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主人公不在。

三人称進行。

「まずったなー……ゲホッ……」

髪の中にひとふさ白が混じった死神が、身体中を鉄の物々しい輪に拘束されて、血を吐き出していた。


「油断したわけじゃねーが、四人いっぺんに来ると思ったんだが」

「それこそが油断ってものだよ」

灰色の長襦袢に、漆黒の陣羽織。下駄を履いて、キセルを手にしている総髪髷の男が笑った。髪の右半分は真っ白で、もう片方が真っ黒に染まっている。


「ようやく思い出せたぜ。今思い出しても意味はねーんだけどな。……マガヨ」

「捕らえられているというのに、随分とまあ、のんびりと構えているものだ」

「そりゃあな。お前の神気の量じゃ、俺に刃すら通らねえだろ?だから俺は理破りに失敗し、お前はまんまと俺を捕らえられて万々歳ってか?はぁ」

「はは、何度も挑んで、ちょうど力量的には破れない程度を探ったからね。ま、それに関しては、時間とこちらの努力でなんとかなるよ」


ふと、マガヨが振り返る。

二つに結んだドリルにボンテージを着た少女が、不機嫌そうに鞭を床に叩きつける。使い慣れた感じのいい音がしているところを見ると、普段から現実でも使っているようだ。

用途は何かわからないが。


「来ていたんだね」

「あなたがそう私に言ったんじゃないですか。僕とともに来れば、好きなだけ暴れさせてあげる、なんて」

「……ええそりゃあ言ったよ。けどね、ここにゃ誰一人通しちゃならないとも門番に伝えていたはずだけど?」

「門番?存じませんね。……誰なのですか?その方」

うっそりと笑って、曖昧にごまかすが、おそらくは『始末』してきたのだろう。


はっとしてその顔をまじまじと見ると、拘束されたまま、彼は叫ぶ。

「……はあっ!?妹!?」

その途端、少女の顔が能面のようにのっぺりしたものと変わった。

「誰が、誰の妹ですって?」


パンッ、と鞭が牢獄の中に入り込む。しかし、その鞭は当たる前に何かに弾かれる。

「やめておいた方が賢明だ。これは私の手にも負えないほどの化け物だから、こうしてここに繋いだんだ」

「……そう。別に虎の尾は踏むつもりはないですよ。ただ、暴れたいのに暴れさせてもらえないなんて、不公平じゃないですか?あの粗暴そうな男とちびっこはあいつらの元に派遣したのでしょう?」

「待て!?あいつらって誰だ!?」

「ん?君に教える必要はないはずなんだが、まあいいか。君の弟子だよ。名前は……そうそう、ニギくんと君は呼んでいたね」


にこりと笑って、彼は黒い死神の頰を撫でる。

「僕はね。本気で、君のような死神を殺すつもりだ。神は神であるべきで、虫は虫らしく地面に這いつくばっていればいいんだよ。だというのに君ときたら……分をわきまえずに出しゃばるから、こうなる」


からん、と下駄が鳴り、居心地の悪い、薄暗く重く湿った地下牢に反響する。

「君の弟子も、君を捕らえたおかげで殺せそうだしね」

「はっ、聞いてりゃ好き勝手言いやがって。あいつぁ来るわけねーんだよ」

「…………何?」

その澄ました顔が歪むのは愉快だとニヤつきながら、彼は続けた。


「あいつは自分と相手の力量差くらいは承知して、しっかり逃げ切るだろうぜ。俺は奴にとっての絶対だ。あいつは、来ない」

「…………へえ、そうなんだ?」

その手が、枷に伸びた。

金属の禍々しい枷が、手の動きとともにギリギリと締まっていく。


「ぐああああああああああ!?」

「こういうことはねえ、できるんだよ」

その笑みが楽しげに溢れ、悲鳴と相まって恐ろしさを増す。


「ああそうそう、アンズ。僕はね、いたぶることが趣味というわけではないけれど、虫が地面を這いつくばっていればいいのに、立場を忘れて自由に飛ぼうとするのは嫌いなんだ。……御使も含めて、ね?」

「私は、誰にも縛られるつもりは、」

「もう一度でも余計な真似をしたら、力は返してもらうからね」

「……わかりました」


力を返す。その意味を、こいつはもしかしたら説明していないのかもしれない。

薄れる意識の中で、彼はそう思いながら気絶した。



一方その頃、高田——ギョクと坂町 みずなが朱雀院 陸塞と合流を果たしていた。

「夜行くん、いや、ニギくんは来ないのかな?」

「知らないわよ、あんなの。あんたは今からスザクでいいわね。私はミズナって呼んでよ?」

「仰せのままに」


相当頭にきていたのか、ミズナは嫌そうな顔からガムが髪にくっついたような顔をした。


「それで、私たちが目指すべき場所はあそこなんだけれど……廃屋、かしら」

廃病院のような建物で、建物の内部に色々な神気が漂っており、どこに死神さんがいるかはわからない。

「そうだね。僕は隠形を使って入るからバレにくいし、坂町さんは神気が薄いから気づかれにくいだろう。一番危険なのは、君だよ……ギョク?」

「それでも、やるしかねーだろ。俺が陽動で、お前らが忍び込んで、死神さんを助け出す。今は、そういう作戦が一番いいだろうな」

「わかったよ。僕らは、地下を目指す。おそらく、人口建築のない部分でないと、すり抜けてしまうからね」

「了解。じゃあ、上の階のところで騒げばいいんだな」


ここにあいつがいないのが歯がゆいぜと言いながら、ギョクは正面に行った。


そして、すうっと息を大きく吸うと、腹の奥にグッと力を込めた。

「テメェらが今とっ捕まえてるやつを、奪い返しにきたぞ!!」

すると、すぐさま奥から人が出てきた。


「侵入者だ!」

「始末するぞ!」

ギョクは両手にナイフを握りしめて、ゆっくりと歩みだした。


多人数との喧嘩は、経験がない。油断はしてはいけないが、できるだけ大きい立ち回りをせねばなるまい。

そして、騒ぎを十分起こせたか、あるいは危険だと判断すれば、とっとと逃げる。


どこか違和感を感じる黒子のような格好をした者に、彼女は不気味さを感じるが、あえてそれを無視して、その喉元をあやまたず切り裂く。


今は、躊躇などいらない。


戦うと決めたなら、そのまま突き進むだけだ。


ギョクはそのまま人垣を踏み抜けて、奥へと侵入を果たす。そのまま走っていくうちに、道が分岐を始めた。

「この中じゃ、探査は機能しないだろうな」

そう呟いて、天井に埋まる。神気はあれど、透けている途中だから、姿は見えないだろう。


「……どこに行った?」

「ダメだ。あちこちに神気がばらまいてあってわからない」

「ここじゃあ追えない」

「……道が分かれている。向こうと、あっちにみんなでいく」

「わかった」

「わかった」


息を潜めたまま、ギョクはその全てが通り過ぎたのに安堵し、そしてそのまま地面に降り立つ。


「でも、近くに死神でもいるってなると、さすがに今の手は使えねえよな」

近くで感知された場合、相手がお構いなしに自分を建物ごと刺してきたら、建物から抜け出す前に絶対死ぬ。


「もうひと騒動、三階あたりで起こしてみますかね」

彼女はそう言って、ふわりと上昇した。



ミズナとスザクは、誰かが「三階だ!三階へ向かえ!」と叫ぶのを聞きながら、一階から地下へ降りる階段を探していた。

「……もう誰もいないみたいね。それにしても、複雑すぎるわ」

「私兵も限りがあるからね。っと、誰かが来た」

隠形印をもう一度結び直して、真言を唱え、彼はミズナを引き寄せる。

が、強く引き寄せすぎたようで、ミズナがうっかりもたれかかる形で、スザクを押し倒してしまった。


「っ!!」

真っ赤になるスザクと、周囲を警戒する人物に青くなるミズナ。かつん、とそのヒールの音が辺りに響く。

スザクが悲鳴をあげそうなのを察して、ミズナがその口を手で塞ぐ。


「……今の物音は?」

ピィ、と鳥の声が響き、ついで羽ばたきの音。警戒が解かれているのを見て、ミズナは胸をなでおろした。


「報告します!……現在、侵入者が三階にて、暴れております!」

「あら!……私が向かってもいいのかしら」

「マガヨ様からは何の命も受けておりませんが……?」

「じゃ、行くわ。とりなしお願いね?」


お待ちください、という叫びを聞き流して、スザクはようやくミズナに退いてもらえた。

「い、……今の、聞いたかい?」

「ええ。どうも、マガヨってやつがいるみたいね。それに、あの女……御使なんだろうけど、主人のいうこと聞かない犬ってところね。すぐに処分されるでしょう」

「ああ、話が早くて助かる」


本当はもう一つ、さっきの女がある程度の権力をこの建物の中で持っているということもあるのだが、それは今は言わないでおこうと思った。


力があるとわかったなら、それをある程度は警戒しなければいけない。それをギョクに伝えた方がいいのだが、実際こうなると伝える手段もない。


「……奥に進みましょう。早いとこ脱出しないと、色々と危なそうですから」

「そうね」

ふと、スザクは違和感に気づく。

「あそこ、何かある」

「え?」

「西洋式の魔法陣かな?」

「……確かになんとなく、歪んでるわね」

その表面をじっと見つめて、彼は一部分だけを書き写して、それから眉をしかめた。


「参ったな。こういうのは専門外なんだよ」

「力技で開ける?」

「それだとダメだから、言ってるんだよ」

「何を言ってるのよ。あんたの紙の人形使って、この辺の床を掘らせて、そっちの通路に繋げばいいでしょう?」


スザクはぽかんとした後、肩を震わせて笑い出した。

「ふぃぐっ……くっくっく……くひっ、腹痛っ……」

「何よ!笑わないでよね」

「いや?……ふう、なかなか恐れ入ったよ。僕らはまず壊すなんて思いつかないからね。なかなかスマートではないけれど、確実だ」

彼は一枚の人形(ひとがた)を取り出すと、何事かを唱える。


「……おいで、土鬼」


その瞬間、ブワッと何かが膨れ上がるようにして、姿を現した。

『お呼びですかな、主人(あるじ)殿』

あちこちに鎖がまとわりついた筋骨隆々の鬼が姿をあらわす。それにミズナはぽかんと口を開けたまま、ゆっくりと視線を滑らせて、スザクを見た。


「あ、あんた、……けっこうヤバいやつよね……」

「はは。いくよ」

その腕が振り上げられると同時に、穴が出現した。

『それでは、また』


「……ねえ、スザク。あなた結構アレってヤバいやつよね?どうなってるのよ」

「ああ、あれはクールタイム、一度呼び出した後もう一度呼び出すまでに一定の時間がいるんだよ」

「へえ?」

「だから、強力な代わり使い所は限られるんだ」


目の前に扉が現れる。

「開けるよ」

「ええ」


その先には——。







「初めまして、僕がマガヨだ。待っていたよ、侵入者諸君」

敵の大将が、笑いながら立っていた。

次回はちゃんとでて来ます。

多分。

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