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死神の妹ですか?

妹登場。

でもこれから数話先まで出ないよ。

「夜行、ちょっと頼みがあんだけど……」

「なんですか?」

「あの……俺……」

恋人でもできたのかと思うほどのもじもじ具合だ。何かあったのかと考えながらも、俺は高田の前に正座で座る。

一分ほど待ったのち、高田が静寂に耐えかねたように口を開く。


「俺、修学旅行に行きたいんだ!!」

「…………は?」

うちの高校では、積立ではなく一括で支払いをするため、そのお金をそれまでに用意する必要がある。支払い期間は夏休みの間。

四泊五日、全部で十万円強。それを高田が用意するのは不可能だったようだ。

というか、それだけできるなら普通に色々と買い足しているだろう。夜逃げもしていないはず。


「ば、バイトもする。ちゃんと返すから、お願いだ!貸してくれないか……」

「構いませんけど」

「……え?いいのか?」

「俺は高田が嫌がっても連れて行くつもりでしたよ?」

「ある意味でお前が怖いんだが」

「だって、京都ですよ。妖がはびこり放題じゃないですか……」


ここに置いて行くには、少々きついものがあるし、また心配でもある。それに高田と死神さんを置いていって、自分が窮地に陥るのも誠に自分勝手ながら御免被りたい。

どるるは多分有無を言わさず、付いてくる。あれでいて結構な旅行好きだ。


そしていくら死神さんが高スペックだとはいえ、京都まですぐに来れるかといえば、そうではない。助けを求める手段もない。


要するに、行くとしたら全員で固まっていったほうが、安全は高くなる。

俺はその本音をうまく包み隠しながら悪意に満ち満ちた言葉を高田へと投げ放ち、高田には、旅行に行ける嬉しさとその悪意に対する嫌悪を混ぜた微妙な顔をされた。


俺が高田を突き放しているおかげで、まだ高田は妖から過分な興味を持たれていない。せいぜい同居人と思われているだけだということをどるるから聞いて、安心している。


こいつもある程度平穏に暮らせているようだから、気にしてはいけないと思う。

……たとえそのストレスの大半が俺のせいだとしても。


「夜行って、本当理屈っぽいんだよな。俺とは全然違うし」

「そうですか」

間違いだな。俺は感情を基軸に、理論を構築している。屁理屈で固めまくって、感情が伝わらないようにしているだけだ。


「そういうわけですから、修学旅行の班は同じにしておくように」

「……ああ」

釈然としないという表情に、俺はなんとなく苦い気持ちを味わいながら、眠りについた。


そう、この瞬間まで、俺は忘れていた。


カレンダーを朝見つめて、なぜ赤丸が付いているのだろうと首を傾げた。

誕生日でもない。

ゴミの日でもない。


はっと思い至り、真っ青になる。


奴だ。

奴が来る。


「高田。今日は俺学校を休みますね」

「……ん?うん?え?待てどうしてだ?具合悪いのか?俺ゼリーとか買って来る?熱は?」

「高田の純真さに胸が痛いです」

「……ズルはダメだぞ」

ああ、うん。まあ、わかるよ。わかるけどさ。今日ばかりは本当に行きたくない。

覚えていればもっと早く仮病を使うか頑張って風邪をひくかなんとかしていたはずだというのに、迂闊すぎる。


異母妹がやって来る。

梅雨終わり近いだけあって、今日の天気は晴れている。俺は洗濯を朝から回して、シーツまで干しておいたのだ。

そんなことはどうでもいい。


学校に行くまでの足取りが、重たい。

校門が見えたあたりで、胃がきゅうっと締め付けられる気がしてならない。


「……死にたい」

「お前マジ顔色悪いぞ?ズルだろうが休んだ方が良かったんじゃねーの?」

「ほっといてくださいよ……」

死神さんの言葉にスマホを出す余裕もない。いつもより陰気になりながら、教室に入っていくと、すでに転校生の話題で持ちきりになっていた。


「あのあずあずがウチの学校に来るなんてびっくりだよ」

「やばいよねー」

「まだうちらと同い年でしょ?モデルの!」

「ホント憧れるわー」

だいたいあのクソ女、ここに何しに来てるんだよ。意味不明すぎる。俺をいじめるためだとしたら、執念深いってレベルじゃねーぞ。

なんでもいいから放っておいて欲しくて逃げだして来たはずなのに。


ざわついている教室を見て、俺は一人暗澹(あんたん)とした気分でいると、ガラリと戸が開いて、チャイムと同時に先生が入って来た。


「へい注目。みんな知ってると思うが、今日は転校生が来たぞ。喜べ可愛い女の子だ」

うぇーい、と男子から声が上がる。俺は一人頭を抱える。女子もワクワクしたそぶりだ。

死にたいのは俺一人だけだな。


「ま、女子も仲良くできるとは思うから、あんまり心配はしてないが、仲良くできそうにないなら、話しかけなくてもいいからなー」

向こうから話しかけて来たらどうするんだ。死にたい。オウチカエシテ。


「それじゃ、入って来て」


「はいっ」

弾んだ鈴のような声に、クラスの男子のテンションが無言ながら上昇しているのがわかった。

とてとて、と歩いて来るほっそりとした体。高めの背ながら、庇護欲をそそる面差し。

控えめに言って美少女だが、自分でそう宣言しているあたり、残念な美少女だ。


性格だけでなく、ルックスにおいて残念なのは、その胸部。多分高田よりない。当人がめちゃくちゃ苦にしているところでもある。


一切変わりはないな、クソッタレ。


ほっそりとした指先がチョークを手に取り、名前を可愛らしく丸文字で黒板に書いていく。俺には悪魔の筆跡にしか見えない。

『羽々木 杏葉』

「皆さんよろしく、羽々木 杏葉です。今までは私立だったからわからないこともあるので、よろしくお願いします」


人好きのする微笑みに、男も女も変わらず魅了される。


だが、こいつの本質は嫌味で陰湿でとてつもなく執念深いやつだ。今から平穏を享受するのは、無理に等しいだろう。


ただし、今の俺は、かなり面倒臭い奴だぞ?

その辺理解してかかってこいよ。


「よしじゃあ、一応質問タイム取るぞ。時間ねえから10個までな」

「彼氏いますか!」

「いません」

「好きなタイプは?」

「私を大事にしてくれる人です」

「好きな食べ物は!」

「チョコレートケーキです」

「モデルのお仕事大変ですか!?」

「そこそこですよ。でも、今は学業を優先してます」

「好きな人いますか?」

「お母様に憧れてはいますけど、異性のことはよくわかりません」

「付き合ってください!」

「ごめんなさい」


そんな質問の最後に、それは飛んで来た。

「どうしてこの学校に!?」

その質問に、一瞬彼女は目を丸くして、それからゆっくりと微笑んだ。

「兄が、この学校に通っているので」

途端、全ての生徒がざわめいた。兄?誰だ、知らないぞ——と。


余計なこと言ってんじゃねえぶっ飛ばすぞお前ェ。

綺麗なツラしてっからって俺がためらうと思ったかバーカ。


「はいはい静粛に!こんな騒がしいクラスだが、仲良くしてやってくれ。みんな、くれぐれも!私の責任問題を増やすんじゃねーぞ!!」

ウェーイ、とやる気のない感じの返事が出たところで、先生が立ち去っていく。


その瞬間、異母妹は立ち上がった。


つかつかと、奇しくも前に坂町が立った場所と同じところに、彼女は立った。ツインテールがふわっと浮いて、柑橘系の妙な香りが漂った。

「お久しぶりです、お兄様」

「土に還れ」

「そんなこと言ってはいけませんよ。全く、この髪型だってお兄様には全くお似合いではありません。今度、良い美容室を紹介して差し上げます」


迂遠にダセーなお前と言いながら、毒を含んだ笑みを唇に乗せて、彼女は喋り続ける。

「……お父様は、お兄様に帰って来て欲しいとおっしゃいました。私をここへ入れたのは、お兄様の説得のためですって。どんな手段を使ってでも、羽々木にと」

「俺は」


ジロリと異母妹を睨む。


「夜行 仁義です。生まれてこのかた、羽々木などという名を背負った頃は、一度もない」

「そうですか。……説得できるまで、私は同じ場所に通うように言われました」


授業の三分前だ、そろそろ準備しないといけない。

「俺の答えは変わりません。俺は夜行であって、羽々木ではない」

「そうですか。また来ます」


授業には、間に合うことができた。


その日から、なぜだか俺に対して、無視が始まるようになった。

理由は多分、「あかん。あいつ近寄ったら危ないやつや」というのが三割、五割は「あずあずに何言っとるんやこのボケ!うらやま……けしからん!」、残りは「なんとなくみんな話しかけないから話しかけないどこ」だろう。


まああれからあいつも俺に話しかけて来ていないことを見ると、実際あの言葉は方便だろう。

俺が長期にわたって悪意を起こすような罠は、バッチリ効果を生み出して、俺にツケを払わせている。ああほんと自分のことながら天才的すぎて涙でるわ。


ただ、今の現状としては、慌てるとか嘆くのが普通なんだろうが……今の俺は自由に浸っている。

いやほんとまじで。


「うーん、この爽快感。好きに振舞っていいなんて素晴らしいですよ」

「お前むしろのびのびしてねーか?」

「周囲に気を使わないでも勝手に相手が避けてくれるんですから、楽ですよね」

「こいつの対人関係が末期な件について」


死神さんは釈然としない顔で言っているが、元々は落ち込んでいるような俺の様子を見に来たようだ。

残念だったな。放置プレイは別に苦手じゃない。むしろフリーダムで爽快気分だ。

ただ、これが暴力なんかに変わった時はかなり怖い。


今の俺が死神であるという噂は相当に広まっているらしく、弱い妖の方は危害を加える目的ではなく、むしろ媚びを売る方向に動いている。

ある意味で、嬉しいことではあるが、強い妖がいるというのは油断できない。


実戦経験がものすごく少なく、さらに妖を殺したという噂が小さいため、抑止力がない。

要するに、虎の威を借る狐というところだ。

とある自由業が全員喧嘩が強いわけじゃないと言えば、わかるだろうか?つまりはそういうことだ。


「高田チャンはお気に召さないみたいだぜ?普通に話しかけてくるし、お前から遠ざかりもしない」

「まだ俺は弱いですし、高田を積極的に守るには時間が足りないんですよ。本気で」

ふと、がさりという音に身構えると、声が降って来た。

「何こんなところでメシ食ってんのよ」

弁当を取り落としそうになって、危うくキャッチすると、その人物を半眼で睨んだ。


「坂町みずな……何しに来たんですか?通りがかっただけなら即刻通り過ぎてくださいね」

「ハブられてるって聞いてその面を拝みに来てやったわ」

「こんな面ですね」

「ただの無表情じゃない」

坂町みずなは額に手のひらを押し当ててグリグリと抑える。こいつの癖のようだ。


「なずなが心配してたわよ。そういえばあんた、告白の返事をしていないそうじゃない?」

「実際にそんな告白聞いてはいなかったですし」

「この屁理屈野郎」

さらっと罵倒されながら、俺はもきゅもきゅと弁当を食べ続ける。時折妖に弁当の中身を与えると、喜んで走り去っていく。


「それに、あんたのクラスに、あんたの妹が来たんですって?聞いてないわよ、あのあずあずの兄だったなんて」

「あずあずってなんなんですか?」

「……は?え?本気なのかしら。いい?あずあずは、ハイティーンの女の子憧れのモデルでね?バラエティなんかにも引っ張りだこなのよ」


要約すると、今はあちこちで引っ張りだこなわけだ。どうも周囲の騒ぎようが酷いのはそういうわけだったのか。

「それで、あちこちのSNSにもあんたの所業が盛られてるわよ?家から絶縁されたのは問題行動があったからとか、妹に手を出そうとしたとか。一体何したわけ?」

「なんでそれをあんたに話さなきゃいけないんですか?」

「決まってるでしょ?」

鉄塊が降ってくる。


乾いた金属音が響いた。俺は左腕に神気を纏わせて、角度をずらして刃を下に滑り落とさせる。

「チィッ……外したわね」

「なんなんですかいきなり」

「女の子は噂が好きで、その真偽を確かめることも割と好きなのよ。そういうわけだから教えてちょうだい?」

「誰が教えますか。たとえ信者が俺のことを調べても、調べれば調べるほどあいつの首は勝手に締まっていく。自業自得ですよ」

「はあ?意味わかんないんだけど」


その無駄に大きな鉄塊を肩に乗せて揺らすと、見た目に似合わぬペチペチという軽い音がした。


そう。

あいつは知らされていない。


俺がいじめられた時の首謀者はあいつだったが、わざとあいつを標的から外してやった。


おそらくは、俺の父親が俺に頼み込んで、杏葉を標的から除外させたと思っているのだろうが、実際は違う。

俺が『そのせいで起こる周囲との摩擦』を狙って、わざとやったこと。

実際の首謀者が責任から逃れられたから、実行犯たちはイラつくに違いない。そしてめでたく次のターゲットである。ざまぁ。


そして、その場所から父は逃がすために、俺を連れ戻す名目で杏葉を避難させた。


ムカつく女だが、俺は別にそれで報復は終えたと思っている。特にそれ以上関わりたいとは思っていなかった。

今は……むしろ感謝したいくらいだな。

周囲に俺が気を使うべき人間がいないのが、これほど清々しいとはたまらない。

高田だってなんとか守りきることは可能だし、俺のQOLがぐんぐん上昇中だ。


要するに、余計なことに気を回さなくても、生活はほとんど平穏に保たれる。


「ここまでしても口を割らないなんて……尋問は失敗ね」

「え?尋問?今のどこが尋問?」

「私があんたに襲いかかったでしょ!?」

「襲いかかった?失礼ながらあれは高い高い壁に素手で登ろうとする挑戦者よりもまだ無謀に思えましたが」

「……こいつやっぱり殴り倒してやろうかしら」

「できるものならやってみてください。応援してます」


煽りに煽りまくって、きいいと叫びまくる坂町みずなで遊びつつ、俺は考える。

俺の生活環境を向上してくれた異母妹はともかく、高田の機嫌がすこぶる悪い。

女性の扱いなんて習ったこともない俺がどうにかできる問題とは思えないんだが。


母親は、一緒に飯を食って笑い、時々肉体言語で語りあった男友達のようなもの。義母と異母妹は俺を虐げた気になって喜んでいた。

随分とおめでたい脳みそをしていてくれてむしろこちらこそ嬉しいくらいだった。


他に関わった女性は、目の前の坂町姉妹。

こちらは参考にはならない。俺が関わりあう気がそもそもない坂町なずな。関わってもなんとかなるが、あちら側が俺を毛嫌いしている坂町みずな。


あと伊藤先生はあれは女性じゃない。俺の中では女性というよりも近所のおっちゃんとかだ。


悲しいほどにまともな人間関係なんて存在していない俺の人生に、うっかり絶望してしまいそうだ。


「ちょっと!少しは反応しなさいよ!?ナマケモノだってもうちょっと反応するわよ!!」

微妙なツッコミをしながら、坂町みずなが視界に飛び込んでくる。


「……なるほど」

異性のことを自分で解決するのはめんど……いや、大変だ。

こういう時は、異性に解決して貰えば良い。

ブクマが……増えている、だと!?

こんな詰め込みすぎてよくわからん話に……。


ありがとうございます。

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