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死神始めますか?

本日二話投稿しております。

まだ前話をお読みいただいていない方は、そちらからどうぞ。

まずは神社を通過する。

すっかり寂れているが、妖に追いかけられてよく逃げ込むことがあるため、場所はよく知っている。割と鬱蒼とした森とも言えるべきそんな場所に、俺は足を踏み込んだ。


「おい仁義、お前いっつも帰るときこんなとこ通ってんのか?」

「まあそうですね。基本的に妖をどう避けて帰るかが肝ですから」


ちなみにどるるは別ルートで帰宅している。その敷地内に踏み込むと、清浄な空気に息をつく。

「はぁ、疲れた……」

「おお、眺め良くなった」


一瞬心臓が飛び跳ねる。

……消えていない。

そんなはずはと叫ぶ気持ちを押し殺し、俺はそのまま顔色を悟られないようにして歩き続ける。

「あともう一個、別のお寺の近くもかすめて帰りますので」


十分後、俺はそっと息を吐いた。

結論。

こいつ幽霊じゃない。

幽霊以外の妖でさえない。


「お、やーっと家か?お前大変だなー」

「……まぁ、はい、そうですね」

帰り道だけでこいつが消えるとだいぶ信じていたのに。

並みの幽霊や妖なら一回神社の敷地に入っただけで消えるし、神社では消えにくい狐などの妖もいるからと、念のためにと寺まで寄ったというのに……なんということか。


これは、もうこいつのいう通り死神のやり方を実践してみるしかないということだろうか。デメリットがあるかもしれないが、言ったことを自分勝手に撤回するのは、人として最低だ。

俺は約束を破るのは嫌いだ。

約束は破るな、できないなら約束はするな、というのが母親の常日頃言っていたことで、俺はそれだけは破れない。


部屋に入っていくと、壁をすり抜けて絶妙に気持ち悪く入室してきた。俺はソファーに座り、死神さんはその周辺を漂い始める。

「んじゃ、早速やってくか。これから、お前に死神になる方法を教えてやろう!」

「はあ、まあよろしくお願いします」

「声が小さいっ!」

「よろしくお願いします」

「尊敬の念を込めて!」

「……」

……ありとあらゆる不利益を覆してこいつを殴るために死神になってやろうと思った。


一分後。


すでに俺は、先刻の決意をした自分の肩を叩いて励ましたくなっている。


「……もう一回お願いします」

「はぁン?なんでわっかんねーんだよ。こう、ググッとして、バーンってすりゃあいんだよ。ほれ、やってみ」

やってみ、じゃねーよ。

俺の脳みそがあまりの支離滅裂さに絶賛混乱中だよ。

「意味がわからないんですが……」

「は?んー、わっかんねーかな……俺はこの表現で一発だったんだが、変だなぁ」


首をひねって、次々擬音語を並べていく。が、さっぱりわからない。俺はどっちかといえば理論を念頭に置いて考えるためだ。

つかてめーの語彙が貧弱なんだよ。教えるだの言う前に日本語辞書でも読んでこい。最近のハウツー本でもいい。なんでもいいからもっと筋道立てて俺に享受してくれ。


あーだこーだ言っているうちに面倒になったか語彙が尽きたのか知らないが、ポツリと一言。

「……おめ、才能ねぇんじゃね?」

カチンと来て、怒鳴り返す。

「テメェの説明がわかんねぇっつってんだよ!やって欲しいならやって欲しいでまともな説明しろやコラ!!」

「しただろー」

「バーンとかどーんとかお前の説明は感・覚・派なんだよこの天才肌ァ!!」

「えっいやあ照れるなぁあっはっは」

「褒めてねえよ!?」


一方的にヒートアップしておいてなんだが、落ち着きを取り戻すべく深呼吸をする。先を見よう……落ち着け、時間は戻らない。

タイムイズマネー。

眉間を揉みほぐして、死神さんを見返す。

「……じゃあ死神さんが死神になったときはどうだったんですか?」

「俺?俺はなー、師匠がいろいろ説明してたんだが、全くわからなくってな」

「おっおお?」


待て。師匠いたのかよ。

しかも説明を重ねてたって、それはつまり、死神さんの師匠は論理派だったってことじゃないか。

今すぐ死神さんの師匠を呼んでください頼むから。死神さんの説明は説明じゃない。感覚(センス)だ。五感ですらないシックスセンス。


「だんだん師匠がイラついてよー、やけになって叫んだのがすっげえしっくり来て、一発で成功したぜ!」

「……はいもういいです。参考にならないことだけがわかりましたよ」

「ひどっ!?話せって言ったのお前じゃん」

ショックを受けてるが、それ、本気で役に立つとか思ってたのか?


「一応参考になるかなとほんの一瞬思ったのですが、先ほどの語彙力での話術をうっかり忘れていました。以後気をつけますね」

「……なんかお前が悪いように言ってるけど俺のことディスりまくってるし」


床にのの字を書いて落ち込んでいるが、時々指がズボッと床を突き抜けていた。


さて、ではまずどうしたら死神になることができるのか。

まず第一に、死神とは何かを考えてみればいい。これぐらいは答えてくれる……と思いたい。


「死神さん、死神とは何かわかりますか?」

「知らん!」

ドヤ顔で言い切ったぞこいつ。

呆れを通り越して『わからないとはなさけない』的な目で見ると、唇を尖らして弁解する。

「だってよ、お前日常的に自分が細胞でできてるとか意識して生活するか?しねーだろ」


実に正論だが、今更そう言われてもこの考え方の違いを改めるのは、無理だ。

しかも理論派が感覚派になるのと、感覚派が理論派になるのでは天地ほどの差がある。前者は無茶無謀夢の話、後者は頑張ればいける努力目標くらいの差だ。

「確かにそうですが、それとこれとは話は別ですよ。……死神さんの師匠は何か言ってませんでした?」


ふと思いついて言うと、死神さんがむうっと眉を寄せてから、五分くらいして思い出したように手を打った。

「確か、これは師匠が言ってたな。シンキがシネンを持った、ハングゲ……ンカタイ?だって。ハンソンザイ、とかも」

思念、半具現化体と来たか。実体がある俺がどうすればいいのか。ゆえに、半存在……しかし記憶力いいなこいつ。無駄な方向にしか使ってねぇけども。

「シンキとは?」

「んー、俺も良くわかんねーけどさ。あ、文字は神に気付くの気。んー、なんか、幽霊とかって、こう……近く寄るとさ。もやっとすんじゃん?アレ」


モヤっと、というのはわからないが、死神さんが通過すると感じる違和感のようなものか。いわば存在感、的な?違うか。

いる、とわかる。そこに何かがいると。

例えば俺が感じる妖という感覚、そこに何かがいるという感覚。なるほど、それを神気というのか。俺は瘴気だのなんだのと言ってきたが、カテゴリ的には神気で、あとの違いは性質の違いのようなものだろう。虫、鳥と一口に言っても、その種類が膨大なように。


気配と言い換えても問題ないだろう。そして、それをググッとする、おそらく体内で圧縮し、バーンとする、一気に解き放つことでその神気を体内から外に出す。

そして、体をそれで覆うことにより、神気が実在する肉体となんらかの作用を起こして半具現化体に至れると。

……これぐらいは説明できてくれよ。なんか悲しくなるだろうが。


まあ、確かにコレはイメージとしてはググッとしてバーンだ。だが予備知識一切なしでは難しいだろう。あれでわかる人がいないということに手持ちの通帳額を賭けてもいいほど、あの説明は意味不明だった。


しかし自分の気配の意識か。他人のものはわかりやすいが、それは少し難しそうだな。

試してみるか。

「死神さん、ちょっと失礼」

「んあ?」

その体に手を突っ込み、動かすと体内の何かとピリリと反発を覚える。

「ひょぉわっ!?いきなり何すんだよ!?」

「必要なことだったので」


気配は、わかった。あとは、実践と練習あるのみか。


俺は座禅を組むと手を足の上に組んで置く。

それから、今の流れを何となく意識して、、呼吸をゆっくりとする。

目を閉じる。

全身にくまなく行き渡るそれを、俺は心臓に集めるようにすると、血の巡りと同時に心臓が一段と熱くなっていく。体が軋む。痛みが走る。圧縮と同時に、痛みでメンタルがゴリッと削れる。

奥歯を食いしばって、そしてもう限界だと思った瞬間……一気に放出する。


ふわっと、浮遊感を感じた。


「え」


座禅を組んだまま、俺は床をすり抜けて落下していた。


「嘘だろおおおおおおおおおっ!!」

——事前に言えよ、あの野郎。







さて、そんなこんなで俺は死神となることができ、奴を殴ることもできるようになった訳だが、実際はバーンとかした後は、その溢れ出る神気を、全身に張りめぐらせることで死神化をしている。これを「転身」とか「転化」とか言うらしい。

しっかり循環収束だけはして神気の無駄遣いをするなと注意を受けて、意識的に収束させているが……慣れないと無理がある。


死神になると、髪や服装が一変した。

白いシャツに、黒と灰色のかっちりしたベスト。そして、死神さん曰く、癖っ毛で茶色だった髪の色は灰色、そして目の色は黒と変わったらしい。鬱陶しいほど伸ばしていた前髪は、ハーフバックにされている。

そしてなぜかポケットがついた白のパンツに、脛丈の紐つきの真っ黒の軍靴。

ポケットの必要性が見当たらない。


死神さん曰く、その黒さの割合で神気の強さがわかるという。白に近ければ近いほど弱く、黒ければ黒いほど強い。

ただ経験の差もあるため、一概に強い弱いだけではいえないということだが。


「ちなみに俺の強さは……俺の独擅場(どくせんじょう)ってカ・ン・ジ?」

両人差し指をほっぺたに当てながらウインクしてくる。

「うわ、うざ……すいません、つい本音が」

「本音だった!?冷たさが刺さる!!」

そして誤用である独壇場(どくだんじょう)と言わないあたり、時代を感じる。


「それにしても、お前あれだな、俺に似て割とイケメンだな!」

「顔をボコボコに腫らした死神さんにですか?冗談キツイですよあはは」

「お前が殴ったんじゃねーか!?まあ事前に言わなかった俺も俺だけどよ……」


さて、ここで俺の何が問題かといえば、神気を微力ながら持つモノにしか触れない、ということだ。先ほど落ちたのは、そのせい。

地面、水、木などなどがその対象で、神社やお寺などの聖域的な場所もその対象には入るらしい。

地面のアスファルトなんかは透過しにくいことが多いらしいが、その辺りは基準が曖昧だという。要するに、建物は大体透過すると覚えておけば、問題ない。


まあ、さっき落ちたのもそういうことだったんだが、な。

クッソ気づけ俺。なんなら屋外でやったわ。


「そんなわけで、飛び方の練習だぞ!うははははは」

どんなわけだよ。6階くらいから落ちて心臓がキュッとしたじゃねーか。

「だいたい、死神さんはどんな訓練を?」

「んー、崖から百回くらい死神のまま突き落とされた。ま、それでなんとか飛べたは飛べたけど」

……ちょっと待とう。やり方とかなかったのか?死ぬほどの体験をすることで無理やり飛ばせたぜイェイって感じか?

冗談じゃないぞ。しかも死神さんに合わせて死神さんの師匠は感覚派メニューにすでに切り替えてやがる。


……死神さんの師匠に師事したかった。


「じゃ、落とすぞ」

小脇に抱えた俺の体をにかっと笑いながら放り投げようとする。

「えっ、ちょっ、死ぬ……」

「俺生きてっから問題ねーよ!」

笑顔でサムズアップとかしてんじゃねーぞ駄死神。お前高所恐怖症とかになったらどうしてくれるんだよ。

手が、俺を支えている、手がッ。


なぜか半笑いになったままの表情で死神さんを見上げれば、満面の笑みがそこにあった。


絶望した。


「じゃ」

「うわあああああああああああ!?」


……三回ほど落とされて、知りたくもないがわかったこと。


案外大丈夫だった。落ちる瞬間の胃がひっくり返るような感覚はそのままだが、実際に落ちても、怪我は大してない。

それどころか、無傷のことさえある。かすり傷くらいだと、神気をいくらか消費して、すぐに治るらしい。

これが相手の神気を孕んだ攻撃などならば、比較的治りが悪くなるらしいが。

そしてもう一つわかったのは、俺が感覚派になれそうもないということである。

今この時だけはバカになりたい。


あまりの合わなさに、俺はすぐに死神さんの観察を始めようと提案する。

「……じゃあちょっと死神さん飛んでください」

「え?こうか」

ふわりとその体が浮く。

その瞬間、なんとなくだが、足の部分の神気が濃くなったような印象を受ける。


……うん、要するに死神さんの飛翔はオートではない。

おそらくああも軽々行けるのは、すでに肉体が死んでいるからだとも予測できる。そして、実際問題死神さんが生前飛べるようになっていたことも、ある程度鑑みると、死神さんがいかに桁外れな存在だったかがわかる。

神気を濃くしたりすることで、肉体のあるこの体を飛ばす。これだけだが、制御が半端ではなく難しい。


「おい仁義、まだ飛ばなきゃダメか?」

「いえもういいです」

「んー」


わかったのは、死神さんがそれを無意識と言っていいほどでマルチタスク処理を行っていることだ。少し指先に神気を集めるだけとはいえ、かなりそれで神経を使う。

認めよう。死神さんは天才だ。

いくら年季の差があるとはいえ、本人曰く百回で飛べたというようにそんな回数で飛べるとは思えない。


驚くほどの天才だ。全くもって腹立たしい。

死神さんの師匠は秀才だったんだろう。俺は凡人で、考えるな感じろなんてことはできないし、同時にいろんなことを処理するなんてできない。

でも、俺にだって意地はある。そして、強くなりたい理由もある。守るものはまだない。

けれど、守ることができるようになりたい。

いつかできる、大事な物をなくさないように。


俺はグッと天を睨む。

負けたくはない。

立ち上がって、死神さんに言う。


「もう一度、お願いします」

「……おう、了解したぜ」

そして、また首根っこを掴まれて、上空に上がっていく。


その日の累計落下回数、四十二回。

……しんどい。

お読みいただき、ありがとうございました。

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