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死神と文化祭一日目ですか?

伏線まきまき。

祭りの熱気が、耐え難い。

今まで人を避け続けてきた弊害でもある。


いや、暑さ自体は神気で軽減できる。問題は——。

「いらっしゃ〜い……」

「うわっ!?こえーーー!!」

「血みどろワッフル一つ!」

「うらめーしーやー!」

なんか変なテンションの、クラスメイトたちである。


いや、この学校全体の雰囲気と言い換えても差し支えない。


とにかく、すごくやばい。何がやばいって目がやばい。

変なクスリでも打ったんじゃねーかってくらいやばい。


「夜行くんは、事前の準備だったから今休めるんですよね?もし良かったら、高田さんと私、代わりましょうか?」

「別に……俺も駆り出されるなら手伝いますし、案外暇ないと思いますが」

「そう?」

なずながくふっと笑いながら、俺を見つめる。

「高田さんがあんなに幸せそうだと幽霊っぽくないので、彼女を連れて行っててください。多分このお店グロ耐性ある程度ないと無理ですし」

「そう、ですか。ありがとうございます」


後ろから「泣かないでよかった……」と聞こえたけれど、ここで慰められるのは、きっと俺じゃない。

俺にはその資格はない。


「高田、坂町さんが交代してくれるそうですので、一緒に回りませんか?」

「えっ、いいのか!?」

「はい。どこか行きたいところはありますか?」

「いっぱいある……」


目を輝かせている高田に、服をトントンと叩いて指示すると、彼女はばばっとそれを脱いで折りたたんだ。

「じゃ、行きましょうか」

「坂町入りまーす。三番テーブルが闇ジュースですよ!!」

「うらめーしーやー!!」

えっ飲むやついんのそれ見たい。


「三年の木崎、いっきまーす!!」

ごく、ごく、ごく…………。

「メロンソーダとミルクティー、それからグレープフルーツと……ああわからない!!」

「はいザンネーン、正解は文化祭二日目終わりに掲示しまーす」

それをキラキラした瞳でじっと見つめる高田。


「やります?闇ジュース」

「え、いいの!」


高田の前に闇ジュースが運ばれてきて、彼女はそれを一口飲んで、顔をしかめる。

「ミルクティーと、メロンソーダ、それからパイナップル。後からグレープフルーツの苦味が来て、最後に……麦茶」

「だいっせいかい!!」

「夜行くんにわかりやすすぎって言われてから何度か味は変えてたけど、よくわかったね」

「高田さんすごい」

……まあ、無料になるのはこのジュースだけなんだけどな。


ワッフルは試食で食べていたのでいいと言う。廊下に出ると、大勢の人で賑わっていた。


<豆つかみで景品を手に入れよう!一回五百円!by 風紀委員有志によるマナー向上委員会部>

<この恐怖に君は耐えられるか?お化け屋敷!by オカ研&2-5>

<今上のいきたいと思った?それなら3-3の飲茶に来てね!by 3-3&家庭科部有志>

あのごついにいちゃん達がやってる飲茶かよ。


他にも映画研究会などもあったが、ふと生徒会主催の劇に興味が湧いて、俺は高田にチラシを見せる。

「行くー!」

「そうですか。もうそろそろ第一幕が始まる予定ですから、講堂の方に行ってみましょう」


講堂に着くと、園原さんがこちらに駆け寄って来てぺこっと頭を下げる。

「園原さんは舞台でないんですね」

「脚本です。それに表情に乏しいですから」

「あの、楽しみにしてます!」

「はい」

ふっと笑んだその表情に後ろで見惚れる者が続出するが、実際表情に乏しいわけじゃないとは思う。


「動かさないから余計に動かなくなるんですよきっと」

「そうでしょうか?」

「高田なんて真面目な顔しててもちょっとふざけてるように見えますし」

「おいコラ喧嘩売るなよ、ぶっ飛ばすぞ」

「はいはいよしよし」

俺はリーフレットを手にとって入場した。


どうやら、二部構成であるようだ。


純真無垢な少女に惹かれる少年と、彼を殺したいと思っている昔の幼馴染とのドタバタラブコメディ。

一日二回やるそうなので大変そうだ。


舞台は、少年が転校してくる教室で始まった。

「転校生の、ヤクモです。よろしく」

「よろしく!!」

一番最初に手を挙げて叫んだ少女は、周囲を見回して席に座りなおす。恥ずかしげに肩をすくめて。

途端、そこにキチキチキチ……というカッターナイフの音が響き渡った。

「ヤクモ……待ってたわ……ずうっとね。あなた私が十六になったら迎えに来てくれるって言ったじゃない!?」


刃の出ていないカッターナイフを突きつけられながら、少年は壁際まで迫った。

しかし、そこに少女が割って入る。

「喧嘩はダメです!」

明らかに喧嘩レベルじゃねーよというツッコミを会場全員からいただきながら、彼らは確かに舞台の上で生きていた。


「……あの子、名前は……」

「サギリだけど、まさか目移りしちゃった?ダメよ。浮気は指くらいで許すけれど、本気になったらあなたを殺してあの女を殺人犯に仕立て上げるわ」

「怖すぎるよセイナ!?」


しかし、それは照れ隠しゆえの行動だとのちに判明。セイナがギャアギャア騒ぎながら布団の上でゴロゴロしているのを見て、ほとんどの人が親近感というか、キュンとしたんだろう。

危ない台詞の後に生暖かい密かな笑いが、あちこちから聞こえる。


しかし、少年は彼女を選ばない。

「好きなんだ!サギリさんのことが……」

「えっ……ほ、本当に!」

二人が思いを伝えあったところで、第一幕は終了した。


ラノベ展開なのに心理描写がとても細かい。そして、演技で全てが伝わってくる。


「すごい、劇だったね……」

「そう、ですね。面白いです。あの展開からどうなってしまうのか、すごく気になります」

「楽しんでいただけたようで、何よりです」

背後からすうっと彼女は出現する。


「……いえ、実際かなり大変でした。みんなが納得するオチを考えるには、どうしたらいいのか。考えても考えても……ですが、面白いと言っていただけて光栄です」

みんなが納得するオチになればいいと切に思った。


飲茶に行くと、パンダの被り物をしたテキ屋の兄ちゃんっぽい人たちが、ちょこまかと可愛らしいメニューを並べていた。

「……うまい」

俺が唸るように絞り出すと、高田もこっくりと頷いた。

小籠包から流れ出てくる肉汁が、たまらなくあっさりしていてもたつかない。そのくせ口の中には妙な余韻を残していく。


そして、ジャスミンティーもまたふんわりと花の香りを残して行く。


「はあ、美味しすぎる……」

「これ、お会計の……」

レシートを受け取った後に俺はその値段を文句も言わずに支払った。高田には見せることはないだろう。


さて、次はどこに……と思っていたら、ふと怒鳴り声が聞こえて来た。

「だからぁ、この教室がどこかって聞いてんだよ!!」

「ひぃっ、ご、ごめんなさいっ……」

「謝って欲しいわけじゃねぇんだよ!!」


その赤色がついた金髪には見覚えがある。俺は後ろからそっと忍び寄ると、その膝を膝で押した。

かくん、と綺麗にその体が崩れ落ちる。

「んなっ、な、何しやが……る……ってテメェは!!あの時の陰険鬼畜眼鏡!?」


見覚えのある顔だと思ったら、伊吹 優馬だったか。やっぱりそうだ。

「自覚済みのことをわざわざ言って悪口になると思っているんですか?」

「大丈夫か?怪我、ない?」

「あ、大丈夫です……」


外部の制服の女子だ。まあ、知らない方が当然だろう。高田が助け起こして、フォローに入る。

「それで?ナンパにしては少し強引じゃないですか?」

「っせーな。俺んとこじゃ女の扱いなんて学ばねーんだよ。ちょうどいいや、お前のクラスに案内してくれよ。制服から割り出すの大変だったんだぜ?お前よくわかったな」

「友達みたいに振る舞うのはやめてください」

「そこはどうでもよくねぇか!?」


俺はその暑苦しいヤンキーをべっと引き剥がして、少女が手を振って去って行くのを見送る。

「で?一体俺に何の要件なんです」

事態が収束したと見るや、人垣が綺麗に捌けていく。

「ああ、まあ、言ってもこいつらなんだけど」

「久しぶり」

「元気してた」


そっくりな二対の神が、その真横に現れ、彼の体にぴとっと貼りつく。子連れ狼という言葉が一瞬頭をよぎって、俺は口元を手で押さえて咳き込んだふりをした。


「それで、話とは」

「この土地の荒神を鎮めに来たら、もうびっくり」

「もう鎮めたことに」

「話は本題に入る」

「なぜ封印が解けたか」

「ヨリが、アレをそそのかしたせい」

「ヨリ……?あの、バトルジャンキーみたいな女の人ですか」

「そう。彼女は死神でありながら自らわざと罰を犯して下界に降りて来た者」

「死神としての力はそう強くない」

「でも、神々との繋がりがある」

「なるほど……もう少し詳しくは言えないんですか?」


その言葉に、二人が首を垂らす。

「ごめんなさい」

「制約が禁呪によってかけられている。不可能」


俺は眉間を揉んだ後に情報を整理して行く。

アレというのは何だかわからないが、封印を解くことのできる者だ。

そして、ヨリは神々の指示に従って動く駒のごとき死神である、しかしその指示の合間にやることが迷惑と。


「はあ、ここは一旦文化祭を楽しむ方向で考えなかったことにしましょう」

「……お前案外適当だな」

「何か起こしてくれないとこちらとしては意図が読めないんですよ」

あれからどるるは外出が多くなったし、時間通りにも帰って来ていない。


「うちのクラス来ます?結構面白いと——」


扉を開けた瞬間、その席に座っている男がするりと振り返って、笑った。

「仁義。久しぶりだな」

腹の底から、マグマのように怒りが湧いてくる。

よくもまあ顔を出せたものだ。


人はあまりに怒ると無言になる。


俺とそっくりな一対の眼が、たまらなく気持ち悪い。俺はその横で俺に厳しい視線を投げている女にも目線を送る。

杏葉は俺を申し訳なさそうに見ているが、オロオロしっぱなしだ。


坂町がああ言ったのは、俺のためでもあったんだろう。話も耳に入れることなく終わらせてしまおうと。

俺は右腕に力を込めた。

次話から過去話が入ります。

種馬がゲスい話。

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