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死神は壊せますか?

全く、俺は一体何をやっているんだよ。

あれから時間も経って、呆けていたところから冷静になることもできて、考えが巡っていく。


「……あー……」


よーく考えてみろ。

敵がなぜ、あいつをさらっただけなのか。


さらっても、殺せないからだ。もしくは、殺すと何か支障が出る。


そこで伸びてる男がしたかったのは、『足止め』すなわち、死神さんと俺の引き剝がしだ。


要するに、あいつは死神さんを拘束する手段があっても、殺す手段はないってことだ。

そして、俺がいると、死神さんを捕らえられないと踏んだから、俺を死神さんから引き離したんだ。


「だったら、手はある。俺が勝てる可能性も、万に一つ以上はある」

問題は、俺がぼけっとしていたことで、三人が先に行ってしまったことだ。


大方高田が上で撹乱および陽動をして二人が奇襲をかけているんだろうが、長い年月の間神気が多いわけでもないのに生き残って来たやつだ。狡猾に決まっている。


陸塞とあのちびっ子で死神さんを探しに行ったはず。そこで、敵がいないわけないだろう。何らかの仕掛けで守られていたから、敵がいるわけないと思うとかもありそうだ。


実際、その仕掛けだけを破ってそのまま遁走がベストだ。その場所が破られたことを警戒し、相手が死神さんをそこから移送したりする事で、道中に狙いを定めて取り返すとか。


……まあ仕掛けがあればの話だ。あまり追求はすまい。


今は、あいつらを追いかける。


俺はその廃墟っぽい建物の入り口が騒がしいのを見てとると、外壁を伝って二階の窓の近くにある木によじ登る。半分割れた窓を丁寧に開けて中に入ると、黒子と目があった。


「こんにち、はっ」

「ぐぶっ!?」


俺はその顔面に足裏を叩きつけて、丁寧に絞め落とすと、男の服を脱がし始めた。

そういう趣味じゃねえ、変装だ変装。

そのまま俺のメガネなんかもかけさせて、髪型も弄る。そして俺の服を着せておく。もったいねえが、いっても三千円以内だ。構うかよ。

にしても、着にくいな。


頭巾をかぶると、服の中にあった紙切れに術の解除の仕方が載っていた。それを見てとると、俺は叫んだ。

「侵入者だ!!」

「何事か!?おお、よくやったぞ!!」

「俺はこのまま三階に向かわせてもらいます。では!」

「おお、結構手ごわいのでな。アンズ殿が向かったようだが、皆で必死に押しとどめておるぞ。あの女、主人殿の命に逆らうとは……気をつけるのだぞ!」


はいスルーありがとうございます。


俺は三階に入ると、そのまま戦闘音のする部屋に突入した。

「状況は!?」

「侵入者未だ健在!!その戦力は、かなりのものと、ゔぁっ!?」

吹っ飛ばされる男を尻目に、俺は形だけ早九字を切ると、そのまま突っ込んでいって、奴の持っていた苦無(くない)を叩きつける。


「そのまま聞け」

「……!!」

目が大きく見開かれる。手元では、金属同士でギリギリと音が鳴っている。

「何回か斬りむすんだら、俺が力一杯吹っ飛ばして窓の外に投げる。その時に逃げろ。撹乱は十分だ」

「……ちぇええい!!」

高田は気迫十分に叫びながら、了解の意を胸を人差し指で叩いて示した。


「ハァッ!!」

「っの、やろ……」

「でやぁ!!」


俺が蹴りを力強く防御の上から入れると、高田が吹っ飛んでいった。

「おおっ……」

高田の神気が飛んでいくと、さらに歓声が上がった。一人の黒子が寄ってくる。俺は頭を少し下げた。

「お前、朱雀院の分家のものか。それにしては力が凄まじい事よ……本家筋に来ぬか?」

「そ、そのままお聞きくだされ!今しがた、二階で侵入者を発見致し申した。おそらく、ここに来たのは陽動かと思われます。二手のみとは考えにくいと」

「何!?……そうか、我々の中ではお前が一番のようだ。主人殿は地下におられる。そこに行け!」

「了解致し申した」


やりぃ、ちょれーな。


俺が地下へと向かっている旨を告げれば、皆があちらだと指をさす。分家筋なのでここに慣れていないといえば、疑うものを説き伏せるのは簡単なことだった。

それにしても、何やってんだよ朱雀院の奴ら。

陸塞を生贄にするだけじゃなく、死神さんまでさらって。


大穴の空いた場所があるが、これはおそらく時短のために陸塞が空けたものだろう。その横には、西洋式の魔法陣が組まれている。

俺は紙に書かれていた通りに魔法陣の一部を解いて、それから床の扉を引きあけて中に滑り込む。


ダストシュートのような場所から転がり出ると、小さな人の声がかすかに響く。その方向へとじわじわ歩を進めれば、穏やかな声に混じってうめき声が聞こえてくる。

「……弱いねえ。陰陽師はほとんど味方にいるから、対策なんて頭を抱えることもない」

「ぐぁ、あ……ぅ、」


俺は飛び出ていって、跪く。その整った相貌が一瞬警戒の色をにじませるも、俺が跪いたために警戒をしないと判断したようだ。

「ご報告申し上げまする!」

「何事かな?」

「侵入者が三階に。すでに排除された模様ですが、アンズ殿が我々の制止を聞かずにそこに行こうとしたようで……」

「またかい?……やっぱな、もう食っちゃった方がいいかなぁ」

「いかがなさりまするか?」

「ああ、そうだね。ま、こいつら外に放り出しておいてよ」

「は、失礼つかまつりまする」


俺は床にドサッと投げ出された二人を抱えるふりをして、そのまま転身した。鎌を勢いで振り抜きながら、その首を狙う。

だが、それは鎌の柄に阻まれた。ギリギリだったようで、その顔には驚きが満ち溢れていた。

「……驚いたね。朱雀院には阿呆しかいないのかい?」

「お互いの顔を知らないから、こういうことが起こるんです、よっ!!」


互いの鎌がこすれ合い、擦り傷が増えていく。しかし、何だか妙に傷口が、ムズムズする。

かゆい。

そう、かゆいんだ。


「発想は悪くないのに、君は詰めが甘いね?ニギくん」

「く、これは一体……」

「僕はマガヨだ。八十禍津日神(ヤソマガツヒノカミ)といえば、お分かりかな?」


あらゆる災厄を司る神。

……だとしても。

「だとしても……かゆいって、」

「集中が途切れて、しかも面倒だろう」

「……確かにそうですね」


嫌がらせとしては最適この上ない。今も結構そわそわすんだけどこれ。

イライラが募ってくる。


「他に色々考えてたんだけどね。これが一番うざしつこいって結論になったんだよ」

「そうなんですね。それでこういうとても面倒な罠を引き起こしたわけですか」

俺は鎌を両手に持って、鎖の一つに神気を流し込んでおく。

「君は本当に僕と気があうね。残念だよ。君が人間であることが、ほんとにね……」


だが、ある程度の時間は稼げた。これでこのままあの二人が死神さんを連れ帰れば、俺たちは勝てる。二人が消えて、しばらく経つ。そろそろいいはずだが、何をしているんだ?


目の前の男が、ふと視線をさ迷わせた。……ばれたか。

俺は舌打ちをして、一撃神気を込めた鎌で打ち込んだ。

ギリギリと金属がこすれ合いながら、火花が再度散る。


「……!あの二人はどこに行った!?」

「よそ見はいけませんよ。目の前の相手でも、すでに倒したと思った敵でも」

男は震えだした。ぶるぶると、怒りを堪えるように、いや、湧き出す怒りのあまり何もかもを壊さないようにしている、が正しい。

「——ぁあ!?ざけんな、テメェ!!俺が何年あいつに挑み続けて来たと思う!?千年だぞ千年!!それをお前えぇえ!!」

じわじわ神気が増えていく。

どういうことだ?

こいつは神気が少ないはずではないのか?


俺は慌てて鎖を動かすが、遅かった。


「許さない」


ぱちん、と目の前の男の後ろで、何かが弾けた。


この状況で、何かを斬って力を得ている。

そして斬られている何かは、とても従順で、闇の気配にそっくりだった。


八十禍津日神が、膨れ上がる神気の中でくぐもった笑いを手の下から漏らした。

「クックック……元来君たちなんてねえ、相手することもなかったんだよ」


次の瞬間、俺は石の天井に叩きつけられていた。そのまま、一階のコンクリを透過して、そこで咳き込んでいると、下からふわりと上がって来た。

「はは、もうほんとにね、許さないよ。でも、僕が直々に手を下すまでもない」


下の方から、闇に似た気配がせり上がって来た。窓から、建物の下から、空いた穴から、あらゆる場所から闇の液体がどろりと漏れ出て来た。彼の横にどろりとした黒い物体が渦巻きながら、集合していく。


「僕は、妖に神気を注いだことを繰り返して、従順な兵士を作ることに成功したんだ。一番従順なのは、人々の間に伝承がほとんどない——闇」

それが徐々に、形を作っていく。

すらりと伸びた手足には、黒く布が巻きついていく。

すっきりとした目つき。

綺麗にウェーブのかった茶髪。


心臓がどくりと音を立てて、目が極限まで見開かれる。汗がジワリと滲んで、嘘だと言ってくれと叫びたくなる。

口が息をしようと、酸素を求めてはくはくと動くが、息ができない。


胸が、苦しい。


その姿の、一挙手一投足に、俺の全てが惹きつけられる。

「…………ぁ、あ、ああっ、」

ようやく絞り出せたのは、ただの情けないうめき声だけだった。

何を言っていいのかわからない。

何が起きているのかわからない。


「君を壊すにはどうしたらいいか、ずうっと考えていたんだよ。噂を聞いた時から君を殺そうと思っていた。でも、あのアンズが来てくれて、この女を君の母親(・・)だと知った時!!どれだけ僕が嬉しかったか、分かるかいッ!?」

ケタケタと笑いながら、彼は俺を指差した。


「やれ」


女性は一度目を閉じて、それを開くと構えた。見覚えのある構えだ。

母さんが使っていた構えだ。

やめてくれ。

母さん、やめて。


「はい。かしこまりました」


違う。

嘘だ。

そんな。


そんなのって。


母さん、俺は——。


ごぽ、と口から血が吹き出てくる。俺の手足は言うことを聞かない。目の前にある笑顔は、ずっと懐かしくて、恋しくて、あの日からずっと会いたいと思っていた人のそのもので。


でも、その手が俺の胸を貫いて、痛みと悲しさを招いてやまない。


「ぁ、っ……かはっ」

息が、できない。

涙が、止まらない。


母さん。

母さん、俺は——。


地面に叩きつけられた。

もういいや。

もう、いいや。











「ぬしら、何をしておる」

声が聞こえた。振り落とされるままに、地面に衝突するかと思いきや、半裸で手甲をつけて、袴を着ている人物が俺の体を掴んでいた。

「ぐ、ゲホッ……」

「貴様から、弥太郎の匂いがするぞ。なぜ貴様からそのような香りがするのだ?」


問うているのは、別の女だ。


声が、出せない。

「なんとか、言わぬか?」


ひゅうひゅうという音。喉笛がやられて、回復にはまだかかるだろう。

俺は、言葉の代わりに血を吐き出しながら、とうとうぷっつりと神気の集中が切れるのを感じた。

「っ!?」

「人だと!?」


俺の肉体をつかむことはできない。やって来た二人のいずれも神気しかない体だ。そんなことはできない。


風邪を切る音が耳もとで永遠とも思える時間響いて、俺は気づいた。


「りく……さ、」

掠れた声でそう言うと、黙れと指を口に当てられた。奴の式神が受け止めたようだ。しかも、そこにどるるもいた。

俺の生存確率を引っ張りあげてくれたのか。


「……けほっ、はぁっ、はっ……」

ようやく息ができるほどになった。高田が駆け寄って来て、俺をたすけおこす。

「今よりこの地での戦闘を禁ず!!」

そう言ってから、女性はやつを怒鳴りつけた。

「マガヨ?おぬし何をしておる!?」

「おや?これは御母堂。私達の争いには、お手を出すことはできぬのではないですか?」

「おぬしの母親は別じゃろう!それに、手はある。カグを使えば、おぬしなど秒殺じゃ」

妙に現代の言葉にすれてねーか?この偉そうな女性。


「はは、何を言い出すかと思えば。まあいいでしょう……あなたの顔に免じて、一度だけ退きますよ」


ようやくはっきり見えて来た。


黒髪で、右目を覆っている華やかな衣装の女性。絢爛な色使いで、恐ろしいほど神気がない。その隣の男は、赤い髪に上半身は赤銅色の肌をさらけ出し、そして手甲を手につけている。その二人の姿は恐ろしいほど整っていて、そしてどこか似ていた。


そして、両者とも『ここにいる』と言う感じが全くしない。


「まさか」

ふと、ありえなくもない考えが、頭をよぎる。いくつもの状況をつなぎ合わせた、薄ぼんやりとした推察だが。


「死神さんの、師匠……?」

俺はそっと呟いて、彼らを見上げた。

やべえ……主人公フルボッコだドン……。

最初活躍してるのに後の方でボコボコにされる罠。


そして来たよ出せたよ!

死神さんのお師匠様を!!

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