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死神はくじけませんか?

ブクマが増えていらっしゃる!

うおぉ……感激です。

その姿に、俺は半分ほど泣きそうになる。

「死神さん……!」

「お前、なんでここにいる」

掠れた声で、そう返されてしまう。不可解に思うが、俺は説明をした。


「なんで……って、そりゃ死神さんを助けに来たんですから、当然でしょう?」

「ああ!?テメェ実はものすっげえ馬鹿だろ!?」

感動していた俺が引っ込み、イラッとして言い返す。

「……あん?なんだともう一度言ってみろよこのスカポンタン。その自称お綺麗な顔をひょっとこにしてやろうか!?」

「自称ってなんだよ。イケメンだろうが!」

「はいはい妄想妄想」

「テメェ……こっちこそその顔面捻り潰してやラァ!!」


「……勝手に痴話喧嘩始めないでくれる?」

痴話喧嘩じゃねえよとマガヨに突っ込む声が無言のうちに響くが、俺たちは一度口を噤んで冷静になる。


「そうですね。それで、俺があんたを助けに来た理由ですか。知りたきゃ教えてあげましょう……イザナミ様から伝言です」

その言葉を言った瞬間、その顔から余裕が一切消えた。冷や汗がじわりとその顔に滲み、目がキョロキョロして体がそわそわしている。


「『処刑』とだけ」

「んわあああああああ!?やべえそれまじやべえヤツじゃん!?ちょっと逃さないで!!」

「何言ってるんですか。どうせ殺されるなら美人の手にかかった方がいいでしょう」

「美人だけどもさあ!?」

「それに後もう一つ言っておくと、ファッションセンス的に全身黒はちょっと……」

「今それ言う!?」

「俺の家に帰るのがそんなに嫌ですか?ここで引いたら俺が無事でいられると思ってるんですか?……冗談じゃない」


俺は鎌をじゃらりと目線の高さまで上げて、死神さんを力の限り睨みつける。

「死神さんを連れて帰らなければ、俺が処刑されるんです。保身のためにあんただけは連れて帰る」

「すさまじく利己心にあふれた理由だった!?」


いちいち待っててくれるマガヨは割と律儀な奴だ。いや、ただ神だからのんびりしてるだけかもしれない。死神さんのために何百年無駄にしたようだし。

そして、俺は本音を言おうとして、色々と詰まる。


言えない。こっぱずかしくて言えない。

親に隠れて変な漫画描いてたのばれた時くらい恥ずかしい。


「っ……あ、あとは、死神さんがいないと、……料理の減りが悪いんですよ。それから、部屋が静かで、気持ち悪いです。正直言って自宅でそう思うなんてありえません。……だから」


顔を上げると、死神さんがニマニマしてものすごく楽しそうだった。無事に帰って来たらやっぱり殴ってやると心に決める。

「わかったよ!……ったくテメーも素直じゃねえなァ、んふふ」

「その両手両足拘束された状態でそんなこと言って格好つけられてもちょっとどうかと思いますが」

「いちいち水差すなあお前!!」


「いいかな?じゃ、ちょっと大人しくしてろよ」

「ってまたぐはっ…あぐ、ぅ……」

血が吹き出して、その場所に死神さんが放り捨てられる。同時に、檻が展開されて、鳥かごのようになる。

その瞬間、俺の周囲に吐き気がするような神気の気配が充満していく。死神さんの息がつまるような神気とも、ルタの静謐な神気とも違う、禍々しさを孕んだ神気。

それを吹き飛ばすために、俺は口を開いた。


「……あなたの言い分は理解できますよ。人が神の領分を侵すなどとは傲岸不遜で、実に不敬です。しかし、有史以来人が傲慢で狡猾で、そして何より力を望むものだと知っているでしょう?」


俺はあくまで、俺の平穏——何より周囲の人が安全でいられるということを手に入れるために、力を欲した。

人は自分の目的のためなら、崇高さなんて踏みにじってしまえる。


「ああ知っているよ。だから、人は定期的に思い知らねばならないんだ……だから、僕は君たちを殺して、神に戻り、もう一度人に畏れ敬われねばならないんだよ」

「神に戻ったから畏れ敬われるわけじゃない。神たる所以があって初めて、畏れられ、敬われるんだ。あなたの考えは、誤っている」


その柔らかな表情は、硬質な笑みに変わっていた。

「僕は本当に君とは気が合うのに、分かり合えないんだね。しょうがないなぁー……君を殺して僕はこの男を殺す」

狂った微笑みに、俺は即刻神気を巡らせる。男の手元から、くだんの大鎌がずるりと出てくる。多分仕様は変えられているかもしれない。嫌がらせより拘束あるいは殺傷力が高くなっているだろう。

全て避けろとか、なんつー無理ゲーだよ。どこぞの弾幕ゲーでも残機があるってのに。


「はっ、ほざいててくださいよ。そのうちに俺があなたをプチ殺して差し上げますよ」

「……プチ殺す?」

「まあ、そんなに自分を過大評価できるほど弱い敵だと思ってはいないので」

「えーと……んじゃ、まあ、お互いの信念(だいじなもの)師匠(だいじなもの)を賭けて、勝負しようか」


一度引き締まった空気が緩んだ。今この瞬間、奴は俺に対して油断している。

今、この瞬間で圧倒できればいい。

目の前にいる男に向かって、全方位より、拘束と総攻撃。


神脈の破壊をされると、生身に戻れば俺は動けても、こっちは回復まで動かすこともままならない。神脈の破壊もできれば万々歳だ。


俺は四方八方に鎌をばら撒き、三つだけ本命を残してあとは単純にマガヨに突っ込ませる。思った通り、奴はその光景に驚愕した。

「なんだこれはッ!?」

そのまま俺は慎重に、かつ迅速にその神脈を見極めて、その部位を三ヶ所狙う。


「シィッ!!」

「ぐっ!?」


その体にざっくりと鎌が刺さり、そこから神気がぐうっと流れ込んでくる。俺はその勢いのままその首を刎ね飛ばそうとして——ちりちりと感じていた悪寒にその場を即座に退いた。


「……チッ、逃したか」

建物の中に突っ込むようにして飛び蹴りを入れていた、闇。

母さんの形をした闇だ。


まずい。

何がまずいってそりゃ、俺がこのままじゃ確実に競り負ける。

相手の体に突き刺して、神脈を破壊できたのは二つ、腕と脚の付け根だけ。それも多分あの神気の量じゃ、そう長くはもたない。せいぜい十分。


「……くそったれ」

「くっ、なんだ、なんなんだこれはぁ!!僕の腕、腕がッ、ちきしょうっ!!立てないっ!?なんなんだこれは!くそっ、あ、あれを、殺せ!!」

なんだ?


その姿に俺は違和感がバリバリ湧いてくる。

なぜこいつは神脈を治そうとしない?

神なら当然知っていていいはずの知識だろうに、どうしてそれを知らないんだ。

手刀が飛んで来て思考が中断される。


「……チッ、まずはあなたから片付けますか」

「貴様に母親が斬れるか!?無理だろうなあ、何せお前のために死んだような女だもんなぁああ!」

「うるっせええなああちょっと黙ってろよお前!?」

蹴りが飛んでくるっつーのに何話しかけて来てんだこの野郎。


だいたいこいつは、わかっていない。


わかってねーな。


これは、親の死に目に会えなかった俺が、唯一してやれる親孝行なんだよ。闇に呑まれて、実の息子の胸を貫いて、無理にいうことを聞かされるそんな母親の魂を、送ってあげられるチャンスなんだよ。


そして、最後まで勝てなかった俺が、母さんを超えることができる、最後のチャンスなんだよ。


「はああああああっ!!」

その腕が装甲に覆われたまま、俺の鎌とぶつかり合って、互いの勢いに弾き飛ばされる。が、踏みとどまって、その勢いを利用して、回し蹴りを放つ。相手も同じことを考えたようで、脚が交錯した。


……かかった。


俺はその足元に緩んで落ちている鎖を引っ張り、その足を掬う。一瞬驚いた顔になるが、それはぐにゃりと不定形の闇に形を変えて、俺の攻撃を避ける。

舌打ちとともに牽制のために一発はなってから、後退する。


忘れていた。そういや、元々が不定形の生き物だ。手足こそあれ、あいつらは人じゃないことを念頭に置かなければ。

とすると、攻め手が一気に減るな。

拘束も何も意味がないとなると……仕方ねえな。やるか、あれ。


俺は無手になると、その突っ込んでくるに任せて、その体を受け止める。

「ニギッ!?」

しかし、俺の体から生えた鎌の刃が、それを受け止めて、その腹を突き破った。


「ぁあっ、あ、あ、ああああああっ!?」

狼狽した母親の声。

怖い。

怖いが、もっと怖いことを俺は知っている。


そのまま、掻き抱くように鎌の生えた腕を回して、体を撫ぜた。

「ぎゃああああああああああ!!」

いやだ。しかし、俺が、俺以外の誰にこれを任せられるものか。


じわじわと、端から虹色の光の粒になって行く。その姿が目まぐるしく変化して、そして、上半身だけになった時に、母親の姿で動かなくなった。

「ひとよし……ひとよし、すまん……私のせいで、傷を……」

「か、あさん……?」

傷をつけたことまで覚えているのか。


「私、……ごめ、」

「それ以上言わなくていいです。俺はもう、平気ですから……母さんがいなくても、友達がいて、俺を好きだといってくれる人も、いる」

「そうか……それは安心だね。ごめん仁義……辛かっただろう?ありがとうね」


ブワッと侵食が一気に進む。そのまま虹色の光がどんどん生まれて、母さんを消して行く。その魂がふわりと空に飛び立っていった。

「かあ……さん」


やっぱ、勝てねえや。

そう唇だけで呟いて、俺は改めてマガヨに向き直る。

こいつは人の魂を還さずにいた。そして、俺の母さんまで弄び、死神さんを苦しませている。これでどうして、全力でやらねえってことがある?


「待っていてくれて、ありがとうございます」

「くっそ……なんだよこれ……動か、ない……なんなんだよ……!!」

俺は有無を言わさず、手に持った鎌を振り下ろした。








「ざぁんんねん。また来世」

「かはっ……!?」


禍々しく背に暗闇をまとったマガヨが、紫の息を吐き出しながら、なぜか外の(・・)地面に倒れ伏した俺を踏みつけていた。

「動いた瞬間に君の感覚なんて幻にしていたよ。母親とは感動のお別れはさせたけど、残念でした。君の方も、もうすぐそちらへ向かうんだ」


踏みつけられながら、俺の意識が意に反して暗転して行く。

どこまでも深く深く沈み込んでいって……。

お読みいただき、ありがとうございました。

次回は主人公フルボッコ予定の二話更新予定です。

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