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死神と告白ラッシュですか? 前編

前後編になる予定。

「おはようございっ……」

全員の視線が俺をじっと見る。


そりゃあ……眼鏡もかけていないから、前髪が目に刺さる。そしてそうなれば、普通に前髪は切らざるを得なくなるよな。

間違ってないよな?


「おはよう、夜行くん。高田さんは?」

「高田ね、ああはい……」

俺は視線を動かし、後ろでプルプルしている人影をちろりと見た。

「あれ!?高田さん、スカート!?」

「なんだと!?」

クラス全体がどよめいた。


「え、えええ」

「どうしたの?」


六月の時点ですでに購入していたのだが、冬服と夏服のどっちも頼んでいたのと、あとは取りに行くタイミングを逸していたからというのがあった。

「……ううう、夜行!これなんかすっげえスースーする!?女子ってこんなもの穿いて生活してんの!?」

「あなたも女子でしょう」

「それはそうだけども」


クラスの全員が、口をつぐんだ。

あまりに男っぽい姿を見ていたから女装に見えるなんて、誰も一言も言えないという表情。俺にもわかる。あれを見慣れすぎているとそう言いたくなる。


「だいたいそうするなら髪型を整えればよかったじゃないですか」

「何千円もかけて髪を切るなんて、非効率だろ」

「なんですって!?」

杏葉がガタンと立ち上がる。

そして高田の髪を手に取り、くわっと目を見開いた。

「なんでショートヘアーなのにこんなに毛先がパサパサなんですか!?ちょっとこっちに来てください、全くもう……」


まず全体にスプレーをして、それから櫛を通す。

「ええ、こんなにしなくても」

「ダメです!」

丁寧に櫛を通されたあと、髪の毛をいくらかいじった。

「今俺は初めて妹がいてよかったと思っています」

「初めて!?」


それからブツブツと文句を言いながら、その髪型が出来上がると満足そうにふふん、と笑った。

「いいですか?これは応急処置ですから!近いうちに、ちゃんとしたところで整えてもらってくださいね!……時にお兄様、その髪はどうやって切ったんです?」

「自分でやりました」

杏葉が静かに衝撃を受けていた。


「それを……自分で?本当に……?お兄様って何ができないんですか!?」

「いやそう万能じゃないわけでもないですよ。折り紙はできませんよ」

「そんなこと言って、どうせドラゴンを折ってしまえるんです……紙をください!」


おり。

おりおり。


「……まあ不思議……ネット界隈で人気なTRPGに出て来そうな形状ですね……」

「よくそんなもの知ってましたね」

「あら、今時ネットなんて誰でもやります。RPGに手を伸ばすのは時間の問題でしょう?」


そんなこんなで、伊藤先生がやって来ると今日が順調に滑り出していく。

……はずだった。


「あの!夜行さんはこちらにいますか!」

「呼ばれてるわよ、夜行くん」

「……ハア……」

休み時間になるたびにもじもじしながらやって来る女子生徒たち。


ええい、イライラする。もじもじして全くスパッと言ってはくれない。

高田の思い切りの良さは本当に神がかっていた。

「だから、あの!私と付き合ってください!」

「好きな人がいるので無理です」

「だ、誰なんですか!?」

「……知ってどうするんです?」

「え?だ、だから、その人を見れば諦められるかも……と思って、」

「諦めるつもりだったら最初から呼び出さないでください。面倒なんですよ」

「ひ……ひどっ、ひっく……うぅ……」


俺はそのままその場所を立ち去る。

告白するのにエネルギーがいるのもわかる。けれど、断るにもエネルギーがいることをわかってからやってくれ。

こっちは罪悪感で押しつぶされそうなんだよ察しろよ。無理だと思うけど。

だいたい顔の良し悪しで人の良し悪しなんてほとんどわからねーよ。


「次の問題を……夜行」

「はい」

ガッガッと書き殴ると、手を叩いてそれから席に勢いよく戻る。

「正解だが……機嫌悪いのか?」

「いいえ……」

俺がイライラしているのが伝わったのだろう。努めて爽やかな笑みを浮かべると、先生がギクッとした。

「い、いや、あはははは……そうか、そ、それならそれでいいんだ。ははは……」


けれど、あまりにも事態が大きすぎやしないか?

「どるる、これって本当に俺の顔だけの仕業なんですか?」

「る…る〜?」

「ああ、確かに。文丸に聞いて見れば、間違いはないですね」

この土地で起こっている異常な現象だ、文丸に尋ねるしかない。


『……それだけは、お前の仕業』

「なんですって」

陸塞の人払いの結界の中で、俺ががっくりとうなだれる。

「だから言ったろ?俺にクリソツだって!」

「……え?受精卵の頃の話ですか?」

「そこまでいったら見分けなんてつくわけねーだろ!?」


突然出て来た死神さんがプンプンしている。髪の色が少し戻っているのは、きっとここ最近は妖を斬りに出ていたんだろう。

「まあいいや。仁義さ、腕折れてたんだろ?そん時に変な神気とか感じなかったか?」

「いいえ。あの場には高田もいたので、完全にそれはありえないと思います。どうやって神気を消したのか……」

「それならさ」


死神さんは、俺の予想もしなかった答えを言い放った。

「それって、普通の人間が仕組んだんじゃねーの?」と。

『我もヒトの悪意は見たが、それ以外は見てない』


いや、言われて見ればこのところ色々とそういうことに悩まされ続けて来たから、それがいけなかったのかもしれない。

純粋なる、人の悪意。


あの舞台上にいた誰かに、悪意が向けられていた?

それとも生徒会全員を狙った悪質ないたずら?

一応、園原さんに訊ねるしかないか。


「……あー、あー……あの、いいかな夜行くん?」

「なんですか?」

「その……告白の、ことなんだけど」

俺の体が自然に机をひっくり返していた。


「どうしたの!?」

「い、いや、ちょっと朝から大変な目に遭いまして……トラウマになり掛けていたようですね。もういっそのこと左手の薬指に……」

「……うん、それもいいかもね。それでさ、僕が告白したいんだけど……その、坂町さんって……僕のことどう思ってるのかなって……聞いて来てくれない?」


俺はニッコリ笑って肩を叩いた。

「当たって、くじけろ」

「今日ほど君を憎たらしいと思ったことはないよ」

それをスルーして、俺は文丸に再度聞き取りを始める。


「あの日、舞台に立つ予定だった人たち……」

『そうだ。ばんど、と名乗っていた』

「バンド……この学校では確かに軽音部がありますね」

『そうか?まあ、その枠を奪い取ったというより、生徒会の催す方が優先された』

「動機としては十分ですが……」

『おお、あとは、あの部隊の上の女を妙に好いておる男が振られていた』

ガッデム。


「これで振り出しに戻るわけですか……一度現場へ行ってみましょう。そしたらわかるかも……」

「あ?あそこなら今、サツが入ってガサゴソしてたから、立ち入り禁止なんじゃね?」

「なんですって!?」

「ちょ、仁義!?」


俺はそのまま転身して走り出して、体育館に着くと警察の手元を覗き込んだ。

ワイヤーで吊ってあったところが、少し削れてピカピカになっている。

ヤスリか何かで丁寧に削ったんだろうか?


「やはり、これは事件性が高い案件ですね」

「そう、思うか。……実は、部隊の上にいたあの女の子がストーカー被害を訴えていてな」

「……怪しいじゃないですか……」

「けど、まあそのほかに色々あるからなあ」

「それにしても、この重さを腕で受け止めたって学生、すごいですよね。最初にライトが飛んで来たのも、もう一人の子が防いだんでしょう?」

「俺もちびっと持ってみたがな。そいつぁきっと、バケモンだ」


床に潰れてる眼鏡もそのまま放置されている。なんだか釈然としない気持ちを抱えたまま、俺は陸塞の元へと帰っていくことになった。


「やあ、待っていたよ」

「……陸塞、ちょっと携帯貸してください」

「うん?いいけど……」

俺はたむたむとそのメールをいじり、坂町に『話したいことがあるんだけど、いいかな』と送った。


ピロリ、と携帯がすぐさま鳴って、俺はその文章を見つめ返す。

『保健室?了解(*´∀`*)b』


「って何やってるのかな君は!?」

「うるさいですねえ、黙って紙を差し出しとけばいいじゃないですか」

「こっ、こぉ、心の準備ってものがあるだろうーー!」

「はいはい心の準備(笑)ね」

「(笑)!?バカにしてないかい!?」

「うるっさいわね!?声が外まで響いてるでしょうが!!」


すぱぁん、と扉が開いて、そこから坂町が入ってくる。

「ああどうもこんにちは」

「なんであんたがここにいるのよ」

「なんでってそりゃあ俺が色々と骨を折って得た情報を無下にするというんですか?」

「確かに骨折だとは聞いてるけど、それってそんなに大事なこと?陸塞が私を呼び出していうことじゃないでしょ」


しばらく沈黙がその場を支配する。俺はその場から動く機会を完全に逸してしまった。

「あのね。なんとか言いなさいよ」

「あの……いや、だから、そ、その!!」

ベッ、と紙が広げられて、坂町は目を瞬く。

透けて見えた文字は、逆さになった「結婚してください」だった。


「……陸塞。文字、文字」

「い、いやだ怖くて目が開けられない……」

「場合によっちゃお前の一生が決定する事態になってるんですけど」

「……え?うわぁっ!?」

恐る恐る目を開けた陸塞が、赤くなったり青くなったりして、紙をぐしゃっと押しつぶしていた。


坂町はぽかんとしていたが、それからしばらくして唇を不服そうに尖らせ、その手に握られている紙を手に取った。

「何よ、これ。そんなの、あんたが私に術を教えてくれた時には覚悟してたわよ?」

「…………へっ?」

「そっちのバカが、前に妹がどうだかって言われた話を高田ちゃんから聞いて、それからあの修行中に一度お世話になった陸塞のお家でも、『ご婚約者様』とか言われたわよ」

「なんだって!?」

「だからあんたと結婚するのはもう規定事項なわけでしょ」


あっさりと言い切られて、あまりの坂町との温度差に陸塞が視線をウロウロとせわしなくあっちこっちに動かしたあと、口を噤んでしまった。


なんとか助け舟が欲しいなという視線を向けると、坂町がうっと呻いてこちらを見た。

フォローしてやって。かわいそうだから。


その祈りが届いたかどうかはさておき、彼女はそこからもう一度話し始める。


「いい?私だって好みがあるわけよ。それで、もしいやだったら、本気で断るし、結婚なんて言わないわよ。……別にあんたの子供なら産んでもいいし」

やっべえハッパかけすぎた。この空間は早く抜け出さなければいけない気がしていたのに、またしても俺は。


凄まじい後悔の中、俺は不意に文丸の顔が歪むのを見た。

『悪意が、膨れ上がっている』

いや、さすがにレール落ちたら、24すると思うんですよ。

警察が来そうなもんですよ。

……なんかありましたら、ご指摘をば。

え?アクションじゃない?この話は……推理?

いやアクションアクション。

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