死神は共闘しますか?
日曜日だから三話目。
やっぱり弱メンタルな主人公。
俺は地面に転がったまま、傷が治るのを待つ。じわじわと癒えていくが、傷口はやはりまだ開いている。無理はしてはいけないだろう。
だが、この戦いを見逃すほどじっとしていられるわけもない。
闇だけあって、その動き方だけではなく、あらゆるところに口や手足が生えてくる。
しかし、その全てが捌かれる。
ただし、陸塞のほうも、いっぱいいっぱいであることには変わりなく、俺が掴みかかった時と比べて、地面に模様を描くほどの余裕もない。
「……どうなる」
「ちぇえええい!!」
俺は振り下ろされたそれを、鎌で受け止めていた。ギリギリ、と鎖と蛇が噛み合って、それから俺が足で相手を蹴飛ばして、なんとか引き剥がすことに成功する。
「……何するんですか?」
「妖は、滅する!!」
「融通の利かない人ですね……」
人間に戻ったら戻ったで、後ろの闇が陸塞を破った時に面倒そうだ。
俺はまだ塞がり切らない腹を右手で抑える。
どくどくと、心臓の鼓動に合わせて血が抜け出ていく。
「ったく……冗談じゃねぇな」
「腹に風穴開けられて立っているなど、やはり人にはあるまいて。死神だと?馬鹿らしい……全て、人以外は滅せば良い」
俺は片手で鎌を杖にして立ち上がると、傷から血が漏れるのに構わずに血濡れた右手をだらりと下げた。
「死ね!!」
相手が駆け寄ってきて、溜めとして腕を曲げる。その瞬間、俺は右手を振って、血を飛ばした。
あやまたずその血が目に入る。
「ぐぁ!?」
「シィッ!!」
その腕を斬り飛ばした瞬間、両腕の輪郭がはっきりと元に戻る。
「う、うあ、あああああああああ!?」
「黙って寝てろ!!」
足でしたたかに蹴り飛ばすと、白目をむいて、奴は意識を失った。
背後の戦闘に改めて意識を戻すと、陸塞が押されていた。
「く、」
「鬼さんこーちらっ、殺してやらあぁあああ!!」
言ってることもやってることも支離滅裂だ。俺は腹の傷がようやく塞がり始めているのを感じながら、その戦いをじっと観察する。
まず、子供が暴れるように動く。
それから、素手で戦う、空手様の動きをする。
その次に、喧嘩殺法が飛び出て、それから女性のように避ける。
「大方はこのローテですね」
なら、最初は距離を取り、それから一気に叩くヒットアンドアウェイが一番いいだろう。しかし、たまに順番が変わるので、それはしっかり見極めねばならないだろう。
さっきは色々と焦っていたから見えなかったが、こういう時は落ち着きが最も大事だ。
「陸塞!!サポート頼みますよ!」
「遅いよ、本当、にっ!!」
俺は鎌をぶん投げて距離を置いて、それから懐に潜り込んで膝で相手の顎をしたたかに蹴り上げる。
「んぐっ!」
それから手に、一度消した鎌を出現させて、それをもってギミックを動かしながら横に薙いだ。
案の定相手はギミックを意識していなかったが故に、その胸のあたりをざっくりと裂かれて、そして後ろに跳び退った。
「……はあ、まだ腹ん中痛いです」
「戻ってくるのが遅れた場合に、結界が作動するように体に陣を書き込みます。それまで、ちょっとだけ動かないでくださいね。あ、体幹だけでいいので」
「無茶言いやがって」
思わず悪態を吐くが、それでもありがたいことには相違ない。
問題の有段者っぽい動きだけを警戒していれば、あとは当たってもそう大した怪我にはなりにくい。
「遠くに張り付かせるには、」
俺は右手の鎌を投げて、闇の近くの地面に突き立てる。
「何これ?なめんじゃねええええよッ!!」
それを無視して、奴は走り出す。かかった。
俺の鎌が勝手に動き出して、その脚を貫いた。
「ぎゃあああああああっ!?い、いた、痛いっ!!」
「チィ、外した」
顔をしかめた瞬間、ポンと肩を叩かれる。
「どうも!」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
後ろで早九字を切った後、彼はブレザーの背中に仕込んでいた長ドスを取り出す。
俺は大振りで斬りかかり、その隙を狙おうとした闇を、陸塞がチクチク突く。そして、陸塞を狙おうとすれば、俺がギミックを180度に開き、リーチを短めにして相手を殺しにいく。
「……うがあああああっ!!ぼくは!お前らなんかに構ってる暇なんてねええんだよッ!」
その瞬間、俺は陸塞を蹴飛ばした。
顔に、手足に、胴に、ありとあらゆる箇所に小さく攻撃がビシビシと当たっていく。しかし、結界のおかげで俺には何もない。
「ニギくん!」
「大丈夫です」
すでに仕込みは終えている。相手が怒涛の攻撃をした後の瞬間。そこを狙う。
「わあああああああああっ!!」
爆発が、起こった。
体に衝撃が来る。押しつぶされそうだ。しかし、死神さんと比べれば、ンなもんちょれーんだよ!!
ビシビシと顔に飛んで来る石飛礫は無視して、やつの居場所だけはしっかり目測する。
「って、」
目に入った。
もうもうと土煙が立ち込める。
動かないやつの体に向けて、鎌が飛んでいく。土埃の中からまっすぐに。そこへ向けて、奴はまっすぐに拳をぶつけようとして——。
背後から、俺はやつの背中に鎌をグッサリと突き刺していた。
「あ、……ん、で」
ふわりと光が舞い散り、俺の体に神気が流れ込んできた。
緊張が途切れた瞬間、俺は肩で息をする。
「はぁっ、はぁっ、……すぅ、はぁあああ……あー、ほんっと、やべー……」
最近こんなんばっかじゃねえか。
「あ゛ー……暑い、だるい。しんどい」
「僕もっ、もうっ、無理……」
「
二人で地面にぶっ倒れたままでいると、ふと遠くの方から爆発が聞こえてきた。俺は慌てて立ち上がり、空に浮かぶ。
間違いねえ。今の神気、死神さんだ。
「見てきます!陸塞は、そこでそのヒゲ見ててください!」
「ヒゲ……」
俺は空をものすごい勢いで突っ走りながら、現場に到着する。そこには、すでに終わった感じで立っている死神さんと、高田とどるるがいた。
「あー……まあハイそうですよね」
確かにこっちに死神さんがいるんだったら、心配する必要はねーよな。
「おう!ニギ、ヤッホー」
「死神さんのところは、何かいたんですか?」
「ああ。例のおかしな闇だな」
「……ええ?それ、こちらにもきましたよ?」
「はあ?なんで。こっちにいたんだぞ?同じ場所に出れるわけ……」
そこでようやく思い至ったらしく、その表情がみるみるうちに真剣になっていく。
「ニギ。ギョクとどるるチャンと一緒に、一度神気回復させてろ。俺は、少し陰陽師の方も探るから」
「ああ、それについてはこっちでもうひと騒動起きた後なので、陸塞に言えばなんとかなると思いますが」
二人が同時に首を傾げたので、俺も首を少し左に曲げる。
何か意味不明なことを言っただろうか?
「お前、あいつのことをもう呼び捨てにしてんのか?」
「まあそうですね?朱雀院さんがその場所にいっぱいいたので」
「……もう一人高田出てこねーかな」
死神さんは、俺の方に陰陽師がいたことに驚いたらしい。
「そうすると、やっぱ朱雀院のことって、ちょい微妙な話だったんじゃねーのか?」
「まあ、そうですよね。……目の前で人が食われたのに……」
「オメーはどうでもいいこと気にしすぎなんだよ。第一、その食われた奴は味方だったわけ?違うだろ。ちっとは落ち着け。そんでもって、命の優先順位をきっちり決めろ」
優先順位を、命につける。
「そ、そんなの、できませんよ!」
「やれ」
あくまで冷淡に言い切られる。ヤツカの時と、全く同じだ。
「そんなの……そんなの、あの腐れ野郎と同じことなんて、できるわけねぇだろ!!」
命の優先順位をつけて、母さんを見捨てた奴と、同じことなんて。
頭を抱えて、しゃがみこむ。
動かなくなった俺に、高田が穏やかな声で、俺に問いかけた。
「腐れ野郎って、お前の父親のことか?」
「……そうです」
「馬鹿だな、夜行は」
すこーん、と俺の頭に手刀が落とされた。
「ぎっ!?」
思わず高田を見上げると、しょうがねぇな、という表情で立っている。
「そんなもの、俺だってもう決めてるよ」
「高田、が……?」
「ああ。俺はあんたが一番だ。あんたを守るためなら、他の人が傷ついても後悔しない。他の人は守れるなら守る。守れないなら、見捨てる。そんくらい、戦うって決めた時から、ある程度覚悟はしてた」
「……そう、ですよね」
自分の至らなさを突きつけられて、改めて自分の弱さを再認させられる。
「ただな。お前は優しすぎるから、俺のようじゃきっとダメだ」
「……でも、」
「だから言ってんだろ。お前が無茶しても、俺が助けてやるから、安心して無茶をしろよ。その代わり、俺が危なくなったら、助けてくれ」
「……一番を、高田に?」
「お前が無関係でもそうでなくても周りを助けるつもりなら、俺もその周りに入るだろ」
屈託無く笑うけれど、俺は少し不機嫌になる。
どうして、そう安易に言ってしまえるんだ。
俺に助けてほしいと思っているなら、要求してくれればいいものを。
顔を思い切り顰めて、それから「わかりました」と言う。
「高田が困ってたら、一番に助けます。……今は、これが精一杯ですが」
「……いいの?」
「別に……」
「うおー!弟子がデレ期に突入しドグァッ!!」
俺の右ストレートが唸った。
「とにかく、まあ、そう言うことですから」
「ああ!」
……しかし、そう何体も異常行動をしている闇がいるとなると、一番最初に消していた人為的行動によるものという線が、少し濃厚になってきた。
見つけ次第殺すのではなく、未だはっきりしていないその目的を探る必要がある。
一応、ソノちゃんさんにも聞いてはみるが、個人の独断であの人は話すことはないだろう。無理なら、どるるを頼るしかないが、あまり頼みっぱなしも気がひける。
ここは、単独で行動しやすい死神さんを頼る方がいいだろう。
話を再現する能力だけはあるから、内容が分かっていなくとも問題はないだろうが。
「死神さん、少しお願いがあります」
「ん?なんだい?お兄さんに言ってみな!(叶えられる範囲でな!)」
かっこつけんじゃねーよ。
この時俺は、そのお願いがまさかの事態につながるなんて、全く考えてもいなかった。
早九字護身法
主に忍者が使っていた九字切りの方法で、速さ第一。




