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死神は目覚めますか?

ようやく集結。


大きな声で、少女が細腕を伸ばす。彼女の方を振り向いて、子供が涙に濡れた目でじっと彼女を見る。

その腕から赤く液体がこぼれ出すが、その手は揺るがない。

とんでもない神気の圧がかかっているはずなのに、その顔は微笑みを浮かべたまま崩れない。


地面に貼りつくようにして、三人は圧に耐える。

「けほっ……」

「ミズハ!?……っぐ!?」

「うっ……」


少女は、微笑みを崩さずに、瞳から涙をこぼした。

その瞬間、神気の圧が少しだけ緩む。

「仁義……帰ろうか」

くしゃり、と子供の顔が歪んで、涙がぶわりと目の下に盛り上がる。それをゴシゴシとこすって、こくりと一度頷いた。


「帰る……!」


彼が彼女の腕に飛び込んだ時には、すでに彼は高校生の姿へと戻っており、満身創痍の三人は地面へと放り出された。

同時に繭全体にひび割れが広がっていき、光を散らしながら崩れ落ちて行く。

幻想的な崩壊だった。

「繭が……崩れる」

「……己は、枠組みに引きずられすぎていたのであろうか?この力ならば、ヨリのやつ……もしくは——」


そうヒエンが言いかけたところで、一人の少女がずざざっと現れて、ビシッと刀を突きつけた。

「いた!!ちょっと、いきなり消えないでちょうだ……あれ?ボロボロじゃない、二人とも。後一人は誰なの?」

「ニギ君の方で、きっと何かやったんだろう。……まだ戦う気は、あるかな?」

その背後から出て来た少年が、手に持ったお札をこれ見よがしに振ってみせる。

ユウマの頰がピクッとヒクついた。


「冗談じゃねえよ、あんな化け物相手にした後にお前らとの相手なんざやってられるかよ」

「そうかい。それは僕の方も嬉しいよ」

「最後に、あの禁呪の解き方だけ教えて欲しいんだけどね?」

「その必要はねぇな!」


背後からすさまじくうるさい声が響いた。

「ん〜、なぜならァ〜……俺様が復活したから☆」

ポーズを決めて、死神さんがそこにいた。枷は取り外されて、消えている。


「おそらく、マガヨが死ぬことで枷も外れたんだろうな」

そう言って、小脇に抱えていた気絶している人物をぽいっと投げる。

「なんか一緒に捕まってた女の子も回収してきたから。ほれ」

「うわっと!?ハニー大丈夫か?」

「ん……ユウマ?」

ミズハとほとんど同じな少女を受け取って、ユウマはその頰をぴとぴとと触り、安堵のため息を吐く。


「俺様がきたからにはもう安心!ニギはどこだ?」

「……死神さん、あの、もう終わってんだけど……」

仁義を肩にもたせかけながら、高田が苦笑いして言った。彼は拍子抜けしたようにキョトンとして、それから絶叫した。


「こ、この怒りはどうしたらいいんだーっ!?」

「ほう?ではそれは我との熱い熱いスキーンシップで……発散するがよい」

「ぎくぅ」

口で擬音語を言いながら、ビクビクしつつ彼が振り返ると、イザナミがそこで目が笑っていない荒んだ笑みを浮かべていた。

「お、おてらわやかに……」

「お手柔らかにだ、この阿呆弟子がっ!!」

スパーンと高らかに音が響き渡る。


「あ、あの!」

そこに誰もが忘れていた人が、出てきた。

「な、何の用ですか」

ツインテールが片方解けて、その服装はボロボロになっている。可愛らしい顔には、泥やらがこびりついて、かなり悲惨なことになっている。

杏葉だ。


「わ、私っ……その」

「こいつはあんたのこと、嫌ってた」

高田の言葉に、彼女はぎっとこちらを睨みつける。

「それならどうして、……助けるような真似を」

「死にたかったのか?」

「違っ……私は、私……そいつになんて、助けられたくはなかった!!私よりもずっとお父様に好かれているのに、お父様を悪し様に言って、……許せませんでした」

グッと下唇を噛み締めてうつむき、彼女は顔をしかめた。


「お兄様に、ありがとうとお伝えください。……こんな私じゃ……お礼を言う資格なんてないっ!!私なんかが助けられなければ、死ねばよかったんです!!そうしないと、どうしたらいいかわからない……っ」

「馬鹿が」


ざっくりと全てを断ち切る声が響いた。


「ンなもん、生きてる価値のある奴が言っていい言葉なんだよ。てめーはお前の兄貴の偉大さが、これっぽっちもわかってねーようだから言っとくぞ」


死神さんの怒りを湛えたその姿を目を丸くして見ている杏葉が、ごくりと喉を鳴らした。

濃密な神気がジワリと怒りに呼応して漏れ出る。周囲の人々が思わず、うっと声を漏らすほどに、その姿は強烈だった。


「普通なぁ、反吐が出るほど嫌いな奴が死にそうになったら見捨てるんだよ!テメェはそいつが死にそうになったら身代わりに死ねるのか!?よしんば頑丈だったとしても、あの攻撃だけで普通に生きてるわきゃねーんだよ!それをグチグチダラダラと、ちったぁテメェの兄貴を見習って動けこのすっとこどっこい!!」

「す、すっとこ」

「ああそうだよ!だいたいお前のそのいかにも何も考えてないで生きてるツラとか色々ムカつくんだよ!家族だとか兄妹だとか抜かす前にそうなれるような努力をしろよ!テメーの始末もつけられねぇで、何様のつもりだよ、ええ!?」


その言葉に耐えかねたのか、ポロポロとその目から涙が溢れだす。それをぬぐいながら、彼女は頷いている。

「うぅっ、ごめんなさい……ごめんなさい……」

「けっ、だいたい力には代償がつきものだっつーの。後先考えずにこっち側に来てんじゃねーよ、アホ」

「…………ぁい」

えぐえぐとみっともなく泣く彼女を見て、死神さんの肩を叩く陸塞。


「その辺にしてあげたらどうかな」

「ああん!?」

「ど、うでしょうか……」

怯んだ陸塞を見て、死神さんがはあっと息を吐き、やるせない怒りを押さえつけたかのように舌打ちをする。

「まあ、……ハァ、まあいいけどよ。ん?あれ?もう一人の死神はどうしたんだ?女の方のやつ。いただろう」


高田はそれを聞いて、ポンと手を打った。

「あ、あの人?なんか退屈だから参加したって言ってて、……色々あって、うん」

「……そいつ、誰だって?」

「え?……よりちゃん?とか、言ってたような」

「そうかよ……あーあーあー。ニギもまた厄介な奴に目ぇつけられて」


ガシガシと頭を掻くと、その状態のまま半身になって振り返る。

「俺、家に戻るわ。あとそっちの嬢ちゃんは、謝罪くらい直でしろ」

「……はい」


んん、と彼は伸びをすると、振り返ってニカッと笑った。

「さて、帰るか!」


その肩をがっちりと掴み、それを阻むものが一人。

「ほほう、どこにだ。貴様我を謀りおるとはいい度胸だの……」

「げっ師匠!?じ、じゃまた後で!」

「後があれば良いがのう!!ぬしは一体我から何を学んだのだ!?むざむざ捕まって己が弟子に助けられるなど、阿呆の極みだ、この馬鹿たれがっ!!」

「こっわ!?いやマジですいません!」


********




激痛で目が覚めた。

「っ………」

声も出せないくらい痛い。多分咳をしたら痛いじゃ済まない気絶するわこんなもん!!

「っふ、……ふ……」

涙目になるのは放置して荒い呼吸をなだめて、俺は周囲を警戒しながら見回す。……俺の家だな。痛みがひどいし、幻覚ってわけでもなさそうだ。


そういや夏休みの宿題やんねーとだな。面倒だが、実際ちょっと日数的にもやばい。

先にある程度事前に出ていたものは終わらせておいて、正解だ。


あとは、実力テストもあるから、それも準備をして、あとはみんなお腹すかせてるだろうから……。

みんな。


ふと、部屋に誰か入ってくる気がして、俺はなんとなくとっさに目を閉じた。

「……誰もいないですか〜……こんばんは……」

その声に、どきりと心臓が跳ね、冷や汗が出る。

異母妹(あずは)だ。


異母妹(こいつ)がどうしているんだよ俺のうちに。


「すう、はぁ……」

息を整えるな。

……まさかお前この体を嬲りに来たのか?

そんな嫌な想像が駆け巡ったその時、彼女はおずおずと喋り出した。


「お兄様……ご、ごめんなさい。色々と、今までに言ったこと、やったこと……すべてを謝罪いたします。……命を賭けてもらってようやく気づくなんて、バカですよね。その……私、今までの償いのために頑張りますから、だから……挨拶くらいは承知してください」


ハードル低っ。

低すぎるよお前。

挨拶って。


「よ、よし!謝罪の予行演習はこれで完璧ですね。あとはお兄様が起きた時の眼力に耐えられるかどうかですが」

「誰が……凶悪な、目つきだ」

「うわっひゃあああああっ」


くるりと振り返ったその顔には、完璧な笑みが浮かんでいた。

「お兄様……無様なものですねえ」

いや、目が若干泳いでいる。俺をバカにしている感じの目つきではあるが、すごく挙動不審だ。まるで見られてはいけないものを見られたように。


「はっ、あなたこそ謝罪の予行演習なんて可愛らしい趣味をしていますよね」

「んなっ、んな、んなああっ……ど、どうしてそれを!」

「最初から最後まで聞いてました」

「っの野郎……」


プルプルと震え出して、ベッドをドカッと蹴り上げる。衝撃に痛みが走って呻くと、ハッとして後退して俺を睨みつけた。

俺をどうこうする気は無いようで何よりだが、俺の眼力云々の前に鏡見たらどうだよ。そっちの方が十分怖いぞ。


「ふざけんな、馬鹿!し……うぅ、あっち行けくんなよ!言いふらしたりしたら傷口に塩塗ってやる!!」

「ああはいはいそうですか」

気絶するくらい痛きゃ逆に痛みを感じなくて済むしちょうどいい。


「……まあ、聞いていたならちょうどいいです!そういうこと、なので」

「挨拶くらいは、ですか。……あなたのその性格が治ったと俺が思うまでは、それでいいですよ」

「……はい」

「じゃ、とっとと出てってください。ここは俺のうちなので」

かっくりと項垂れていったが、その足取りは若干軽かった。


「……っはー……痛え」


あちこちが痛い。

杏葉には、もう十分報いが来るだろうから、俺は気にしない。それがある意味あいつへの罰だ。

もう俺としても、遠ざける理由がなくなった以上は話してもいいと思うようになった。


御使が死神を失うと、徐々に力が失われるが、やはり目だけが戻らないというのは聞いていた。

対抗するすべを自分で会得するか、もう一度死神をひっ捕まえるか。それはあいつの自由だと思う。


「やべ……そういえば田村にあれこれ言った気がする」

まあ、俺が気にしていないと態度で示すしかないだろう。あの時は色々と切羽詰まっていたから、こうなるなんて予想できなかったし、そんなこと予想もしているわけもない。


気づけば、夜が明けて、朝になっていた。

傷の方は、鈍い痛みはあるものの骨とかいろんなところはおおよそ大丈夫だ。


「おはよー、って目ぇ覚ましてる!?よかった!!」

俺の痛みによる悲鳴に構わずぎゅむぎゅむ抱きついて来る高田には何も言えず、その痛みに顔をしかめながらも、少しばかり気まずくて頰を掻いていると、その後ろからどるるがぴゅっと顔を出した。


「どるるは怪我とかないですか」

「る?るー……る!」

「心配かけました」

「……いつもながら、お前ら会話内容ほんとにわかってんのかよ。うっすうっすチョリーッス」

ふざけながらドアを透過してきた男の姿に、息を呑んだ。


黒髪に多少白が混じっているが、その姿は紛れもなく、死神さんだ。俺はじわりと滲む涙を目頭を押さえてこらえる。

やばい。

泣きそう。


サイドテーブルからメガネを取って掛けるとその姿をもう一度見返す。

「……幻覚じゃないですね」

「いや透過しても幻覚じゃねえから!」

「いやだなそんなこと一言も言ってませんよ。態度に出しただけで」

「開き直り方が豪快すぎる!」


俺に言えるのは、このくらいで。

メガネがあってよかった。


「死神さん」

「ん?」

「……お帰りなさい」

その唇がニヤッといつものように笑った。


「おう、ただいま!」

お帰りなさい。

次は水着回&久々の坂町妹登場。

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