体育館の方に来てて、それで、園原さん?」

「いえ。今日はちょっとお聞きしたいことがありまして……」


後ろの人たちにも視線をちらりと向けると、「良いわよ。麦茶くらいは出せるわ」とため息まじりに許可を下された。


「それでは、お言葉に甘えまして」

俺は一番下座に座ると、それぞれ名前を聞いていく。

「生徒会長の、友田(ともだ) 明宏(あきひろ)です。この間は、うちの書記をどうも」

真面目そうな好青年だが、良い人どまりになりそうな外見。

「副生徒会長の下野(しもの) 裕子(ゆうこ)です。よろしくね」

目立った感じはないものの黒髪の淑やかな少女がニッコリと笑う。

「書記一号!笹野(ささの) まひろでーす」

ふわふわの天然そうな彼女が、ニッコリ笑う。帰ったらチーズスフレ作ろう、食べたくなった。

「そして、書記二号の園原 千代でお送りいたします」

「何をですか」


思わずツッコミを入れるが、二人とも無表情でお送りします。


「俺が例の物を受け止めた後にちらっと見たのですが、どうもその『ふたつの物がいっぺんに落ちて来た』ということに疑問を覚えまして……」

「なるほど。そうですね、それに関しては当事者ですから……。実際、今警察が入っています。生徒に無用なパニックを起こさないように事前に通達したりはしておりません」

「そうですか。仮に事故でないとするなら、心当たりに思うことなどは?」


「……僕は自分の生徒会長をしている学校の生徒を信頼しているよ。そんなことは、起こり得ない」

「私はバンドの人たちが怪しいと思うけどなー」

「口がすぎるわよ、まひろ」

「……ええ?ゆうちゃんはおかしいとか思わない?だって、私の出た劇にあんなことが起きたんだよ?あの人達も許さないって言ってたでしょ」

「まひろさん」


制止するような響きを持った園原さんの声に、全員がおし黙る。

「……ごめんね。この子昔演劇部で、演ることに人一倍熱意があったの。部長との方針の違いで、やめちゃったけどね」

「……だいたい、あの部長のせいで」

「はいはい」

よしよし、と頭を撫でているのを見て、園原さんを少し借りて外に出る。


「どう思いますか?」

「疑いたくはありませんが」

きゅっと右手が左手の裾をつまむ。

「……まひろさんが、気になります」

「どちらも?」

「いいえ。……具体的に言えば、カーテンレールの方です」

「なぜ?」

「彼女が『ヒロイン』をやりたがったこと。そして、古典的な劇を好むという二点ですね」


ああ、なるほど。

それなら動機の説明はつく。俺は考え始める。

もし彼女がそうしていたならば。

カーテンレールという大仰なものが落下した。そうすると、舞台は中止になりうる。

古典的な劇の主役をやりたがった故のことと考えれば、まあ考えにくくもない。

見抜けなかったのは、ワイヤーをある程度切った後どれくらいの時間で落ちるか。


そして、その場所に誰も立たないような場所のカーテンレールを落とした、そういう筋書きにはなるんだろう。

落ちたそこに彼女がいたのは、高田が『照明から』彼女を守ったため。


まあ、いくらか怪しい点があるので彼女がやったと断言はできそうもない。

劇を中止にしたいなら落としてしまうことも考えるべきだっただろうし、そもそも彼女が劇という事自体を愛しているなら、そんなことをやるはずはない。

それに、照明の方はどう説明したらいいんだろう。

うーん、難しくなってきたが、要は照明とレールの犯人は別々だということだ。


「これは、もう一つ何かがいりそうですけど……どるる?」

「る!」

「あっちに何か?」

『む?……どうやら、陰鬱な気が音楽室に集まっているようだ』

「音楽室?」

どるるの示した方向を見て、文丸がそう告げる。

「バンドの人たちが、いるところです。転身した方が早いですね」

「いきましょう」


俺たちがその場所にたどり着くと、扉の中から強烈な嫌悪感を催す何かが呻く声が聞こえて、全員で顔を見合わせてから中に入る。


ポコポコと膨れ上がったような何かから緑色の燐光があちらこちらに弾け飛び、その染めた金髪を照らしている。

一人の生徒は床に仰向けに倒れて、呻く物体に押しつぶされて、さらにその生徒の腹の上に、もぞもぞとなにか半透明のものが動いている。


「うぅううう、うぅうううう……」

『すだまの類か』

「げ、なーんか膨れ上がってんじゃねえか。それに水子の霊も混じってるぞー」

死神さんの声に俺は鎌を両手に出現させて、クッと握る。

「呑気に言ってないで、ぱっぱとやっつけますよ」


そこから死神さんはその数をちらっと見て、それからフヨフヨと浮きながらふわあ、とあくびをした。

「ああだりー……ニギあとよろ」

死神さん離脱。

嘘だろ。

「……はあっ!?」

「ちょっくら遊びにいってくるー。夕飯前には帰るからよろしくゥ」

「ってめ、待ちやがれ!?あっ……なんつー逃げ足の速い……」


俺はカリカリしながら、その一匹一匹を丁寧にさばいていく。しかし、次から次へとモコモコ蠢きながら弾けて、その残骸が当たったところからまたモコモコと膨らみ始める。緑色の燐光が、あたりを覆い尽くしていく。


「失敬、少し焼き払います。すう……」


その箒の先が、赤く炎をまとい出す。かぼちゃがなければ完璧に魔女っ子なのに。

炎禍滅却(えんかめっきゃく)!」

部屋中に赤く炎が舞い散る。一つまた一つと焼け落ちていく様は、見事というほかなかった。

しかし戦闘中にここまで時間がかかるか?

それに水子の霊はそのままだし。


「……あの、では俺が薙いだりしていた時間の必要性は」

「技の名前を考えるのに手間取っていました」

あらぬ方向性にポンコツだわこいつ。


「まあ、じゃああれは俺が」

「どうぞ」

右腕に力を込めて、倒れている男の腹の上に乗っているぶよぶよした生き物に視線を向けると、一気にその方へと飛ぶ。

グニュッという手応えに、俺は顔をしかめる。そして、そのまま刃の角度を百八十度に切り替えて、その表面を切りつける。


「あばばばっばあ……あああああああああ!!」

赤ん坊が泣き叫ぶように、周囲に甲高い叫びが響く。俺は早々にその体を縛り上げると、中身の詰まった水風船のようにはちきれそうになる。


神気を片眼に流し込み、周囲の神気が可視化する。気持ち悪い視界で、酔いそうになるほど自分以外の神気でねっとり空気が濁っている。俺はその霊の塊を見る。

「見つけた」

縛り上げた鎖の中心に、心臓のように脈打つ何かがある。


そのまま、そこに向かって一気に鎖を縛り上げていく。ぐん、と鎖が伸びて、とうとう風船のごとく破裂した。ビクビクと脈打つ感覚が伝わってくる。

それを鎌で斬りとばすと、その残骸は全て泡のように消えた。


「……大丈夫ですか?」

「あ、あっ……そ、そんなつもりじゃ、なかった!!ちょっと照明を緩めて、あのでっかいの、それは俺じゃなくって、」

怖くて怖くて、罪がバレるのが恐ろしかったと言う。随分とまあ、大胆に吐いたものだ。

面倒な告白を聞いてしまった。

「うぅう……」

水子まで憑いていたとなると、かなり色々とやってそうだな。


あとは、警察の方に任せるべきだろう。

俺ができるのはここまでだ。

「全て憶測でしかないですから、迂闊に語るわけにもいきませんしね」

「……そう、でしょうか?私たちができるのは、本当に……」

「あんまり気にしない方がいいですよ。あなたの劇は面白かったですし、警察の方でも色々とやってくれると思いますから」

「はい。あなたは、……いい人ですね」

「そうですか?」


俺がきょとんとすると、かぼちゃが微笑んだ気がした。

「ええ。ですが……いい人で終わる気がします」

「俺もおそらく、あなたとはただの友人以上にはなれませんね」


会長さんたちにはよろしく伝えておいてもらうことにして、俺はその場を立ち去った。


翌日、またもや俺は頭を抱えることになる。


「高田さんと付き合ってるってどういうこと!?」

「あの男装女子と!?」

「うわー、勇者だな……」

俺が蓼食う虫も好き好きの例のように言われているのをBGMに、学校生活を過ごすことになるハメになった。


「早退しちゃダメですかね」

「普段だったらダメって言うけど俺も早退したい……」

高田がぽつっと呟いた。


結局今回の始末は、教頭先生がやった事だったらしい。一日目に見た劇の内容がこの学校の風紀を乱し、この学校の歴史を汚すと憤慨して、劇が中止になればと思ったようだ。

もう一人は、三年の停学になったこともある先輩。


ま、他人を疑うものじゃないってことだけはわかったし、警察を出し抜く探偵の真似事なんてしない方がいい、という天の忠告なんだろう。

素直に聞いておこう。

告白はもうこりごりだ。

正解するカド……最終話まで……見きった……。

勇者と呼んで。

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