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死神は紫陽花が好きですか?

え、閲覧数……やばない?(汗


色々あって遅れました。

詳しくは活動報告で書きます。

「……はよ」

「……どうも」


俺の机の前には、肩にどるるを乗せた高田が立っている。寝不足で、すごく不機嫌な表情だ。


「昨日は、あれからしっかり考えた。お前の言い分も、俺の気持ちも。——結論が出た」

べんっ、と机の上に何かが叩きつけられる。

手紙?

口頭ではうまく伝えられないからとかそういうことか?


「夜行仁義!!俺と決闘しろ!」

「……はい?」

予想外すぎる続きに思わず目を瞬く。

「決闘だよ!!タイマン」

「ちょっと待ってください……えーと」

「わかるだろ!?」

「意味はわかりました。行動原理が理解不能です」


眉間をもみほぐすようにしてから、手紙を開く。筆でなぜか書かれていて読みづらい。


『夜行仁義様

元気ですか?いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。

そちらは変わりないでしょうか?

私は今、坂町さんの家にてお世話になっております』

ここまで読んで、めまいがした。

なんでこんな時候の挨拶っぽくなってるんだよ。決闘相手に送る手紙だろうが。

続きを読み進める。


『私もあれから諸々を考えました。

あなたが私に戦って欲しくないということを伝えたのは、わかりました。私が女だと思っているなら、その間違いを正してやります。

つきましては、明後日の夜十時に学校裏の林に来られたし。


高田 紅』


うん。


……うん。


お前の言いたいことはよくわかった。

俺は別に高田が女だから、戦って欲しくないというわけじゃない。


自分以外に、俺の責任を押し付けるつもりはないということだ。

俺はたとえそれが誰であろうと戦って欲しくないし、犠牲を割り切ることなんてできないだろう。


高田以外であろうと、たとえボディビルダーのような大男であろうと、俺は戦わせるつもりは微塵もない。

「読んだな!?」

なんでそんな自分が書いたラブレター読まれたみたいなトーンなんだよ。おかしいだろ。


「観客は連れて行くなよ!」

「俺に友達なんていませんから」

フッと笑えば、周囲にいた数人のクラスメイトがすごく哀れんだ表情をした。

ほっとけこちとら好きでやってんだよ。


異母妹は、数日は芸能界のお仕事で休みだということで、俺は安心して決闘に向かうことができた。






そして、夜九時半。俺はとっくにそこに到着し、というか、そこで下校時刻から時間をつぶしていた。

理由は一つ、地形の確認だ。

穴がないか、あれば埋め、なければ木の枝やなんかを確認して、刺さらないように除ける。木はさすがにどかせないので、ある意味必要な舞台装置としてそのままに。


「……なんか、すげぇ綺麗になってんだけど」

この場に来て第一声がそれであるところを見ると、そこそこの下見はしていたようだ。

「あ、来ましたか」


俺は軍手を外して、手足を動かす。腰がベキッと音を立てて、どるるがビクッとした。

「俺も準備運動すっから、待っててくれ」

二人で無言で準備運動をするシュールな光景に、見守っている死神さんとどるるが顔を見合わせていた。


「うし!俺はもういいぞ」

「俺も構いませんよ」

「お、そろそろか?よっしゃ、じゃあ俺が試合開始コールしてやるぜ」


その滑り降りて来た人影に、高田がギョッとする。どうもしっかり見えるようになったのはごくごく最近のことだったらしい。


「……死神さん……いたんだけどな……いたんだけどなあ……」

「あ、なんか、その……すいません」

「どうでもいいから早くレフェリーをしてください。あと周囲の警戒も頼みます」

「言うねぇ仁義クン?俺のおかげで!戦い方を知ったと言うのに!」

「どうしたんですか?気持ち悪さが三割マシですよ?」

「暗にいつも気持ち悪いって言うなよ!?」


ちょっとカッコつけたので、ムカついてやった。反省はしない。


「じゃ、両者準備はいいか?」

俺は深く腰を落として、高田を見る。

高田は「待ち」の姿勢のまま、俺をその澄んだ瞳で射抜いた。


「……ファイッ!!」

声がかかると同時に、俺は足を狙って踏み込む。

「ハッ!」

「んぐっ」

一歩後ずさると、その体勢は少し揺れる。俺はすかさず、がら空きの顔にストレートを打ち込み、同時にそのまま衝撃を感じた。

受け身を取ることはかろうじてできたが、綺麗に投げられたのだ。


ストレートは当たっていた手応えがあった。おそらくは、一発もらってでも投げてやると思ったのだろう。俺は治っていく傷を神気を堰き止めて無理やりそのままにする。


「……傷、治るんじゃなかったか?」

「最低限の公平性として『人対人』の形式は維持したいじゃないですか」


そう言葉を交わして、そこからパンチの応酬が始まった。

鋭い右ストレートを左手で弾くと、その顎にアッパーカットを入れる。しかしうまく決まらず、弾かれた腕をそのまましならせて高田がわき腹に腕をぶち当てる。


ガードしきれずに、そのままたたらを踏む。

迫る拳に、俺は額をぶつけて相殺し、そのままその腹部に拳を突き入れた。


「くはっ」

小さく上がった声。

綺麗にみぞおちとは行かず、腹筋に勢いが殺されて、痛みより衝撃の方が強かったようだ。

よろよろと後ろに下がり、そして互いに睨み合う。一瞬ののち、踏み込む。


互いの蹴りがぶつかり合う。俺の方が重かったようだが、高田は柔軟性がある。俺の足首を掴んで、引きずり倒す。俺は即座にその腹部に手刀を突き込み、痛みで緩んだところから抜け出すと、また対面した形に持ち込んだ。


「おまえ……かよわい女子に対して、えげつねーな」

「俺は、相手が子供だろうと年寄りだろうと女だろうと、手は抜かない主義ですから」


ここで疑問を持ったのか、彼女は首をひねった。

「ん?……じゃあなんで、俺には戦うなとか言ったんだ?」

「言ってるでしょう、単なる自己満足だ」

「自己満足?」

「俺は幼い頃からずっと平穏を望んでいました。ですがもうそれは実現できないと思いました。……高田は、俺の幼い頃の代わりに、平穏を享受して欲しかったんですよ」


なぜか、言うつもりのない言葉がずらずらと出て来て、俺はたじろいだ。

闘気が、戦いの気持ちが、揺らぐ。


「な……じゃあ俺が戦いたいと言ったら、」

「ダメだ」

俺は低く唸るような声で言った。

「どうして、」

まだ言い募ろうとする高田にイラついて、気づけば叫んでいた。


「だから言ってるだろ……自己満足なんだよ!!テメェは笑って俺の後ろにいろよ!!どうしてそう頑なに平穏を拒む!?」

「はあ!?っざけんな、俺がただおまえが傷つくのをぼーっと突っ立って見てられるとでも思ってんのかこのクソ能無し!!テメェが俺の平穏を守るだと!?冗談じゃねえすっこんでろ!」

「あぁ!?テメェこそ暢気な面で笑う癖にこんな時だけ戦うとか言ってんじゃねーよ!このスカポンタン!!」

「ただの罵倒じゃねえか!?しかも言葉のチョイスがダセェんだよ!!第一もうなっちまったろうが、御使には!」

「いいだろンなこと別に!俺ァ今、高田には、高田だけには、戦って欲しくないって言ってんだよ……!!」


わかれよ。


わかってくれ。


暢気に笑ってくれれば、それでいい。

ただ、それだけで、よかったのに。


「夜行——それでも、俺は、戦う」


その言葉に、俺の中の何かが、プツリと音を立てて切れた。

多分これが、キレたってことなんだろう。

この感覚は、二回目。


母さんを、あの種馬が助けない判断をした時以来。


「そうかよ」

俺の傷跡が、じゅうっと音を立てて消えた。

「なら、てめぇの手足折ってでも、その判断、変えてやる」

気づけば高田を押し倒し、そして拳を振り上げていた。

どこか別の誰かのことを見ているようなそんな感覚と、ひどく生々しい手の下の荒い呼吸音が、相容れず体の下でぶつかり合う。

そのせいでさらにムカムカして、獣のような衝動が、おさまらない。


相手をひたすら打ちのめしてやりたい。

何もかもがどうでもよくなってくる。


高田の呆けた顔。


そして、そのぼこぼこになった顔で、「あ、そうか」と呟いて、笑った。





「好きだよ、夜行」


その言葉に、俺の時間が止まった。


——好き?

誰が?

俺を?


高田が、俺を、好きだと言った。


俺は即座に立ち上がって、得体の知れないものを見たように後ずさる。

繋がりなんて、そのくらい俺には訳のわからないもので、そして、びっくりするほど、恐れていた。

それを死ぬほど渇望していたくせに、与えられそうになると尻込みをする。


キレていたはずなのに、今度はある意味別の理由で体が動かない。


「……夜行?」

「あ、ぅ……」

動くこともできず、頭がすうっと冷えていく。なのに、顔は燃えだしそうなほど、熱い。

ストレートな好意に、たじろいで。


「おい、大丈夫か?」

「ぁ……あぅ」

しゃがみこんで言語機能を失った俺の手を取って、微笑む。

「な、帰るか」

「あ……あ、の、どこ」

「決まってるだろ。俺らのウチだよ。そのつもりで、もう荷物もまとめて来てたんだ」


準備良すぎるだろ。

そんな突っ込みは、今の俺の肉体(ハード)にはきつすぎる。ソフトだけ仕事しても動かないハードが一緒じゃ意味ねえだろうが。


「どるるに守ってもらうのも、割とアレだったからさ。俺は普通に、夜行と一緒にいるのが好きで、そんでもって、お前の後ろじゃなくって、横にいたい。俺、お前だけが傷つくのを見たくねえし、傷つくならその傷は半分こにしたいんだよ」

「……プロポーズですか」


ここに来て、ようやくまともなツッコミが出た。

うんツッコミができるならまだ大丈夫……なのか?


「あー、んー、プロポーズか。もうプロポーズでいいや」

そのぶっ飛んだ答えに、俺のお粗末なハードは再び言語機能を失った。


小さな子供のように手を握られて家にたどり着くと、ふと昨晩の紫陽花が目に留まった。

俺なんかよりもずっと、その紫陽花があるべき場所のように見えた。

『寛容』。


高田にぴったりな花だった。

ブクマやらポイントやらありがとうございます!

嬉しすぎてハゲそう。

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