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死神は襲われますか?

やっべ味付け甘めにしちゃった。

どうしよ。

「お願いします!」

目の前で頭を下げているのは、一年の東雲(しののめ) (ゆい)という名前の、男子である。線が細く、耽美的な雰囲気をまとっている美少年だろうか?

磨けば光る原石のようなものだ。

しかし、その存在感は極めて薄い。そして、首筋には何やら包帯が巻かれて、顔が青ざめている。


何やらほんのり残り香のような神気があるが、この少年自体には神気は感じないから、憑かれているんだろう。

「で、どうして俺のところに?」

「木崎先輩が、その……何か怪奇現象なんかを感じたら、その、この人の所に行けって」


俺の右手が自然に人を殴る形に変形した。青ざめた彼の顔を見て、ようやく気づく。

ハハッソーリーソーリー、いやほんとまじで。


「失礼、取り乱しました。それで、どういうご用件ですか?」

「実は」

そう言って、キュッと首を右手で抑えて、震える。

「その……助けて、欲しいんです。夜な夜なあの……変な夢を見て、それに朝起きたら首に傷があって、……僕っ」

「……わかりました」


俺は高田の右肩を叩くと、彼女はくるりと振り返って、その後ろの東雲を見ると「ああ」と頷き、席を立った。

「なんかあったの」

「……少し、女性の手助けが必要になる気がします。陸塞ではなく、坂町も呼んでおいてください」

「ほーん?」


首筋に傷跡がある。

縊鬼(いつき)なら自分で首を吊ろうとしたはずだろうし、一部だけガーゼを当てるということにはならないはずだ。

何より、生気が薄く存在感がない。


これはおそらく、飛縁魔(ひのえんま)縁障女(えんしょうじょ)の類だろう。

近世では吸血鬼に類するのだが、その行動としての違いは、弱点らしいものがなさそうな所だ。

そして男を惑わせるという点で、なかなかにその人物が飛縁魔から引き剥がされることはほとんどない。


縁障女という名に違わず、女性との縁を軒並み断ち切られそうになるいい女だと言う。

だから、退治するには女か、あるいは煩悩のない男(普通いない)に頼むしかないだろう。


「また厄介なものを拾ってきたものですね……」

俺は眉間に寄せたシワを伸ばすようにして、指を押し付ける。


あまり長引くとなると、死んでしまうことだってありそうだ。家を訪問してもいいが、大人数でぞろぞろ行くのもアレなことだし。

前回?あれは忘れることにした。

初見の人間を家にあげるなんてそうそうしたいもんじゃないだろう。


「学校で一度睡眠を取ってみましょう。そしたら何か分かるかも」

「は、はい……眠るのは少し怖いですけど……」

保健室の主である陸塞には結局人払いの結界を残してもらい、東雲はなんだかんだ言って眠れていなかったからか、すぐに眠りについた。


しばらくして、妙に生暖かい気配を感じる。俺は転身すると、周囲を注意深く見回した。ふと、神気がジワリと東雲の内側から染み出している気がして、その腕に指が触れたその瞬間。


俺は真っ白なベッドの上に放り出されていた。鎌を手に持ったままだが、体は動けない。

どういうことだ。


唯一動く首を動かすと、俺の横では、しどけなく寝乱れた東雲の上から、女性がゆっくりと退いている姿だった。

「あら……新しいお客様ね。珍しいわあ」

妖艶な体つきに、花柄が散りばめられ、金糸で縫取りまでされている絢爛豪華な赤い振袖を着崩している女性がこちらに向けて微笑む。


怖い。


恐怖がじわじわと俺の心を侵食していく。


口紅の赤色がテラテラとろうそくに光って、母の葬儀で笑っていたあの女の唇を思い出す。

「……来るなっ……」

杏葉の母親。

美しいばけもの。


人の皮を被っているけれど、その中身はただの独占欲だけで埋まって、種馬への欲求だけであふれただけの、他の人間なんて見なかったことにする化け物。

彼のためなら他の誰を犠牲にしても構わずに笑っている。

自分の娘である杏葉がやらかした時はあっさりと彼女を切り捨てていった。


その表情が、不思議げに歪んだ。


「……あら?本当に怯えているわ、どうしてなのかしら。まあ、気持ちよくなれば、全てがどうでもよくなるわよね」

体に重みを感じる。その眼が、俺の体を舐め回すようにして通り過ぎて行き、俺の眼を見た。

その瞬間に、俺の中で何かがふっつりと切れた。

怒りではない。


消失。

マガヨと戦っていた時に起きた、異様な集中と痛みの感覚、そして恐怖心の麻痺。


俺はその瞬間、のしかかってきた彼女が唇を近づけてきたのを見て、瞬間その肩口を食いちぎる。

「いやあああああああああ!?」

ぺっと肉を吐き出す。そして、彼女が転げ落ちたのを見ながら、腕の神脈にきちんと神気を流し込む。


「……動く」

破壊はしなくても良さそうだ。

俺は鎌を重たい腕で引き寄せると、ゆっくりと立ち上がった。

「許さないっ……私の肌を、よくも傷つけてくれたわねええ!?」

その体が、メキメキと変化していく。

髪が赤銅色に燃えながら炎をまとい、その細腕はミシミシと変化して、鬼のような腕になる。

目の色が金へと変わっていく。


俺の右腕にあった鎌は、カチンと音を立てたギミックによって刃の角度が切り替わる。

次の瞬間、投擲によってその鎌はその噛み切られていた肩口をざっくりと切り裂く。

そして、そのままその体に肉薄すると、そのまま腕を刈り取った。


「ああああああああッ!?」

通り抜けざまに着物の内側から、無数の手が伸びて来る。それを全て後ろに弾き飛ばすと、その手がそのまま追ってきた。

「嘘、だろっ」

俺は一旦距離を取って、そこから逃げようとする。


しかし、それは叶わない。

「ここは私の作った領域よ」

後ろから肩をなぜられて、俺はそのまま鎌を振り切る。しかし、またも背中側から、声が。

「逃げられるわけ……ないでしょ」


また姿が元に戻った。

体には無数の腕が貼りついていて、俺は全く動けなくなる。白い柔らかい床に引き倒され、そしてゆっくりと白粉の匂いがかぶさってくる。


いやだ。


「はあっ!!」

ハスキーな声が、俺の耳に飛び込んできた。俺はその瞬間、全ての注目が上に向かったと感じた。そのまま腕に刃を出して、その喉元を打ち抜く。

「ごぽっ……!?」

その胸には、いくつものナイフが刺さっている。俺はその体を押しのける。


「……夜行」

なんだかむっすりしている。

「なんです」

「なんでもねーよ。あいつ倒したら、言う」

俺は鎌を握り直すと、地を蹴った。高田もそれに続く。


俺が鎌を振り下ろした瞬間、手が伸びて来る。しかし、その手がナイフで確実に撃破されていく。俺はただまっすぐに進んでいく。

「貴様っ!!」

そのまま投げた片方の鎌を、飛縁魔がギリギリで避ける。しかし、そのまま俺は突っ込んでいく。


なぜなら、自分の鎌は自分には刺さらない。


「ん、な……バカな、」

避けたはずの鎌が、背中から俺の方へと突き出している。俺はそのまま刃を手にとって、体をちぎるように奪い返す。


「……ぁ、がっ」

その体が崩れ落ちていくと同時に、その吸っていた生気が少年へと戻っていく。闊達さがあるように見える。

瞬間、俺はかっと眼を開いた。


「おはよう」

「ああ、……凄まじい夢でした」

「それは良かったな。……で?」

「で?」

高田がなぜ腹を立てているんだろうと思いながら、俺はゆらりと立ち上がる。


「あれとどこまでやった」

「………………はい?」

「だーかーらー!!お前あいつとどこまでいったって聞いてんの!!A?B?それともまさか、」

「……はあ?ああ、肉は食いちぎりましたけど、それ以外はのしかかられただけですよ?何もないですって」

「ふーん……本当に?」

「本当ですってば」


ふと、背後の少年が、起き上がった。

「あれ……ここは?」

「保健室です。そろそろ最終下校時刻になりますよ」

「え!?あ、あれ?なんか、割と元気になってます!!すごい!!すごいですよぉ!!」

「……声が大きい……」

「あざっしたーー!!」


闊達どころか、色々と食い気味にお礼を言われる。

「もし良かったら、これ、チケットなんですけど、あげます!」

「え、あ、あの……ってもう行ってる……」

坂町が俺の近くに寄ってきた。


「全く、結界破るの大変だったのよ?少しは……って、それ……マルバツゲームのチケット!?しかも前列の方じゃない……」

ごくりとつばを飲み込み、二枚のチケットを凝視する少女。


「…………高田、見たいですか?」

「俺は別に?」

ツンツンしながら俺を睨む。

「どうぞお納めください」

「いやったぁー!あれ?でももう一枚は……」

「陸塞を誘うなりなんなりすればいいじゃないですへぶっ」


真っ赤になった坂町が怒鳴る。

「なんでそこで、陸塞がっ……出て来るのよぉ!!」

なんで俺は殴られたんだよ。






家に着くと、高田がちろりと俺を見て、まだ頰を膨らませていた。

「なんだよ」

怒ってるんだぞと言わんばかりに俺を威嚇しているその体を、ぎゅうっと抱きしめた。

「ふわっ!?」

「…………いや、すいませんちょっと、ぐちゃぐちゃで、今……」

「なに、なに、なんっ」


細い体だ。どこにあんな強さがあるんだろうか。

首元に顔を埋めると、なんだか安心できる。


「……なに」

「あの妖怪、少し……杏葉の母親と似ていて、かなり……その、怖かったんですよ」

「そっか」

「だから、なんと言うか……」

はあ、と息を吐く。収まりがいいように体を動かしていたら、うっかりバランスを崩して、玄関先で倒れこむ。


「ぅひっ」

高田が真っ赤になって、三センチくらい先で俺を見上げている。

俺は慌てて退こうとしたが、遅かったようだ。


前歯に衝撃を食らった。

「いって!?」

「んぐう、いたっ……」

いや、いやいやいやいや。

「って、おま、お前っ、」


ペロリと彼女は舌で唇を舐めて、いたずらが成功したみたいにニヤリとする。

「ごちそうさま」


ファーストキスは、ぶっちゃけ血の味がした。

土壇場でチキる主人公と、土壇場にいくまでにチキるヒロイン。

うっかり強くぶつけると、前歯で口の中が切れます……ってのを書きたかった。

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