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死神は苦しみますか?

シッペいたい。

夜中、痛みで目が覚めた。目の前にはなぜか、イザナミ様。覗き込まれているのだ。

「おはよう」

「おぐぁっ!?」

挨拶を返そうとした瞬間、体がビキビキっと痛みを放った。


傷は完璧にふさがっているが、体内はボロボロだ。喋るだけで痛い。

すでに生き返れないと言うのが確定しているだけに、酷くないですか。いつか痛みで死ねる。


俺が神気を流してなんとか痛みを引かせていると、彼女は不敵に微笑んだ。

「さて、殺るぞ仁義」

「……はい」

口答えは死ぬほどの痛みを招く。黙って従うのが吉だ。


妖の中で迷惑をかけているものがいるか聞き出し、悪即斬というように、即座に俺が斬っていく。消費した神気よりも断然多く回復して、その限界量が増した気がする。

それにしても、なぜあの時イザナミ様は死神さんを取り返そうとしなかったんだろうか?


「どうかしたか?」

「いえ……その、なぜ、あなたは死神さんを助けようとはしなかったのですか?」

彼女は一瞬押し黙ったが、それからちろりと歯を見せて笑い、口を開いた。

「……我はな、すでに神には戻れぬよう一定以上の神気は、周囲の大気に吸収されてしまうのだよ」

「一定以上の?」


俺が首をかしげると、「あの時のマガヨよりは、少なめだの」と付け加えられる。

「この間のことは、我が戦ってもどうにもならんこと」

「その状態で、よくあそこまで持っていけましたね……」

「我を例え殺しても、また黄泉がえれば済むことよ。それにのう、一番の問題は……我の子供が黙っておらんからの」

なるほど理解した。


今現在神であり続けている彼らが、死神という堕した存在を潰せぬはずもない。そして、イザナミ様の方も、彼らに頼りっぱなしではないから、彼らもたまになら多少の無茶な頼みは容認してくれる。

そして何と言っても、タネを仕込んだ父親より、イザナミの方が慕われているのだろう。


「そういうわけで、あやつは退いたのだ。あれでも目一杯引っ張ったのだがな」

「いえ、こちらこそおかしなことを聞きました」

「だが、我は原則的にあちらこちらの諍いに手を出してはならないのだ。今回は二度目……おそらく次はないであろう。だから、そう面倒を起こしてくれるなと言っておったはずだが、弥太郎ときたら、己の手に負えぬ弟子など……ぶっ飛ばしてやる」


ぶちぶち文句を言い始めたので俺はそれを頷きながら聞いている。なぜか今は元旦那の悪口に切り替わり、さらにそこから発展して最近のスイーツが美味しそうなのに裏歌舞伎町では出してくれないだとか、そんな文句を言い続けている。


「……ん?あれは……?」

「ルタさんと、ソノちゃんさんですね」

「そのネトゲのハンドルネームみたいな呼び方はなんなのだ。しかもあれは『はろうぃーん』の服装ではないか?あやつらいったい何次元に生きておるのだ」

ツッコミが的確すぎてるよ。


「おぁ?ンン?イザナミ様……?それに坊主じゃネエか?真っ黒ハどうしたんダ?」

「あやつなら今、アホに捕まって痛い目みとるわい」

「ほぉ、そうかィ?なら別にいいンだがナ」

俺は一歩進み出た。


「十日後に戦いを挑みます。ルタさんも助けてくれませんか?」

「何を言い出すのだニギ!?」

イザナミ様は慌てるが、この場合俺はこの人の助けが必ずいる。間違いなく、カグさんは参戦できず、さらに俺たち四人だけとなれば、無理があるにもほどがある。


死神を一人ずつ担当しても、必ず陰陽師のせいで無理な部分が出るし、さらに言えば坂町はまだ使えるかどうかも不明な状態だ。

これで戦いを挑むなんてことは、不可能に等しい。

「ソレは、俺に参戦しロってことカ?」


あたりから一切の音が消える。何もかもを飲み込んで、静謐さが時をも支配してしまいそうな圧迫感。

俺はその中で、無理やりニヤリと笑う。


「ルタさんは、ここに楽しさを求めにきたんでしょう?」

「そうダナ」

「俺の今の力は到底マガヨには及ばない。他のメンバーだって、必死でやってどうにかならないかもしれないほど、無理やりなゲームです」

「……ああ、中立を保テと言いたいのカ?」


不機嫌そうな顔も神気も、一向に収まらない。これじゃダメだ。これだけじゃあ、こいつは動かない。

「それもありますけどね。……絶対に勝てない勝負に弱いものが勝つところを、特等席(・・・)で見たくはないですか?」


その瞬間、空気がブルリと震え上がった。

ルタの顔が何かおかしな表情になり、読めなくなる。

「……クックック……ああ、お前最高ダ。いいゼ、死神一人まデ請け負ってやる。それ以上は、手は出さねェ」

「ありがとうございます」


あたり一帯を覆っていた神気がなくなって、俺は思わず深呼吸をする。スッとそこにソノちゃんさんが滑り込んできた。

「あの」

「なんでしょうか?」

「……ルタ様がいいとおっしゃいましたので、手伝わせていただきます。が!ルタ様が怪我でも致しましたら、即刻撤退させてもらいます」

「……過保護るナヨ、怪我もしネェなんてつまらんだロ」


「ソノちゃんさんは、ルタさんが本当に好きなんですね」

その瞬間、体に衝撃が走った。脇腹に凄まじい蹴りが入って、肋骨が折れた。

「けふっ」

「あーあ、やってしもうたの。勘弁してやってくれ、こやつ阿呆なのだ」

「……私もちょっとやりすぎました」


俺は咳き込みながら、いったい何が悪かったのかわからずに地面に這いつくばっていることとなった。






翌朝目覚めると、なぜか布団の柔らかさとは違う、芯のある柔らかさが張り付いている。

「……テメェなんでここで寝てんだよ」

その顔を遠慮なしに押しやると、奴は目を覚ました。

「やあおはようニギ君」

「……床で寝てたんじゃなかったですっけ?」

「ああ、僕はベッドじゃないと眠れなくってね……つい潜り込んでしまったよ」

「そこに直れ。……その顔半壊させてやるから」

「なんでかな!?……あ、まだ六時……半……ぐう」

「ぐうとか言ってる奴は絶対目ぇ覚ましてますから。まあ、寝ててもいいですけど、怖いですよ?カグさん」

「起きるよ!」


爽やかな笑みとともに状態が起き上がる。腹筋の力が半端ないのか、前かがみでなく上体がまっすぐのまま起き上がってきた。

動きが気持ち悪い。


「どるる、高田としにが……いえ、坂町さんを起こしてきてください」

「る〜!」

体を起こした状態で陸塞が俺をちろりと見て、笑った。

「日常に戻るためには、もう一踏ん張りだねえ?」

なんだか妙に癪に触ったので、その言葉を黙殺して俺はリビングへと向かっていった。


「……うむ。二日でようできるようになったの」

「死神さんからは説明はなかったんですが」

「弥太郎には教えたのだが、無駄だったようでな。あやつかなり教えていないことが多そうだな」

どうも、死神さんの中では教えていたことが三分の二位に減少していそうである。彼女はそれから俺の鎌を手に取り、片一方をその手に持って、ギミックをかしょんかしょんといじり始めた。


「使いづらいの。ニギ、本当にこれで戦っておったのか?」

「まあ、そうですね」

「あやつは……神脈の話もしておらぬのか?」

「しんみゃく?」

「ああ。我ら神は神気を通す時にそのところに血管のように神脈を持って、神気を全身に送る。それをもってすれば、相手の神脈を知覚して、破壊して動けなくすることも可能だの」

「具体的にはどうやって止めるんですか!」


俺がにじり寄ると、彼女は興味津々だのう、と言って教えてくれた。

「相手の神脈を見極めて、そこを破壊する。そうすれば、体すらうごかせなくなる。それの攻撃のためにはかなり面倒な手順がいるが、簡略的に破壊するには——」

腕を掴まれる。揃えた人差し指と中指以外は握り込まれた形で、もう一方の手が上がった。


俺知ってる。これシッペだ。

とっさに引くが、一瞬の痛みとともに感覚が消えている。

「……な、なっ……」

「こう、相手に流れている神気よりも多く神気を注ぎ込むのだ。手首から先、使えぬであろ。三十分ほどは使えぬが……ちょうどいいから、その神脈を感じて回復させてみせろ」

「あぁっ!?なんかクタってする!!」

てろん、と手首はありえない方向にぐったりした。俺が青ざめていると、頭をがっちりと掴まれた。じんわりと頭に圧がかかっていく。


「やりますやりますやれますから離してください!!」

「分かればよい」

俺はすぐさま呼吸を整えると、体全体に流れる神気とその手首に意識を集中させる。

じんわりと体全体の神気が巡っている。その一本一本、今のと逆側の手首にも集中するが、そんな流れはない。


もしかしたら、左右対称ですらないのか?


俺はそう考えながら、その神脈をたどっていく。

足の小指に中継地点があったりするが、一番気配が濃いのは、頭の中。

脳内だ。


俺はゆっくりとその流れを感じて、それからその仕組みを頭で考え始める。

おそらく、泉のようになっていて、その泉があふれ出るように下へと流れを送っていく。そして、流れが滞らないように動いているのが、ところどころの中継地点。


御使になる時に死神が神気を流し込むのは、この神脈を変質させるためだろう。

「……それに、死神さんが捕まったのも、神脈を破壊されたからじゃないですか?」

「ぬしは、なかなかに察しがいいのう。そうだ」

「禁呪と言っていましたが、それは?」

「そうだのう、ニギ、災いを起こす神を人はどうしたと思う?」

「祀って怒りを鎮めたのでは?」


彼女の唇には、どことなく寂しげな笑みがうっすらと浮かんだ。彼女自身、死神と恐れられた経験があるからだろうか?

「それもそうだがの。一番は、出てこないようにするのだ。縛れば相手はこちらに手出しできぬ……そう人は考えたのであろうな。神を祀るのではなく、内から出られぬようにする、枷のような呪の類だのう」


「……それで、禁呪」

「そうだ。だが、ぬしが受けることはあるまいて。なぜなら、神が神を祀るなど、ほとんどありえぬからのう、マガヨはかなりの無理をしたはずだ」


それならば、死神さんの呪を解くにはどうしたらいいのだろう。


「安心せい。奴は頑丈で面倒じゃ」

「それフォローとは言いませんけど」

「そうかの。まあ、呪を無理やり引きちぎったところで、奴は死なぬ」

「……力技ですね」

「何を言っておる?」

俺はキョトンと首をかしげると、彼女もこてん、と首を傾げる。


「おぬしが引きちぎるのだぞ」

「……えー」

「えーではない!だいたいだな、あやつの体に刺さっている杭を抜くようなものなのだぞ。そりゃあ生きていなくて当然だろう!だからこそ、神気をある程度持ったものがその杭を破壊せねばならぬというのに……」

「壊さないやり方って、ちなみに?」

「呪をかけたもの全員が死ぬ」

「破壊しましょう」


いやそんなん無理ゲーだわ。一人でもカツカツだってのに、全員を殺さなきゃいけないとか不可能に近いわ。

俺はそう思いながら、手首を動かした。

「うむ、二十分か……タイム短縮!用意すたあと!」

「いってぇ!?なんでシッペでやるんですか!?」

「これが一番やりやすいのだ」

ぎゃんぎゃんわめきながらトライしたが、結局一分を切ることはできなかった。

お読みいただきありがとうございました。

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