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死神と夏休みですか?

少し短めです。

妹の本性が出ます。

「ゔー……なんって容赦のない日差しなんだ……」

斜め前で高田が呻いているが、ついこの間俺は素晴らしいことを発見した。神気は、温度を下げてくれる効果がある。


あのなんとなーく冷たい夜の校舎的な空気感を出せるのだ。

多分これが妖気的なものだろう。涼しい。


そんなことをしていると、そこにもの凄く不機嫌な顔をした坂町が、俺のところへと歩いて来た。後ろには、笑顔の陸塞がいる。

「夜行仁義」

「なんですか?」

「……陸塞が、あなたに用事ですって」

「なぜついて来たんです?」

「いつもの件がらみだからよ。まぁいいわ、ほら」


飄々と笑いながら、彼が押し出される。

「君にいくつか調べて欲しいことがあってね。放課後、保健室まで来てくれるかな?」

「……それだけ言うのにどうしてこう大事っぽくなるんです。坂町は別にいらないでしょう」

「あら。誰が苗字を呼び捨てにしていいと言ったのよ。坂町様と呼びなさい!」

「はいはい坂町様坂町様。放課後ですね、わかりました」


俺はしっしっと手を払うような仕草をし、それから顔を思い切りしかめる。坂町の方も、潰れた毛虫を見るような目で俺をにらんだ。

それに構わず、俺は呟いた。

「……調べて欲しいこと」

やはり、数日前の闇の件だろう。


今までに見たことがないと死神さんが言い、俺がいくつか仮説を立てて、死神さんの言葉から最も有力なものを考え出した。

自分の想像以上のものを人間は作れないから、今のところはその仮説で対策を講じるしかないのだが。


考え込んでいて気づかなかった。

机に影が差して、ようやく気づいた。


「お兄様」

俺の目つきが腐肉にたかる蛆を見たようなものだとしても、責められないだろう。そりゃあ自分の天敵が目前にいたら、そんな顔したくもなる。

「少しお伺いしたいことがあります。田村君に聞いたのですけれど、呪いなんかに詳しいそうですね」

「そういうことでしたら、適任は他にいますよ」

「あら。お兄様にお願いしたいのです」


その肩には、べっとりと血が付いている。こりゃあ相当に恨まれている気がする。

だが、俺にふりかかった呪いより、軽微だ。せいぜい嫉妬が凄くて怪我くらいですみそうだし、放置しておいても死にはすまい。


「助けて欲しいのです。お兄様に」

「……あ?」

俺の神気がうっかりぶわりと威圧を出しそうになる。肩を掴まれて首を左右に振る高田がいなければ、うっかり公開イリュージョンできちゃうところだった。


「大丈夫か、夜行」

「殺意が湧いた以外は何もないですから」

「それ一番ダメなやつだよ!!」

相も変わらずいいツッコミが入ってくる。


「お兄様は……私を助けてくれないの?」

「……よくもまあ、臆面もなくのうのうと言いますね?」

「お兄様?なんのことだか私……」

とぼけるこいつに、めまいがしそうなほどイライラが湧き出てくる。しかし、キレてはいない。


しかし、俺はふと気づいた。その口元がニヤリとつり上がっている。

「だって、お兄様」

ふ、と彼女は笑う。


「幽霊、見えるんでしょう?」


しまった。

また面倒なことになった。

こうなれば、オカルトに対して否定的な奴らがまた騒ぎだすかもしれない。そして、中二病だのなんだのと、また中学時代の再現のように。


こいつ自身が呪いに見えてきた。


ただ、俺も今では一筋縄ではいかない。

「ええ。医者によるとストレス性の幻覚だったそうですよ?あなたたちのせいで起こったストレスが原因で、色々とおかしなものが見えたそうです」

「……な、」

「思い当たることの100や200はありそうですから言っておきますね」


にこやかに言い切ると、教室の中の空気感が、異母妹に味方するものからわからなくなったという雰囲気に変わってきた。

「ですから、再度幻覚が見えないように、二度とかかわらないでくださいね」


その目が、俺をにらんだ。

憎悪が詰まった瞳。お前が悪いのに、なぜ自分が咎を負わねばならないのかという責めるような目。

自分が悪いなんて、こいつは考えたこともないんだろう。


そのまま背を向けて座り、一日が始まった。





「本当に、すまない!!」

田村が、頭を下げていた。部活のみなのサポートは欠かさず行っているらしい。

「教えたんですか」

「……困ってるのを見て、つい……俺が全面的に悪かったんだ」

俺は眉の間をグリグリと指で抑えるようにして、窓枠に寄りかかる。


「別に、悪気があったわけじゃないでしょう。一般的な家族の枠に俺とあれを当てはめて、困っていればさすがに助けるだろうと思ったんでしょう」

「そこまで考えてはなかったが、その……一方的に、嫌われていると聞いた」

「そうですか。まあ、別にいいですけどね。……だいたいあなたが悪いなんて、全然思ってませんよ」


低く唸るように言えば、「いや全然そう見えねーんだけど」とボソッと呟かれた。

すまん。どんな顔していいかわからないんだ。

「だから、別にあなたに関しては、怒ったりしてませんから」

「あ、ああ、うん……そっか。今度、何があったか聞かせてくれると嬉しい。その、俺も勝手な判断で話しちゃったからな」

「その件については……三年前の六月あたりの新聞を調べて見るといいですよ。俺は以前、私立月光学園に通っていました」


彼はハッとして、それをメモする。

「あ、ありがとう、夜行」

「別に、……本気で調べる気になれば、すぐに知れることですから」


だいたい、知りたいとかのたまって実際に調べるやつはとても少ない。手元のスマホは飾りかよと突っ込みたくなる。

まあ、俺は知ろうとしなければ、今頃死んでいたかもしれないが。






「どうも」

「やっほー、坂町さん。あれ?園原さんもいる」

「お久しぶりです」

ぺこりと丁寧にお辞儀をする。今回ここにいるのは、監視……と考えてもいいのだろうか?


「じゃ、まず、例の件について。君はどう思った?」

俺は陸塞の言葉に答える。

「まず、話を聞いた段階では、幽霊が持つ執着が、闇の負の念によって、悪い方向に増幅されたというのが有力だと思っていました」

「話を聞いた段階では、か。じゃあ今は?」

「誰かが裏で糸を引いている」


陸塞のただでさえ細い目が、すうっと冷たく光を帯びる。

「根拠は」

「死神さんが、あれだけ長く死神としてやっていて、ああいうタイプの闇を見たのは初めてだったそうです。闇は、基本的に肉塊から手足やらが生えたような、そんなものでしかなかったと。それに、個人の執着が増幅されたとして、一つの体に複数の意志……ある目的を持っているように見えるのは、おかしい」


なるほど、と彼は頷いた。そして目を閉じて、その考えを吟味し始めた。


「ちょっと、意味がわからないんだけど。何かあったの?」

「陸塞から聞いてないのですか?」


細かいことを説明していたら、陸塞がカッと目を見開いた。

「どうですか?」

「ごめん寝ていたよ」

「てめぇ……」

今寝なくたっていいじゃねーか。緊張感の薄さに辟易して、俺は髪の毛をかき混ぜつつ、大きく息を吐き出した。


「僕の方でも、対策は考えてみるよ。それと、もし可能であるなら、君の電話番号を教えてくれないか?」

「……ええ。構いません」

「あ、俺も交換したほうがいい?」

「全員しましょう」


ソノちゃんさんも交えて、電話、メール。そして、人生で初めてライフのアプリをダウンロードした。

「僕でさえDLしてたのに、君たちって時代逆行して生きてないかい?」

「……相手がいなかったので、必然性がなかったんですよ」

「俺、元から携帯持ってなかったし」

「そう?」


高田がおっかなびっくりしながらスマホをいじりだし、誤変換の嵐を巻き起こしながら、俺たちの腹筋を崩壊させた。


********


「なんなんだよッ、庶子の分際でっ!薄汚ない女から生まれた卑しい子供のくせに!!」

カッターナイフがきらめき、クッションから鳥の羽がふわふわ舞いながら飛び散る。

側から見れば、美少女がその幻想的な風景の中に立っているようにも見えるのだが、その顔は般若のようにも見えるほど、恐ろしい。


羽々木 杏葉は、怒り狂っていた。


あの庶子が生意気にも、自分の頼みを断ったのだ。

こちらが下手に出ていればつけあがりやがって、と再度スイッチが入る。


「生意気、生意気、生意気、生意気、生意気!!」

ケージの中にいたハムスターが、彼女の目に留まった。

「何見てんのよ!!」

ざく。

ざく、ざく、ざく。


顔には血が跳ね返り、そして彼女は絶叫しながらカッターナイフで切りつける。

徐々に叫びは笑いに変わっていく。


「はっはっはははははははは!!死ね、死ねばいいのよあんなやつ!!死ねええええ!!きゃーっはっはっは!!」

ふと。


体に違和感を感じて、彼女は己の手足を見つめた。


エナメルのボンテージに、肘までの長い手袋と太ももの中程まであるブーツ。そして、ツインテールは、綺麗に巻かれている。手に持っているのは、棘のついた鞭。


「何、これ」

「初めまして、こんばんは」


彼女は振り返った。


「君の『お兄様』。ぶっ壊したくないかい?」


——また一人、深淵を覗いた。

ハム「解せぬ……呪う」


やっぱりこの数日間のPV増加の嵐は幻だったようだ。

お読みいただき、ありがとうございます。


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