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死神は騒ぎますか?

ストック切れたので、基本一話更新にします。

楽しみにしてる人ごめんね。

あとみてみんの方に同じユーザーネームで下手くそなキャラデザのラフをのっけてありますので、興味のある方はどうぞ。

「とにかく、弥太郎が面倒を見ているこの子供は、しばらく預からせてもらう」

「……手を出すなと?」

「む?我が鍛えた暁には別にそのようなこと構わぬよ。それまでは、そうだな。それに貴様が弥太郎を攫ったのはわかっておる。返せとは言わぬよ?おぬしのこだわりもわからんでもないのでな」


まだ体のあちこちが言うことを聞かない。体にぶち空けられた大穴のせいで、神気がうまく流れていねぇんだ。

クソ、わかってるんだよ。

あれは、闇だ。母さんはただ、外装を使われているにすぎない。


それでも、俺はあの人を斬ることはできない。


唇を噛み締めて、俺はそこから視線をふいっとそらす。

「……そうですか。では、こうしましょう。半月——十五日間、僕は待つ。そして、御母堂……あなたはその間彼を鍛える。それでどうです?」

「……まあ、よかろう」


その表情が互いに緩んだ。


「ただし」


「きゃあっ!?」

「ぐはっ……」

「君たちが、この男を連れて行くのだけは許さないからね」


死神さんが禍々しい鉄の輪に囚われている。そして、その体はジワリと血をにじませて、吐血の跡が複数見える。

「……っ、死神さん……」

ふと気づいた。

死神さんの師匠は、何を思っている?


「無様だの、弥太郎」

……ちょっと待って。あんた心配してここに来たんじゃねーのかよ。

なんか服についたゴミを見るような目ぇしてんぞ。マジで。

「…………ぁあん?……げっ、師匠!?なんでここに!!」

「なんでも何もなかろう?勝手に弟子まで作りおって」

「ってニギ!?めっちゃ怪我してんじゃねえか!?来たのか!?」

今まともに喋るの結構難しいからちょっと待て。話はそれからだ。


「ま、何度でもかかってくるがいいさ。さ、太陽は浴びただろう?地下牢に戻るよ」

「え!?死神四人の禁呪で襲われた挙句にまた地下牢かよ!?ちょ、状況説明、誰かプリイイイイズゥ……」


てめーはちょっとでもボケねーと気が済まねぇのかよ。

ただ、相手があと少なくとも三人を隠していることはわかった。ひとり、ミズハは除外していいだろうが、ユウマと名乗った男の方の死神は、あちらについているんだろう。

こういうところうまく情報を伝えてくるな、奴は。


死神さんの師匠の手が握りしめられていることに、その時気付いた。爪が食い込み、血がポタリと垂れて、消えた。

「……」

大男がその肩を叩き、死神さんの師匠がハッとして手を胸に当てた。


瞬間、こちらを恐ろしいスピードで振り返った。


「なんですか?」

高田が警戒まじりに声を発するも、明らかにスルーされる。

「話は聞いておったな。おい、そこのおかっぱ陰陽師と妙ちきりんなチビ娘も来い!」

個体識別と言うか呼称の仕方に結構センスがある。誰もが指摘できないのにがっつり指摘するタイプだこの人。

ヅラの課長においヅラ野郎とか平然と言いそうな人だ。


「こやつの怪我が治ったら、即刻貴様ら全員鍛えてやる。ああそれから、女……おぬしはもう二、三日で力を失うじゃろうな。覚悟しておけよ」

「……そ、そんな!?早すぎるわ」

「大方力を得たのちに何度も使っていたのだろう?限りある神気、回復もしないではそうなるのがオチというものだ」


まあ、それは予想ができたことだ。力がなくなれど、見えることは見える、か。悲惨というか、かなりキツイことだ。

「それで、その小僧はどうなっておる?」

「ぁ、ゲホッ、ゲホ……ようやく、喋れる、程度、」

「そうか?回復がなかなかに早いのう。弥太郎の指導は、大変だったろう?あやつは全てを己の感覚で言い表しよったからな」

「……あ?ああ、死神さん……弥太郎と、言うんですか」

「そういえば、弥太郎では威厳がないからと名乗るなと言っては置いたが……あやつ徹底しておらぬか?もうちょっとちゃらんぽらんな阿呆かと思うておったわ」


ひでえ言われようだな。


「ああ、見えても、……そこそこ、頭は回ります、よ」

「なかなか信頼しておったんだの。さて、二人とも来たな」

「……今俺お腹をぶん殴られた直後だったんだけどなあ……」

「たわけ、この子供は胸をぶち抜かれてるのだぞ。動かせるわけなかろう」

そうだった。俺今はたから見たら結構やばい状態じゃねえか?


「そこなチビ娘は、そのおかっぱ陰陽師に少し陰陽道を指導してもらえ。あとは、このカグに任せれば、半月でそこそこ戦えるようになるじゃろ」

迦具土神(かぐつちのかみ)か。首には鉄の輪が取り付けられているところからすると、首を落とされたというのは本当の話だったんだろう。


……ってことはだ。


「あなたが、死神さんの、師匠で、……伊邪那美命(イザナミノミコト)、ですか?」

「ほう?」

彼女は俺を見て、幸せそうに微笑んだ。

「ようわかったな」

「迦具土神は、首を落とされて黄泉にいるはず……そして、黄泉にいる残った神は、ひとり」


伊邪那美命。


「……そうか。まあ、その辺りはおいおい話してやろうぞ。何か聞きたいことはあるか?」

「あの……では、なぜ、禍津日神が、あなたを母でないと言ったか……」

「簡単なことよ……思い出しても腹がたつ……」


思わずその表情に俺の何かがキュッとなった。

シーサーが尻尾巻いて逃げ出しそうだ。


「あれは、我がイザナギを追い返した時のこと」


彼女の肉体は、すでに黄泉から出られるようなものではなかったらしい。今は、かりそめの神体を閻魔大王に送られていたが、実在はしていないという。


「我は、そのまま夫を返すしかなかったのだ。そしたらあの男めが……」

体を見られて怒り狂ったのではなく追いつかないよう調節していたのに、イザナギは手加減なく逃げたようで、イザナミも本気を出さざるを得なかったらしい。


「入り口まで追いかけたのだ。そしたらあの男、入り口を塞いだのはわかるぞ。わかるのだが……禊と称して、川の女神とやることやり始めたのじゃ……」

怒りまくって、一日に千人殺してやると叫んだようだ。


「……子供たちには川の女神でなく我が母親と伝えていたようでな。スサノオは信じていたようだが、ツクヨミに真実を聞いて、『姉ちゃんも親父も知るか!』と暴れたのが、例のヤマタノオロチ退治に至るまでだの」

「そんな裏話聞きたくなかった」

普通にドン引きもんである。


「しかもな?そのイザナギが岩の向こうから当てつけのように行為中の声とか音とか響かせるものだから……腹が立ってしょうがなかったわ……」

それはキレるよ。


「イザナギなんて今はどうも思わんが、そこだけは許せんと思うておる。あんな根性悪(ワル)にひと時でも心踊らされたことに最も腹がたつのだ。おおそうだったな、おぬしらは付きおうておるのか?ん?」

「まだです!」

おいこら高田。お前まだってこれから予定があるみたいじゃねーか。


「……うむうむ。ならばよかろう。おぬしらは……」

坂町と陸塞に目を向けた。


「向こうで乳繰り合っとれ」

「いやなんでかな!?」

「そうなの?」

「そうなのじゃないよ坂町さん!?」


あー……陸塞ってあんな顔できるんだ。へー、お似合いだと思うぜ。

「何見てんのよ。変態、この視姦野郎」

「自意識過剰じゃ、ないですか」


俺は喉に溜まった血を吐き出すと、ゆっくりと高田にもたれていた体を起こす。

神気も、巡りが良くなってきている。流しちまえ。


「ん?おぬし……流れの回復が早いのう?……ほう?」

「何かあるんですか?」

神威(しんい)の種類の判別だの。……おぬし、特殊だな」

「特殊……?」

「ああ。聞いておらなんだか?あの阿呆めが……」

「強化、特殊能力、あと一つがあるのは聞いていました」

「ああ、最後の一つであっているはずだな。全くあいつは……」


彼女はそうぶつくさ言いながら、実にスタンダードな鎌を引っ張り出して、空中にわちゃわちゃした妙に可愛らしいタッチの絵を描き始めた。


「神威の形は、実際死神それぞれで異なっておる。神としての特性が反映されるのだ。例えば我であれば、一時的にゾンビを生み出すなんてこともできるぞ?まあ最近は火葬が多いからスケルトンなのだがな」

なんとなく死神さんのボケ多めな理由がわかった気がする。こういう真面目な時師弟そろってボケるな。


「それで、じゃあ俺は……?」

「うむ。それを知るには、かなり時を要したが、まあ問題なさそうだの。強化の場合、一度ゼロになるまで神気を使い切り、そこから体に傷をつけると、埋もれていた神気が発現する。特殊能力の場合は、神気をとにかく強く放出することだ。流れを無視して流しっぱなしにすることで、ある程度おかしな現象を起こせるだけの神気を辺りに出現させ、そしてそれに性質変化を与える。鎌を作った時と同じだの」

「じゃあ、最後のは……」

「うむ。一度死ぬのだ」

「え?」

「死ぬのだ」


待って待って待って。

何それやばくないですか?

俺の享年とか知りたくないんだけど。


「一番簡単といえば簡単なのだがな。神威が未発動な段階で最後の一つの特性持ちが死ぬと、神気が暴走を起こして、発言する……何が起こるかわからない、まあ博打のようなものだの。後は自由に使えるようになるが、大方は正気を失ってしまう。味方すら殺しかねん力だ」


俺がクッと俯くと、高田がポンと肩を叩いた。

「心配ないですよ。そんなことしたら、俺が止めます」

「ほうほう?良い御使を持ったものだ。さて、では傷も塞がりかけておることだし——」

「その前に、全員ご飯食べましょう。お腹、すきません?」





「お前ら心配……ってうぉあ!?どうなってんの!?どうなってんのこれぇ!?」

「血まみれ……穴は、傷口があるだけだけど……」

「そういえば俺、お二人の名前を伺ってなかったような」

「「知らないであんな喋ってたの!?」」

息がぴったりである。


「ねえ、この人たち誰?」

「俺のトモダチ。二人ともいいやつなんだよ」

「俺は竹下(たけした) (まなぶ)。こっちが」

山田(やまだ) 一総(かずふさ)だ」


捕まっていたのが竹下、そして冷静な方が山田か。なるほど、覚えた。

「すいません。追い返すようで恐縮ですが、今日はもうこの傷なので……」

「ああ、いいっていいって。俺ら母ちゃんに色々言ってねーし、全然OK。じゃ、そういうことで……ん?そういえば夜行ってこんな喋る奴じゃなかったんじゃないっけ……?」

「そうそうなんか一匹狼というか……んん?」


改善できてきていたのか。少し感動すら覚える。

この調子で、他の人とも関わりを持っていければいいんだが、今のところは怖さが先立ってしまう。悲しいものだ。


「それじゃあ、また明日終業式でな!」

高田が綺麗にぶった切って、扉を閉めた。


「ほう、かなり綺麗に結界が引いてあるね。独学かい?」

「そうですよ。今の時代、ネットって便利ですよね」

「そうだねえ。僕もちょっと西洋の魔法陣とか、調べてみようかな」

「それもいいと思いますよ……で、何をしているんですか?高田、坂町、イザナミ様」


三人が俺の机などを覗き込んでいる。

「エロ本探しは定石でしょ?」

「春画の一枚もないとは情けないのう」

「ここが夜行の部屋か……綺麗すぎて気持ち悪いな」

「高田は自分の部屋を掃除してくださいよ」


その瞬間、坂町が立ち上がって高田の部屋を探しにいった。それを止めに行く高田。


「……ご飯作るか」

そのあと、なぜか味醂か料理酒でもいい、飲ませろと迫るイザナミ様につまみを出したり、高田が雰囲気で酔っ払ったのを部屋に運んでいったり、坂町が意外と純情だった陸塞にちょっかいをかけて遊んだりしているうちに、誰もかれもが寝静まった。


その夜、破けた例の黒装束をゴミ袋に詰めていると、背後に何かを感じて振り向いた。

「……イザナミ様」

「様はやめろ、気色悪い。初期の弥太郎を思い出すわ」

「明日は学校が半ドンなので、その後からならいつでも結構です」

「そうかえ?」


しばらく沈黙が続く。


「明日、ぬしは死ぬ。今の神気の三分の一は覚悟しておけ。その後、戻ってこれるかどうかは、我の手に負えるかどうかで決まる。頼むから、越えてくれるなよ」

「また、無理な相談ですね。俺もわかりませんよそんなの」

「ふっ、また弥太郎と同じことを」


彼女はくっくと喉を鳴らして笑った。

「ぬしを抑えられるかどうかは、力でという意味ではない。それは、鍵を相手が分かるかどうかだ」

「鍵?」

「そうだの……例えば、友が悩んでいる時、その悩みに気付ければ、鍵がわかったということになる。が、ぬしはかなりひん曲がった根性をしておる」

「自覚済みです」

「そーいうところが嫌なのだと言ってるんだがの」

むうっと眉を寄せて、ふくれっ面をするが、かなり整っている顔立ちのため、全く似合わないことこの上ない。

「まあ、よかろ?全ては、明日はっきりすることだ」


彼女はそう笑って、酒を呑み干そうとして、空のグラスを差し出した。

お読みくださりありがとうございました!

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