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死神はイラつきますか?

深夜に投稿。

連載中の作品なのにホラー短編に負けている。なぜだ。解せぬ。

次の日の朝、俺はとんでもない筋肉痛に襲われていた。痛みで目覚めるほどに凄まじかった。眠っている間はすこんと意識が消えていて感じなかったのだろうが……ぶっちゃけ気絶に近かったんだろう。


と言うか、これ絶対昨日の夜ヒビ入ってた骨とかも修復したんだよな。そりゃ痛むはずだ。


死神になってから、かすり傷程度は傷がまるで幻のように治癒するようになった。勝手に神気が巡るだけで治癒していくのだ。

骨折は一、二時間ほどかかるが、治せはする。

ただ昨日はぼろっぼろになっていたから、正直朝までに治るかどうかもわりかし微妙なラインだった。


食べることとトレーニングが欠かせないもの(後者は妖からの逃走のためだが)になっている俺にとっては、結構久々な激痛である。

まあ、昨日疲れ切ってストレッチする余裕すらなくして早々に寝たのも原因だとは思うけれども。


「うぉはよ……どるる」

「る…る?る〜」

相変わらずの気持ちいい毛並みを撫でながら、俺は無理やり目覚め、朝食を作り始める。


今日の弁当のおかずは、卯の花炒り煮とちりめんじゃこと小松菜の炒め物、それからカニクリームコロッケに、プチトマトとちょっぴりレタス。

カニクリームコロッケは、ベシャメルソースから作った自信作だ。ただカニはお値段が高いためカニではなく実際はカニカマクリームコロッケだが。


当たり前のようにつまみ食いをする死神さんにどうして食べられるのか尋ねてみたら、どうやら作り手が誰なのかが重要らしい。

俺くらいの神気を持った者が料理をすると、ソコソコの神気がこもって、触れたり食べることができたりするのだと言う。

とりあえず、つまみ食いはわざわざ片手に神気を纏わせて、しばいてやめさせた。


「お前の飯じゃねーと匂いすら嗅げねぇしな。なんつーかこう、生殺し。見るだけ見せて、ハイ終わりってな」

へえそうなんだと流したら、なぜかめちゃくちゃ殴られた。すり抜けるので、非常に視界が鬱陶しくなっただけだったが。


「俺にとっては死活問題なんだぞ!!」

「死神さん死んでるじゃないですか」

「あ、そうだった」

そこで納得するのかよ。


黙らせるために朝食を出してやれば、ものすごく感謝をされて、とても複雑な気持ちになった。

作った食事を褒められるのは嬉しいのだが、多分食べられることに喜んでいるだけだと思うと、なんとなく釈然としない。

どるるのように美味しいから喜んでいるわけではないのだ。


学校に着くと、なぜか伊藤美和——担任が待ち構えていた。俺との関係性は、恩人。

俺がまともな話をできる人間だ。


かつて、俺は彼女を遠ざけようとしたが、去年失敗に終わった。学校側に電話番号を握られていて、しつっこく毎日毎日かけ続けて来た。多分、俺はこの人がいなかったら二度と学校には来なかっただろうし、自責の念で自殺でも敢行していたかもしれない。


そして、何より彼女。なぜか異様に怪奇現象とは縁がない。やけに周囲に妖が寄って来ずにいる不思議な人間だ。

俺に絡んでくる奴らも、彼女には全くと言っていいほど興味を示さない。なぜかと問うと、「まずそう」だと言われた。ごく稀にそういう体質の人がいるそうだ。

でも「まずそう」か。……あまり言われたくないな。


俺が妖を気にせず関われる、今の所たった二人の人間のうち、一人であることには間違いない。

残り一人は普通に関わって殺してもいいと思っているやつなので、そういう意味ではたった一人の信頼できる大人だ。


「おう夜行、元気か?元気だよなあ?」

「先生は今日も男前ですね。イケメンです」

「わっはっは……あんまり褒めるなよ」

ちなみにこの発言の間俺は肘で脇腹をどつかれている。失礼な言動をしたので甘んじて受けるが。

それにしても、本職顔負けのドスの効いた声だ。笑顔も怖い。今からでも遅くないぞ先生。


「そうそう、用事なんだけどな。お前だけだぞ、まだ遠足の班決まってないの」

「不参加で」

「却下だ」

「……アミダで」

「適当すぎるだろ。しかもアミダすら、もしかしなくとも……私に押し付けようとかしてねーよな」

「はは、まさか……」

「『まさかそんなわけありますよ。当たり前じゃないですか』とでも言いたげな顔じゃねーの、ええ?」


まあそうとも言う。

俺の学校では、クラスの結束を深めるために五月に全ての学年で遠足がある。場所は時によって違うこともあるが、二年は大体近郊のアスレチック施設に行く。

俺を除いて勝手にやっておいてくれと叫びたい。健康さが恨めしい。


「それで、比較的すいている班はここだけだ。どうする?別のとこも入れようと思ったら入るけど」

「良かったですね」

「何がだ?」

「先生のアミダの手間が省けました」

「やらせる気満々だったんじゃねーか!」

プリントペラ一枚を丸めたものでぺシーン、と叩かれる。


俺は視線を某とうふ屋のドリフトレベルで滑らせると、メガネを人差し指で押し上げた。

「では当日はインフルエンザを発症して腹痛と頭痛と全身筋肉痛の予定があるので」

「行く気ないだろお前」

「仮病はしないよう努力します」

「努力の方向性が違うわァ!!」


そんなこんなで、班は半自動的に決定した。


さて、遠足の行き先だが、アスレチックに行くと言う。

楽しみは弁当と単独行動時間だけだ。午前中は必ず全員で回ることとのお達しだし。

これも集団行動で仲良く、とかクラスに馴染もうねというとてもいらない心配りだろう。


班のメンバーが必要以上に接触して来なければ、まあなんでもいいか。


……そんな淡い希望を抱いていた時期もあった。

教室に戻った後に先生から通達があったようで、双子(姉は別クラス)の、なんとかと言う女が駆け寄って来た。名前は……覚えていない。始業式で瓜二つの二人が立っていたから双子だとはわかったが、それ以上のことは知ろうとも思わなかった。


名前?一ヶ月で覚えた他人の名前なんてないな。担任は去年覚えたのでノーカンだ。


要するに、「こいつ誰だっけ」。


「夜行くん、同じ班なんだって?よろしくね!午前はみんなで回るけど、午後もおしゃべりしよ?」

まあ当然俺の顔を見て喋るので上目遣いになっているのはわかる。

しかしだ。俺の手を勝手にとって握るな。


俺はそれを粗野と感じる程度に振り払い、正面に向き直る。一言も喋ることなく、そして席に座る。

お前と話すことは何もない、そう態度で示しながら。


あちらこちらから視線を感じる。妖が、この目の前の女を見ている。クラスメイトが俺を見る。

背中には、自然、冷や汗が滲んでくる。

関係ない。

この人は、こいつらはなにも俺と関係がない。

見るな。


「あ、ごめんね。触られるのやだったかな。それでね?今度みんなで一緒にお菓子とか、色々買いに行こうって話になったの。日曜日の午前十時に、駅前のストバ集合だから、遅れないでね?」

……は?


何を言ってんだこいつ。いきなり人の予定入れんなよ。

つか関わる気がないんだよ。ジャパニーズ必須エアリーディングスキル使えよ。俺は持ってないけど。

「もうっ、どうしてなんの返事もしないの?」

片頬を膨らませてプンプンしている。


……もうっじゃねーよ。知るか。お前らと一緒に買い物なんて、行けるわけねぇだろ。

そんなことしたら、あんたらが危ないんだよ。俺に目をつけたおかしな妖怪だって、少なくねぇんだよ。

縊鬼(いつき)だのなんだの、今は俺一人だからなんとか押さえ込めてもいるってのに。


ああ、まずい。じわじわと視線が強くなる。俺はできるだけ突き放すように、冷淡に言い放つ。


「行きません」

「えっ?行かないの?」

そんな一方的に予定を告げられて空いてる方がおかしいだろ。

日曜日だぞ。俺死神さんと戦闘訓練して布団を外に干して洗濯物干しまくる予定だぞ。あと自家製ピザも作りたい。

ティラミスもいいな。土曜日外出でもしてマスカルポーネ買っておこう。


「そっかぁ……残念。じゃあ、携帯の番号だけでも!ライフも誘うし、ね?」

そんなアプリダウンロードしてねーよ。話す相手なんかゼロだよ。悪かったな電話帳の登録数ゼロで。人生から他人をブロックして生きてきたからな。

それに実のところコレは検索ツールでしかないし。


「いいえ、結構です」

「えー?そぅお?じゃあ仕方ないなー。それじゃあ、またね」


常日頃俺は人間が嫌いだと宣言して来たが、それは俺が他人を俺自身から遠ざけて、傷つかないようにしたいからだ。


その原則を破って、去年初めてできてすぐ亡くした友人は、俺に対して図々しく踏み込んできた。さっきの女と同じだ。

今回も同じだ。同じ轍は踏まない。

なるべく関わらないことを誓ってしまえばいい。俺の今の強さでは、妖の一匹にもきちんと対抗することができないから。


まあ、俺は相手に嫌われるしかないと思うけど。


俺は未だ腹の中にくすぶるモヤモヤを押し殺すように深呼吸する。と、目の前を通り過ぎた男子生徒が、俺が席にいることに気づいて寄ってくる。


少し男子としては長めで、手入れもされていない適当な髪に、女っぽいか可愛らしいかと表現を迷うような顔立ち。身長も割とある。制服は兄などのお下がりなのか、着古された感がある。身長は170近辺で、目線の関係から見るに俺より低いだろうか?


ただ、誰だか全くわからない。

今クラスメイトの写真を見せられても、全員わからないと思う。

「おう、夜行。俺、高田(たかだ)(こう)。今度遠足で一緒になるから、よろしくな!」

「……はぁ」

「ハンノーうっす!ああそうだ。さっき聞いたよな、ストバ集合ってやつ……」

「行きません」

「ああそうなの?……マジか」


ああもう俺に関わってくるなよ、どうしてこうお前らは一人になろうとする奴に構うんだ。

俺は頰を掻いて続く言葉をあからさまに無視しながら次の授業の用意を始めた。

周囲のかなり冷たい視線を感じるところからすると、そのうちいじめの一つや二つ、始まりそうだ。







まあ、今日も喉が枯れそうなほど絶叫しながら死神さんに上空から二十一回落とされて、しかも今日は別のことを言い渡された。


武器の、生成である。

お読みいただき、ありがとうございました!

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