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死神の意義ですか?

一定数の読者がいらっしゃる……すごいです。

かなり鬱いお話になると思いますが、主人公は幸せにする予定。

現実じゃちょっとありえない部分は見逃してくれると嬉しいっす……。

「……まだっ、もう、一回!」

地面に叩きつけられた格好から、上体をがばっと起こすと、死神さんがふわりと目の前に着地した。

珍しくニヤついていない顔をしていて不思議に思っていると、「仁義」と死神さんが言った。


「今日は、別のことするぞ」

「え?」

「これだけじゃ、コツがつかめてねーのかもしれねーし、別のことやってみるのもいいんじゃねーか?」


まあ、確かに。

一瞬だけ浮けるとか、一歩踏み出して落ちるとか、そう言うことが続いてほとんどだったから、死神さんも気を使ったんだろう。

どうしよう、少し嬉しい。クソ、天然の人たらし。こういうところは、素直にすごいと思う。

俺は緩みそうな口元を抑えて、立ち上がる。


「まあ俺が飽きただけなんだけどな!」

「……いつか、ぶん殴る」

「ってなぜに!?今の話の流れでどうしてそうなった!?」

自分で考えやがれこのクソボケ。

台無しにしやがって。俺の感動を返せ。


「まあ、死神の武器ってのは、いわゆる神気が己の意思をかたどったもの……とか師匠は言ってたが、適当にやればなんとかなる!」


ドヤ顔すんな。適当にやればって語彙貧弱ってレベルじゃねーぞ。喧嘩売ってんのか。


要するに、死神さんが武器を持っていなかったのは、死神さんが武器を自分で作ることができたからであって、拳で殴る蹴るをするわけじゃないらしい。

「死神さんは、ちなみにどんな武器で?」

「あ、言い忘れた。死神はみんな、鎌系の武器だぞ」


……聞いてないぞそんな設定。しかも鎌は使いにくいことこの上ない武器だろ、どうしてわざわざそれなんだ。

「ミツカイは剣とかも使えるんだが、死神はこれだけだぜ」

どこまでも黒い、その身の丈に余るほどの大鎌が、ぶわりと溢れかえった死神さんの神気の中からどろりと出てくる。その光景と神気のあまりの禍々しさに一瞬だけ気をとられるが、今はそれ以外のことが気になった。


「死神さん、ミツカイとは?」

「え?俺その話してなかったっけ?」

首をひねり、ぽかんとする。

なんだか嫌な感じがする。

「……してませんね。多分、一度も」

俺がそう答えれば、死神さんは視線をウロウロとさまよわせた後、バツの悪い顔で続けた。


「……えーとな、ミツカイってのは、巴御前の御、使いっ走りの使で御使だな。あ、そういえばまるっと色々話すの忘れてた」

「まるっと……?」


いや待て。確かにもう少し詳しく聞いていなかった俺も悪いが、さすがにまるっと忘れてたってお前な。教えてもらってる身で言うのもなんだがずさんにもほどがあるぞ。


「ああ、死神がなぜ存在するか。そして、俺が御使を作らなかった理由も」

「前半の理由は後々に謎として解き明かされる感じじゃないんですか……」

「別に?死神になるやつみんな知ってるし」

「死神って複数いるんですか!?」

「あたぼうよ。俺一人で日本全国行脚ってわけにいかねーし」

「……確かにそうですね」


そして、死神さんはいつになく真剣な顔で語り始めた。……夕飯のオムライスのケチャップを口の横につけていなければ、本当にシリアスになったのだろうが。




「死神のほとんどの出自は神だ。神が高天原(たかまがはら)で罪を犯して、その罪を雪ぐために葦原の中つ国(あしはらのなかつくに)、すなわち地上での戦いを余儀なくされる」

「罪人?罪ってなんです」

「あー……その辺りはまあ、俺もよく知らん。神殿にう◯こ撒き散らしたら罪になるくらいはわかる」

「それって実際処罰されてるじゃないですか、死神のシステムっぽく、大きな怪異を倒すおまけまでついて」

俺が呆れたように言えば、実際にその通りだったらしい。


調子に乗った素盞嗚尊は、新嘗祭をする祭壇に汚物を撒き散らし、馬の皮を剥いで機織り小屋に投げ込んで、織女を死なせたという。

で、それを死神のシステムを利用して罪人投下場所にした葦原の中つ国に素盞嗚尊をぶっこんだ。

奇稲田姫(クシナダヒメ)は御使だったと言う。


「俺の知ってる限り二人がそうだな——素盞嗚尊(スサノオノミコト)、もう一人は猿田彦大神(サルタヒコノオオカミ)だ。猿田彦大神は楽しむために力を失い、素盞嗚尊の方は、現世にちと馴染みすぎてな。高天原に帰るのを拒んだんだよ」

「拒めるんですか?それは」

「ああ。ただ、素盞嗚尊は実際、めっちゃうざいぞ、バトルジャンキーの女好きだ。会ったが最後、延々と絡まれ続けっから、できるだけ関わるな」


「死神さんがうざいと言うなんて……相当なんですね」

俺が万感込めて言えば、死神さんにじっとりと睨まれた。

「……ソレさらっと俺がうざいと言ってる?」

「……気づかれましたか」

「仁義!!」

「すいませんつい」


「話を戻すぞ。罪をすすぐには、神気が一定量以上溜まることが条件とされてる。死神は鎌で斬ることで、相手の神気をいくらか取り込めるんだ。鎌が変換器兼充電器で、俺がケータイとかってイメージ?」


割とわかりやすい例えだが、どちらかといえば総量ではなく回復の限界量が増える、という方が正しいだろう。器の中身が増えるのではなく、器が大きくなるということだ。

回復はそこそこ時間を要するが。


「要するに、強い敵を倒せば自分に神気がより多く増えたりすると?」

「そうだ。そして、死神同士で殺しあうことも禁止されてはいない」

「それって……本当ですか?」


死神さんはその問いには答えずに、鎌を人差し指の腹で撫でた。

「そんなのはおかしいじゃないですか。だって……妖怪を間引くのが、仕事だって」

「元々の、本来の仕事はな。お前はわかるはずだぜ?死神だって罪を犯してここへやられたものが大半だ。高天原に戻るためにはなんでもしかねないし、互いに潰し合うこともある意味で罰なんだよ」


そこに安息などはなく。

また休息など許されない。

確かに、加害者が安穏とした日々を過ごすなんてことは、被害者としては許せないかもしれない。


「死神さんは、どうなんですか?」

「俺?俺は元々はお前と同じく人間だったからな。神気自体は足りてっから高天原には一度招かれたが、なんであんな胸糞悪ィ場所に戻りたいのか、俺にはわからんね」

苦々しくそう言い切った顔には、嘘の色など全くないように思える。

「そう、ですか。じゃあ、御使っていうのは……」


「御使ってのはな。死神が、『ある程度の神気を持っているが、神が視えるほどじゃない』人間に勝手に力を注いで勝手に御使にするのさ。御使が妖を斬れば、その神気のいくらかは死神に上納される」

「人間を、勝手に?それっていいんですか?」


「神の基準としては、人間一人など取るに足らず——すなわち、ひとりふたりなら問題は全くねえって話だ。まあ、全く神気を持ってねー奴を御使にするのは、運命律?だの、色々に影響が大きすぎるからダメってなってるけどな。そういうのは見つけ次第処分せにゃならんし」

「……そんな」

そのシステムの凄惨さに息を呑む。ただ相手(しにがみ)が勝手に決めたから、御使(にんげん)が戦わねばならない、なんて。


「だからこそ、俺は御使はつくらねーの。そしてもう一個。御使は強くなりすぎると、死神に対して反抗したり、従順ではなくなることもしばしばだ。だから、御使はある程度になると、その魂ごと神気に還元されて……食われるのさ」

魂ごと。

思いがけない言葉に動揺しながら、俺は震える手を握りしめて、口を開く。

「じ、じゃあ、もし、もし……食べられたら、」

「死ぬ」


簡潔にバッサリ言いきった。

俺はその事実に衝撃を受けながらも、自分がどうするのかを考える。

御使がいたから殺すのか?その死神を。それとも説得する?そんな生ぬるい考えが通用する相手ではなかったら、どうする?

頭がクラクラしてくる。

頭を支えるように、眉間に指を三本置いた。


全くもって、死神さんの精神力もすごい。一人をずうっと味わいながら、御使を作ることもなかったのだ。

多分、元々人であったからこそ、想像できてしまったんだろう。そのあとでその人がどうなるかを。


今まで見えていなかったものが見えるようになるだけで、暮らしやすさは著しく落ちる。

そして、自分の日常も、自分以外の周りの安全も、失われてしまう。


「見えねぇもんが見えると、大変でもある。そして人間だった身としては、人を食うのは許せねぇ。だから、俺は御使は作らない。——あ、でも、御使を作っても殺さないやつもいるからな。そこは勘違いすんなよ?喰われないように庇護するって意味で御使にして、他の死神の影響をなくすこともあるから」

「そうですか……」

「お前もいい子がいたら粉かけとけ」

「誰がそんなことすると思ってるんですか」


まあ、そんなものさじ加減次第、使い方次第ということだろう。

包丁が美味しい料理を生み出すのと同様に、殺人事件だって生み出すこともある。要は、使い手次第、か。


「ま、お前もいつかわかる。孤独はきついぜ?なんせこの!俺が!参っちまうほどだからな!」

死神さんはカッコよく俺を見る。


——口にケチャップを付けていることにはまだ気づいていない。


俺は耐えかねて吹き出した。

「ゴフッ……クククッ……」

「ちょ!?今の所笑うとこじゃねーぞ!」

「新種のくしゃみです」

「くしゃみに種があるなんて初耳だよ!?」

「知らないんですか?」

「……え?まじであんの?」

「ありませんよそんなの」

「……仁義お前、俺をなんだと思ってる」

「死神です」

「そういう答えを求めてんじゃねーんだよ!!」


口の端にケチャップが付いているのを指摘すると、四つん這いでうなだれた。


「お前っ……あんなシリアスに話してたのに俺のかっこよさが台無しだよお前ェ……」

「元々ないですよそんなパラメータ」

「酷くない!?お前俺の扱い雑じゃね!?」

「ハハッまっさかあ?他の人よりはかなりマシに扱ってるはずですよ多分」

「多分!?」

他は頑張って無視しているから。


なんだろう、俺少しひねくれて来てる気がする。なんというか、素直になりにくい。

素直にまずい。社会で生きていけない気がする。

死神さんはしばらくうなだれていたが、慣れてきたのかがばっと顔を上げる。俺のいじりから復活に時間がかからなくなって来たようだ。


「要するに!悪い死神を見つけたら斬りましょう!以上!」

「悪いって……どう判断するんです」

「まあ、そりゃ俺をさらったりとか?」

「死神さんをさらえるポテンシャルがある敵に俺はかかって行く気は無いですよ」


無謀にもほどがあるし、第一にそれはありえないと思う。死神さんをさらえるなら、俺が100人いたところで片手であしらえるだろう。


そういえば、と思い出す。

妖を倒すことができるなら、『アレ』はどうなんだ、と。

「死神さんは、……真っ黒いこう手足があって、目がいくつもあったりする幽霊を飲み込むやつって知ってますか?」

「あ?ああ。詳しいことはわからんが、あいつらは便宜上『闇』とか呼ばれてるな。で、そいつがどうした?」

なんと。

俺はすぐに案内しろと食ってかかりたいのを抑えて、呼吸を整えた。

落ち着け。落ち着くんだ。

恨んでいる奴とは限らないだろうが。


「実は、母親の霊が呑まれていまして……」


手をギュウッと握りしめる。

「俺は、そいつから、逃げましたので、どうしても、倒したい、です」

「……顔と言葉遣いがおかしくなってんぞ、お前。大丈夫か?」

「……多分」

大丈夫じゃ、ない。

憎さと自らの不甲斐なさへの怒りと悲しさとどうしようもなさがないまぜになって、喉の奥できゅうっと何がか締まった気分になる。

殺せるなら己の手でやりたかった。


「多分、母親を飲んだやつはもう、死神さんの言う通りなら先を争うように他の死神に殺されてるはずですから。でも、それでも……俺は、二度と失いたくはないので」

強くなりたい。

守るものは、何もない。

守りたいものは、何もない。

けれど、いつかそれがあるときに後悔しないように。


「大丈夫だ。俺が必ずてめーを強くしてやんよ、安心しやがれ。俺よりも強くしてやるぜ」

「……破ったら地の果てまでも追いかけますから」

「そりゃあこえぇこった」

死神さんは肩を竦めて、ニヤリと笑った。

お読みいただき、ありがとうございました。

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