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死神は泳ぎますか?

プール!

水着!


「おぅわったー……」

「それは写したでしょう」

俺のツッコミにもめげず、「涼しー」と言いながら、俺にもたれかかって来る。

「暑いです」

「……じゃあさ。その……プールとか、行かね?水着買ったのに着てないし……」


あ。

そう言えばすっかり忘れていた。みずなとこいつで一緒に買いに行ってもらったんだった。

「ナイスです高田」

「おぉう?」

「明日、みんなで行きましょうか。いつものメンバーで」

「わかったー!やったー!」


俺は高田の宿題のチェックをしていた手を止めて、色々と俺の丸写し状態をペンッと弾く。

「とりあえず、読書感想文だけは……書き直しで」

「なんだとうっ!?」

「なんで本を読んだ感想が全く同じなんですか?しかも一言一句、間違いなく!書き直しです」

「はーい」


彼女はページをぺろぺろとめくりながら、文字を書き連ねていく。

ちゃんとやればできるんだから、最初からやった方がエネルギーの無駄遣いにはならんだろうにこいつときたら。


三時間はたっぷりかかって、「できたー!」という声が響いた。チェックを終えても、まともにかけているので、それをファイルにしまい、立ち上がった。

「……お茶にしましょう」

「うん!」

「今日は、和風パフェです」

「パフェ!?」


作り方は簡単。

かき氷を入れるような器にコーンフレークを敷き詰めて、そこにきな粉を混ぜ込んだバニラアイスを乗っける。そして、その上にわらび餅と市販の煮小豆の缶をかける。

最後にわらび餅にきな粉と抹茶をかけて完成。


「わらび餅が安かったので。どうぞ」

「いっただっきまーす!うめえな!」

「……死神さん、いきなり窓から滑り込んできたまま飛びつかないでください。パフェが危ないです。どるるはどうしたんですか?」

「心配するのはパフェかよ。どるるチャンならもうすぐくると思うボヘェッ」

その頰にクリーンヒットを決めてドヤ顔をするどるる。今日も相変わらずかわいい。


「る?」

「どるるのぶんもありますよ」

「る〜!」

喜んで食べ始めるどるるは、相変わらず可愛らしい。

「夜行、このアイス美味しい!なんで!?バニラだけどバニラじゃない!」

「きな粉を混ぜ込んであります。どうですか?」

「美味しい!」


どるるからもなかなか好評だったので、これはメニューに加えておこうと思う。

「それで、高田ちゃんの宿題も終わったことだし!海とか行かねーの?」

「海はいけませんよ。どうしてです?」

「いやそりゃあ俺も人並みの男のようにおっぱいとかお尻とかは好グフッ」


腹部と顔に両側から拳をもらい、床を突き抜けて下の階に落ちていく死神さん。高田からも怒りの一発が入ったらしい。

俺は口を閉じろという意味での一発だったのだが、高田のは本気だったようだ。

くわばらくわばら。


「び……きに……」

何年どころじゃなく生きているこいつにもまだ性欲とかあったのかよと思いつつ、俺はパフェに手をつける。

「うん、美味しい」






「かぼちゃ」

会うなり早々、園原さんが一発芸を披露してきた。正直言って、どう反応したらいいかわからない。


「……ダメだったでしょうか」

「真顔なのがよくないと思います。あとは……俺のように予想外のことをされると停止する人間にはちょっと荷が重いかと」

「ルタ様には大好評だったのですが……」

マジかよ。


「あ、ちょうど陸塞さんたちも着いたようですね。やってみます」

「えっ」

しばらくののち、向こうから盛大な三つの笑い声が聞こえてきた。

「俺は笑えなかったぞ、夜行」

「…………はい」


プルプルと肩を震わせながら、陸塞が現れる。

「や、やぁ、おふっ……お二人とも」

「く、くく、くひっ、ひ、久しぶりね」

だめだこいつら似た者同士すぎるし沸点が低い。

「あ、あの!今日は呼んでくれてありがとう……?でもなんで、このメンバーなの?」

坂町妹がしれっと参戦している。俺がギロリと坂町……ええい面倒だ、みずなを睨むと、すすっと視線が斜め上に逸らされて、その肩が震えていた。


まあ、最近のすったもんだであちこちの妖怪に俺のことが知れているので、来てはいけないとは言わないが、来ては欲しいと思ってもいない微妙なところだ。

万が一があったりすれば、俺は間違いなくこいつに手が回せない気がする。


「では、中に入りましょうか」


その声で、この妙ちきりんな空気感がぶっ壊され、俺は安堵して中へと入って行く。


水着に着替え、更衣室を出てシャワーを浴び、先に体操を始める。

そこそこ体がほぐれたところで、一番にみずなが来た。その次になずな。二人とも首の後ろで縛って止めるタイプのビキニで、スタンダードに着られていそうなものだ。やっぱりみずなは赤色を着るのか。

なずなの方は特に関係なしに水色を着ているので、いつも紅白を意識しているわけではないようだ。


「お待たせっ!って見てんじゃないわよ」

右ストレートが飛んで来たので華麗に回避すると、バカにしたようにフッと笑ってみせる。


「雑魚が」

「くぅうう……ムカつく!なんか言えないの!?これを見て!」

「…………身長にその栄養が回っていれば?」

無言で脛を蹴られる。

しなりが入っていて、良いローキックだった。


「あ、僕は、その、よく似合っていると……」

「今度もう一度でも言ってごらんなさい……なに?なんか言った?」

「い、いや。……かわいいね」

「うっ」

直球で褒められると弱いらしい。まあそれはさておき、俺は肩を叩かれて振り返った。

「どうですか」

白のワンピースタイプの水着をまとった園原さんがいた。

このタイプの白い水着を着ている人を初めて見た気がする。


「どう、とは」

「ご感想などはございませんか」

「白いです」

「そうですね。これを両親に手渡された時に私も同じことを思いました」


園原さんとは気は合うが、多分なんとなく友達以上にはならないだろうなと思った瞬間だった。


「お、遅くなってごめんなー、着慣れてないから手間どっちまって。夜行、泳ぎ教えてくれよな」

高田は、黄色を基調としたタンキニで、すらりと長い手足と良く合っている。普段の服のセンスは最悪だが、本能的に選んだか、あるいはみずなのセレクトか、いずれにしてもよく似合っている。


「構いませんよ。ゴーグルは?」

「持ってるぜ!」

「じゃ、問題ありませんね。……似合ってますよそれ」

「お、おうっ!」

返事が男らしくて、若干笑えてきたが、震えてこらえた。


「じゃあ、まずは水に慣れましょうか。膝から下をつけてみてください」

「はい!先生!」

「それはやめてください」

恐る恐る水に足を沈めて、「ふわぁ」とマヌケっぽい声を漏らす。

「んーっ、冷たくて気持ちいー!」

「感覚はどうですか?何かやばいとか感じますか?」

「ないな。もうちょっと入ったらあるかもだけど」

「それじゃあ、ゆっくりと今度は体を沈めてみましょう。俺が支えてるので、大丈夫ですよ」

「じゃあ安心だな!」


俺はその腕をしっかり持って、そのままゆっくりと中に入れる。

「うわー!?なんかひんやりする。……あ、でもこのくらいの高さなら、溺れる心配もなさそう」

「それは良かったです。じゃあ、次は顔を水の中に入れてみましょう」

「お、おう」


ゴーグルをつけて、彼女が息を吸ってゴボッと潜る。数秒して、彼女が顔を上げた。

「できたー!」

「それじゃあ、ちょっと泳いでみましょう。俺が手を引っ張りますから、高田は足を動かして」

「お、おう」

ゆっくりと両手を取ったまま俺が進み、高田は引っ張られて進んでいく。途中バタ足を初めて俺に衝突したりと色々あったが、午前中で空いていたのも幸いして泳ぎ切った。


この段階でここまで進めるなら、そう難しいことはないんじゃないかな。


「夜行!あんたちょっとこっちに来てちょうだい!」

そう思った瞬間にこれだよ。

「……高田も一旦休みがてら、行きます?」

「ん?行く行く」

俺がまず上がって高田に手を差し出すと、ぎゅっと握られてざばりと上がる。俺は前髪をかき上げて、声のした方に向かうと、みずながウォータースライダーの前で、踏ん反り返っていた。


「あれやりましょ!」

「あれですか。……って陸塞が並ばされてますけど」

所在無さげなところが割とかわいそうだ。

「代わりに取っといてって言ったのよ」

「ああそう……それで?どうして俺も呼んだんです」

「高田ちゃん、プール初めてなんでしょ?あんたが一緒にやってあげたら安心で、楽しいと思うのよ」


俺は眉間に寄ったシワを揉みほぐしながら、彼女を睨みつける。

「妹の味方は、しなくて良いんですか?」

「完全に脈なしだもの」

「……どうして、そう言い切れるんです?」

「あんたと妹には、つながりがないわ。高田ちゃんみたいに最初から感じられるわけでも御使な訳でもない。私みたいに見えるとか、陸塞みたいに力が使えるわけでもない。言ってしまえば、単なる部外者以外の何者でもない」


彼女は一旦そこで話を区切って、腕を組む。

「仮に付き合ったとしてよ?あなた、一切の何もかもを隠し通すことはできる?その力を秘密にしたままなんて、不可能でしょう?違う?」

「……そう、ですが」

「そんな落ち込むこともないわ。私だって多分、この事情を知らない奴となんて、上辺だけしか付き合ってけないわよ」


べんっと背中を叩かれる。

「だから、ちゃあんと断りのお返事……してあげないと許さないわよ」

「ぅぐっ」


俺の表情が引きつった。隣で聞いてる高田は、赤面してあうあう言っている。高田が止めてくれることはあんまり期待してはいなかったがこれはひどい。

せめてうんとかすんとか言ってくれ。


「ほら、行きますよ」

「あ、ああっ」


カラフルな階段を登って行くと、係員さんに「仲がいいねえ」と冷やかされ、水が下から流れ出しているチューブの中に入り、高田を抱きしめると、仰向きに体を倒す。


ずるりと俺たちは滑り出す。

ざああ、という水の音と、カラフルなチューブの入れ替わりに視界が目まぐるしく変化する。透明なチューブもあったが、そこからチラリと手を振っている陸塞とみずなが見えた。


「きゃああああ速い速いっ!」

ケラケラと笑いながら、はしゃいでいると、ふっと無重力になった気がした。

どばあん、と水の中に投げ出されて、キラキラと目の前で空気の泡が弾け飛ぶ。冷たい水の感触が、興奮で火照った体に心地いい。

はっと我にかえり、俺は高田を回収に行く。

「大丈夫ですか?」

「ぷはっ!平気!すっごい楽しい!」

「それなら良かった。どきましょうか、次の人たちが来ます」

「ああ!」


ふと、プールサイドからの視線に気がついて、俺の膨らんでいた気持ちが一気にしぼみ始める。

「あ、あの、夜行くん……私も、ウォータースライダー、いい、かな?」


俺は目をゆっくりと閉じて、それから彼女を見つめ返す。何かを決心しているとか、覚悟したような顔。

「わかりました」

「……ありがとう」


列に並び直すと、ゆっくりと彼女は喋り始めた。

「私ね。前から、夜行君の顔、知ってたの」

——なんだと?

嘘だろ。俺あの時からバッチリ基本的に隠してたはずだし……。

「いつですか?」

「高一の時に居眠りしててね。誰もいない教室で、移動だったから起こそうと思って……そしたらかっこいいんだもん。もうびっくりしちゃった」

えへへ、とはにかんで、話が進む。

「高二になるまでに、夜行くんが本当に一人で何かに苦しんでるのはわかった。わかったけど、私には踏み込めなかった。それぐらい、高い高い壁で、少しだけいる友達にもやめとけって言われたよ」


でも、諦めきれなかったと。

そのとげとげしさから垣間見える優しさが、たまらなく恋しかったと言う。

「高田さんと出会ってから、すごく変わったよ。私じゃ到底無理なくらいには」

……それは、なんとも言い難いが確かに坂町がどうこうできる段階ではない。


「私のこと、お姉ちゃんは純真だと思ってるみたいだけど、すっごく腹黒くて、汚いんだ」

出会い系のアプリで出会った人と寝たことだってある。

うわべだけ友達だった子の彼氏を寝取ったことだってあった。

いじめの主犯格にだってなったこともある。

最低なことをしているとわかっても、全てが灰色の世界で、その瞬間だけは色が見えた気がした、と。


「でもね。全部、今までの何もかもを帳消しにしたくなるくらいに、私はあなたのそばにいたい。それくらいに、本気だよ。灰色の世界で、あなたが色をくれた」


その目が、じっと俺を見つめる。


「私は、あなたのそばにいたい。私じゃ、ダメかな」

ダメかな、か。

「俺に何を期待しているかは知りませんが、俺はそんな大層な人間ではないです。あなたが言ったことを笑顔で許せるような人じゃない」

「知ってる」


彼女は、全てをわかっているように頷いた。

わかっていて、彼女は言ったんだと思った瞬間、説き伏せようとするのは勘違いだと悟る。


けじめをつけたいのだ。

きちんと振れば、それでいい。


「……坂町さんは、俺の後ろにいることはできても、横に立つことは絶対にできません。俺は、横に立っていてほしい」

誰とは言わないが。

誰とも言えないが。


「そっか」

短くそう一言だけ呟いて、彼女は目を閉じ、ぱっと開けた瞬間には、いつもの笑顔に戻っていた。

「えへへ、振られちゃった」

それを聞いていた係員が、ギョッとする。

「これでおしまい。一緒に乗ったら、おしまい」

「ご期待に添えず、すみません」

「いいよ、全然。なんか、太刀打ちできなさそうな気はしてたんだ」


もう一度見た景色は、青く光って過去のような痛みをわずかに俺の胸に残した。

坂町さん再登場後即退場。

もうちょっと細かく書きたかったんだけども、実際詳しく書くとジャンルが移動しそうな気もする。

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