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死神は恨みますか?

今日のは長いよ!

バカみたいにね!

前半だけだと短いから追加しよーって思って……。

しちゃダメだね。

そのメッセージが届いたのは、翌日が夏休み明けの始業式で、勉強に励んでいた時だった。

『あんたの妹、クラスのライフでフルボッコにされてるわよ。ライフなのにライフゼロよ』

みずなから連絡が届いたんだがくそつまらん最後を除いて、ここまでの総計しての予想内だった。


……やっぱりなあと、キャスター付きの椅子に寄りかかって、天井を見つめる。

まあ、妥当だよな。休み前はそれであいつが謝ればと思ってたんだが、うまくいかねえもんだ。


今はかなりわだかまりらしきものは薄れて来ていて、割と抵抗は和らいではいる。

もともと、報復行為が終わった時点で俺としてはもうどうでもよかったんだが、その後の行動で色々とダメージを受けたんで、バラしたことではあった。


けれど、事情がこんなに変わるなんて思ってもみなかった。


「仕方がないですね……」

俺は背もたれに首の後ろをゴロゴロ擦り付けながら、そう呟いた。

「どるる、もう寝るんですか?」

「る……る〜」

「おやすみなさい」

フラフラと布団に潜り込んで行ったその姿を見て、俺は机の上のスマホを見つめた。


『なんとかしますので気にしないでください』

そう返信してアラームをセットしつつ充電をすると、俺は明日の準備を再確認して、眠りについた。




翌日、教室に入って行くと少しだけ皆の会話のトーンが下がる。俺は気にせずに高田の机の前に立った。

「久しぶりですね」

「お?……おうそうだな!」

「おお夜行くん久しぶりではないかね!」

竹下が右手をひらりと振って、ニカッと笑う。色が真っ黒い。また随分とこいつは日に焼けたものだ。

「お久しぶりです黒下くん」

「確かに焼けたが俺の名前は竹下だよ!!」

「竹炭?」

「竹下!」


「……黒下くん」

「カズまでそういうこと言うかな!?」

「ぷぷっ……久しぶり……黒下くん」

「高田の裏切り者!」


そうこうしていると、そこに異母妹……杏葉が入って来た。

水を打ったように静まり返る教室。そこにじわじわと囁きの波紋が広がっていく。


ヒソヒソ。

ざわざわ。


「よく学校来れたよね」

「ホント。サイッテー」


あからさまな侮蔑の視線。投げつけられる言葉の数々。それらを耐え抜いて、彼女は自分の席に座り、俯かずに前を向いた。

途端、俺が耐えきれなくなって、勢いよく立ち上がる。

教室は、再度静寂に包まれた。


「悪趣味ですね」

その一言で、全員の視線が俺に向かってくる。詰まりそうな息をゆっくりと吸って、それから叫ぶ。

「あなた方休み前に何をしてたか忘れたんですか?ボケるにはまだ早すぎると思いますけど?」

声をあげそうになったところにかぶせて言えば、彼らは黙り込む。全員をじろっと見回し、深々とため息を吐いた。


「他人の喧嘩に口出してんじゃねぇよ。これは俺たちの問題だ」

杏葉をくいっと親指で示して、それからどっかと席に座る。

その瞬間、杏葉は震えだした。その腕が顔をぬぐったあたり、涙でもこぼしたんだろうか?


これは直接的ではないが、あいつにとっては救いになるだろう。鬱陶しい陰口と、煩わしい視線が減った。それを向けられ慣れていないから、それだけでも十分救いになるはずだ。


どう出る、杏葉。


その体が、こちらを向いた。俺はその顔を怯まずに見返す。

「……お兄様」

「なんですか」

「謝って済まされるとは思っていませんが、謝罪をすることを許してください」

彼女がぺこりと頭を下げる。眉間に寄ったシワをもみほぐすと、その頭はまだ下げられたままだった。


「……いいんですか?やられたぶんはかなりやり返したと思いますが」

「で、でも」

「あなたに対してはもう憎いだのなんだのはありませんので、気にしなくていいですよ」

ただし、迂闊なことをしたらわかってんだろうなという視線は向けておいた。俺の目を見て、その体がカチンと固まる。


「うぇーい、おっはよ……ってなんなんだこの妙ちきりんな空気感は」

休み明け一番に教室の空気感に驚く伊藤先生に、俺はスッと右手をあげる。

「元凶です」

「ってお前かい!!」


杏葉と俺の間で視線をうろつかせ、そして得心がいったように「あー……」と言う。

「とりあえず、夏休みの宿題……終わってんだろうな?」

杏葉の顔からさああっと血の気が失せていき、ギクシャクとした動きで椅子にぺとんと座った。


「文理共通で数学は提出しろよ。あとは……物理と化学の奴も、とっととだしとけ」

杏葉は謝罪で頭がいっぱいいっぱいだったみたいだが、なんとか色々とやらかしたもようだ。




「あ、あの俺、ごめん!良かれと思って……」

「えーと……田村?」

「そうそう」

「夏休み前だったら、別にああ言う風にはしなかったんですけどね。ちょっと色々とあったので」

「え……じ、じゃあ、わざと庇って……?」

「そこまで好きでもないですよ。けれど、すでに報復を済ませた過去のことをほじくり返して責めるのはやめようと思うくらいにはなりましたので」


田村はその答えを聞いて、苦笑いをする。

「えと、その……無視については」

「ああ、あれですか?逆に面倒でなかったのでむしろ楽でした。あの時ばかりは礼を言いたいくらいでしたね」

「……う、うん、まあ、それでも、ごめんな。色々と、その」

田村は流れに飲まれやすいが、割と律儀でいいやつではある。是非とも俺のようなよくわからんやつと多数意見の橋渡し役になってほしいものである。


田村が去ったあとに死神さんが正面にいきなり現れてビビる。

「……新パターンですね」

「これでもビビんねぇの?お前どっかおかしいんじゃね?」

「死神さんにだけは言われたくないですね」

俺の言葉にちょっとだけ肩をすくめて、彼は半眼になって俺を睨む。

「あれのこと、お前嫌ってたんじゃねーの?」

「嫌いですが、死ねとは思ってないので。生死がどうでもいいと思っているのは、この世界でたった一人だけですよ」


あの顔を思い出すだけで、イライラが募る。

考えるだけで、吐き気がする。


「父親、か」

「間違えないでください種馬です」

「……なんでそんな嫌いなわけ?俺としてもその辺知らねーと何も言えないんだけど」

「そうですね……」

窓から憎たらしいほど青い空を見上げる。


「近々、話します」


ふと、通りがかった生徒の背中に、一枚の手紙が張り付いている。訝しく思って、その生徒の肩を叩く。

「背中、何か付いてますけど」

「えっ!?ごめん、取ってくれないかな」

爽やかそうな好青年が、あたふたしながら頼むので、べりっと剥がして手渡す。


「……うわ、まただ」

「また?」

「ああ、えっと……夏休みの前からこういうことがあってさ」

俺はその手紙を開けて、眉間にしわを寄せる。神気だ。しかも、かなり怨念に近い、どろっとしたもの。


「あ、俺は木崎(きざき) 隆一(りゅういち)。テニス部で割とモテる部類に入るんだけどさ……誰が俺に告ってるか覚えてない、っていうか」

「俺の名前は、夜行 仁義です」

そう言って、中身を見る。


『なぜ私を捨てるのですか』

『私を捨てないで』

『あんなに愛してくれていたのに』


俺の眉がありったけしかめられる。

「恋人とかいたんでしょうか?」

「いやいやいやとんでもない!心当たりがあったら、もうとっくに謝罪でもなんでもしていたよ。それが何度か夏休みの間もずっと俺の背中にくっついたまんまだったんだ」

「そうですか……」


俺は首を少しだけ曲げてから、「お宅に伺ってもよろしいですか?」と尋ねる。

「え?それは全然構わないけど」

「そうですか。今日は問題ないですか?」

「いつでも人は呼べる部屋だからね。問題ないよ」

「数人増えるかもしれません。では、帰りの会が終わり次第、正門の前でお待ちしております」

「あ、うん」


俺は慇懃に腰を曲げると、颯爽と踵を返した。多分陸塞もいた方が、やりやすいはずだ。

メッセージを飛ばしたら、式神が返ってきた。

『OK!』


こいつスマホって知ってるのか。


「まーた面倒ごと抱え込みやがって。お前は本当にお人好しっつーか、アホだなアホ!」

「よし、サッカーしましょうか?死神さんの頭がボールで」

「お前は地味に鬼畜だな!?」

「じゃ、まずはリフティングから……」

「本気なの!?本気だったのそれ!?」


俺が校門で待っていると、すぐ高田が合流した。

「おっす、お待たせ!」

「あなたを待っていたわけではないですがね。それに、明日からテストですけど、いいんですか?」

「んぐっ……いや……まあ、あはは……」

「やばいんだったら早く帰ったほうがいい、というんですが……今回は結構難しい範囲ですし、今からやってもそう変わりませんか」

「やたっ!」


ガッツポーズで俺に答えると、そこに陸塞が現れた。横には、杏葉がなぜか所在無さげに立っている。


「なんか、廊下で女子に囲まれてたから、連れてきたよ?おかげで坂町さん、拾い損ねたみたいでね」

「損ねてないわよ。……浮気者」

背後から音もなく、みずながずわっと現れる。ねえ実は人外だったりする?あまりにも気配が薄すぎて気づかなかったんだけど。


「うわぁっ!?……って、君か」

陸塞も驚愕して前につんのめり、みずなであることを確認してホッと一息つく。

「うん?……何か言ったかい?」

「なんでもないわよ。それより、なんで!こいつが!いるのよ!」

杏葉を指差して、みずなはその艶やかな歯をぎりりと食いしばる。


「お待た……えっ、な、ななななな……あずあず!?」

「木崎 隆一さんです。数日前から怪事にお悩みのようです。内容は、これが背中にいつの間にか貼られているということですが」


その内容を全員が覗き込む。

「……単なるストーカー(+生霊)の類じゃないかしら」

「何か噂は聞いたことがない?例えば遊ばれたとか……」

「やあね、木崎先輩は清廉な男だって言われてるのよ。下半身だらしなかったらただの着ぐるみ野郎って噂になってるわよ」

内側がおっさんでガワが可愛らしい着ぐるみだというところから考えたんだろうが、それを聞いている男の身にもなってくれ。あと先輩が引きつってるのにも気づけ。


「じゃあ、一度うちへ案内するよ」

その後をぞろぞろとついていくと、こぎれいな邸宅が現れた。杏葉と俺、そして陸塞は普通に歩いていくが、残りの二人はソワソワし始めた。

「金持ち感がして居心地悪い……」

「ほんとよね……」


一軒の庭ガレージセットのお宅の前で、彼が両手を広げた。

「ここだよ。どうぞ上がって」

俺は襟を正して格好を確認すると、ちろりと杏葉を見た。そのまま高田の服装をぱぱっと直して、髪を少しだけ分ける。

「お邪魔いたします」

中から女性がひょこっと顔を出した。

「あらまあ、同級生の子?」

「いや、後輩だよ。えっと、」


俺は穏やかな微笑みを心がけて、ニッコリと笑った。

「お初にお目にかかります、夜行と申します。ぞろぞろと急に押しかけてしまい、申し訳ありません。この度は先輩に相談に乗っていただいております」

後ろで陸塞がギョッとしたのがわかった。

「まあ、そうなの?」

「え?あ、ああ」

「うちの息子が頼りにされているなんて。役に立たないかもしれないけれど、話くらいはゆっくりしてあげてくださいね」

「はい、ありがとうございます」


俺の態度か何が琴線に触れたかは割とわかりやすくて助かった。

この人は、息子が『貴公子然』としていることを楽しんでいる。ある種のアクセサリー、ステイタスだ。


俺たちは先輩の部屋に通されると、なぜか存在するソファーに座った。

「木崎先輩は、何か諦めたこと、夢や趣味はありましたか?」

「なっ、……ぜ、それを」

一瞬叫びそうになったのを抑える。理性的な人だ。理性的すぎて、気持ちが悪い。


「……俺はね……昔から、歌手になりたかったんだ。最初はロックバンドに憧れて、エレキギターを買ってもらおうと思った。でも、母さんが、アコースティックギターしかダメだと言うから、仕方なくそれを使っていたんだ」

楽しかったよ、と彼は薄く笑う。


「大学に受かったら、一人暮らしを始めることになってる。でも、エレキギターを買いたいと言ったら、母さんがなんて言ったと思う?」

——まだそんな物欲しがってたの?子供じゃないんだから、ちゃんと勉強して、いい大学に入って、いい会社に勤めなさい。


「呪縛だ。何かしようとするたび、判断基準が母親のそれに準拠していると気づいて、嫌になる」

買い食いはしてはいけないだとか。

ネクタイを人前で緩めてはいけないだとか。


「全てが俺の意思じゃない」

「その歌手になりたいというのは、あなたの気持ちでしょう?」

「それは……そうだけど」

「なら、何らおかしなことはないですね。反抗期なんて、形は人それぞれですから」


この人にとっては、それだけでも十分に反抗だったんだろう。俺は部屋の中にある一つの箱を見つけていた。

「あれはなんです?」

「え?あ、あの、あれは……」

「まどろっこしい。さっさと開ければいいでしょう」


坂町がそれをぱかっと開けて、中の紙束をちろりと見て、びくんと引きつった。

「………………」

「う、うわぁああごめんなさいごめんなさいだから虫を見るような目で見ないで!」

「何が書いてあったんですか?」

俺の質問には、紐でまとめられた紙束だけが飛んできた。


『アイラブユー

その言葉だけが伝わらないよ

僕のそばに君がいるのに


ラララ

アイラブユーアイラブユー

愛してるたった一言

それだけが言えないんだ


水晶のような瞳

絹のような黒髪

そんな君の横顔

綺麗で愛おしくて

アイラブユー

(間奏)

……』


引いた。

ドン引いた。


イザナミ様の「ばあばと呼んで」発言よりも。


「……うわああああ見ないで……もう捨てるつもりだったんだよぉ!」

「捨てる……?ああ、なるほど」

私を捨てないで、か。


文車妖妃(ふぐるまようひ)ですか」

諸説ある妖だが、文書にこもった思いがすげなくされたりして怨念へと変化すると生まれる妖で、主に女の恋文なんかがよくそうなる。

元々は付喪神だったようだが、時代の形態が変化するにつれて、変化したそうだ。


内容は内容だが、怨念やらがこもるほど思い入れのあるものだったんだろう。母親の言葉で、これを捨てようと思い、そして行き場のなくなった思いが怨念化したと。

指でその紙を一度だけ撫ぜると、それをもう一度箱に丁寧にしまい、木崎に手渡す。


「とても気持ちのこもったものだと思います。捨てるのはもったいないですよ」

「……え?」

「未練があるなら、趣味でもいい、続ければいいじゃないですか。趣味まで口を出されたら、ストレスで早死にしますよ」

ぽかんとした表情でその箱を受け取って、木崎はそれを抱きしめる。


「そう、だね……捨てるなんて、やっぱりできないや」

……少々気がひけるが、これはやるしかあるまい。

「失礼、少々お手洗いをお借りしても?」

「え?ああ、一回の廊下の突き当たりだよ」


俺は部屋を出て、転身するとそのまま木崎の部屋に突っ込んで、怨念化したそれを斬り捨てた。

和解してたのに、と坂町が俺をにらんだが、肩をすくめて返す。

「すいませんね。……怨念化しているそのままじゃ、ちょっと悪意なんかを引き寄せてしまいますから」

「……不服」


そうして俺たちは木崎の悩みを解決できた——と、思っていたのだが。


「夜行くん!ちょっと、これはどうか見てくれないかな?」

「……なんでいるんですか」

俺は眉間に寄ったシワを揉みほぐしながら、なぜか俺の席の前に立っているその男をじろりと睨む。

「これ……読んでくれないかな」

手渡された茶封筒の中身をちらりと見る。


『俺は堕天使

漆黒の堕天使

黒い水晶の羽ばたきに

今夜お前を惑わせる


運命じゃない巡り合わせ

僕はそれを望むのさ』


そこまで読んで、先輩を見つめ返した。

どうかな?どうかな?という半ドヤ顔で、俺の顔をチラチラと見てくる。

「……と、とっても……夢が詰まっていると思いますよ……」

チキンな俺には駄作と罵る勇気はなかった。


「そうかな!?ははっ、そうだよね!続きは家で読んでくれ!」

じゃ、と爽やかに去っていった男の後ろ姿を恨めしげに見ていたのは、多分俺だけである。

この作品の怖いところはね!

一話目にして結構アレな長さしてるとこだと思うんですよ。

脱落者続出するよねそりゃあ。

でも切りどころわかんない。切るように話作ってないから。

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